~勇者がイケメンすぎてツライ~
まず、最初の印象を話そうか。
応接間を通されてから彼ーー勇者兼隣国王子様を初めて見た、つまりファーストコンタクトandインプレッション。
ああ、こいつは…
私の苦手なタイプのイケメンだな!と。
そう思いました。
ついでに。
毛根呪われてあれ!三代目までハゲ散らかしてしまえ!このタラシが!!
…とも思いました。
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「シオン、オリヴィア、シルヴィア。こちらがシャダーン国第二王子殿下、ミラ・ザナード勇者様だ」
「はぁ…どうも。本日はお日柄もよろしく…」
「お、おねえさまっ」
私は父にミラ勇者サマと紹介された隣国王子を前に、気の抜けた挨拶を返した。
別に緊張していたとかってワケじゃない。
そんな私の様子に気を悪くした様子も見せず、ミラ王子は握手を求めた。
「こんにちは。初めまして?シオンさん、オリヴィア嬢、シルヴィア嬢。」
兄貴がそれに応じたあと私も倣って差し出された手を取って握り返す。
太陽を溶かしたような金髪。
空色の瞳。
貴人らしい優雅な立ち振る舞い。
イケメンだ。
兄貴が野性味溢れるイケメンだとしたら、この人は正反対のタイプ。
女子が好きそうな白馬の王子様を絵に描いたような。
どこまでも柔らかい印象。俗にいう甘いマスクというやつか。
しかし…
「あの、彼女たちは…?」
私は王子などよりも先ほどから気になっている存在について、つい聞いてしまった。
彼の両肩をちらりとみる。
王子の両隣にいはふたりの女性がいた。しかもお二人ともそのお美しい御尊顔を歪めてこちらを睨んでらっしゃる。
彼にしなだれかかるように銀髪の女性は甘い吐息を漏らす。
「我が君ぃ、いつまで手を握っておりますの」
反対側の黒髪の女性も甘えた声で切なく訴える。
「そこな小娘の手を握る位なら、妾の手を握ってたもれ」
ふたりともそのナイスなバディをくねらせて勇者にまとわりついていた。
白い布を巻いたようないでたちの彼女たちは、太ももも晒して彼の足に絡めている。身体のラインがよく分かるその衣装のせいもあり、なんだかひどくハレンチだ。
「おまえたち、少し下がりなさい」
勇者はため息をついて女性たちに命じた。
女性たちはブーブー不平を垂らしつつも後ろに下がった。
「すみません、お見苦しいところを」
握手をした手を解きながら彼は苦笑を漏らした。
「ああ、いいえ。ダイジョウブデス」
あんたの印象もう決まったから。このスケコマシ野郎。
なんだこれは?あれか?愛人的ポジの方々ですか。
入室時からじーっと迫力美人ふたりから睨まれていて、正直精神も擦り切れそうだ。
なんで睨まれなきゃいかんのかもよくわからない。私が何をしたというのだ。
彼が革張りのソファにゆったり身を沈めたとたん、ふたりの女性は勇者に引っ付いた。猫まっしぐ◯のごとく。
両親はなんとも思っていないのかその光景を見ても特に動揺した様子がみられない。伊達に年を食っていないということか。
兄貴とシルヴィアちゃんは勿論微妙な反応はしていたが、努めて冷静を保とうとしているのがよくわかった。
片頬がピクピク痙攣している。張り付いた笑顔だ。
ああ、君達の反応こそが正常なんだとおもう。
「ははは、いや、申し訳ない。この御二方は王子に執心されておりまして。少しもお離れにならない」
熊のような大柄な男が頭を掻きつつ、弁明した。
確かヨハンナムと紹介された勇者のパーティのひとりだ。
「いえっそんな…構いませんわっ!」
つい声が裏返ってしまった。
私は先ほどの彼女たちのツンツンした態度を忘れて、陶然とヨハンナムさんを見つめ返した。
彼は浅黒のがっしりした巨体を縮めつつソファに腰掛けている。
襟元がキツそうなシャツに身を包んでいたが、着慣れていない感じが見え見えだったり…。
そんな、そんな彼の衣服越しからでも分かるムキムキとした立派な肉体にメロメロだ。
兄貴をしなやかな黒豹に例えるなら、彼はジャングルの王者ゴリラのよう。
女ヴィルダーを目指す私にとって魅力的で分かりやすい筋肉をしている。
ああ、なんてステキ筋肉。無意識に口元を押さえながらうっとり。
吐息も漏れちゃう。はふん。
兄貴がじとっと「この浮気者」と言いたげな目で睨んでいたような気がするが…、まぁ気のせいだろう。
黒豹もゴリラもどちらの筋肉もそりゃあもう美しく比べることなんてできないのだ!
そもそも比べる必要はないしね!どちらも等しく愛でればよい。
よく日に焼けた肌から白い歯を覗かせて彼は豪快に笑った。
「しかしこの御二方もいざ戦闘となれば鬼神のごとく力を発揮なさる。とてもお強いのですよ」
へぇ!そうなんだ。
この女性たちは勇者の愛人ではなくて、パーティのメンバーなんだ。ちょっと感心。
愛人を侍らせて外交しにきた色ボケかと思っていたからなー。
しかしなんでヨハンナムさんが身内なのにこの2人に敬語使ってるんだろ。どうでもいいけど。
美女ふたりはヨハンナムさんの賛辞を受け得意げに胸をはる。
「妾達がおれば悪竜ごとき、すぐ滅するのも容易いこと」
「我が君には指一本触れさせませんわ」
「ギュリ、アミン。それにヨハンナムも。そうですね。私はいつも君たちに感謝していますよ」
美女ふたりは嬉しそうに王子の胸に鼻をこすりつけ甘えている。
王子は仕方ないといった風に彼女らの頭を撫でてあやす。
こ、こいつ。
やはりスケコマシ野郎に変わりはないか。
しかしあの華奢な肉体で。細い腕で。彼女達はどんな風に悪竜と戦うのだろう。魔法でも使えるのだろうか?
ふと疑問に思ったが見た目で判断したような質問をするのは失礼にあたるかもしれないと思いとどまった。
「こんなご様子なので。殿下が奥方を迎えることができる日はいつになることやら。困ったものです」
「ヨハンナム!自分が結婚したからと言って我が君にまで自分の価値観を押し付けないでちょうだい」
銀髪美女、アミンさんが苛立たしげにヨハンナムさんに噛みついていた。
「妾達がいれば妻など迎える必要はない。弁えろ、一家臣の分際で」
ギュリさんまでもヨハンナムさんを侮蔑するかの如く毒を吐いた。
ヨハンナムさんは苦笑をして、両手を挙げた。降参のポーズだ。
「彼女達に認められるような素晴らしい女性はどこにいるんでしょうかね?あぁ、ぽっと天から落ちてきてはくれませんかねぇ」
「ヨハンナム、結婚の良さはよく分かったから。ギュリ達の前でこの話題はもうよしてくれ」
いやいや。
そんなに愛されていらっしゃるんだから、彼女達を奥さんにしてあげればいいんじゃないでしょーか。
まぁ、そんな不敬な発言しませんけど。
自分でもどんどんと感情が白けていくのがよくわかった。
勇者なんて。王子なんて。男なんて。
こんなモンか。はん。
そんな気持ちを弄びつつ、しらーっとしていたら、視線を感じた。
勇者と目があった。彼はこちらを見てはにかむように微笑んだ。
「それにしても。オリヴィア嬢もシルヴィア嬢もとても可憐な方ですね」
「はぁ、どうも」
私は生返事で返した。
シルヴィアちゃんはまんざらでもなさそうに頬を染めている。カワイイ。
しかしおねえさまとしてはこんな男は反対です。
「オリヴィア嬢、今日私と1番に踊ってもらえませんか?」
「いや。イイっす。遠慮しておきます」
「……」
王子が軽く目を見張ったのを見て、自分の失態に気づいた。
あああ!!
しまったつい。
生理的嫌悪により条件反射でぺろっと答えてしまったぁぁ!!
ヤバイ!
「ちょっとあなた!失礼ですわ!!」
アミンさんが勢いよく立ち上がり私を指差す。
ギュリさんもぎっと私を睨みつけている。
この痴れ者がっ!って感じです。
だってあなた達、これ承諾したってどうせお怒りになるパターンじゃありませんか!?
さっき王子に誘われている時すごい形相でしたよ!?
片手で彼女達を制している勇者に「殿下、フラれましたな。ハハハ」と笑って軽口を叩くヨハンナムさん!余計なことを!
「ご勘弁を、殿下。オリヴィアは今足を痛めております」
おお!
「オリヴィアフォローし隊」隊長が早速フォローしてくださった。ナイスフォローいただきました!
「そ、そうですの。今日のこの日、勇者様とダンスを踊るのを楽しみに練習に励んでおりましたら、挫いてしまって」
副隊長もすかさずフォローする。
うーん、このフォローはまぁ、アレですけど。
一応乗っかっておこう。
私は手を頬に添えしおらしくしてみせる。
「はい。とても楽しみにしておりましたのに残念デス…」
「そうだったんですね。では今日は壁の花ですか、それは勿体無い」
「お気遣いありがとうございます。ミラ王子殿下はどうぞお楽しみになって下さい」
とりあえず無難に返しておこう。
ふぅ、ヤバイヤバイ。国賓なんだコイツは。
機嫌損ねちゃいけないんだって。気をつけろし、自分。
「では貴女とお話ししたいな。できたらゆっくり。時間を取っていただけませんか?」
「うえっ!?」
い、嫌です!!
とは言えない。
こ、こいつ女なら誰でもイイのか。
国外に来てまで女遊びをしようなどと戯けたやつだ!
美女2人に睨まれ私は冷や汗を大量にかいた。
頭はフル回転だ。
「わ、私のように学の浅い女など、王子は退屈されますので…」
「そんなこと。貴女の事がもっと知りたいのです、オリヴィア嬢」
空色の瞳に力が入る。
センターテーブルがなければ手なんかを握られそうな勢いだ。
ていうか両親や家族の前でナンパもどきをするな!
両親と観ているドラマの中でちょっとエッチなシーンがあった時の気まずさと似たような感じ。
いたたまれなくなる。
両親も兄妹達もハラハラしたようにこちらを見ていた。
うあああ!もうほんとこのハゲ(きっと進行形)!こいつイヤだァァ~~
「オリヴィア嬢?」
「わ、わたし…」
――笑顔で全て煙に巻いちゃいなさい。
ふと、
頭の中に残っていた言葉を思い出した。
ショート寸前だった頭がすっと冷えてクリアになる。
よし、とりあえず。
にーっこり。
私は晴れやかに笑ってみせた。
「オリヴィア嬢?」
「善処します!」
「え?」
「だから。善処します!ミラ王子殿下」
高らかに宣言。
「善処」…力を尽くしてはみますといいつつ、ここでは全力でダメになっちゃう方のパターンだ。むしろ全身全霊をもってドタキャンする気満々ですわ。なんて便利な言葉。
王子も「それダメなパターンやろ」っていう微妙な表情をみせた。
「あ、足が唐突に無性に猛烈に!ズキズキと痛み出しました!ちょっと失礼させていただかざるを得ない!」
さらなる王子の追求を恐れ、私はわざとらしく足首をさすりつつ立ち上がった。
そうしてそそくさとこの居心地のわるーい空間から抜け出そうとした。
これ以上ここにいたら、途中退出よりもっと失礼なことをしでかしそうだ。
両親も兄妹もそれが分かってか誰も退出を咎めないし。
扉を閉めた時、「殿下、またフラれましたな!」とまたヨハンナムさんの笑い声が聞こえた気がする。
ああもう!
あんたはもう頼むから余計なことをしゃべらないでください!
私は振り切るようにその場を後にしたのだった。
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