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精霊界の崩落は亡国の魔術式を発動する  作者: きりま
二章 彷徨いの巡礼者

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九十一話 傍観

「元老達を集めました。正式な採択を」


 広間の隣に、一回り狭い会議室があり、そこへ人が集められていた。

 長方形の部屋の中心。長い机が向かい合わせに、各部署の代表らしき男達と共にずらずらと並べられている。

 その上座に、爺代表と、補佐らしい爺。

 下座の真ん中、髭面と女騎士に挟まれ、俺は添え物のように座らされていた。

 さすがに、この場に商人と女はいない。

 広間でのんべんだらりとしているだろう。


 布張りもない硬い椅子、その背もたれに深く身を預け、集まりを下目に見ていた。

 懸賞品か何かの気分だ。




 ぼうっと見ているのは、開始される前に疲れきっていたからだ。

 どうやら、これは緊急会議のようだ。

 皆が集まった直後、一部の者らに取り囲まれた。


「おお、まさしく主王しゅおうの血筋の者ですな」

「王が揃ったのか!」

「これで、ようやく計画に移れる」


 などなど、好き勝手に捲くし立てていた。

 すぐに会議が始まり、俺に宣誓しろと言ってきやがった。


「俺は、城下町までの護衛仕事のついでに、『たまたま』立ち寄っただけだ。数日後には国へ帰る」


 安堵と期待に満ちて俺を見ていた連中の顔は、驚愕に変わった。

 それから、怒りを向けられることになるのだが。

 会議は俺を無視して、白熱していた。



「現状はどうなっているのだ。主王として擁立するために、ここへ呼んだのではないのか」

「この男は現状を理解していないのか。事情を話したのではないのか、マヌアニミテ殿」

「祖国へ帰りたい民が待っていると、申し伝えました」

「それだけか。説得も失敗したようだな。今まで遊んでいたのか。悠長なことだ」

「貴様はいつも言葉が過ぎるぞ。今までの帝国とのやり取りは、彼女あってのものだろう!」


 時折、女騎士が槍玉に挙げられるが、泰然としている。

 こいつらは、いつもこんな風なのかね。


「しかし、これ以上は待っておれん。万全を期すなどといって、慎重に過ぎる。もしや逃げるつもりか」

「大雑把で良いと思える、その頭が羨ましいものですな」

「罵り合っている場合ではない。解決のための案を出すべきだ。聞き分けないと言うならば、今すぐ拘束すればいい」


 何を言ってるんだ、こいつら。


 見たところ元老達は、二つの勢力に分かれているようだ。

 元から居るだろう元老院の権威を守りたそうな連中と、避難民側に立ち積極的に異変対策に取り組もうという連中。


 避難民は、何もトルコロルの民ばかりではないが、最も多いようだ。彼らの主張に全て賛成というわけではないようだが、まずは一つの町からでも対策に動いてもらおうという腹積もりで一致団結しているようだった。


「国は三王の下にある」


 そんな言葉が、何度も聞こえてきた。

 皆の意志を固めるのにも、正式に国を建て直したと主張するにも必要なのだと、避難民側から強く主張されていた。

 その度に、胃の辺りがむかむかし、こめかみは痛む。


 どちらにしてもだ。

 その血筋にある者を温かく迎えようなんて気持ちは、欠片も伝わってこなかった。

 利用すべき、道具の話でもしているんじゃないか。

 そんな風にしか聞こえない。

 問題なのは、両勢力が共にそうだったことだ。


 もっと悪いのは、その該当者である小僧と女騎士、こいつらが当然のように加わっていること。

 人生を、それを干渉どころか奪おうとしている輩に、非難の意すら見せない。

 自身で決めた道としても、その決意を尊重されるどころか、阻害されているようにすら思えるのに。

 働いて当然だと、誰も顧みはしない。

 悪夢のような状況だ。




 なんだかな。

 むっとしたり、呆れたり。

 疲れ果て、どうでもよくなり、喧々諤々と罵り合う滑稽な様子を目に映しつつ、逃避していた。



 二つの勢力を遮る者がいた。

 険のある高い声が、俺に向けられる。あの小僧だ。


「こんな見るからに責任感も無く、だらしない男が主王であってたまるか!」


 そうかよ。

 なら、構わないでくれ。


「民の助けになる気がないと言うならば、私と勝負しろ」


 椅子からずり落ちそうになった。


「ここで勝負ね。俺に不利だろ」

「もう少し、ましな言い訳を考えろ。さあ立て」


 単純明快な手段かもしれないが、内容に合っていないことが多いよな。


「だから嫌だっての」

「臆したか」


 意味が分からなかったのか。


「聞こえなかったか。お前の都合ばかりだ。勝っても負けても俺の損。そんな公平でないもんは、反吐が出るほど嫌いだと言っている」


 何が逆鱗に触れたのか、激昂した。


「よくも……貴様、如きが、公平性を語るなッ!」


 殴りかからんばかりの少年を、周りが宥める。


「俺が勝ったら、そいつらは黙って見逃してくれるのか。保証できんだろ」

「勝てると思うな!」


 しかも、提案者は大抵が負けることを想定しない。


「話にならない」


 くだらないこと考えないで、さっさと続きを話せばどうだ。

 手で席へ戻れと示す。

 小僧は顔を真っ赤にして目を尖らせた。


「どれ、ならば私が一つ保証しようではないか」


 爺代表が、本会議初の意見を述べる。

 おい、こんなくだらない事でかよ。


「なりません、代表閣下!」

「どんな汚い手を使ってくるか、知れんのですぞ」


 それはお前らだろうが。


「オルガイユと、そこな旅人の男。この場での決闘を申し渡す」


 はあ。


「閣下、ありがとうございます! 確実にこの男を捻じ伏せて見せます」


 やる気に満ち溢れている小僧を見ているだけで、疲弊する。


「早まるでない。先がある」


 続いたのは、意外な言葉。


「心配召さるな。結果による拘束はしない」


 なんだよ、それ。無理やり体を動かされる分だけ、俺が丸々損じゃねえか。


「何故ですか!」


 小僧の反論に、爺は続ける。


「決闘に応じて頂けるならば、その後は好きにするとよい。皆に申しおく。正式な採択である。破るものには罰が与えられる。それでもなおと言うならば、資格を剥奪される覚悟で臨みなさい。以上」


 そんな約束は信じられないが、ここではこれが規則なんだろう。

 面倒なことだ。


「ささ、その辺でどうぞ」


 見世物じゃねえぞ。


 会議室の大きな両開き扉が、勢いよく開かれると、一瞬、場は静まった。


 広間には、床に貼りついている二人の姿があった。

 未だあちこち這い蹲って魔術式を調べている商人と、うつ伏せに倒れている女……あれは寝てるな。


「隅に避けてろ」


 商人に声をかけ、女を爪先でつつく。

 うわっ汚ねえ。


「う、ん……黄金色の芋」


 涎を床から伸ばしながら起き上がる女を、壁際に追い立てた。



 爺が、補佐爺どもに何事か指示する。

 床の大きな魔術式が、光り出した。


 飾りじゃなかったのか。

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