後編
狐に先導されて立ち並ぶ鳥居を進んでいくにつれて、私の後ろについてくる狐が増えていく。 大人の狐、子供の狐と身体の大きさが違う様々な狐がいるけど、どの狐も決まって朱色の前掛けをしている。
狐に前掛けをかけたのが、ここの人だと思うと尊敬する。 動物って一度の出産で五匹ぐらい生むらしいから大変だろうなぁ。
それにしても道のりが長い。
「ねぇ、まだ頂上つかないのー?」と聞くと先導している狐がコクコクと頷き「まだ」と言っている。
はあぁぁぁぁぁ、まだかぁぁぁぁぁぁ。
春といってもこうも運動していれば汗もかいてくる。 帰ったら風呂入ろ。
やっと山頂に着いた。 一時間ぐらい歩きっぱなしでやっと着いた。 でも、ちょっとした感動はある。 それにこれまでの道のりはすごいの一言だった。
特に坂の部分が個人的に好きかも。 けっこう奥の方まで見えるし、鳥居と鳥居の間から漏れる日が綺麗だった。 これに人がいるとなると、ここまで感動しなかったかもしれない。
ちょっとした達成感に浸っていると、これまで大人しかった狐がピーピー鳴き始めた。 「なにごとか!」と思っていたら、突然上から白い毛なみの巨大な狐が降ってきた。 ぶわっと着地の風圧で髪が巻き上げられる。
今度はすごいのきたー。 もう驚くのも疲れた。 そりゃ、感想も棒になりますよー。
「喰う」とぶっきらぼうに大きな狐は言った。
「えっ?」と理解が一瞬遅れてた。
大きな口が少し開き、よだれがポタポタと地面に垂れているのを見て、やっと理解した。 もしかして、私エサにされそう……?
「はっは、まさか……ねぇ?」と思いながら後ずさりすると足に痛みが走った。
足元を見ると、いくつもの狐の石像に足が挟まっていた。
「あれ? こんなのなかったよね……? あの狐たちは……?」
だんだん呼吸が速くなっていくのが分かった。
ヤバイヤバイヤバイヤバイ、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。
私は恐怖のあまり意識を失った。
結果から言うと、私は生きていた。
山頂の付近のお食事処で寝ていたところを亭主のおばあちゃんに起こされた。
今はみたらし団子を食べながら気持ちを落ち着かせている。
「いやいや、気づかなくてごめんねぇ。 歳取るってのはいやだねぇ」とお茶のおかわりを持ってきたおばあちゃんが言った。
おばあちゃんは気づいてなかったようだけど、私もなんでここにいるのか分からない。
「なんだい? 狐につつまれたような顔をして」
「いやちょっと不思議な体験をしまして——————」
信じてもらえなくても誰かに話したい気分になり、あったことを話してみた。
すべて話終えるとおばあちゃんは笑いながら「狐に化かされたねぇ」と言った。
狐に化かされた、ねぇ……。 否定できないかも。
よく考えると野生の狐に前掛けする意味が分からないし、経費が無駄になってしょうがない。
「ここはお稲荷さんの神社だからねぇ、ちょっとした悪戯さぁ。 神様がしたことだから悪く思わないでやっておくれよ?」
「はい……」
「そんな難しい顔をしないでおくれよぉ。 お団子ひとつ、おまけに付けるから、笑って笑って」
え、えへぇとぎごちなく笑みを作ってみると「あんた不器用ねぇ」とバカにされた。
ほっとけーい!
お金を払ってお食事処を出て本殿まで戻りながら、今日のあったことを思い返していた。
怖かったけど、狐も可愛かったし、なにより他の人が経験できないことをやったというのがうれしかった。
最後の鳥居を出た時、翻って深々とお辞儀をしてた。
遊んでくれてありがとう、と。 悪戯はこう思っておこう。