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令嬢は生きるのがツライ  作者: 今谷香菜
~恋活、はじめます!~
74/85

~ラヴレターを拾ってツライ~

今週末の更新がもしかしたら厳しいかもしれないので……。


*********


ジャジャジャン!


さて問題です!ずばり兄貴が義妹に知られたくない手紙とは次の内どれ!?


1、ラヴレター

2、綺麗なおねーさんのお店の請求書

3、借金の督促状


チッチッチッチ……(シンキンタイムなう)


「1、ラヴレター……?」


ぴんぽーん!


と頭の中で正解音が鳴り響いた。


おあああ!

やっぱそっちかぁぁぁ――!!!ってことはアレ全部ラヴレター!?


まぁ納得といえば納得だ。兄貴モテそうだもんな。

長く一緒に暮らしているとつい忘れがちだけど、あの人もミラと違ったタイプのイケメンだしな!


多分前世にあのふたりがいたら、学校の下駄箱開けた途端ドサーっと大量の恋文がなだれ落ちる現象が見られるはずだ。それも毎日。


そして勇太あたりはそれを遠目で羨まし気に見ていることだろう。彼はそういう立ち位置だ。


女子たちから『黒王子』とか『白王子』とか呼ばれ学園のアイドルとかになっちゃって……どこの少女漫画か。


……って!そんなことどうでも良くって!


私はその手紙を胸に抱いて、踊り場を落ち着きなくうろうろする。


「でもでもでもだよ!?ラヴレターはともかく婚約者だなんてっ!」


そうこれは片思い女子が男子へ送るただのラヴレターではない。


恐る恐るもう一度拾った手紙を見る。


『あなたの婚約者』――うあああ、やっぱり見間違いなんかじゃない!ちゃんとそう書かれているし。


婚約者!婚約者がいるんだ!!兄貴にっ!

そんなの全然知らなかったよ!恋人がいることさえ知らなかったのにましてや……ましてや!



こんにゃくしゃ!!



「ナンテコッター!!!」



頭をガーンと金づちで殴られたような衝撃である。


ぐちゃぐちゃに混乱しているが、泣きそうなくらいショックを受けているんだというのは、自分でも頭の片隅で理解していた。


*******

****


――というか泣いてしまった。


ベッドの中でぐすぐすと鼻をすする。

部屋に帰ってからずっとこうだ。


自分はどれだけブラコンか。


それに。つい手紙をそのまま持って帰って来てしまった。

当たり前だけど中身は見ていない。


「私って。本当に仕方がないやつだ……」


布団にくるまりながらはぁとため息をつく。


兄貴に奥さんができるんだ。喜ばしい事じゃないか。ちゃんと喜んであげなくちゃいけない。

元より家族の縁が薄い人だ。きっと新たな家族を何よりも大事にするだろう。



――それが私じゃなかっただけ……


……。


んん?


「何か今、私はものすごく恥ずかしい考え方をした気がするぞ……?」


一瞬よぎった思考に首を傾げながら、手紙をぼんやりと見つめる。


兄貴が帰って来た時のシミレーションしなくちゃな……。


『この手紙落ちてたよ。兄貴婚約したの?水臭いなぁ、どうして教えてくれなかったの?おめでとう』ってね……。


サラッと祝福してあげなくちゃいけない。


「そうだな……私は兄貴の妹だもん……」


これが妹としてきっと正しい接し方だ。


指の腹ですすす……と文字を撫でる。

可愛らしい、女性らしい字だ。私とは全然違う。


「ディアッカ・キャメロン、さん……」


――どんな女性なんだろう。



******

***


――その晩


「おにいさま。本日分の手紙を出して下さいませ」


帰って来るなりシルヴィアはそんなことを言う。


「おまえ、ノック位しろよ……」


「しましたわ。でもお返事がなかったので勝手に入らせて頂きましたの」


「……ああそう」


本当だろうか?

特に何かしていたわけではないからノックの音を聞き逃すわけがないと思うのだが。


まぁそんなことはどうでもいい。

それよりも仕事から戻ったのだからちょっと位、労いの言葉が欲しいところなんだが……。


「さぁ早く出してくださいませ」


自分の訝し気な様子なんてお構いも無しに、彼女はずいっと手を前に差し出す。


御託述べてないでとっとと出すモノ出しやがれ、と言いたげな瞳だ。


無駄な抵抗はやめよう。するつもりもないが。


自分は義父同様、アーレン家の女性には誰一人敵わないのでそれ以上は何も言わず、黙って本日オリヴィアから取り上げた手紙を提出した。


(こいつは将来、恐妻になるな……)


おかしいな。気が強くてお転婆なのはオリヴィアの方だとばかり思っていたものだが……。


いつからこんなことに……


シルヴィアは「素直でよろしい」と出来の悪い子供を持つ母親然とした態度でバスケットを受け取る。


何ならこのバスケットはイコール給料袋に置き換えてもいいかもしれない。


……間違いない、これは絶対鬼嫁になる。末恐ろしい。


「おまえに旦那が出来たら、俺は多分物凄く仲良くなれると思うぞ……」


ついでに義父も。

日頃女性陣に虐げられている男3人の結束は固いだろう。何か色々分かち合える気がする。


「? 突然なにをおっしゃってるの、おにいさま」


「……いいや、なんでもない」


早くそんな日が来てほしいような、ほしくないような……自分でも良く分からない気持ちに陥る。


「変なおにいさま」と彼女は手近にあった簡易椅子に座り、封筒を手に取った。


ペーパーナイフで一通一通丁寧に封を開ける。


広げた手紙にため息を落ちた。


「……もうおやめになったらいかがでしょうか」


「そうだな……毎日手紙を朗読しなくても良いとは思うが」


「そこではありません。……そうではなくて、おねえさまへの手紙をもう隠さなくてもよいのではないでしょうか」


シルヴィアはヒラヒラと先ほど広げた手紙を風に遊ばせる。


「貴族の娘に恋文が届きましたら、親や家人が検分して精査することはよくあることですわ。その中から取捨選択して。選りすぐりの婿がね候補と実際お見合いをさせるのも……よくある話です」


そう結局は何人か介して、眼鏡に叶った者の恋文だけが娘に読まれる。

何処の家も娘に変な虫がつかぬように注意を払っているものだ。


「その役割は別におにいさまじゃなくても良いと思いますの。お父さまお母さまだってお兄さま同様、届けられた手紙は検分するでもなく全て処分なさいますでしょうし。恐らく家人にそう指示されますわ。何もお兄さまが毎朝早起きをする必要なんてどこにもないでしょう?」


「ルリはお兄さまの早起きを歓迎してますけどね」と付け加える。


暗に家人にやらせればどうだ、と言っているのだろう。もしかすれば毎日慣れぬことをしている義兄を彼女なりに心配しているのかもしれない。


「大体おねえさまだって。この手紙が全てご自身宛てへの恋文だって知ったところで、ですわ。まだご自分の恋愛に興味なんてありませんもの。『なんか悪いなぁ。早く違うイイ女性ヒトと出会えるといいんだけど』とか言っておしまいですわ、きっと」


「まぁ……」


そうだろうな、とは思う。

想像に難くない。そんな光景がありありと眼に浮かぶようだった。


重いため息が思わず出る。


「……いや、前におまえ言っただろう?これらはリヴィあいつに気持ちを知って欲しくて書いている手紙で。どうせ捨てるなら読んでやるのがせめてもの供養だと」


シルヴィアは「あら」と片眉を上げる。

思いがけないことを聞いた、とその表情は語っていた。


「じゃあお兄さまが手紙を自室に引き上げても、早々に処分なさらないでいるのはその為ですの?」


「手紙の内容まで読むのはさすがにどうかとは思うが……。骨を拾ってやるつもりでどこの誰かくらい覚えておいてもいいかと思ったんだ」


そうさっきこの義妹が言っていたことはその通りだろう。


どうせ自分が手紙を回収しなくとも。恐らく義両親は目を通さずに処分する。


シルヴィアはそれなら別に自分が処分しなくともと言ったが、逆に自分が処分しようとも何かが変わるわけではない。だから自分がやっているだけだ。


「ただの自己満足だ。ライバルの名前くらい覚えておいて損はないだろう?」


冗談めかして笑う義兄に、シルヴィアは嘆息を漏らした。


「……お兄さまのことだから。挑まれない限りはそのライバル達に何かするわけでもないでしょうし。……本当に名前を覚えておくだけなんて。どういうことですの?」


「……それだけ多くの野郎の気持ちを踏みにじっていると胸に刻み込んでおくことにした。……そしてそいつらの気持ちの分までリヴィを大事にできたらいいと思っただけだ。別に恋愛的な意味だけではなく、な」


「……自己満足ですわね」


「そうだ。だから言っただろ。自己満足だって」


シルヴィアはパラ、と扇を開いて口元に寄せる。


「左様ですか。お兄さまが格好悪くてみっともなくて大人げなくて情けなくて余裕がなくて、あと格好悪いのに変わりはありませんけれど……」


「……おまえ今、『格好悪い』を2回言わなかったか?」


「お兄さまなりに何か思うことがあってそうなさっているのなら……これ以上はもう何も言いませんわ」


義兄のツッコミはさらりと流して、彼女はふたたび手紙を広げる。


……。


……ん?


「……何も言わないんじゃなかったのか?」


何故そこでソレを広げる?


このツッコミにも彼女は涼しい顔をする。何なら結構いい笑顔だ。


「あら?これは大人げないお兄さまに対するちょっとした嫌がらせです。よく言いますでしょう?『人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られる』って。今後もお兄さまが直接手紙を処分するおつもりなら、ここで何かしかのペナルティを与えておかなければいけませんわ。罰が足りなくて馬に蹴られてしまったら大変でしょう?」


「……」


やっぱり嫌がらせだったのか……

男共への『供養』はどこに行った。


というかどういう理屈だ。


シルヴィアが大きく息を吸い込み、その手紙の文言を読もうとしたその時――、


コンコン



「兄貴いるー?入っていい?」




********

**


「あ、シルヴィアちゃんもいたんだ」


オリヴィアは簡易椅子に腰かけているシルヴィアに手を振りながら入室した。

気軽な様子でヒラヒラと手を振りながら。


しかし。


「おねえさま、どうされましたの!?」


シルヴィアはぎょっとして、座っていた椅子を倒す勢いで立ち上がる。

何も彼女がこの部屋に来た理由を問うているわけではない。


「目が腫れてますわ。それにお顔全体がむくんでいらっしゃるような……どうかされまして?」


「いや、大丈夫。別に何でもないんだ。……ええとさ、それより兄貴」


何か冷やすものを、と家人を呼ぼうとしたシオンの袖を引っ張って止める。


「あの、さ」


「なんだ?」


彼女は自分の袖を引っ張ったまま、俯く。

何か言い出しにくいことなんだろうか。


チラリとシルヴィアの方を見る。

彼女は自分のアイコンタクトに気づきながらも、首を横に振っている。


どうやらシルヴィアにも、オリヴィアのこの様子に覚えがないらしい。


「どうしたんだ?リヴィ」


「今朝の手紙さ……」


呼吸を整えつつ、彼女は切り出した。


顔を上げ、確かな確信を持っているのかのように、はしばみ色の瞳には力が入る。



「アレ全部、ラヴレターなんだろ?」




✳︎貴族の娘にきた恋文を家人があらためる〜や郵便制度等はこの物語においての作者ナンチャッテ設定でもありますのでご注意下さい。


描写等、不十分箇所に後日修正入るかもです。申し訳ないです。



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