~未来の義妹が逞しすぎてツライ~
第一王子なのに彼への対応が粗塩すぎる。
神力高き妖精の守護を得た若者は、向かい来る精霊国の兵士を次々と倒していきます。
ひとつの集落を救い、ひとつの村を救い、ひとつの街を救い、ひとつの都を救い……、
ひとつの集落を奪い、ひとつの村を奪い、ひとつの街を奪い、ひとつの都を奪い……、
そうして若者はふたつの国を長い年月をかけひとつにすることができました。
若者はその国の名を『シャダーン』と名付け、自らが国の王になりました。
妖精の妃は神位を授かり精霊となり、国の統一後も度々起こる争いに赴き、王を戦場で支えます。
竜の妃は泥と血で汚れた王の隣で静かに微笑み、王の寄る辺となり支えました。
ひとときの平和と長い争いを繰り返し繰り返し……やがて国はまとまっていきました。
『シャダーン国ものがたり』より抜粋
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すっかり元気になった私はミラと恒例の朝の散歩をしていた。
綺麗に刈り揃えられている芝生の感触を靴越しに味わう。
柔らかくて良い気持ちだ。
「すっかり元気になりましたね」
私の後をちょっと遅れて歩いていたミラだ。
朝日のせいだろうか、私を見て眩しそうな顔をしている。
「うん。すっかりね。心配かけてごめん」
腕を上下に動かし「元気になりました」ポーズを取った。
この青い芝生のように瑞々しい晴れやかな気持ちだ。
「いえ、精霊祭にも間に合ったことだし良かったです」
彼はそんな私の様子に微笑んだ。
微笑みながら、すっと手を差し出した。
「ん…?」
握手か?
ほぼ反射的に彼の手を握った。
「シェークハンド?」
「…違います」
彼は握手した手を引っ張り私の身体をくるんと反転させた。
気づいたら横にミラがいる。彼と並び立つ格好となったのだった。
そのまま握手した逆の方の手を取られる。
「散歩の時はこうやって手を繋いで歩く約束でしょう?」
恋人繋ぎなるものをされ、「ああ…」と思い返した。
そういやそんな約束をしたっけ。
そのままなし崩しに彼と手を繋ぎながら散策していると、門番のふたりがこちらを見てペコリと頭を下げてくれた。
私も会釈をし返す。
その、門番の生暖か~い視線を感じながら、居た堪れなくなる。
確かに減るもんじゃないし、何より彼の中で「友達ができたらしたい10のこと」にきっと手繋ぎ行為も入っているだろうから、黙って彼のしたいようにさせてはいた。
しかしだな、うん。
病から復活を果たし、心機一転の私ですよ。
ここは一発彼にこの「恋人繋ぎ」なるスキンシップをちゃんと説明して差し上げねばならない。
後々困るのはやはり彼だからな。
「ミラ」
「はい」
どこかの大学教授のように、こほんと咳払いをする。
講義の時間である。
「いいか、ミラ。この手の繋ぎ方はだな、愛し合う男女……いや性別は関係ないな。つまり恋人や夫婦の手の繋ぎ方なんだ」
ミラは私の講義を聞いて「それが何か?」みたいな顔をしている。
あ、あれ?
平然とされてらっしゃる。
彼の予想外の反応に慌てた。
「そ、そう。だからな、私達がこの手の繋ぎ方をするのはおかしいだろ。大体にしてこんな姿を赤の他人が見たら勘違いするんじゃないかな」
「どんな風に?」
イライラした。ぜってー分かっているだろ、こいつ。
なんで私の口から全部言わせようとするんだ。
「だから。わ、私とミラが恋人に見えてしまうんじゃないかと思うんだ!」
ミラは「ふむ…」と首を傾げた。
「それは俺にとってうってつけの状況ですね」
「はああ?」
思わず朝の爽快な気分がぶっ飛ぶような声をあげた。
「おまえ馬鹿か?そんな噂が立ったらおまえの方が困るんだぞ!私はこの国を出ていく身だから痛くも痒くもないけど」
「そうですね。貴女が国に帰ってしまったら俺はこの王宮で『女に逃げられた哀れな王子』のレッテルを貼られてしまいますね」
彼はわざとらしく悲し気な表情を作って視線を寄越す。
ミラはそんな未来を想像したのだろうか。
そうなるだろうと分かっていてそんな悲しそうな顔をする位なら、こういう行為をやめろと言いたい。
「そうだぞ。そんな不名誉なレッテル、百戦錬磨のおまえの輝かしい経歴に傷がついてしまうだろ」
「なんですか、百戦錬磨って…そちらの方が不名誉なんですが」
だって『竜殺し』だけでなく『女殺し』の異名だってありそうじゃないか。こいつ。
「ともかく。そういうことだから、この手繋ぎ行為は今後禁止に…」
「嫌です」
「えー?」
何ですかこのワガママ傍若無人は。何様ですか。
あーはいはい王子様でしたね。王子兼勇者サマ。
「あのなぁ、ミラさん」
「薔薇姫が嫌じゃないならこのままで。俺は貴女とどんな噂が立っても構いませんから」
「あーそう。…ソウデスカ」
妙に男らしく言い切るな、こいつ。
女ひとり位と噂が立ったところで痛くも痒くもないのか。
あれだな『芸の肥やし』ってやつだな。
……ならばもう何も言うまいて。
私は彼と繋いだ手をブンブン振りながら歩いた。
ちょっとした嫌がらせである。
体幹がしっかり鍛えられているのだろうか。彼は動じることもなく歩いていますが。口惜しい…。
「そういえばギュリさん達はまた寝坊?」
いつも嬉々としてミラに引っ付いているおふたりがいない。
「そうですね。まだ寝てますよ」
「ふうん。ギュリさん達、私が寝込んでいた時も隣で寝ていたんだよね。お見舞いに来てくれたらしいけど」
その時の彼女達の様子を思い出す。
なんか変な様子だったよなぁ。変というか、意味が分からない、というべきか。
魂が巡るだか巡らないだか。『カクリヨ』がなんとか。
何か私に関することっぽいけどさぁ。分かりやすい説明を求めたいところです。
求めたところで「面倒じゃの」で終わりそうですが。
あ。そういえば。
「お見舞いで思い出したんだけど。えーとセスさん?だっけ。ミラのお兄さん」
「……ええ」
「セスさんからお見舞いのお手紙貰ったんだよね。お礼兼ねてご挨拶に伺いたいんだけど」
「それには及びませんよ、薔薇姫。兄は今、風邪で寝込んでいますから」
「ええっお兄さんも!?」
私の風邪がうつったか?と一瞬申し訳ない気持ちになったが。
よくよく考えれば手紙を貰っただけでお会いしていないもんな。うつるわけはないか。
ミラは「ふっ…」と吐息を漏らしたような笑い方をした。
「ええ。……この時期に水遊びなんかするからですよ。まだ肌寒いのに」
「しょ、少年の心を忘れないお兄さんなんだな…?どこで遊んだのか知らんが」
「本当に。そろそろ落ち着いてほしいものですね」
どこか邪悪な笑みを浮かべつつもミラは上機嫌の様子だ。
お兄さんのことを考えているのに何故そんな顔をなさるのか。
しかし。
そうかー
お兄さんは風邪をひいちゃったのか。
でもそんな時こそお見舞いというか、貰った好意にお返しした方が良いのでは?
むしろこちらが貰ったのに返さないのは失礼にあたるよな?
「じゃあ手紙を書こうかな。ミラ届けてくれる?」
ミラは一拍考え、
「字を読んだら熱が上がってしまうかもしれませんから。俺が薔薇姫のお見舞いの気持ちを彼に伝えておきますよ」
彼は薄く笑いながら「返事を貰えと言われましたが手紙を貰えとは言われていませんしね」とか何とか言っている。
「? えーと」
一体何のことだろう?
そもそも。病人の負担になる様な長い手紙を書くつもりはないんだけど。
そう言い返そうとして口を開きかけたところで彼は「ん?」と小首を傾げる仕草をしてみせた。
言い返す気力を失くしため息をついた。
有無を言わさない感じだな。
何を言ってもムダだろう。
「じゃあ…『お手紙ありがとうございました、お大事に』で…」
「確かに。承りました」
ミラは胸に片手を当て恭しく応じた。
執事が主人に礼を取る様な感じだ。
「……」
やはりお兄さんの話題ははぐらかされてしまうなぁ。
何でだろ?
涼しい顔をしているミラをよそに私は悶々と考えた。
やはりあの『言葉』だけじゃあ、一国の王子さまに向かって…礼に欠けるような気がするんだが。
何とかならないものだろうか。
*********
「……とのことです。兄上」
「ごほっ……ミラ、君ねぇ……?」
彼女の「お見舞いの言葉」を伝えにミラは異母兄・セスの室を訪れていた。
人払いをしたのだろう。彼はひとり寝台でゆったり構えている。
しかしよく見れば顔はうっすら赤く、目もうるんでいる。
「ごほごほ」と喉をおさえながら彼はミラを見ている。恨めしそうな顔だ。
「もうちょっとこう…ねえ?誰のせいで風邪を引いたと思っているのかな、君は」
「兄上の鍛錬が足りないからではないでしょうか?」
笑顔でいけしゃあしゃあとしているミラに、セスは「はあ」とため息をついた。
「全く。君はいつからそんな可愛くない弟になってしまったんだろうね。兄は悲しいよ」
「私に可愛い時代がありましたか?兄上」
「……ないねぇ。まぁ、君のその顔に似合わずえげつない性格をしているところは私の親戚の所為でもあるのだけれども」
セスは窓から見える地平線をぼんやりと眺めた。
どこか遠い目をしている。
やがてふっと視線を戻すと、さめざめとした様子で、
「ああっ!弟はもうどうでもいいから、カワイイ義妹に癒されたい……『おにいさま、お疲れさまですっ!肩でもお揉みしましょうか?』とか…健気な義妹に公務帰りは出迎えられたい……っ!」
両手で顔を覆いつつわざとらしい泣き真似をしていた。
「それは義妹というより妻がやることでは」とミラは思ったが面倒だったので放置した。
しかし彼の妄想はまだ続いていた。
「『どうして私……彼じゃなくて先におにいさまと出会ってなかったのかしら…っ!』とか禁断のやりとりにヒリヒリしてみたいよ、私は…っ!」と。暴走が止まらないようなので、ミラは頭の中で妖精の名を呼んだ。
変質者の寂しい妄想とはいえさすがに不愉快である。
主の命を受けたギュリがセスの頭にバチッと小さな雷を落とした。
「いてっ…!ミラ、頭に雷はやめてほしいんだけどね。しかも前と同じ個所。本格的にハゲてしまうだろう」
「失礼。脳細胞の電気回路を正常に戻そうと思いまして」
「至って正常だよ、私は」
「左様ですか」
セスは頬杖をつきながらブー垂れていた。
「妄想位いいじゃないか。せっかく義妹ちゃんと仲良くなれるチャンスだと思ったんだけどな」
ミラは今朝彼女と散歩をした時のことを思い出していた。
「でも彼女は喜んでいましたよ、兄上。『手紙の文言からオサレイケメン臭がするな!』と」
「イケメン臭……そう……」
――何というか軽い。
褒められているのだろうが微妙だ。
今の若い子の言葉ってよく分からない、と思ってしまうのは自分が彼らと10程年齢が離れている所為だろうか。
「オリーブの枝になっていた実はすぐにもぎって塩漬けにしたそうですよ。今は食べ頃を見極めているようです」
「……逞しいね」
そういうつもりで贈ったわけではないのだが、まぁ喜んでもらえたのなら幸いである。
しかし。
――何というか情緒がない。
セスは頭を抱えた。
風邪の所為か、頭痛がする。
「あれぇ?君の好みの娘ってそんな感じなの?ねえ。活発な子とは聞いていたんだけど…」
勝手な言い分ではあるが、自分が憧れた「義妹像」とはかけ離れた女性である。
こう言ったら何だが。……なんか残念な感じだ。
やはり『トキメキ☆義妹ライフ ~突然ですがいもうとができました~ 』は妄想に終わるのだろうか。
目算狂うとはこのことだ。
弟もこんなんで義妹もそんなんなんて。
現実は厳しい。
「何をどんな風に想像していたのかは知りませんが。そういう女性ですよ」
ミラは「知りませんが」と言いつつもセスの考えていたことがお見通しという顔をしている。つまりは呆れ顔だ。
その顔にセスは片頬を膨らませた。
トントンと人差し指で膝を叩く。
「えー……なんか君、女性の趣味がちょっとアレなんじゃないかい?特殊というかさぁ……」
「兄上に言われたくありませんね。みぞおちを正確に抉ってくる凶暴な女性なんて」
その言葉にセスは大仰に驚いてみせた。
「何言ってるんだい。人体の急所を正確に把握している女性なんて滅多にいないよ。ちょっと前も『乳様突起は何故人の急所になり得るのか』を議題に熱く語っていたんだけど。その熱弁を振るっている時の彼女の顔ったら。私には見せた事ないような惚れ惚れする位イイ笑顔だったからね。何とも頼もしい限りじゃないか。安心して背中を任せられる」
ミラは引いた。乳様突起とはまたマニアックな……。
日常生活で初めて聞いた単語である。
異母兄の想い人は何処の猛者なんだ。
確実に何人か仕留めている気がする。
「一体何故そんな話題に……?」
「……みぞおちを抉られた夜から警戒心を強くさせてしまったみたいでね…。世間話もまともにできない状態だったんだよ。唯一盛り上がる話題が格闘技系の話だったというか……」
「…やはり兄上に女性の好みについてとやかく言われたくありませんね。兄上こそ十分特殊な趣味だと思います」
「ま、まぁね…。特殊というか稀有な女性だと思うよ。彼女は。そ、そこがいいんだけどね!私は」
異母兄が若干気まずそうに目を泳がせているのを尻目に、ミラは、『乳様突起が何故人の急所になり得るのか』というテーマを今度『彼女』に投げかけてみよう、と密かに考えていたのだった――。
――この話題で盛り上がったら逆にどうしよう、という自分でもどうしたいのか良く分からない気持ちを抱えたまま。
「「はあ」」
ふたりはほぼ同時に――当人同士の想像が及びもつかないところでそれぞれ同じ女性のことを想い…、そうして盛大なため息をついたのだった。
その後……
オ:「え。乳様突起?ああ、あれは…ペラペラペラ……」
(最近アウルともこの話題で盛り上がったな……今hotな話題なのか!?)
ミ:Orz




