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令嬢は生きるのがツライ  作者: 今谷香菜
~シャダーン編Ⅲ 竜との約束~

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46/87

~友人とケンカはツライ~

狩りの翌日。


久しぶりに馬に乗ったせいか。私は朝から激しい筋肉痛と腰痛に悩まされていた。


「ううう…身体鍛えているはずなのにぃ…」


普段使わない筋肉を使ったせいだろうか。

アイサがヨモギで作った湿布を患部に貼ってくれた。

うつ伏せに寝っ転がりながら何とも情けない気持ちになる。


だるい~。


「オリヴィア様…、殿下から日記を預かっておりますが…」


「あー…そこ置いておいて」


アイサはしかし私の視界に入るように日記をチラつかせる。


「お読みにならないのですか?」


「……」


……いつものアイサならこんなことしない。


「置いておいて」と言ったらナイトテーブルにそっと置いてくれているはず。


これは……。


「アイサ。ミラから頼まれた?」


「……なんのことでしょう?」


絶対頼まれているな。

日記をその場で読むのを確認しろとか。そんなとこだろう。


「…今は読む気しないの。置いておいて」


アイサは何を言っても無駄だと判断したのだろう。それ以上は何も言わず日記をナイトテーブルに置いてくれた。


******


昨日、友人のドゲドーな言動に腹が立っていた私だったが。


実は、まだ怒っていたりする。


昨日程ではないけれど。怒りは絶賛継続中だ。


私は朝ごはんのオムレツをもぐもぐと頬張る。

思い出したら腹が立ってきたぞ…。


そんなイライラした気持ちでブスッと卵にフォークを刺すと、ふわっとイイ香りが漂って来た。


アイサが紅茶を注いでくれたのだ。


「アイサ、茶葉変えた?」


いつもと違う香り…。


アイサは「はいっ」と元気よく返事をした。


「分かりましたか?オリヴィア様。ミラ王子殿下がこちらのお茶が美味しいと評判を聞き、わざわざ取り寄せてくださったそうです!オリヴィア様に飲んでいただきたくて!殿下自ら!」


茶を受け取りながら私は半眼だ。


ミラの忠実なる侍女・アイサはほんと熱心だ。

あいつは彼女と交換日記をすべきだな。


私は黙って茶をずずず…っとすする。


「そっかー、でも茶葉云々よりアイサの淹れ方が上手いんだと思うよ、うん」


「……」


美味いよ。確かに。

茶に罪はないから飲むけど。


「それにしてもひとりで朝食は久しぶりだなぁ」


私は無意識に呟いていた。

いつもはミラと一緒なのだが。


勿論、本日も朝の散歩&朝食を誘われましたが。アイサを通してお断りした次第です。面会謝絶中だ。


「オリヴィア様…、やはりおひとりの朝食は寂しいですよね!?」


アイサはそんな私のツイートにすかさずフォローを入れた。


「いや。ひとりで食べるのもたまにはいいなぁと新鮮な気持ちになっていたところだけど?」


「うぅ…オリヴィア様……」


アイサがしゅんとなっているのに、ちょっと苦い笑みがこみ上げてきた。

彼女をいじめたいわけじゃないんだけどな。


床で寝そべっていたルークが、「きゅー」と鳴きながら私の膝に顎を乗せる。


「そうだな、ルーク。ひとりじゃなかった。おまえがいたな」


「ごめんごめん」と言いながら彼の頭を撫でる。彼はうっとりしたように目を瞑る。


「アイサ。多分もうちょっとしたら自然に仲直りすると思うから。そんなに心配しなくても大丈夫だよ。もうちょっと待ってて」


アイサは「はい…」と頷いてくれた。


この様子なら分かってくれたのだろう。しばらくは放っておいてもらえるはずだ。


******


――放っておいてもらえるはず……だった・・・


しかしそれは少なくともアイサだけだったようでして。


「なんっじゃ…こりゃあぁ!?」


ミラが公務に出ている隙を伺い、ルークと外で日向ぼっこをしていた。

そして自室に戻って来た……のだが。


部屋には大小様々な化粧箱が至るところに積み重ねられていた。

箱ひとつひとつに丁寧なラッピングが施され、色とりどりのカワイイリボンが揺れている。


そんでもって。


んん?赤絨毯…?と一瞬目を疑ったのは、薔薇の花…。

真っ赤な薔薇が床一面敷き詰められていた。


ベットにも花びらが散らしてある始末。


ゴシ…と目をこする。幻ではない、現実だ。


「ムーディな演出デスネ…?」


(ルーク以外)誰もいないのにとりあえず感想を述べてみる。


部屋を間違えたか…?と部屋を出ようと扉を開けたその時。


「ああ、姫君。丁度良い所に」


さらなる箱を抱えたヨハンナムさんと鉢合わせした。


「ヨハンナムさん……」


とりあえず彼の背後にミラがいないことを先に確認する。

ヨハンナムさんはそんな私の行動に苦笑を漏らした。


「姫君。早くお怒りを解いていただけませんか?」


「…だって。ミラが悪い」


私はムスーっとして答えた。


「ええ、そうでしょうとも。それは重々承知の上でのわたしめからの厚かましいお願いですよ」


ヨハンナムさんはどかっと担いでいた箱を部屋の床に降ろす。

箱を下ろした途端、もふぁっと薔薇の花びらが舞う。彼は「それに…」と私を振り返る。


「早く許して差し上げないと。……寝る場所がなくなってしまいますよ?」


「こ…これ。やっぱりあいつが……」


試しに近くにあった小さめな箱を開けてみる。

真珠のイヤリングが入っていた。…良いご趣味ですね。


「……」


カポ…と無言で蓋を閉じた。


えー…と?


「こんなことしたら逆効果だと思うのだが…」


物で釣ろうだなんて。なんかムカムカしてきた。

私はそんなお気軽andお手軽な女じゃないぞ。


おかしいな。あいつ、『女心、分かってます』っていうのぼりを年中掲げているモテ男子のはずなんだが…?


「さあて。女性と喧嘩などしたことがないですからねぇ、殿下は。しかもそんな女性のご機嫌など。人生で一度たりとも取ったことがありませんし。殿下のポケットマネーが尽きるのが先か、姫君の怒りのエネルギーが尽きるのが先か。どちらでしょうかねぇ?」


「愛想が尽きるのが先だろ?」


私はふん、と荒く鼻で息を吐きながら冷たく言い放った。


ヨハンナムさんは「これは手ごわいですなぁ」と。


やはりどこか面白がるような表情だけど。


「何か行動を起こさないと落ち着かないご様子で。……この情報も姫君が愛想を尽かされるか否か、判断材料の一端にでもなれば宜しいのですが?」


「はあ…」


しかし……足を踏み出すたびに落ちた薔薇の花びらがふわっと舞う。


「……ッ!」


うわああ!もう、しゃらくせぇぇぇ!!!


放っておいて箱が増えるのも!

寝る場所がこのままなくなるのも困る!!


何よりどんどん運ばれてくる贈り物に底知れぬ恐怖を覚えた。


「ヨハンナムさん、ミラは今どこにいる!?」


彼はにっこり笑う。


「殿下ならお部屋に。ご案内しますよ。丁度公務も終わるお時間ですし」


*****


ルークは日光浴のせいか眠そうにしていたので部屋に置いて行くことにし、ヨハンナムさんの先導で私は王宮の王族の私室がある棟へと案内された。


肩で風を切りながら、ずんずんと廊下を歩く。


ミラの部屋の前まで来た。


「ふぅっ!」


私は短く息を吐き呼吸を整える。


ビシッと言ってやるぞ!


ノックもせずに扉をばーんっと開ける。


「ミラ、いるか!?」


「薔薇姫」


空き時間に本を読んでいたのか。


彼は読みかけていた本をパタンと閉じて、嬉しそうにこちらに歩み寄る。


ようし、言ってやるぞ!


決意を新たに、私は扉の前に仁王立ちし偉そうに腕を組む。

キィッと彼をきつく見据え…、


「あのなぁ、おまえ。あの贈り物…ぶふっ!」


…セリフは最後まで決まらなかった。


しゃべっている途中で熱烈ハグをされたのだった。

彼の胸に押し付けられ低い鼻が潰れています。ぐふっ…


「ああ、やっと貴女に会えた」


「……」


……『やっと』って。昨日の夕方から会ってないだけだろ。


彼が、心の底から嬉しいよ!って言うようにハグしてくるので、うっかりほだされそうになった…ところを。


はっ!

いかんいかん!

私は怒ってるんだった…。


「ミラ、離して」


わざと冷たい声音でそう告げて、両手で彼の胸を押す。


「嫌です。離したら貴女は逃げてしまうでしょう?」


ミラはすぐ横に立つヨハンナムさんに視線を向ける。


「御苦労でしたね、ヨハンナム。もう行っていいですよ」


ヨハンナムさんは恭しく一礼して「ではお頑張り下さい」と退室してしまった。


*****


部屋で二人きりにされたところで。


彼は私の丸出しのおでこを親指でなぞった。


「すみませんでした…」


昨日の狩りの一件で、私の前髪はチリチリに燃えてしまったので。

アイサが切って整えてくれたのだった。

短くなった前髪はリボンで結び、ポンパドールみたいなデコ出しヘアスタイルに落ち着きました。


あの理科実験で御馴染みスチールウール状態だったチリチリ前髪を、予想外に可愛くしてもらえたので私としてはそこは気にしていない。


そんなことよりも、だ。


「とりあえず。もうプレゼント攻撃はよしてくれ。それだけ言いに来たんだ」


これだけは言っておかないと。来訪した1番の目的である。


彼はすぐに「ええ、分かりました」とあっさり了承した。

こう言われるのが分かっていたみたいに。


その、こちらが肩透かしを食らってしまう位、あっさりさっぱりとした態度に違和感を覚える。


も、もしかして…。


「おまえわざと…?」


あれだけの量のプレゼントや薔薇の花を部屋に撒かれたら私が直接文句を言いにくるだろうと見越して…いた…のでは…?いやそんな。まさか……


しかし彼は私の疑いの目から逃れるように微妙に視線をズラした。


「…こうでもしないと謝罪すらさせてもらえないと思って」


「~~おまえなぁ……」


私はへにゃ~っと脱力。

扉にもたれかかったまま、そのままずるずる座り込む。


なんちゅーアホな金の遣い方だろう。

さすが王子。

いくら私が(一応)公爵令嬢であっても。彼とはやはり全然金銭感覚が違うな。


「そこはさぁ、自然に待てよ。喧嘩して仲直りするにしたって冷却期間ってやつが欲しいだろうが」


私だって冷静になって自らを顧みて反省したりとか。考えをまとめたりする時間が欲しい。


それをゴリゴリ押してきやがって。


彼はじいっ…と何か言いたげな目をしている。

捨てられた子犬か、おのれは。


「待ちきれなかったんです」


あきれ果てた。と同時に何だかおかしくなってしまった。不覚にも。


「ほんと。こらえ性がない奴…」


「はーあ」とわざとらしくため息をついた。


「…いいよ。仲直りしよう。なんか怒っているのもばかばかしくなったし」


「本当ですか?」


彼は私の腰を支えながら立たせ、ぎゅっともう一度抱きしめた。

あ、そこ筋肉痛が……痛い。


多分、ぼっちの彼のこと。

友人と喧嘩なんて初めての経験に余裕がなかったのだろう。

私は彼の背中をぽんぽんと叩く。


それに……。


「私も悪かった…」


「え?」


ふとあの時の光景を思い出していた。

その時の自分自身の考え方も。


「おまえなら私をすぐに助けてくれるもんだって勝手に思ってたから。何様なんだろうな、私」


それが当然とばかりの態度だったよなぁ。


「助けろ!」と喚いているだけのくせに。「助けるのが遅い!」なんて怒る権利、自分にはないよなぁ。自分勝手もすぎる。


「おまえに甘えすぎているのは私の方だ」


不運や理不尽なことなんて、いつ自分の身に降りかかって来たっておかしくない。こちらの事情なんてお構いもなしに。いつも突然なんだ、ほんと。


その時周りの人が助けてくれないからって、怒るのは筋違いだよなぁ。


――いくらその人に助けるだけの力があろうとも。


結局は自分の行動のツケは自分で責任を取らなければいけないことだ。


もし、縋った人が自分を助けてくれたならば。

それはその人の厚意なんだ。当たり前のことなんかじゃない。ちゃんと感謝しなくちゃいけないんだ。


「だから、ミラ。ありがとう。……助けようとしてくれて」


最後にはギュリさんを強制使役する形で命令を出していたようだった。


思わぬルークの活躍があったけれど、ね。それさえ抜きにしたら、本来なら彼は私を助けてくれていたんだ。


お礼を言ったのに。ミラはちょっと苦しそうな顔をしていた。


「ミラ?」


「やはり、俺は愚かでした」


「ん?何が?」


彼は私の肩に頭をぽすんと置く。


「貴女は無意識に、俺がすぐに貴女を助けると思っていたのでしょう?それが当たり前だと。……それ程までに得ていた貴女の信頼を。俺は自分で捨てたんですね…」


「うん…うん?」


そうか。彼の思考はそこに飛ぶのかぁ。


「別にミラへの気持ちは何にも変わってないけど…。うん、含むところは何もないぞ。気にしなくて良い」


肩に置かれている彼の頭――その後頭部を私はぽんぽんと叩いた。


「前に言ったろ?おまえのことは滅多なことで嫌いにならないからって。その気持ちも今だって揺らいでないし。私達の関係は前と何ら一切、全くもって!変わるところはないぞ!安心しろ!」


安心させるために力強く断言する。


それを聞いて彼はそっと私の肩から頭を離す。


何故か分からないが。本当に何故かは分からないが。――拗ねたような顔をしている。


「ミラ?」


なんでそんな顔をするんだ。

私今イイこと言ったよな?


彼はしかしその表情のまま、じとっと私を見た。


「俺のこと。滅多なことで嫌いにならないって、貴女は言いますね」


「うん」


「でも俺と結婚するのは…熊と素手で戦うのと同じ位、嫌なんですよね?」


「あー…」


確かにあの緊迫した状況の中。


そんなことを叫んだような…気がする。


これは確かに失礼な発言であった。要反省だな。友人を傷つけるものだった。

いくら友人であっても。異性から言われて良い気持ちにならないだろう。


私は素直に詫びた。


「ごめん」


「謝られても……」


「ああ、ええと。違くて…っ!」


いかん。何か間違えた。


思うだに。私の失言のせいで彼は異性に対する自信を喪失してしまっているのかも。このモテ男が!自信喪失とな!?一大事である。


そうだ、これこそ『男の自信を取り戻す』――それが必要なんだな!?彼に。


私は何と言おうか必死に考えを巡らせる。


「うーんと…おまえはカッコいいし、強いし、頭もいいし、王子様だし。あとはええと…何かいつもイイ匂いがするし。とても魅力的な男だと思うぞ、私は!」


「……」


ミラは訝し気にこちらを見ている。いきなり彼を誉め出した私を怪しんでいるのか?


「あとは。えっとだな…」


こいつの良い所って他に何があるんだろう…?


あ、いつもイイ匂いがするぞ!……いや、これはさっき言ったか。


肌は白いのに腹は黒い…こ、これは多分悪口だよな。


「薔薇姫?」


「い、いや。だからミラにああは言ったけどな!おまえが本気フェロモンを出したら、私だってついうっかりよろめいてしまうかもしれないな!?」


「ついうっかり…」


微妙な顔をされた。


こ、これもダメか。

くっ……。


「も、もう!おまえはほんとメンドクサイ奴だな!」


私は間がもたなくて、つい、本音を口に出してしまった。


「私に免疫がないのを知ってて色気を無駄に振りまくし。タラシだし。怒るとおっかないし。でも…」


「薔薇姫…?」


「でも私は。何やかんやおまえのそういう面倒なところが放っておけないのかもしれないな」


夫にしたらメンドクサイ奴だと思っていたけど。

案外、彼がメンドクサイからこの友情は続いているのかもしれないとも思えた。


うーん?何くれと心配して世話を焼きたくなるというか。


大家のおばちゃんが『あの子ご飯食べれてるのかしら?』と下宿人である貧乏学生を心配しているような…そんな気分である。


…例えが分かりづらいな。


ぐいーっと伸びをして、私は彼を真っすぐ見つめる。

目に力を込めるのを意識して。


「おまえは、カッコいいよ。本当にそう思う。おまえが本気出せば落ちない女なんていないぞ」


「そんなことは…」


「ある!もしそんな女がいたとしたら、それはおまえが本気出してないだけだ!」


私はきっぱりと言い切った。

ビシッと彼を指差す。

探偵が「おまえが犯人だ!」と犯人を指差すお決まりシーンの如く迷いなく。


「絶対そうだ!おまえのことだから。ハンティングの過程を楽しんでいるのか、何か妙な事を企んで行動をセーブしているかのどっちかだ!」


指をさされた彼は、一瞬きょとんとし――、やがてふふっと笑った。


「……そうかもしれませんね」


お、どうやらご機嫌が多少治ったらしい。つられて私もへらっと笑う。


「そ、そう。だからおまえは男としての自信を失わなくてもだな…」


「いいんだぞ」と言いかけたところで。

彼は神妙な顔をしてこちらをじいっと見ていた。


「今逃げられたら困るなと思って。四方をがっちり固めてから本格的に攻め落そうと考えていたのですが…」


「んん?」


逃げられたら困る…?

攻め落とす…?

四方をがっちり固めてから…?


……?


何か会話の流れをぶった斬るような物々しい単語が。


「おまえ、何の話をしているんだ?…でかい城でも落とす気か…?」


私は怪訝な顔でミラを伺う。

今どれだけ彼が魅力的かというプレゼンをしていたのであって…。


唐突に話が変わりすぎではないか。


ミラは「ははっ」と声を出して笑った。

彼がこんな笑い方をするのは珍しい…というか初めて見た。


「そうですね。城と言えば城ですね。難攻不落な……だからこそ欲しい」


「ええっ!?」


やっぱりいつの間にか物騒な話になっていた。


前世から平和主義者である私は、ミラの物騒な物言いに縮こまる。


「…気づいてくれない方が色々動きやすい。むしろ今気づかれたらちょっと厄介かな、と思ったりもしています。でもやっぱり少しは俺の気持ちに気づいて欲しいし、意識もしてほしい。むしろ全く気付く様子もない所が時々憎らしくもなる……複雑ですね」


「な、何の話だ…?」


城攻めではなかったのか?


また話が変わった気がする。


「…この関係に心地よさを覚えていたのも事実です。でもやはり俺にはどうしたって物足りない」


彼の静かな青に熱がこもっているようだった。

何故そんな目をするのだろう。


「ミラ…?」


「最初はね、確かに。俺にも多少思い上がりがあって。一緒に過ごしていればすぐに俺の元に落ちて来てくれるかなって期待していたんですよ。でも中々どうして…ままならない」


「だから…」と彼は続ける。


「作戦、というよりも順序を変更することにしました。確実な方法を選びます。…我ながら何とも情けない限りですが。モタモタしていて他に盗られたら後悔してもしきれないですし」


次々と情報が入って来て、正直頭が追いつかない。


頭の中は疑問符でいっぱいだ。


うーんと?

彼には欲しいものがあるんだよな?


多分城というのは何かの例えであって。


手に入れるのが難しいもの?


結局何が欲しいんだ…?


うーむ?と唸りつつ、そろりと彼に視線を向けた。


目が合った彼は口元に人差し指を当てながら唇だけで笑みの形を作るに留めた。

私の戸惑いを見透かすように言う。


「貴女が本気を出した俺に落とせない女性はいないって言ったのだから。ちゃんとその言葉に責任を持って下さいねって話ですよ。つまりは」


「ええ!そういう話だっけ? てかいつその話題に戻ったんだ」


「戻るも何も。ずっとその話をしていたつもりですよ」


彼は「ん?」と小首をかしげて私の反応を待っている。


正直話の全体像を把握していないのだが。


ここが勝負どころ――先の失言をフォローする絶好の機会だと私の勘が言っていた。


「わ、わかった。私が保証する!おまえが本気出せば、どんな女だってイチコロだぞ!」


ドンと胸を叩きながら食い気味に私は言い切った。


彼はニコニコ笑う。心なしかダークな方の笑みで。


「そうですか、良い返事ですね。ではいつか…身をもって証明して下さい」


「証明?」


ってなんだ?

どうやって?


『身をもって』って。どゆこと。


ていうか…。


「…何かその言い方怖いぞ」


あと笑顔も。


「例外は認めませんよってことです」


「お、おう…おう…?」


口調は柔らかだが、有無を言わさぬその態度に何故か私は緊張してしまい、何も言えなかったのであった。


しまったな。『一部例外を除く』とか逃げ道を作っておくべきだったな。


とちょっぴり後悔をしたのだが、まあいいかと思う。


雨降って地固まる?というのだろうか。

仲直りもしたし。

私のせいで失われかけた男としての自信も回復した様を見せてくれた。


そんなキラキラ3割増しの笑顔で彼は呟く。




――その時が来たら。ちゃんと俺に落とされて下さいね。と。






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