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精霊界の崩落は亡国の魔術式を発動する  作者: きりま
二章 彷徨いの巡礼者

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九十六話 詰んで冷遇

 一週間もかけた船旅の結果、目的は果たせず、元老院へは半日ほど閉じ込められていただけ。

 商人の目的を叶えてやれず、心残りではあるが、戻ると決めたなら早く行動した方がいい。


 今はなるべく元老院から離れるべく、来た道を戻っている。

 とりあえずは、拉致された渓谷を目指す。

 行きがけの馬車では、休みながら一日かけた距離だ。

 商人にも、普段よりは急いでもらうよう話した。それでも、徒歩だと二日か。


 そんな方針を決めた後は、黙って歩くのみ。

 なのだが、商人のおどろおどろしい魔術式に関する考察だけは、途切れることなく続いていた。

 俺はそれを罰だと、心して聞いた。

 もう失敗はしたくない。



 そんな風に、ふらつく頭を支えながら、どうにか歩いた昼近く。

 森に蹄と嘶きが反響した。

 音は複数。

 行商人にしては早い。


 隠れて、やり過ごすか。

 とはいえ、一本道だ。追っ手ならば、うろつくだろう。ずっと隠れているわけにはいかない。

 音の方向、それは背後、元老院側から聞こえてきた。

 周囲に精霊力の動きがないかを探るが、特に気配はない。


 やや湾曲した道は、木々で隠されている。

 移動速度を落として、身構えつつ、背後の道の先へと目を向ける。


 みるみる音は近付き、馬の鼻先が見えたかと思うと、あっという間に目の前で止まった。


「追いつきましたわね」


 柔和な面に微笑を浮かべて、悠然と言い放つ。

 その後ろには、不機嫌そうな小僧の姿。


 またかよ。

 女騎士……と、小僧まで。

 冗談だろ。


 馬から下りるそいつらを、呆然と見ていた。

 もう一頭が、遅れて到着した。

 元老院の手の者だろう。門番と同じような格好だ。

 女騎士から、馬の手綱を受け取ると、取って返していった。


 心底、うんざりだ。

 顔にも表れているだろう。

 何も言えずに、二人を睨む。

 口を開けば、暴言を吐きそうだった。


 不満を露にした俺の態度に、小僧が口を開いた。


「べ、別に私が望んだのではない! 貴様らだけでは、フィデルの身が心配だから、仕方なく旅に同行しようというのだ。だから勘違いするなよ。それに……」


 目を逸らし、つっかえながら言っていた。

 そんな言い訳はしなくていい。

 最後まで聞かず、髭面を睨んだ。


 そういう手筈か。

 監視役というのは、間違いではなかったようだ。


 暇人共が!



「丁度良い。休憩を取ろう」


 髭面が勝手に仕切っている。

 それに頷き、商人は道の端へと寄った。 


 僅かに開けた森の中、輪になり地面に座る。


「こんな所に座るのか? 土まみれになるではないか」

「町の無い場所の方が多いのよ」

「硬いな。味もない。これが食事なのか」

「ですから、留まるようにお話したでしょう」


 小僧が煩い。

 運良くと言っていいのか分からないが、子供の頃から元老院に預けられて育ち、外へ出る機会はなかったのだろうか。

 馬に乗って文句を言ってなかったんだから、遠乗りくらいはしてたと思うが、次期王様候補として甘やかされてきたようだし、普段の移動は馬車だろうな。


 いきなり三人も人手が増えて、商人と女は困惑顔だ。

 食事を摂りつつ、端の方に身を寄せて縮こまっている。

 俺も、その一人だ。理由は、話しかけられると鬱陶しいからだけど。


「俺は、そんなに人を雇えるほどの金はないんだがな」


 商人がぼそりと零す。


「今さら、そんな心配するな。嫌でも勝手に付きまとうだろうし、放っておけ」


 そう言うと、女が呆れた目で俺を見た。

 付きまとうのは、俺も……そうだったな。

 一つ咳をして、その話は終わりとした。


「今後の旅程について話そうか」


 二人に目配せをする。


「人前では、話せないような企みごとか」


 耳ざとく小僧が口を出す。


「ああ、そうだ」

「ぐッ」


 冷たく睨むと、小僧は喉を詰まらせたように黙った。

 鬱陶しいが、真っ向から言えば黙る。その単純さはありがたい。



 他の三人を置いて、距離を取る。

 頭を付けるようにして、三人は向かい合う。


「緊急旅程会議ーぱちぱちぱちー」


 女は楽しげな口調だが、無表情で宣言した。


「放っておけと言うが、共に移動する以上、各々が勝手に動くことはできんだろう」


 商人の意見は尤もなことだ。

 俺達があいつらを置いて行こうとしても、付いて来るだろうしな。

 見張りの交代の件もある。

 あいつら、そもそも旅の準備は十分なんだろうか。

 道半ばで飯がなくなったなどと言われて、放置するわけにもいかん。

 白黒二人が付いているから問題ないと思うが、小僧の様子には不安しかない。


「その辺りは、確認する」


 俺の責任だ。仕方が無い。

 そして、肝心の今後の予定だ。


「で、このまま港へ向かうのか」


 三人とも、押し黙った。

 俺達だって、それぞれの思惑がある。

 これまでは目的が一致し、または擦り合わせながら来た。


 商人の目的は、国内の町を見て回ることだった。

 また帝国側に戻るなら、今度は南西側の町を巡ることになるだろう。


 女は……こいつこそ、どうなんだ。

 結局、元老院では何も言わなかったな。


 じっと睨むと、俺の意図が伝わったのだろう、女はふて腐れた。

 なんでだよ。

 面倒臭い、はっきり聞こう。


「元老院で、原因が分からなかったんだな?」

「……うん」


 はっきりしないな。

 まさか。


「まだ芋が食えなかったことを根に持ってんのか」


 訝しげに、睨む。

 女が小石を蹴飛ばした。

 いてえな。

 見事に、俺の脛に当った。


「港に、戻ろうよ」


 女は、沈んだ声で言った。


「俺の予定なら、気にしなくていい。ここまで来たんだ。どうせなら国内だけでなく、こちらの町を回るのもいいだろう」


 商人の言葉に、何を気にしていたのか、俺にもようやく分かった。

 護衛依頼の契約をしてるんだ。俺と違って、勝手に離れることはできない。


「私、役に立ってるかな」


 目を伏せる女を見る。

 旅の目的が台無しになったのは、全部俺のせいと言ってもいい。

 だとしても、自信をなくす要因となったのだろう。


「役に立っても立たなくてもいい。契約してるんだ。その分行動してくれればいい」


 商人は、相変わらず歯に衣着せない。

 それでも女は、力を込めて頷いた。


 女の目的が、優先になったな。

 それなら、俺の目的にも沿う。


「決まったな。まずは、この息苦しい街道から抜け出そうか」


 結局のところ、今朝決めた予定で進む。

 二日と半分ほどの距離。


 問題は余計な人員、約一名、足手まといになりそうな奴が混ざったことだな。


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