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精霊界の崩落は亡国の魔術式を発動する  作者: きりま
二章 彷徨いの巡礼者

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六十七話 共鳴

 そよ風が吹きぬける。街道沿いに立ち並ぶ木々の狭間を抜けていく。

 辺りには、その葉を微かに揺する音だけが届く。


 穏やかな日差しだ。煩わしいことは何もない。

 俺達はまた黙々と歩き続ける。

 以前の散歩気分とも、追い立てられるように急ぐこともなく。


 話し合ったことについても、よく考えてみなければならないとは思う。

 だが、今は、原因を突き止めることについて、優先的に集中したい。

 これも逃避なのかもしれないが、少しずつでないと、俺の精神がもたないようだ。



 今現在、知り得ることについては全て話したはずだ。

 女の方も、好奇心程度ではなく、やはり本気で調べたいと考えていた。

 ならば、伝えられた情報も、一旦全て飲み込み信じてみようと思う。


 精霊力を使うと、女には不快感があるのはわかった。

 俺の場合は、まあ女から離れた時だけだと思うが、痛みを伴う。

 だが、それを我慢して確かめた結果、方向を指していることに気付けた。


 町の中では簡単にできなかったことを確認したい。

 人の少ない、街道沿いでしか試せないこと。


 女に向かって、切り出した。


「苦しいのは承知で頼むが、精霊力の変化を確かめてくれないか」


 何かを示しているのかもしれない。

 もちろん無駄になる可能性も。

 俺の意図を察した女は、真剣な面差しで答えた。


「いいよ。他に出来ることもないんだし」


 女が目の前で、両拳を握り締め、顔の前で構える。


「さあ、いつでも、かかってくるといい」


 いや、かかりませんが。



 答えを聞いた時点で、精霊力は流れ出していた。

 背中の印に光が走り出すのが、わずかな冷たさと共に感じられる。


「うわっ! いきなりびっくりするじゃない」


 いつでもって言っただろう。


「悪いが、使うと決めたら意識にそう上った時点で、流れてしまうんだよ」


 異常なものを見る目だ。


「不審な目を向けるな」


 俺だって面倒なんだ。


「安心しろ。意識して止めておけば、勝手に動作することはない」


 今のところは。


「精霊力が強すぎるせいなのか、制御ができないと言ったろ」


 女は気味悪そうに、だが何かを推し量るように俺を見る。

 精霊力を感知しているのだろう。


「強すぎるというか、流れがものすっごい多いよね」


 以前のように、集中したところへ徐々に集まるのではなく、堰を切ったように溢れ出すといった感じだった。


「そのようだな」


 商人よ、期待に満ちた顔を向けず、荷車引いてろ。


「今、精霊力を使ってるんだな?」


 ああ、そうか。商人は感知できないのか。

 つうか、そこまで何も感じないものなのか。


「不思議よね。こんな馬鹿みたいにでっかいのに、わからない人がいるなんて」


 余計なこと言ってやるなよ。


「でも、そういう人がいないと。何が普通かわからなくなっちゃうし」


 あって欲しい者になく、なければいいと思う者にある。世の中そんなもんだな。


「二人ともやさぐれた顔しないでよ。だからこうやって誰かと協力できたりするんだし」


 それは慰めのつもりなのか。一言余計なものが多いよな。


「一人きりより、よっぽどいいことだと思うよ」


 勝手に頷いてまとめているが。


「おい集中してくれ。それで、どうなんだ」


 途端にうんざりした様子になった。


「うーん……気持ち悪い……」


 まったく。


「真面目に取り組め」

「やってるよ。待ってて」


 あからさまに嫌そうにだが、ようやく真剣に集中し始めた。

 だがな。


「この不快な肉体に宿る邪悪な意思よ。のたうちまわりながら惨たらしく切り刻まれてしまうがいい……」


 ぶつぶつと呪詛を吐き続けながらは止めろ。

 その文句を飲み込む。

 集中の仕方も人それぞれだ。




 俯き気味に、眉を顰めていた女が顔を上げた。


「よく、分からない」


 曖昧な答えだな。


「よく、ということは、何か変化はありそうなのか」


 さらに考え込んでいる。


「気持ち悪いだけかな」


 その答えに落胆する。


「不快感が起こるというなら、何か干渉してそうなもんだが」


 商人が振り向いて言った。


「それなんだが、共鳴してるだけかもしれんぞ」


 共鳴か。


「質が似てるんだろう? 効果はそれぞれ別に持っていたとしても、近くで使えば光振こうしんが増幅されてしまうのかもな」



 掴みづらいが、意味はなんとなく理解できる。


 質が似ている。

 似ているがわずかな違いは、効果が違うからなのか。

 効果が違うだけで、同じもの。

 いや、同じ者から発せられているんだろう。


 しかし、どうやったらそんな真似が出来るんだ。


 女の方へは、常に補助だか防御符を発動した状態。

 俺の方は、俺自身が印を使った時だけとは思うが……ああ、いや、一つ変化があったな。

 この女との接触後は、位置が捕捉出来るんだった。

 これも、発動状態なのか?



「おえええ……」


 奇声を上げるな。


「悪い。忘れてた」


 女がわざとだろうという目で睨む。

 わざとではないが、ともかく印への精霊力を止めた。


「しかし、すごいものだな。集中もせずに、歩きながら、ましてや考えの外でも使えるのか」


 商人の言葉に、それが普通でない事を思い出す。

 俺は、顔を顰めていたろう。



 しかし、そのことで気付かされた。


 もしかして、今の俺と同じ状態なのか。

 一度作動させれば、意識せずとも常に使い続けることができる。

 俺の場合、どれだけ長く使い続けられるのかなど試したことはないから、無期限もしくは無制限なのかは分からない。


 そんなことを、何年も昔から続けている者がいるというのか。

 まさか……そんな化け物じみた奴が、なんの噂にも上らずにいられるだろうか。


 そうだ、俺自身が、魔術式具に例えた。


 商人に確認してみよう。


「なあ、例えば転話具も、大量の原料と無制限に使える精霊力があれば、常に繋げた状態に出来るか」


 好奇に満ちた商人の声が答える。


「その通りだ! あんたは職人の才能もあるかもしれんぞ」


 断じてない。

 子供じみた考えだろ。大人ならば、限界があるのを知っているから考えもしないというだけの。

 弟子が欲しそうな気配は鬱陶しいが、これに関しては嬉々として話してくれるのだ。ありがたがるべきだろう。



 女の方へ目を向けると、外套の襟元に埋まるように力なくうな垂れていた。

 塩をかけたら縮む軟体生物のようだな。


「負担はどれぐらいのものなんだ」


 俯き加減の顔の下から、憎々しげな目が見上げる。


「平気。まだ試したいことあるなら言って」


 そんなに恨めしそうな顔で言われても、説得力はないぞ。


 他にないかと思い巡らせたが、今日はこんなものか。

 また一つ、気がかりな点を潰せたと思えば、上出来だろう。


「今のところはいい。また頼む」


 女は気が緩んだのか、さらにしおれていた。


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