表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
令嬢は生きるのがツライ  作者: 今谷香菜
~目を覚ましたら、そこは異世界でした~
3/85

~俺の義兄がイケメンすぎてツライ~

****


うああああああああ!!!


俺のような欲にまみれた人間なんか消えちまえぇぇぇぇ!!!!


部屋を飛び出した後、俺は無我夢中で走った。


わき目も降らず。何人かこの屋敷の家令やメイドに見られた気がするが気にする余裕はなかった。


走って走って走りまくって……屋敷外に広がる森にまで来た。


ぜえぜえ。


前世の俺は空手部だったし、立ち仕事の職についていたから体力に自信があったのだが。


今の俺は温室育ちの令嬢の体だ。


ちょっと走っただけで息切れが激しい。切ない。


…シルヴィアちゃん、きっと変だと思っただろうな。


ゴン


俺は適当な木の幹に頭をぶつけた。


ゴン ゴン


こんな煩悩消えちまえ!


ゴン ゴン ゴン


童貞こじらせやがって!!なーにが合法ロリだ!!死ね自分!!


ゴン ゴン ゴン ゴン!!


先ほどの無邪気におねえさまを慕う青い瞳を思い出す。


ううう…あの子に本当のオリヴィアおねえさまを返してやりたい。


ひょんなことで前世を思い出してしまった俺だったが、

オリヴィア・アーレンとして過ごした人格も記憶も今や「知識」として覚えている感じだ。


きっとそれはあの子の望むおねえさまじゃない。


俺なんて――鈴木勇太なんて死んじまえ!!


ゴン ゴン ゴン ゴン…


その時。


「なーにしてんだ!」


頭上から声が降ってきた。


「だ!」と同時に頭を鷲掴みにされ、木の幹から離される。


「シオン…さん」


頭を鷲掴みにされながら何とか振り向くと、そこには義兄――シオンさんがいた。


「えー……おまえ。マジでなにやってんの?」


俺の額は予想以上に流血しているようだ。視界が赤い。


そんな俺を見て義兄は若干引いているようだった。まあそらそうだよな。


「いや、ちょっと頭をぶつけて煩悩を振り払おうと。具体的に108回ほど」


ジャパニーズ除夜の鐘 with マイ ヘッド。


前世英検5級の俺の英語知識は多分間違ってくさい。


「いや死ぬからソレ」


シオンさんはふう、とため息をつきつつ、俺を抱き上げた。

つまりお姫様抱っこ状態である。


ぎいやあああ!!


「シシシシオンさん!俺自分で歩けるっすから!!」


「いいから。頭ぶつけてんだ。あんま揺らすな。

それに歩いて血行良くなったら余計に血が出るだろうが」


でもでもでもさああ!?


男が男にお姫様抱っこなんてさぁぁぁ!!おええええ


顔面蒼白の俺に何を勘違いしたのか、シオンさんは目をすがめてもう一度ため息をつく。


「おまえが何で悩んでいるか知らんがな。あんまり心配かけるな」


「う、うん」


「俺もシルヴィ―もいる。何かあったら話くらい聞くから。あんま思い詰めんな」


「……」


話して…いいのだろうか。


俺、前世の記憶が戻ってしまって。

しかもその前世が男だったようで今の状況に戸惑っているしラッキースケベな状態なんだけど…そんな状態なのにも関わらず前世童貞だったから処理能力に限界を超えているんです!助けてください!


いやいやいや…言えるわけねえよな!?


ソッコー精神病棟逝きっすわ、コレ。


俺はもごもごと、当たり障りのないように悩みを打ち明けた。


「実は過去のトラウマじゃないけど。そんな出来事を…思い出して。アーッ!ってなったんだ」


うーんと。大分違うような…言いたいことの半分も言えなかった。


シオンさんは「そうか」と言って少し笑った。


「過去の自分も今の自分もオリヴィアに違いない。過去の自分に思うところがあったとしても、今の自分を否定することはないんだ。それを糧に成長していけばいい」


シオンさんは至極まっとうなことを言ってくれた。


彼の言う過去は――俺がいっている過去ぜんせではなかったんだけど、

慰めてくれる気持ちが嬉しくて、少しだけ俺の心は晴れた。



****


相変わらず俺は義兄にお姫様抱っこされていた。


やっと屋敷の庭にまで来た。


…そして仕事中の庭師と目が合った。うああああ~あああ…


俺はこの姿を見られた恥ずかしさを誤魔化すために、シオンさんに訊ねた。



「えーと、シオンさんは何で俺があそこにいるのが分かったんだ?」


「おまえは落ち込んだり何かあったりするとあの森に行くだろう?自覚ないのか?」


ええとはい、すいません。


「だが今はあの森に野犬が住み着いているらしいからな。ひとりではもう行くなよ。

冷や冷やしたぞ」


「はい…心配かけてすいません」


「いいんだ…おまえが無事ならな」


シオンさんは笑った。


あ――…そうだ。


シオンさんは両親を馬車の事故で亡くしているんだった。


それで兄夫婦である俺の両親に引き取られて一緒に暮らしてるんだっけ。


俺はオリヴィアの知識を探り出す。


家族を失うかもしれない恐怖を思い出していたのだろうか。


心なしか寂しい笑顔だ。


なんか申し訳ないことした。


いくら鈴木勇太がアレでコレでも。


野犬に襲われでもしたら、いやあのまま木の幹に頭をぶつけ続けていたら、

オリヴィア・アーレンが死んでしまうところだったんだ。なんかそんな気持ちで頭ぶつけてたしな。


心配してくれる人がいる以上、無茶をするもんじゃない。


「シオンさん…俺もう無理しないっすから」


俺は改めて宣言した。


「うーんと。この際第一人称はつっこまないとして。

なんで俺のことさん付けなんだ?前はそんな風に呼んだことないだろう」


俺はまたオリヴィア・アーレンの引き出しを覗いた。

そうだ、確かに俺は彼のことを「シ―にいさま」とか「シオンにいさま」と呼んでいた。


いやいやいや。ナイっしょ。


空手部で工場作業員の俺がですよ?


確かに今はおにゃのこですけどもね?記憶が戻ってしまったからにはさぁー?


この顔も行動もイケメンすぎる義兄を「おにいさま(はーと)」なんて呼べませんよ。


そんなんとある嗜好の一部ふ女子の方々しか喜びませんから!残念!!


いや、彼女らも美形×美形でないと怒るよな。うん。はい、すいません。


なんか俺各方面に謝罪してばっかだな。はは。


***


さっきから軍靴を高らかに鳴らす義兄の足取りは、全く危なっかしいところがない。


この俺をお姫様抱っこしているにも関わらずだ。


言っちゃあなんだけど、俺多分すごい重いぞ。


オリヴィア・アーレンがというよりも、俺の着ているドレスがだ。


ワインレッドのビロードっぽい生地にフリルもふんだんにあしらわれているソレは、

正直着ている俺自身、重くてつらい。


ていうか俺、今意識したけどスカート履いちゃってんのね。

なんか恥ずかしさを通り越して情けない。いや、今は女なんだけどさぁ。


そんなおもーい俺を抱えているのに関わらず、シオンさんの呼吸は乱れない。


すごいなぁぁぁ


俺はまじめに尊敬をしていた。


前世空手部で筋トレは欠かすことがなかった。それは社会人になってからもだ。


理由は簡単。男なら誰でも憧れる、割れた腹筋と美しい肉体きんにくを手に入れるためだ。


目指せ体脂肪一桁!を掲げていたもんだ。夢半ばでしたけど。


とりあえず、俺は義兄の腕をさわさわする。


ふむふむ…やはり良い仕事きんにくをしていらっしゃる。


この上腕二頭筋…そしてそれを支える三角筋…大胸筋…


さわさわ


インナーマッスルから鍛えられているんだろうな。

ガチガチパンパンってわけじゃなくてしなやかなこの張り…。


いわゆる細マッチョってやつですね。女子が好きな。


さわさわ


「…おい」


「はえ?」


「…なに触ってんだ」


「いや…、神に愛されし肉体きんにくを前に俺の欲望が留まることを知らず…」


「まぁ…一応軍で鍛えられているからな。それなりではあるんだろうけど」


なんか痴女を見るような目で義兄は俺を見据えていた。


その時俺は唐突に思いついた。


「なあ、シオンさんのこと兄貴って呼んでもいいっすか!?」


「――はあ?」


シオンさんはすっとんきょうな声を上げた。

でも俺はめげない。


「俺、兄貴のような筋肉が欲しいんすよ!今度トレーニング方法教えてください!!」


「兄貴って…まあおまえがそう呼びたいなら別に構わないが」


よっしゃああ

さっき保留していたシオンさんの呼び名の件も解決できたぜ!


「でもおまえが筋肉をつける必要は――…」


兄貴がなんか言っていた気がするけど。


とりあえず女だてらに美しい筋肉をつける。


この世界に女ヴィルダーの大会があるか――いやありませんよね。


ないならそれを作って(金なら多分ありそうだし)、俺が第一回大会の優勝をもぎ取るのだ!!


そうして。

俺の今世の目標がひとつできたのだった――



****


オリヴィアの部屋から夜な夜な「フンフン」という声が聞こえる…。


シオンとシルヴィアは扉のすきまからそっと彼女の様子を伺う。


そこにはドレス姿のまま腹筋・背筋を鍛えているオリヴィアの姿があった。


「まずはでかい筋肉から鍛えて――対になる筋肉も鍛えなければ」とか

「くっ…まだまだだぁ!こんなんじゃあ超回復するほどダメージを与えていない!

一度繊維を壊さなければっっ!!!」


という声も聞こえる。


「お、おにいさま。おねえさまはいつの間にあんな脳筋族になってしまわれたの…?」


この間まで小さいお胸を気にしていたのに。


ちっぱいを気にしすぎたせいで、彼女は違う方向へ走ってしまったのだろうか――


「頭を打つ前から変わったところがある子だったが…よほど筋肉に思いれがあるのだろうか。

何にしろあの気迫はちょっと怖いな…」




――そんな会話があったことを、俺は知らなかった。













評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ