~離れがたくてツライ②~
区切りの良い所で切ったので少し短めです。
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――今度生まれ変わったなら、わたくしも人になりたい。
あなたと同じだけの時間で良い。それ以上はいらない。
愛する人が必ず先に死ぬ。そんな当たり前で決まりきった運命。
それに怯えぬ一生を送れるのならばどんなに良いか。
だからわたくしは、この長き生を否定する。
あなたは怒るけれど……否定する。
でもああ…そうね。恐らく、次の世でも。
あなたはヒトに。わたくしはまた竜に生まれ落ちる。きっとそうなる。
――それがわたくしの、罰だと言うのでしょう。
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♩静かな湖畔の森の影から
男と女の声がする♩
男女の声というか諍いが静かな森に響く。
「嫌だ、僕は絶対別れないからね!」
「ダメだダメだ!別れるったら別れるんだ!!」
聞く人が聞けば、「別れ話で揉めている男女の痴情のもつれ?」と思われることだろう。
ハイ、正解です。
ある意味、別れ話だ。
「僕はそんなの絶対認めないから!母上のそばを離れない!」
「ルーク、おまえいつの間にそんなマザコンになったんだ!ダメだ、おまえは竜なんだから私とは生きる世界が違うだろう!」
「同じだよ!」と彼は叫ぶ。金切り声で。
「母上の分からず屋!今こうして一緒にいるのにどうして世界が違うだなんて言うの!?」
彼は拳をぎゅっと握りしめていた。肩も小さく揺れている。
紅玉の瞳には、これまた出会った頃と同じように涙が盛り上がっていた。
長いフサフサのまつ毛がふるふると震えていて、彼の少女めいた中性的な美しさが際立つ。
場違いにも「我が息子ながら…ミラに負けずと劣らない美少年だな」と感心してしまう。
前世の某アイドル事務所に他薦したら一発で通るな、コレは。
アホな空想をしつつ、私の周りイケメン率が異常に高くね?と実感。
うーむ。てか基本美男美女しかいないよな?
人外含め。なんだかなぁ。
その中でこの私である。一気に顔面偏差値を下げてしまっているような……申し訳もありません。
そんな美少年がさめざめ泣いているのを目の前にして、いけないこれは現実逃避だ、と我に返る。
「バカバカバカ!勝手にひとりで決めちゃって!信じらんないよ、もう!母上の頭でっかち!!」
地団駄を踏んで彼はキーキーと悪態をつく。
悪口の内容はカワイイものだが。
こいつ、こんな感情的な奴だったんだな。反抗期か?
「おまえには分からないんだ、今ここで別れた方が互いの為になる…」
私は「どうどう…」と馬を落ち着かせるような仕草でゆっくり諭す。
でも彼は、ブンブンと激しく頭を横に振るばかりだ。
「ならない!ならないよ!!母上まで僕を捨てるの!?」
『捨てる』という言葉にはっと胸を突かれた。
彼の悲しみと怒りを肌身で感じて、私もふいに涙が盛り上がり、鼻の奥がつんと痛くなるのを感じた。
「ちが……」
だめだ。私が泣くなんて。そんな権利ないんだ。
涙を抑えるようにギリリと唇を噛む。
「違わない!あなたも結局僕を捨てるんだ!!」
彼が悲鳴のように叫ぶ。
「ちがう……ちがう……そんなんじゃ…」
私はうわごとのように呟く。
彼を捨てるつもりなんて。そんな意識はなかった。
ああでも。同じだ。だってこんなに傷ついて離れたくないって叫んでいる彼を置いて行こうとしている。
――わたくしの幸せを、あなたが決めつけないで。
そんなこと言ったって。
私が死に瀕したその時、おまえ達は今よりもっと泣くのだろう?
泣いて泣いて泣いて。
そうして自らも命を絶とうとするのだろう?
与えられた天命を否定し、長く生きて欲しいと願う私の言葉を否定し。
『あなたの死後、何年生きれば納得してくださる?』と枕元で自死の許しを乞う。
生きながらにいつ死のうかと指折り数えるおまえ達。
――今手放すな、と言う。
しかし今別れなければ。おまえ達が愛を深めれば深めるほど絶望も深くなるのに?
こんなの板挟みだ。
どうしろと。
この私に……
「どうしろというんだよぉぉぉ~!!」
結局堪えていた涙はボロボロと瞳から溢れ出し。
うわあああん!と声を上げて、ルークより号泣してしまったのだった。
もう頭もこんがらがり、どうしていいのか分からない。
そんな辛い生き方を、死に方を、愛し方を!
選ぶおまえたちを見たくないというのは、私のワガママなんだろうか。
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お互いひとしきり泣いた後、とりあえずミラ達の元に戻った。
ふたりで顔をぐちゃぐちゃにして戻って来たものだから、ミラもヨハンナムさんもたじたじだ。
「彼が……ルーク?」
ふたりはルークを見てあからさまに驚いた。
「まさか化蛇だったとは……」
「カダ?カダって…街の名前…に…あった……」
私はしゃっくりをあげながら聞き返した。
確か王都に来る途中に寄った街の名前だ。
ミラはそんな私の顔にハンカチを押し当てながら、
「人に化ける程神力が高い竜のことを、化蛇といいます。または竜人とも。カダの街は昔、竜人の集落が多くあったという伝えが名の由来になっているんですよ。一説には王の逝去後、妖精妃の怒りと災いから逃れた竜妃の子――そのひとりが作った集落だという伝説もあります」
「わたしめは初めて見ましたよ、姫君。どこかおとぎ話のように思っておりましたが、まさか本当に出会えるとは」
ヨハンナムさんはまだ放心状態のようで。
信じられないようなものを見るようにルークを見ていた。
「? ギュリさんやアミンさんだって妖精なのに人の姿を取っているじゃない?確かに私も驚いたけど……」
そんなに驚くことなのか?
人外の存在である彼女達と交流が深い彼らの方が驚いているのが意外だった。
この人の形をとっている彼に私は何だかすぐに馴染んでしまった。
竜の姿の時から、どこか人間のような彼の仕草を目の当たりにしていたからだろうか。
「そうですねぇ。妖精はある程度人に化けれる位力があれば、ヒト型をとり人間の前に姿を現すことが多いですが。しかし竜は例えそれが化蛇であっても。……滅多にヒト型を取ることはないのです」
それは竜が、人を愛することが少ないから。
わざわざ人に化け、人に寄り添う必要など彼らにはないのだ。
「だから我々にはその多くの竜が化蛇なのか否かも分かりません」
私といえば。
そうか、竜妃の伝説は。ただのおとぎ話というわけではないんだな、という実感と。
――ああ、どうしよう。
そんな気持ちが正直なところ大半を占めている。
彼が人間になってしまった。私に置いてかれまいとして。
私が私が……彼を人間にさせてしまった。
私の動揺をルークは感じたのか。
「母上……」
彼が私の袖をぎゅっと摘まむ。
その不安に揺れている瞳を。
どうしても長くみることができなかった。
短めですみません。次話は本日か明日の早い時間に更新したいと思います。
☆化蛇について……東洋の龍の方が蛇がメインモチーフになっている印象が強いですが、ルークの外見は蛇というより身体はトカゲに近い西洋の竜です。
身体はトカゲ、羽は蝙蝠、尻尾は蛇、という雰囲気です。
この造語で混乱させてしまったら申し訳ありません。




