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令嬢は生きるのがツライ  作者: 今谷香菜
~シャダーン編Ⅲ 竜との約束~

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~プレゼント選びは難しすぎてツライ~

***********************************


――この国の王子サマ兼勇者サマ兼我が友人には欲しいものがあるらしい


***********************************



そんなたくさんの肩書き?がある我が友人こと、ミラ・ザナードは優雅なティータイムを過ごしていた。


最近激務で徹夜も多かったようだが、山は越えたらしい。


休憩時間に顔を見せることができるようになった。

そこでちょっとささやかなお茶会なるものを開いて、彼を誘ったのだった。


しかし疲れが抜けていないのか。


時々肩を揉むような仕草を見せている。


それが少々心配だ。部屋で寝かせてあげた方が良かったかも……。


なんて私はちょっぴり後悔していた。


「薔薇姫……どうかしましたか?」


フォークを咥えながら、じい……っとミラを見つめていたせいか。


「こちらのケーキも食べたいんですか?」とミラの近くに置かれたケーキの皿をすっと渡してくれた。

ミラの近くにっていうか。彼のケーキだ。チーズケーキ。


「い、いや。違うけど……」


どんだけ食い意地が張っていると思われているのか。


大体アイサに『チーズケーキとショートケーキどちらがよろしいですか?』と聞かれて『ショートケーキ!』と元気よく答えたのは自分だ。

ビシッと挙手までしてしまいましたとも。入学したての小学生か。


……チーズケーキまで食す権利は自分にはない。うん。しかも彼の取り分である。


……イヤ、まぁ。くれるっていうのなら貰いますけど。


私はもそもそと立ち上がり、「どもっす」とお皿を受け取る。

ミラは笑いながら「薔薇姫は本当に分かりやすいですね」と。


「ち、ちがう!別にケーキを見ていたわけじゃないぞ!」


ここは私の名誉の為にもちゃんと否定しておきたいところだ。


いただいたチーズケーキの皿を片手に全否定しても説得力皆無でしょうけれど。


「じゃあ何を見ていたんですか?」


「おまえだ!」


「俺を?」


思いもがけない言葉を聞いた、という風に彼は瞬きをパチパチとする。


「だってミラ。……顔色が悪いんだもん」


そして、中途半端に立ち上がった姿勢のまま。

受け取ったチーズケーキとミラを交互に見比べた。


「やっぱこれはミラが食べて」


「薔薇姫?」


渡された皿をもう一度ミラに返す。


「疲れた時は甘いモノがイイらしいからな」


ミラはちょっと苦笑し、「心配させてしまってすみません」と。


「チーズケーキ、もう一皿用意させましょう」


私はちょっと考えて首を振る。


「いや。よく考えたらケーキ二皿も食べたらカロリーオーバーだし、やめとく」


この王宮に来てからというもの。

食事が美味しくて。

あと、バイトをやめてしまってから3度の食事とおやつしか楽しみがなく……!

ついつい、食べ過ぎてしまっている。


そして……。


「ちょっと太った気がするしな」


「そうですか?」


「そうだよ」


何というか。全体的に丸っぽくなったような。腰とか。

何故か胸にはついていないんだけど。どうせ太るならそこにこそ、肉が欲しいところだ。


やはりダイエットだ。ダイエットをしなければ。


ケーキをふたつも食べている場合じゃない。

どころかそもそも論として。ダイエット中にケーキを食べている場合じゃない。


などと考え込んでいたらば。


「薔薇姫」


呼ばれて目を開ける。

目の前にはフォークに刺さったチーズケーキが一口分。


私の口元に浮いていた。


反射的に口を開け、ミラが差し出したチーズケーキをぱくんと受け止める。


「……おいしい」


もぐもぐ。


何か悔しいけど。誘惑に負けたみたいで。


美味しいのについ、渋い顔をしてしまった。


「一口位なら良いでしょう?」


「うう。一口食べたらもっと食べたくなるんだよ……」


チーズケーキの控えめな甘さはいくら食べても飽きが来ないよね!

まだ若いので胃がもたれることもないし。ぺろっと2.3個食べれちゃいそうだ。


まあいいか。先ほど決意したばかりのダイエットだし。これはノーカンだな。なかったことにしよう。

明日から本格的に行えばいい。うん。


「薔薇姫は甘いものが本当に好きなんですね」


「あ、ミラは苦手だったりする?」


「嫌いではないですよ。そんなに多くは食べれませんが」


『嫌いではない』という控えめな物言いに、そんなに好んでは食べないのかな。という印象を与える。


まぁ、確かにこいつ。コーヒーはブラック派。紅茶はストレート派だし。

そこからして、甘いモノはあまり食べない人なのかも。


ふふっと笑いがこみ上げて来た。


思い出したのだ。


「兄貴は甘いモノ全然食べられない人なんだけど。……私の知り合いの男の人でひとり、甘いものが好きな人がいたんだ」


「……知り合いの、男性ですか?」


「うん。でも女の子みたいで恥ずかしいから、普段は辛党を装っていたんだ」


知り合いといっても、これは前世の『彼』の話。

喫茶店のパフェが食べたくても、男一人で入る勇気がなかった『彼』。


両親とファミリーレストランに来たなら勇んでチョコパフェを頼んで。

店員さんが持って来たら、さも母がオーダーしたかのように見せかけて。


店員さんが去った後にかき込むように食べてたっけなぁ。


ちっちゃな男のプライドを持っていた、ほんとうにしょうがない人だった。


口元が無意識に綻んでいたのだろうか。


ミラは片眉をあげた。


「知り合いの男性というのは……薔薇姫と親しい方なのですか?」


「そうだなぁ。親しいというより、もう一心同体って感じだったなぁ」


そのまんまですよね。

だって元々、この魂の持ち主は『彼』だったのだから。


「……その方は今どこに?」


「もう、いないよ。とても遠くに行ってしまったから」


それとも心の中にいる、と言った方が正しいのか。


でも。もう純粋な『鈴木勇太』――『彼』という一個の存在はどこにもいない。


私が彼の記憶を思い出す時、ちょっと前の私だったら、その記憶の中での視点は彼と同じだった。

彼の見る景色が私の見るモノだった。


そうしてさも自分が経験したかのような視点で記憶をさらっていたものだったが。


融合後、彼の記憶を思い出す時は、第三者の視点で彼を見ていた。俯瞰ふかんというのか。


鳥か何かになったかのように、彼を見下ろすような形でその時々の場面を思い出す。


もう『彼の目』を借りて物を見ることはない。


……それが少しだけ。ほんの少しだけ寂しいと思う。


私の魂が『彼』のきおくを編纂し終わった感じがして。


――ああ、私らしくなく。ちょっとセンチメンタルな気分になってしまった。


気分転換に紅茶に口をつけた。温かい液体が冷えた指先と喉をじんわりと温めた。


白い湯気越しにミラが私を見ていたのを感じた。


「ミラ……?」


「その方のことを、今でも想っているのですか?……シオンさんではなく」


「……」


妙だな、と思う。

いつになく事情を知りたがるな、と。

彼が私のことを知りたがるのはよくあることだが……それは友情を深める為、いわば私のプロフィール的なものを知りたがっていた。誕生日とか。好きな色とか。好きな花とか。


こういった過去の深い事情に首を突っ込むことはあまりなかったな。


そして何故そこで兄貴の名前が出てくるのか良く分からないが。


まぁ、多分。恐らくは、だ。

またちょっと『友人としての過剰なヤキモチ』を焼いているのだろうと思える。

兄貴と再会した時はその成長ぶりに感心していたのだが。やはりそう簡単にはヤキモチ焼きは治らないようだな。


苦笑した。


「『想う』って言っても、恋愛的な好意をその人に持ち合わせていないよ。……随分昔の、遠い過去の人だ」


「……過去の人、なのですか?」


「そうだ。もう過ぎ去った人だ。清算はできている。……でもその人からはたくさんのことを教わったと思う。だから、感謝している……」


あるのはどこまでも『懐かしさ』と『憧憬』だけ。


私が今を生きているのも。

『彼』のおかげだ。


『前世を思い出して良かった!』なんて。実感がすごくあるわけじゃないけど。


それでもこの世界の、しかも貴族のお嬢様という限られた世界だけで生きていたら、きっと気づかなかったことがたくさんあるだろう。それはこれからも。


思わず忍び笑いを漏らした。


「私が他のお嬢さん達より、ガサツで乱暴なのは。その人の所為だな。60%くらい」


残り40%は前世思い出す前からお転婆だったからな。

元々資質というか。そのはあったのだ。残念ながら。


「今の貴女があるのはその方のお陰なんですね。では俺にとっても恩人だ」


ミラはティーカップを持ち上げながら、軽く微笑んだ。


――全部話せるわけじゃないけれど。『彼』との思い出を共有できる人がいるのはいいものだな、と思える。


兄貴やシルヴィアちゃんにはきっと『彼』のことを話せないだろうし。


……だってずっと一緒にいたふたりだから。

過去をよく知るふたりが、私とそんなに親しくしていただろう男の人のことを、少しも知らないなんておかしい気がするしね。


私はティーカップをカチャリと置く。


おっといけない。思わぬところで旧知の話をしていたら盛り上がってしまって。


当初の目的を忘れていた。

このお茶会にミラを誘った本来の目的だ。


「ところでさミラ。何か欲しいモノあるんだろ?」


「欲しいモノ、ですか?」


「そう」


この前言っていた『不落城云々』という、ミラが超絶欲しがっているレアアイテムの事を是非今聞き出したい。

それを以前約束した、『出会い記念』なる彼へ渡す贈り物として手に入れたいのだ。


王子が手に入らないレアアイテム。それを私が入手できるかは難しい所だけれど。


「この前言っていたよな!すごく欲しいモノがあるんだって!?」


「……?」


首を傾げ疑問顔の彼に、ずいっと身を乗り出す。


ミラは茶を飲みながらそんな鼻息荒い私の様子を見て、その時した会話の内容に思い至ったのだろう。


「ああ……」と今、思い出したかのように、


「……確かにありますが。買えるような代物ではありませんよ。買うことができるんだったらとうに俺が買ってますから。……他の人に売る余地がない位、根こそぎ買い占めています」


「え。何だそれは。つまり非売品なのか……。しかも王子のおまえすらひとつも売って貰えないなんて」


ミラは私の物言いに微妙な顔をしていた。


「……それは今後の交渉次第です。諦めませんが」


頑固な店主か職人か……を相手取っているのか。


しかしだな。


「『他の人に売る余地もない位買い占めたい』だなんて。ちょっと欲張りすぎだぞ。そういう業突ごうつりな態度が見えて、その人に売って貰えないんじゃないのか?」


「……他人に与えられるのを見るのは嫌なんです。俺だけのものにしたい」


「おまえなあ……『嫌なんです』って言ったって。この国の、仮にも王子サマだろう?そんな心が狭くてどうするんだ……」


彼はツンとした態度で、


「何とでも。俺は嫉妬深いし、狭量ですから」


ああこれはダメだな。

改める気ゼロだ。何をムキになっているのやら。


こいつの器の大きさはペットボトルのキャップ並だ。


「売って貰えるといいな。まぁ、頑張れよ。入手したら私にも見せてくれ」


とりあえずペットボトルのキャップ的器の持ち主に、それだけ言っておいた。

それ以上はもう何も言うまいて。


「ええ。手に入ったら『それ・・が何だったか』、教えますよ」


つまり今教える気はないらしい。


……となるとだよ。


「他に何か欲しいモノはないのか?」


「他には特に……」


まぁ、王子サマなんてやってれば、大抵の欲しいものは手に入るんだろうけど。


よし、言い方を変えよう。


「じゃあ、私から貰って嬉しいものってなんだ?」


「何でも」


「……」


それでは何の答えになってもないし。参考にもならない。


毎日の夕ご飯の献立に迷う主婦が、旦那や子供たちに『今晩何が食べたい?』て聞いて『美味しければ何でもいい』って答えられるのと同じだ。脱力してしまう。


ミラは強調して言い直す。


「貴女が俺の為に選んで・・・・・・・くれるモノなら。何でも嬉しいです」


「ああそう……」


ふむ。

つまり安易に答えを得ようとせずに、自分で考えろってことだな。

まあ、そうだよな。結果より過程が大事だ。


何事も真心だ。


「ちょっと考えてみるよ」


――そうして大した成果が得られず、お茶会はお開きとなってしまったのだった。




長くなりそうだったので続きます。

次回はまたアホな話になります。

アホすぎて先にジャンピン土下座しておきますね!ええ。


早めに更新したいところです…。

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