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令嬢は生きるのがツライ  作者: 今谷香菜
~シャダーン編Ⅲ 竜との約束~

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45/87

~友人がドゲドー過ぎてツライ~

遠のく意識を保とうと、私は必死に考えていた。


ここで気を失ったら……マジで召される。


ああ、一体。どうしてこんな状況になったのだろう。



*****


時はちょっと遡る。



自分で傷つけた腕の傷もすっかり良くなったルークにひと安心していた私。

そんなとある日の昼下がりの出来事だ。


昼食を済ませ日課である筋トレに励もうとしていたところで。

ルークは床にべたぁっと伏せていた。もとい、だらけていた。最近の彼はいつもこうだ。


身体も翼も随分大きくなって、そろそろこれは私と一緒に寝るのが厳しいな、と思い始めていたのだが。

というか。そうやって部屋の真ん中でゴロゴロされると邪魔である。

もうちょっと隅に行ってほしい。


そんな思いで彼に呼びかける。


「ルーク」


ぴょこん!……ぺたぁ。


呼びかけに彼は尻尾を一振りして応える。


「ルーク…ルーク…」


ぴょこぴょこ!……ぺたぁ。


2回の呼び掛けには2回尾を振る。


こちらを振り向くことも、鳴くことさえもしない。


……何故か私はこの光景に、キレた。


「おまえは休日のお父さんか――い!!!おまえの野生はどこに行ったぁぁぁ!!!」


というわけで。


これ以上彼の野生が失われないうちに。


私、決めました。




――そうだ 狩り、行こう。




*****



――そして本日。


絶好の狩り日和である。


私とミラとヨハンナムさんは郊外の森に来ていた。狩場である。


「姫君、この猟銃を。反動も弱めで重さもさほどではありません。女性には扱いやすいかと」


ヨハンナムさんが一丁の銃を差し出してくれた。


「いや。ひと狩り行こうぜ!って誘ったのはいいんだけど…、私銃は扱えないんだ。何か持っているのも怖いし。……遠慮しておく」


前世平和な島国育ちでして。今世も銃を扱ったことはありませんので…。

持つのにもちょっと抵抗があったりします。


私のそんな弱気な態度が意外だったのか。

ヨハンナムさんは苦笑し、「では我々から離れないように」とだけ言って銃を下げてくれた。




*******


「ルーク、このキノコはシイタケっぽいな!食べれそうだ」


私は馬から降りて、枯れ木に生えたキノコを指す。

ルークはしげしげと見つめ、匂いを嗅いでいた。


ミラが馬上から鋭く注意した。


「薔薇姫。それは毒キノコです」


「え…そうなのか?」


私は持ってきた図鑑をパラパラめくる。


……うん、毒キノコでした。


「ル、ルーク。すまん。それは食べちゃダメだぞ」


ちゃんと食べられる物とそうでない物を教えてやらなくちゃな。


不甲斐ない母ですまん。ルーク。


「食べられるキノコはどっかに生えてないかなぁ?」


何ならキイチゴとかでもいいんだけど。


馬を引きながら私はルークと辺りを散策した。


背後を見れば同じくルークの『お勉強用の教材』を探してくれているのだろう二人がいた。

二人とも忙しいだろうに。ありがたいことである。


春の青い森の中を歩く。土と緑の匂い。


私は両手を広げて大きく息を吸い込んだ。


「ふふふ。どうだ、ルーク。この鳥のさえずり。爽やかな空気。自然の息吹を感じるだろう?おまえの野生にも何か訴えかけてくるものが……」


と私が言い終わらないうちに、ルークはぴくんと何かに反応した。

ひくひくと鼻を動かし、首をキョロキョロさせている。


「ルーク?」


彼は突如、ばさぁっと翼を広げた。


「へ?」


2.3度バサバサとその場で翼をばたつかせたかと思ったら――。


――ばびゅんっ!


そのまま物凄い勢いで、森の奥まで飛んで行ってしまった。


ええええ!?


彼があの羽根で何度か宙に浮いたところを見たことがあるけれど。


あんなスピード出して飛ぶところは初めて見た。

当たり前だけど、あの羽根は飾りじゃなかったのか!


ぐんぐんと小さくなっていく彼の姿をぽかんと見つめてしまっていた。

やがて小さな点になっていく…。


はっ!!


ぼうっとしている場合じゃない。


「追わなくちゃ!!」


私は夢中で馬を走らせ、彼の後を追ったのだった。



*******


「ルーク!どこにいるんだー!?」


随分と奥まで来てしまった。


彼はどこまで行ってしまったのだろう。


「きゅう!」


私の呼び掛けに応じたかのように彼の声が聞こえた。


声のする方へ私は歩みを進めると。


果たして彼が、いた。


見慣れた後ろ姿にほっとする。


「ルーク、良かった。突然だったからびっくりして…」


彼が振り向く。

その口が咥えているものに私は驚きの声をあげる。


「野兎…!」


ルークは野兎を咥えていた。


キラキラした紅玉の瞳でこちらを見つめながら、先ほど狩ったらしい獲物をずいっと私に渡す。


「おまえ、野兎の気配を感じたから飛んで行ったのか」


私は渡された野兎の後ろ足を縛り、馬に括り付けた。


ルークが「褒めて褒めて!」と言うようにすり寄ってくるので頭を撫でてやる。


「そうか。おまえはすごいな。私よりすごいぞ」


ルークは「くるくる」と喉を鳴らしながらご満悦の状態だ。


やはり彼を連れて来たのは正解だったな。こんなにもイキイキしている。


さて、戻らなくちゃな。

ミラ達から離れてしまったし。

帰ったら彼らに今日の成果を報告しなきゃ!


私は驚き顔の彼らを想像する。

ひとりニヤニヤしながら馬に乗ろうとしたその時。


ふと前方にある木。その根元に生えている赤い実に目が留まった。


「あ、キイチゴ!」


さっきは見つけれなかったのに。

ちょうど良い彼の教材を発見した。


「ルーク、これなら食べられるぞ」


ん?これってキイチゴかな?それとも俗にいう蛇イチゴ?

蛇イチゴはクソマズイと聞いたことあるぞ…?


視線はキイチゴに置いたまま、私は後方にいるだろう彼を手招きした。


「ルーク?」


「ぐるるる…」


すぐにちょっと興奮気味の声が聞こえた。


「ルークったら、何をそんなにハッスルして…」


と。後ろにいるだろう彼に触れようとして。



もじゃ。


「……もじゃ?」


何だか固くて毛深い。

もう一度撫でてみる。


もじゃ もじゃ。



ん?



「ぐるるるる…」



私は恐る恐る振り返った。



―――そして。そいつ・・・と目があったのである。



「くくくくくくま!!!」



私の何倍か以上あるだろう、茶黒のそいつ!!白い尖った歯からダラダラとヨダレを垂らしていた。


唐突に。


チャラララ♪ラララララ~♪


頭の中でメロディが流れた。



♪ある日 森の中~ 熊さんに~ 出会った~♪



「ベタな……ッ!!!」


ついそう叫んでしまった。


私はぺたんと尻もちをつきながら、熊と見つめ合う。


しかし。しかしだよ。そう……私は思い出していた。



――『おまえと結婚する位なら熊と素手で格闘するよ!私は』



そう。その発言がきっかけで先日彼を怒らせてしまったのは記憶に新しい。


そしてこの。巡り合わせたかの如く訪れたベタなシチュエーション。

何らかの意図を。もしくは誰かの悪意のようなものさえ感じる。


そこで私はひとつの可能性に思い至ったのだ。


もしかすると。この目の前の熊――いや、は。


ごくり、と喉を鳴らして、そっと呼びかける。


「……ミラ?」


も、もしや。私をドッキリにはめようとして…?


そんな淡い期待を込めて、彼の目をじっと見つめる。


すると。一瞬だけその熊の瞳が優しく光った…気がした。


私は身を乗り出す。彼の手を握る勢いだ。


「やっぱり…っ!ミラなんだね…!?」



一拍。



「ぐおおおおおおおぉっ!!!!」


熊はゴオッと 勢い良く立ち上がりながら、ものすごい雄たけびを上げた。

ヨダレをまき散らす。びちゃびちゃと生臭い液体が私に降りかかる。



「ふぎゃあああああああっ!!!!」



チガッター!!!


デスヨネ――!!ソウデスヨネー!!



反射的に後ずさり、逃げようとした。

しかし木の幹を背にしているせいで身動きが取れない。


あ、これ。ワタシ終わる。マジオワタ。


一瞬意識が遠のいたところで。


びゅんと目にも止まらぬ速さで何かが熊の肩に。


がぶりっ!!


「ル、ルーク!!」


ルークが熊に噛みついたのだ。


ガアッと短い悲鳴を上げた熊の鋭い爪が空を切る。

空中でその攻撃を巧みに交わす彼。


な、なんとできた息子だ!!


熊が怯んだ一瞬の隙を見て、私は急いで距離を取る。


やがてルークも私の傍へ飛んで来た。

飛び疲れたのか、私の胸に飛び込んできたのでそのまま抱きかかえる。お、重い。腰が折れそう…。


熊は興奮したように鋭い鉤爪で地面をガリガリと削っていた。

ルークに噛まれて怒っているのだろうか。


どどどどうしよう~!!


私は必死に脳内検索サイトにて『熊 遭遇 対処』を打ち込みエンターキーを押す。


ええと。背を向けて走るのは危険だって聞いたことがあるぞ…。


死んだふりも。もっての外だとか…。


は!そういえば馬は!?


ばっと振り返ると、馬の後ろ姿が遠くに見えました。


ああ、お逃げになられていたのですね…うまぁぁぁ!!!

どうせなら主人も乗せてけ!


ううう…このデット オア アライブの状況。これはどうにか自分たちで切り抜けなければいけないのか。


えーと。えーと。た、た、確か。


目を合わせて静かに話しかけながら。ゆっくり後退する――そ、それが良いと聞いたことが。


私は前世の怪しい知識を掘り起こした。

じ、実践してみよう。


「ええと、ミラさん…森のミラさん……」


先ほどこの熊のことをミラと呼んだので、そのまま彼をミラと呼ぶことにする。

名前がないと不便である。いつも呼び慣れている名前が分かりやすくて良い。


『森のミラさん』は私の方をじっと見つめている。


「ああああのですね…?ルークは食べるところなんてちっともないし。…私は見ての通りガリガリでおまけに胸も全くなくてですね…。その、食べても美味しくないかと思うんですね」


ゆっくりゆっくり私は後ずさる。ルークの尾を引きずりながら。


しかし熊も一歩、また一歩距離を詰める。それに私は焦った。というか動転した。


「い、いや!た、確かにあっちのミラ・・・・・・は。貧相な身体の…つまり小さな胸の…何だっけ。何汚いだっけ…?寝汚い?うん、それだな。

……あ、あっちのミラは、えぐれた胸の寝汚い女が好きらしいんだけど!そそそそれは性的な意味であって!やはり食欲的な意味で美味しいのはムチムチと肉付きが良い方かと思うんですよ!!」


とりあえず力を込めて力説した。

ここでプレゼンして勝ち取るしかない。…命を。


しかし森のミラはこちらにのっそり近づいてくる。


私はもう必死だ。既にパニクっているといても過言ではない。


「ミ、ミラ!!落ち着けぇぇ!!私は性的な意味でも食欲的な意味でも!ダブルの意味で美味しくないぞぉぉぉ!!」


涙声でそう叫ぶ。


「ミラァァ!!目を覚ませぇぇぇ!!このケダモノぉぉぉぉ!!!」



――と。


「貴女は森で何を叫んでいるんですか」


呆れた声が後方から聞こえた。


「誤解されるような悲鳴はやめてください」と。

聞き慣れた声。


隣にはヨハンナムさんもいた。


「姫君の馬が逃げてきたから何かと思えば……これはまた、ベタな…」


こちらも呆れてらっしゃる。


「ミ、ミラ…ヒト型の方!!」


地獄に仏とはこの事。

私はダーッと安心のあまり滝のような涙を流した。


「ヒト型も何も。俺は生まれてこの方、人以外になったことはないんですが。ところで…何で熊に向かって俺の名前を叫んでいるんですか…」


彼らの馬もやはり熊に怯え、ぶるぶる戦慄わなないているのを。

ミラとヨハンナムさんは巧みな馬術で言うことを聞かせていた。


「うわあああん。助かったぁぁ!!助けてぇぇ~!ミラァァ!!」


まだ少し距離がある後方のミラに向かって叫ぶ。

熊との距離の方が近いのでまだ背中を見せるのは危険だ。


しかし。


「……」


ミラ(ヒト型)からは何の応答もない。


「ミ、ミラ…?」


ちらっとだけ背後を振り返る。


彼は空色の瞳でじぃっと私を見据えていた。


「おや? 薔薇姫は。俺と結婚する位なら熊と素手で格闘したいんですよね?」


!?


「んな…!」


し、信じられない!


い、今ここで!?


それを引き合いに出すか、ふつう!!


「殿下、大人げないですよ…」


ヨハンナムさんはそう窘めてくれたけど。


ミラはそれにも黙っている。


熊はじりじりとこちらに寄って来る。「ガルル…」と唸り声を上げながら。


私はルークを抱きしめたまま、後ずさる。


もう恐怖で足の感覚がない。


「ミ、ミラ……」


もう一度ちらっとヒト型の方のミラを見る。


彼はダークな笑顔をたたえたまま、馬上から一歩も動かない。


私はぐぐぐっと唇をかみしめた。


「~~ッ!! あ、あんなの!軽い冗談じゃないか。何真に受けてんだ!!バカ!!」


「薔薇姫……」


ミラのちょっと安堵したような声が耳に届いたような。…届かないような。


でも私はそれどころじゃない。


「そうだぞ、熊と素手で戦いたいなんて冗談に決まってるだろ!!」


「「…え゛?」」


2人はハモった。


私は構わず続ける。泣き出してしまいそうな目元をぐいっと腕でこすりながら、叫ぶ。




「アレは! ただ単純に、おまえと結婚するのがその位イヤだって意味だぁぁぁぁ!!!」




意味だぁぁぁぁ~~…… イミダァァァ~~ ……ダァァァァ~~………


ァァァァァ~……




こだまでしょうか。

いいえ。ひと(の魂の叫び)です。



「……」



「察しろ、このバカぁ!熊と本気で戦いたい女なんているか!!」と私はワーッと喚いた。


どこの戦闘民族だ、ばかやろー!!


確かに以前、変な野犬とは戦ったけど、それとこれとは別じゃあああ!!


ミラは黙り込んでしまった。

表情は見えない。


聞こえなかったのか?


「おい、聞いているのか!私はだな…ッ!!」


続く言葉を、ヨハンナムさんが鋭く制する。


「もうやめて下さい姫君!!殿下のライフはとっくにゼロですよ!!」


「何、意味不明なこと言ってるんだ!こっちのライフがゼロになる瀬戸際だっつーの!!」


このドゲドー!! ハゲドー!!


ギャースカ私が喚いているのを。

ヨハンナムさんはふぅ、とため息をつく。


「殿下。これ以上意地悪をしたら。本気で姫君に嫌われてしまいますよ」


「そろそろ助けて差し上げたらいかがです?」と助け船を出してくれた。


ミラは「ああ…」と。だるそうに返事をしているのが聞こえた。


「不覚にも。一瞬だけ意識が遠のきました。…分かってます、――ギュリ」


短く守護妖精の名を呼んだ。

ギュリさんがぬぅんとミラの影から出てくるのを、ちらっと私は確認した。


ああ、これで大丈夫だ。ギュリさんが助けてくれる…。


……と思ったら。


「嫌じゃ」


!?


ギュリさんは短く拒否の言葉を発っせられる。


「ギュギュギュ…ギュリさぁん!?」


信じがたきお言葉が…!?


麗しき妖精さんは、つんとそっぽを向いている。


「ペットはともかく。何で妾があの竜を助けてやらねばならんのじゃ。……あの竜が食われてからなら助けてやるぞ」


そそそそんなぁぁぁ!!!


竜と妖精は仲が悪いって聞いたけど。


ここに来てそれが災いするとは!


「ギュリ…」


ミラは呆れたように名を呼んでいるのを。私はどこか遠くで聞いていた。


熊は頭をブルブルと振って、私を睨みつけていた。

歯茎を見せて、私たちを威嚇している様子に。


不覚にも、じんわり涙が込み上げてきた。


怖いよぅ…


ああ、神様。最後に兄貴に会わせてくれたのは。

この若き身空で死にゆくせめてもの手向けだったのですね…。ううう。


私はぎゅっとルークを強く抱きしめる。何か抱え込んでいないと落ち着かなかった。


だが。腕の中のルークが。


「みああ!!」とひときわ大きく鳴いた。


「ルーク?あ、そうか。ごめん!」


飛べるおまえだけでも。とりあえず逃がしてやらねば。


私は腕で暴れるルークをそっと離してあげた。


すると。彼は一直線に飛んでいく。


「あ、あれ?」



―――何故か…熊の方へ。



「ル、ルーク!!」



彼は熊に向き合う形で、地面に身をかがめる。

低い姿勢のまま、尻尾をぶんぶんと振る。ファイティングポーズである。


「ま、待て!ルーク!戻って来い!!」


呼ばれた彼は「ええとこ見せたるで!!」と言うような、めっっさ良い笑顔でこちらを振り返った。


愕然とした。


「ば、ばか!おまえにその獲物はまだ早いぞ!!具体的に言えば、炎のモンスターを最初の街で選んでロクなレベル上げをせずにタケシに挑むようなものだ……ッ!!」


おまえいつの間にそんな野生を取り戻したんだ!!


つい昨日まで『休日のお父さん(@妻子はデパートへショング中)』状態だったのに!


「おいぃぃ!! 勇気と無謀は違うぞぉぉ! !戻れぇ、ヒトカGE……じゃなかった、ルークぅぅ!!」


私は彼に『戻れ』と叫びながらも既に駆け出していた。


熊がルークに向かって鋭い鉤爪を振り下ろそうとしているように見えたのだ!


背後ではミラがギュリさんに鋭く命令をしていたようだ。


彼女の。それに応えつつも、ちっと短く舌打ちをする音。

ヨハンナムさんだろうか。チャッ…っと猟銃をかまえる音と。

熊の興奮した鳴き声。

ルークの。今までにない、「がるる」という腹の奥から絞り出すような声。


――色んな音が混ざり合って聞こえた。


全てがスローモーションのように。様々な情報が私の中に入って来たようだったけど。

その全てを取り払うかのように私は無我夢中でルークに駆け寄った。

きつく彼の身体を背後から抱きしめる。


――恐らく死なないだろう。余程運が悪くない限り。

ミラやギュリさん、ヨハンナムさんが助けてくれるから。


……死なないだろうけど。この一発に間に合うかは分からない。

きっと痛いだろうな……私がそう覚悟してぎゅっと目をつむる。


風を感じた。熊が腕を振り下ろそうとしたのだろう。


――やっぱり一発は覚悟しなくちゃいけないかな…ッ


私がそう腹を括った、その瞬間。

――瞼の裏にメラメラ、ゆらゆらと明るい影のようなものが踊るようにして映った。


「…んん?」


熱い。なんか熱い。


そして焦げ臭い。


私はぱちりと目をあけた。

まず最初に目に飛び込んできた光景は。


バーニング状態の熊。

ごお、ごおお……ともの凄い音を立ている。火柱が上がっている。


「へ…?ルーク…?」


火元は……私が抱き着いている状態になっているルークだった。


彼の口から大量の炎が生み出されていた。

炎は彼の口から吐き出され、まるで生き物のように熊の体に巻き付き。執拗にその身体を舐め尽す。



「……え?」



ついでに。……私の前髪も燃えていた。



******



「異種とはいえ…火竜でしたからねぇ…」


ルークと一緒にミラとヨハンナムさんの元へ合流すると。


ヨハンナムさんはそんなことを口にした。


「大なり小なりありますが。竜も妖精と同じように。それぞれの属性のものを操ることができるんですよ」


「ああ…そうなの。ルーク、おまえほんとに頼りになるなぁ」


私は安心したせいか。どっと疲れが出てしまっていたけれど。

彼の紅玉を覗き込んで、ギュッとその身体を抱きしめた。


「ご無事でよかったですが。姫君……その前髪……」


ヨハンナムさんは言いにくそうにしている。

私のちりちりの前髪を見て哀れみの表情を浮かべていらっしゃる。


「いいよ、こんなの。前髪がなくたって、命があるんだからさ」


生きていれば生えてくるし。


私は「ふぅ」と重いため息をついた。


ミラは少し戸惑い気味に口を挟む。


「……薔薇姫。ルークに叫んでいたように勇気と無謀とは違いますよ。熊の前に身を晒すだなんて…」


と彼はお説教をしようとしたので。


私はそれに……。


「チッッッス……!!!」


―― 一瞬挨拶か?と思われるような盛大な舌打ちで返した。


「どっかの誰かが早く助けてくれないのが悪いんじゃないのか?」


今!おまえが!この私に!何か物を言える立場なのか?


「……怒ってますか?」


「あ゛?」


「……」


何ならペッペッと唾を吐きかけてやりたい気分である。


「殿下…だからわたしめは忠告しましたのに…」


私は「ケッ」とミラを一瞥後、ヨハンナムさんのズボンを引っ張る。


「ヨハンナムさん。馬に一緒に乗せて」


「それだったら殿下の馬に……」


「あ゛?」


「いえ。すいません。どうぞ……」


私はふん、とヨハンナムさんの後ろに乗る。


「あの、薔薇姫……」


背後にいたミラが横に並び、何か言いたげな顔をしていたのだが。

私はそっぽを向いて、彼の顔を見ようとはしなかった。


「おまえとはしばらく口も聞きたくない。顔も見たくない」


「……」


ヨハンナムさんが「あーあーこじらせちゃって……」と辟易したように頭を抱える。


横で飛んでいるルークに手をかざす。

彼が私の手を甘噛みしてくるのを、どこかくすぐったい気持ちで微笑んだ。



――頼りになるのは息子だけだな。


このドゲドー友人とはしばらく口も聞きたくないので。王宮に帰っても無視しておこう。


そう心に固く決めたのだった。



――こうして。ルークの初狩り体験は、それぞれに色々な軋轢を残し。


幕を閉じたのであった。





スプラト〇ーンの前フェスでポケ〇ン対決やってたからつい……


このネタ分かる世代はどの程度の幅なのだろう…。


この話はミラ視点で書いても面白いかも、と考え中です。


*注意*この熊に遭遇した対処法は作者が小学生の時に小学校で習ったものです(ど田舎)。

もう…きっと情報は古いかと思われます。

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