前編
大学で友達ができますように頑張ります。
今年の春から大学生になったのはいいものの、のっけから人見知りを発揮しまった。 そのため友達が一人もできない状況に陥った。
だからもう神頼みをしに、お稲荷さんの総本営である神社にやってきた。 どこもかしこも朱、朱、朱で綺麗な神社だった。
……せっかく来たんだし、ちょっとまわってみるか。
人の流れに沿って奥へ進んでいくと、朱色の鳥居が立ち並ぶようになってきた。 多くの人が立ち止まりこの風景を写真に収めている。
ほぉ、これが有名な千本鳥居か……。 写真で見たことあるけど、実際に見るとすごいな……。
思わずスマホで一枚撮ってみた。
たくさんの人の頭が映った写真が撮れてしまった。 これでは満足できない。 人がいない写真がほしい。
少し人がはけるのを待つことにした。 でも待っても待っても、途切れるどころか人が増えてきているような気がする。
多すぎる! |ただの休日なのに、こんなに人がいるものなの!? 神社ってもっと静かなところじゃないの!!? これじゃあ、いつになっても写真撮れないじゃん......。
増えてくる人に嫌気が差して鳥居を潜ろうとすると、本殿の方からシャランと鈴の音が聞こえた。 そういえば、今日はなんかの行事があるんだっけ? だったらそれ見てから登ろうかな。 今日のメインイベントだから、終わればここも空くかもしれない。
クルっと翻ってみると、狐がこっちを見ていた。 大層に朱色の前掛けなんかかけている。
へぇ、お稲荷さんの神社だから本物の狐もいるんだぁ。 写真でも撮ってやろ。
スマホを向けると、ピっと鳴いて私の股の下を通って逃げてしまった。
「逃げちゃった……」と一人呟いて慌てて口を塞いだ。 まわりに人がいるのに、はずか……しい?
あれ、誰もいない……。
さっきまで鬱陶しいほど人がいたのに......。 目だけ動かしてまわりを見ても人はいない。 しかし、人の代わりにさっきの狐が鳥居の上にいた。
狐と目が合うと、目を細めてニマっと笑ったかのように見えた。
動物が人みたいに笑うとちょっとゾッとする。 か、帰ろうかな? ちょっと不気味だし……。
ニンマリしている狐に何度もペコペコして帰ろうとすると、鳥居の上から降りて来てた。 そして私のズボンの裾を噛んで、「帰るな、登っていけ」と言ってるようにぐんぐん引っ張てくる。
「ごめんね、急用思い出しだんだ」と負けずに足を引くと、また後ろからシャランと鈴の音が聞こえた。
「人がいた!」と思って振り返ると、また狐がいた。
挟まれてしまった。 逃げ場がない。 内心怖がっている最中に、今度は足元からブチっと何かを無理やりちぎったような音が聞こえた。
「今度はなに!!?」と足元を見ると、さっきまで狐が噛んでいたはずのズボンの裾がちぎれてなくなっていた。 その狐は腹をみせてゴロンと転んで驚いたような顔をしたまま固まっている。
口にくわえたままのズボンの切れ端をはなして、私のズボンと切れ端を交互にみてシュンと耳を垂れ下げて悲しそうに鳴いた。
不覚にも可愛いと思ってしまった。
「いいよ、そんな高いものじゃないし……」と狐に恐る恐る手を伸ばして頭を撫でてやった。 まさか触れると思ってなかったからちょっとビックリ。 後でよく手を洗わないと。
それでも、ちっとも元気にならないから「じゃあ、お詫びとして案内してよ」と言うと、耳をピンっと立てて先頭に立った。
元気になって良かった。 なんで言葉が通じるかは謎だけど。