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令嬢は生きるのがツライ  作者: 今谷香菜
~シャダーン国編Ⅰ ふたりの王子~

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23/87

~ウソがばれてツライ~

『薔薇姫へ


早速日記を書いてくれてありがとうございました。


薔薇姫は一番が中々決められない性格なんですね。

貴女はきっと大事なことや物がたくさんあるのでしょう。

俺は逆に一番は決まるんだろうけど、それ以外を大事にしないところがあると自分では思っています。


貴女と出会えて良かった。贅沢を言えばもっと早く会えたらよかったのに。

これから貴女のことをたくさん知っていきたいと思います。

俺のことも知ってほしいと思うのですが、いざ書こうと思うと何を書いていいのか分かりませんね。

次回はもう少し自分のことを掘り下げて考えて。日記に書きたいと思います。

またお返事下さい。

                           ミラ・ザナード 』



*****


「まっじめだなー。ミラは」


入浴を済ませた私は、ミラから返ってきた交換日記を読んでいた。


あんまり自分のことを語ったことがないんだろう。自分の何を紹介していいのか分からない様子だ。


人のこと知りたいという前に。自分を知るべきだな、あいつは。



『ミラへ


お返事ありがとう。

今日はとても忙しかったと思いますが、わざわざ日記を届けに来るなんて。ミラは律儀だと思いました。

あなたは自分の何を書いたらいいのか分からないようなので、私が知りたいことを聞きたいと思います。


ええと、まずはアイサからあなたが青色が好きだと聞きましたが、本当ですか?

他に好きな色はありますか?

あと、あなたにはお兄さんがいると聞きましたが、他に兄弟は何人いるのでしょうか?

仲は良いでしょうか?子供の頃は一緒に遊んだりしましたか?

子供時代、あなたはどんな風に過ごしたのでしょう。


                      オリヴィア・アーレン』



ま、こんなもんか!ミラが自分のことを書くとっかかりになればいい。


とりあえず、ギュリさんにキスされた件はあえて触れずにおこう。うん。


だってあれはノーカンだから!そそ、忘れるに限る!

書面に残してたまるもんか!!




****


――翌朝


すっきりと起きられた私は、王宮の庭園を散歩していた。

朝の散歩は気持ちが良い。


私は正門に立つ門番2人に声を掛けた。


「おはよう」


「あ、おはようございます。ええとオリヴィア様でしたか?」


若い兵士だ。そばかすにゆるふわ茶髪の彼は礼儀正しくピシッと腰を折ってくれた。


私は彼らの礼儀正しさに感心しつつも、名前を憶えてもらっていることに驚きだ。


「私のこと、知っているの?ただの留学生なのに」


なんといってもここは王宮。人の出入りが激しい。

他国では公爵令嬢とはいえ、ここでは一介の留学生もとい居候の身だ。

しかもこの王宮に厄介になって数日なのに…。

こんな末端の客人まで覚えているなんて、有能な門番だ。


素直に感服していると、もうひとりの黒髪短髪の門番が笑った。


「貴女様はこの王宮ではもうちょっとした有名人なんですよ。お話しできただけでも光栄です」


「有名人?」


「そうですそうです。何でもミラ王子殿下がいたくご執心……いたっ」


ゆるふわ茶髪の彼が話している最中で、黒髪の門番がゴン、と頭を叩いて黙らせた。


なんか不穏なことを聞いた気がするけど。まぁいいか。

そんなことよりも聞きたいことがあった。


「ところでさ、あなた達が朝から夕方までここの門を見張っているの?」


黒髪の彼は頷いた。


「そうですね。合間に休憩は挟みますが」


「夜は別の人が警備する?」


「ええ」


私は「そっか」と頷いた。


「実は私付きの新人メイドがいるんだけど。その子、故郷に仕送りする為に夜は街で別の仕事をしたいみたい。その時にここを通してもらいたいんだけど。いいかな?」


門番二人は頷いた。


「そういう事情がある者も結構多いですからね。いいですよ。そのメイドの名前は?」


「ありがとう。ルリっていうんだ。夜の警備の人にもそのように引き継ぎをお願いします」


私はぺこりと彼らにお辞儀をしてお願いした。


ふふふ。完璧だ。

これで王宮を抜け出す手筈は整ったも同然だ。


私は門番ふたりに愛想よく手を振って、来た道を戻ろうと振り向いたその時。


「オリヴィア様?」


仁王立ちをしてこちらを見ていた人物が、いた。


「はう……アイサ!」


き、聞かれてしまった!


アイサは腕を組み、「どういうことですか?」と私に訊ねた。

低い声だ。こ、こわい。


「オリヴィア様付きのルリという新人メイドなんて。私知りませんよ」


「あ、あのですねぇ……ええとそのぅ」


「きっっちり、説明下さいませね?オリヴィア様」


「……はい」


私ってば。


肝心なところの詰めが甘い。




****


「大衆食堂で仕事!オリヴィア様がですか!?」


「アイサ!しー!!声でかい!」


自室に問答無用で連行された私は…素直に全てゲロりました。


「なんて無茶を……!はっ、あの時街ではぐれたのももしや……」


あ、そうですよね。

やっぱり芋づる式でそこもバレちゃいますよね!てへぺろ!


「ダメです、ダメダメ!絶対反対です!いくらなんでも無茶が過ぎます!!」


「大丈夫だって!短い時間だよ?2時間ぽっきり!」


「そんな。貴族のご令嬢が労働なんてっ!もしミラ殿下にバレたら…」


「これもミラの為なのっ!お願い許してアイサ」


『ミラの為』というキーワードに、アイサは反応した。


「……どういうことですか?」


ここまでバレてしまえば、もはや隠すことは何もない。

というかこれは特に隠したいことでもないし。


「ミラへ贈り物するって話しただろ?自分で働いたお金でミラへプレゼントがしたいんだ!」


その言葉にアイサは衝撃を受けたようだ。


「まぁ…!なんて健気な。そんなにも殿下のことを想っていらっしゃるのですか…」


彼女はいたく感動した様子で打ち震えている。

かなり迷っていたようだが、そのうち諦めた様子でふぅとため息をついた。


「分かりました……」


「え!分かってくれたの?ありがとう、アイサ!」


「ただし」


「え?」


「私もそこでオリヴィア様と働きます。おひとりではやはり…」


私はぎょっとした。


「だ、だめだよ。アイサ!それじゃヨハンナムさんに絶対バレちゃうよ!」


あの筋肉はただの脳筋族じゃない。

ミラの右腕なだけあって、なかなか鋭い。

頭が回る、かしこきんにくだからな。

怪しい行動をしたら即バレの可能性が高い。


それに朝から晩まで王宮で住み込みで働いている彼女が、これ以上仕事を増やしたら過労死してしまうよ。


「しかしですね、オリヴィア様…」


「大丈夫。実は私、前にも酒場で労働経験はあるから!」


「ええっ!オリヴィア様、故郷では公爵令嬢でいらしたのでしょう!?」


「ま、まあね!短い期間だったけどいい経験だったよ、うん。いやぁ、イイ人ばかりダッタナー。やんちゃん、みっきー、ゆってぃ、みんな元気かなぁ?」


もちろん、前世の居酒屋バイトの話である。

嘘はついていない。うん。嘘は。


ちょっと冷や汗もののダメ押しだったけど、アイサは妙に納得した顔だ。


「なるほど……だからお忍びの際に入った食堂でも、あのように慣れたご様子でしたのね」


確かに普通貴族の令嬢が大衆食堂で食事をしようものなら、もっと戸惑っていただろうな。

物怖じせずにふつーに席に着き、注文をし、ご飯を食べ、お会計を済ませていたもんね、私。


私はぐっと拳を握りしめて力強くアイサを見つめた。


「そう、だから大丈夫!アイサが心配するようなことは私は前職で一通り経験済みだ。対処の方法もバッチリ!」


お転婆だとか、じゃじゃ馬だとか。

そういうのを乗り越えて、何てたくましい公爵令嬢なんだろう。自分。


「でも……」


「私がひとりで頑張りたいんだ!」


「オリヴィア様…労働経験があるといえど、他国ではひとり心細いでしょうに。そんなにも殿下のことを…。

おふたりは両想いだったんですね……」


「両想い?」


ん?


まあ、昨日もミラが「友達関係において片思いが切ない」だのと言っていたけども。


ここでもきっぱり断言しておこう。


「そうだな。私は私なりにミラのことを大切に思っているよ」


それを聞いてアイサさんは嬉しそうな顔をした。


それでしぶしぶ、ほんとーに渋々、頷いてくれた。


アイサってば、ヨハンナムさんの影響を受けてか。

ミラへの忠誠心は並々ならぬものなのだろう。

彼はアイサとも交換日記をすべきだな。


などと能天気に構えている私を見て、彼女は「大丈夫かしら…」と心配そうな顔をしている。

まるで姉のようだ。


「時々は私も様子を見に行きますからねっ」


「は、はい!」


ビシッと指で差され身体が反射的にビクつく。

念押しを忘れないところは、さすがアイサ。優秀な侍女でいらっしゃる。


なんとなくだけど。

ヨハンナムさんは尻に敷かれている気がします…。


****


さて。

バイトの初出勤日の今日ですが。

夜までまだまだ時間があることだし。


今日は何をしようかなぁ。


ぐぅぅぅ……


……お腹が鳴った。


……そういえば朝ごはんまだだっけ。


脇でベッドメイクをしてくれていたアイサが笑った。


「申し訳ありません、オリヴィア様。朝食をすぐにお持ちしますね」


「うん……ごめん。よろしく、アイサ」


いいえ、とアイサが室を出ようとしたとき。

コンコンと部屋がノックされた。


アイサは首を傾げつつも扉を開けて応対をしようと外へ出た。


「ででで、殿下!?」


アイサが冷静な彼女らしくない、大きな声を上げた。


「ああ、アイサ。いたんですね」


ミラの声だ。

アイサは何をそんなに驚いているんだろう。


私はひょっこり扉から顔を出す。

ミラは私に気づいて薄く微笑む。


「薔薇姫。おはようございます」


「おはよーミラ。どうかした?」


「朝食を一緒にと思って」


彼はにっこりと手にしたお盆を持ち上げた。

クロワッサンにスクランブルエッグ。フルーツの盛り合わせ……かける2人分。


……アイサが驚いた理由が分かった。


「殿下!この国の王子殿下とあろう尊いお方がそのような……っ!」


ミラが肩をすくめる。


「以前宿に泊まった時も彼女が朝食の膳を運んでくれたのですよ」


「だからといって……」


彼はこの話はおしまい、と言ったようにアイサへお盆を渡し、続く言葉を遮る。

彼女は当惑しつつもミラからお盆を受け取る。


私は彼を部屋の中に通した。


「ミラって朝早いんだね」


まだ5時だ。

私は朝の散歩やジョギングを日課にしているのでこれくらいに起きるのが習慣になっているのだが。


「俺は元々眠りが浅い方なんですよ。今朝、貴女が外を散歩しているのを見かけたものですから」


「そうなんだ~兄貴とは大違いだな」


ここにはいない自分の義兄を思い出し、私はふふっと笑いをこぼした。

ミラがぴくりと反応した。


「シオンさんと?」


「そう。兄貴はミラと違って、ぜーんぜん起きないんだ。何回起こしても!」


「……貴女が起こしているんですか?」


「え?ああ、まぁ時々ね」


ほとんどはルリが起こしていたような。

フライパンをお玉でカンカンと叩いて起こしていたな。文字通り、叩き起こす。


ルリで起きない日は私とシルヴィアちゃんが手伝ってたっけ。


私はまた、笑みをこぼす。

彼の寝顔を思い出した。


「よだれなんか垂らしちゃってさ。軍人のくせにほーんと無防備なんだよ。ミラはいつもきちんとしているけど。同じ男の人でもこんなに違うんだな」


「………」


「ミラ?」


黙り込んでしまった彼を見て、私ははっとした。

しまった!これは相当なブラコンだと思われてしまったのでは…!?

それはちょっと恥ずかしいぞ。


「ミラ……?あの……」


「……薔薇姫はいつもこの時間に起きているんですか?」


あれ?話が微妙に変わった。

内心助かった気がして、私はほっとして頷いた。


「うん、そうだよ。私散歩とか好きだから」


「じゃあ明日から、朝の時間は俺と過ごしましょう。一緒に散歩をしませんか?」


「え?」


「それで。朝食も一緒にとりましょう」


「えーと」


「思えば。俺はただでさえ貴女と出会うのが遅かったのに。出遅れた分、一緒にいる時間を多く作らなければ。時間が巻き戻せればどんなにいいか…」


「本当にそれだけが悔やまれます…」と彼は本当に悔しそうな、辛そうな顔をした。


なんだろう。別にこれからゆっくり友情を深めていければいいんじゃないのか。

彼は何をそんなに悔いているのか謎である。


しかし取り急ぎ言いたいことは。


「そんなに私との関係を焦らなくても良いんじゃ…」


関係を進めようとする気持ちが先走りすぎて、彼は何も見えていないのではないだろうか。

その盲目さに私は少々引いているところだ。


「そういうわけにはいきません」


「でもなぁ…もっとゆっくり育むものじゃないのか?こういうものは」


「モタモタしていたら。貴女は国に帰ってしまうのでしょう?」


そりゃあまぁ…帰りますけど。


しかしだな。一足飛びに『親友』になれるわけじゃないんだから。

時には喧嘩したり、意見の衝突を繰り返したりして、お互いを理解し合うというか。

河川敷で殴り合いのけんかを……したら妖精ズが私をフルボッコにする未来しか想像できませんね。


「離れていても、文通とかで交流を深めることはできるじゃないか。それに帰った後もちょくちょくとは言えないけど、遊びに来るよ?」


「……」


ミラはむっつり黙っている。

どうやら私の回答がお気に召さなかったらしい。

めんどくせーな、おい。


大体私の返答の何がまずかったのかが良く分からない。

友人としては模範解答だったと自負しているのですが。

どうしたら良いものかと悩んでいると、彼はアイサが整えてくれた席へ着く。


部屋でちょっとお茶を飲むためだけのテーブルセットだったが、ふたりで朝食を食べるにはちょうど良い。


アイサは紅茶の缶を開けて「あ」と声を上げた。


「どうしたの?」


「オリヴィア様、すいません。茶葉を切らしておりました。すぐに取って参ります」


ああ、今ふたりにされてもちょっと気まずいのだけどっ!


私の願いも虚しく、彼女がバタンと扉を閉めて出て行った。

パタパタと足音が遠ざかる。


そしてふたりきりで取り残された私たち。

しん、と部屋は静まり返る。


私は向かいに座っているミラを盗み見た。


何となくだけど。やっぱり機嫌が悪そうだ。

というかこれは絶対悪い。ご機嫌斜めでいらっしゃる。


……さて。どうしようか。


このまんま放っておいたって別に良いのだろう。

私に彼の機嫌を取らねばならない理由はないのだ。

「友人」というものはいい意味で無責任。それ位が丁度良い。


丁度良い……のだけど。


……。


…こいつ、今までのぼっち生活が長すぎて。

友人との接し方というのがもしかして分かっていないのかもしれないな。


このまま私が放置していたら、彼はますます心を開かなくなってしまう?


むーん。


それに何より。このまま重苦しい空気でいたら朝ご飯が不味くなるではないか。


あと原因が分からないって気持ち悪いな。なんかモヤモヤするぞ。

私の失言があって彼を不機嫌にさせているのだったら、これからの友人関係を前向きに築く為にも、彼が今不機嫌になっている理由を把握すべきだろう。


うむ。彼の為だけではない。これも人生経験。私の為でもある。


しょうがないな、私がここは大人になって歩み寄ってやろう。


私は立ち上がって、ずいっとミラの前に踏ん反り返るように立つ。


「薔薇姫?」


彼は座ったまま私を見上げた。


私は唇を尖らせる。わざと拗ねた表情を作った。


「ミラ、なんか機嫌が悪い」


「え?」


「どうして?私何か悪いことした?」


彼はちょっと気まずそうに視線を逸らした。


「いえ。貴女が悪いわけではありません。……これは俺のくだらない嫉妬ですから」


「嫉妬?」


何に対して?


私が首を捻っているのを見て、彼は苦い笑いを浮かべた。


「貴女はこの国から――俺の傍から離れるのも全然平気そうな口ぶりだったから。そうしたらシオンさんは貴女とずっと一緒にいられるのでしょう?それに嫉妬したんですよ」


「兄貴は家族だからな。そりゃあどちらかが独り立ちするまでは一緒に暮らすもんだろ」


独り立ち…そう結婚とか。……いつかは彼も、するのだろう。

それを考えると胸がちくんと痛んだ。

自分の発言に軽くショックを受けている自分がいたのをその時自覚した。

アホな話だ。ミラにブラコンだと思われても仕方がないな。


私は感じたその痛みを、とりあえずなかったことにしてミラを伺い見た。


「……」


ミラは黙っている。

彼はやっぱり複雑な性格をしているようだ。


私では彼の考えていることを完全に解読することは不可能な気がするが。

しかし私の分かる範囲で仮定してみるとする。

つまりこいつは私がこの国を出ていくことがツライと思っているようだ。

私が案外平気そうにしているっていうのにも寂しさを覚えている。そこまでは分かる。

しかしだな……


こいつ。ぼっち生活が長すぎて色々こじらせすぎだろ!


要はコレだ。

一緒に暮らせる立場だからといって、同一世帯の兄貴にまで嫉妬するとは。これは相当なこじらせ具合だ。


「ミラ?」


私の声が聞こえているのかいないのか。

ミラは手を口に当て、難しい顔でまだ黙っている。何か考えをまとめているような。


「……シオンさんは、家族?」


やがてぽつりと彼は呟いた。


「? 家族だろ?義理とはいえ、兄だもの」


「兄……ただの兄妹?」


「? 兄妹にただも何もないだろう?他に何があるっていうんだ?」


何を今更なことを言っているんだ?

従兄で義理の兄だというのは彼も知っているはずなんだが。

こいつの発言は時々意味不明だな。


彼はひとり納得したように遠くを見つめて呟いた。


「……なるほど。シオンさんもお気の毒に」


彼の見つめた方角の遠くに、我が国がありますね。

良く分からないが。彼は見つめた先にいるだろう遠い兄貴に同情をしているようだ。


「兄貴がなんで気の毒なんだ?」


さっきまでは彼に嫉妬していたんじゃないのか?

何故今度は気の毒がるのだろう?


ミラはいくらか浮上したようだ。

黒い笑みをたたえてる。


「貴女は知らなくていいことですよ。できれば一生気づかないままでいて下さい」


「そんな言い方されたら逆に気になるじゃないか」


「敵に塩を送るつもりは毛頭ありませんからね」


「…?」


何だかよく分からないが、ミラのご機嫌が多少戻ったことだし…まぁいいか。


ひとり釈然としない気持ちを抱えたまま、私は先ほどのミラの発言を考え直した。


兄貴に嫉妬云々~をとりあえず置いておくとして、だ。

私が彼にさみしい思いをさせていたというのは確かだろう。

彼は先ほど私が悪いわけじゃないと言ってたけれども、ここは私が反省すべき点だな。


「ミラ」


「はい?」


「明日から、できるだけ朝の時間は一緒に過ごそう」


「え?」


ミラは鳩が豆鉄砲を食ったようにポカンとしている。

む?彼から言い出したはずなのに。なんだその反応。


「私たちはもうちょっと一緒に過ごすべきかもしれないと思って」


――例え彼と離れる日が来ても。

思い出が心を温めてくれるように。


「はい。是非」


ミラはやっと嬉しそうな顔をした。


「出会った順番などひっくり返る様な濃密な時間を過ごしましょう」


「お、おう…」


……朝っぱらからどれだけ友情を深めるつもりなんだ?


彼のやる気に若干引きつっていると、茶葉を手にしたアイサが戻ってきた。


なんとなく。

この時飲んだ紅茶がこちらに来てから1番美味しく感じた。

でもきっと気のせいだろう。


彼の金髪が朝日に反射してキラキラしていた。

ほんとこいつは朝からイケメンだな、と変なことを今更ながらに思いつつ、私はこの日の朝を過ごした。

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