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精霊界の崩落は亡国の魔術式を発動する  作者: きりま
三章 荒城の海

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百二十二話 三ふりの武器

 船内で過ごす初日の晩。

 予定について話す為、全員に船倉へと集まってもらっていた。


 他に収まる場所は甲板しかないが、最大速度で移動する際は、内部で待機するようにとのことだった。

 風に持っていかれる恐れがあるらしい。


 揺れが少なく実感は湧かないが、どれだけ早いんだろうな。

 それを確かめようなんて馬鹿な真似はしないが。


「急ぐために高速艇を借りた。不便を強いるが、その分早く着く。少し我慢してくれ」


 通常の帆船型とは違い、速度重視の細長い船体のために、内部は狭い。

 三十人以上が滞在できるほどの部屋数も無く、相部屋でしのいでもらっていた。

 俺はどこで寝ようが平気だが、彼らの大半は町で普通に暮らしている者達だ。


「こんな状況下です。誰も文句はありませんよ!」

「そう言ってもらえると助かる」


 こんな船を貸し出すくらいだ。

 化け物のほうも、内心焦りがあるんだろう。

 ありがたくはあるが、複雑な思いだ。



 主に運ぶものが俺達なだけあって、船倉に荷も少ない。

 その中に、セラ達から渡されていた箱が目に付いた。

 すっかり忘れていたが、大切な物と言っていたな。


「我々にお任せを」


 その箱を移動しようとした俺を、会長らが先んじた。

 倍以上年上だろう男達にかしずかれるのは、落ち着かない。

 溜息を堪える。



 不意に、違和感が襲った。


「精霊力……!」


 その流れに気を引き締める。

 どこだと辿る。

 感覚は、俺の腰元から発信されていた。


 俺かよ!


 見下ろすと、腰にぶらさげた爺人形の首から光が漏れている。


「携帯転話具か……すごい時代になったもんだ」


 見た目は早急さっきゅうに改善する必要はあるが。


 応えようと紐をほどき、爺の顔を目の前に持ってくると、そのまま振りかぶった。


「おおお静まりをッ!」

「離せ!」


 人形を床に叩きつけようとした俺の腕に、小僧が縋りついて止めた。


「なんで鼻の穴がぴかぴか光ってるんだ禄でもないもんばかり作りやがってせめて目だろ光るなら鼻でもかんでろ」

『ふおお……相変わらず短気じゃのう。どうやっても目に配置できんかったのです。お赦しくだされ』


 いつの間に繋がったんだ。


「俺は承認してないぞ」

『精霊力での承認は、使えない状況があれば不便かと思っての。物理的に接続するような仕掛けを施しました。首をきゅっとね、絞めると繋がるのですが説明されておらなんだか』


 ああ、説明がなくとも、首は絞めていただろうな。


「これに連絡するとは聞いていたが、セラはまだ戻ってないだろ」

『港から確かに渡したと連絡は入っております。他の品について急ぎお知らせしたく』

「ちょうど見てみようかと引っ張り出したところだ」


 女騎士に頷くと、会長らと箱を開けた。



 木箱の中には、ひとまわり小さい木箱。さらに開けると小型の木箱が三つ収まっていた。

 どこの民芸品だよ。


 その中には、爺共の外套と同様の色褪せた赤い布が詰まっている。

 緩衝材なんだろうが、爺の古着じゃないだろうな……それはいいとして。

 布毎取り出して、中をあらためる。


「これは……」


 異様な外見に、言葉を失った。


 表面が婉曲した小型の盾。

 腕ほどある棒の先端に、拳大の塊がついた杖。

 そして、二の腕ほどの長さがある、短剣。


 剣は、ちょうど俺が持ってるのと、同じようなものだが、全ての物に、魔術式が刻まれていた。

 それも、持ち手以外の場所を、大小と無数の式が重なるように全体を覆っている。

 作り上げるのにどれほどの時を要したのか、途方もない代物だ。

 ここまでくると、さすがに。


「気持ち悪いな……」

『なんじゃとおお!』

「いや、感動の余りに鳥肌が立ったって意味だ」

『な、なるほどのう』

『……』


 爺の背後で、誰かの溜息らしきものが聞こえた。


「おい、他に誰がいる」

『僕だ。最先端の船の乗り心地を聞こうかと思ってね』


 化け物の、転話越しの転話か。確かに、さらに音が悪いな。


「揺れもないし、乗り心地は悪くない。速度の方は、外に出られないから分からん」


 化け物は満足気に笑った。

 小僧が俺の手元に顔を寄せ、爺人形を通して爺へと叫んだ。


「ノッヘンキィエ閣下、ありがとうございます! これほど心強い支援はありませんッ……!」


 俺と違って、小僧らは感激に打ち震えている。

 価値が分からなくて悪かったな。


「何をするもんなんだ。見た目通りの機能ではないだろ」


 感動して振り回しているから、杖は小僧用なんだろう。

 女騎士は、そっと小型の盾を撫でている。細長い楕円形で肘から手先までに取り付ける奴だ。今は外して腰に取り付けているが、普段も盾と槍を装備している。

 当然、女騎士用だろうな。


 目の前の、一般的な長剣と短剣の中間といえる長さ。

 その剣を手に取った。

 重みはあるが、俺のと差はない。

 どう見ても、俺用だ。


「いつの間に調べたんだよ……」


 隠してるわけではなかったが、急に同じような物を目の前に出されると不思議な感じだ。


『そこはそれとして機能を説明しましょう。各々の資質に合致しているだろう魔術式を刻みました……』


 爺の説明を聞くと、俺達の得意分野を刻んだらしい。

 小僧は、火属性。

 女騎士は、防御。


「俺は……光?」


 なんで俺だけ基礎の基礎式である、感知なんだ。


『精霊溜り対策ですからの。もしもの為に必要な符。しかし嵩張る符の置き場所にお困りではありませんか? そんな時にはこの魔術式武器! 実はこれ、何度でも使える耐久性を誇るのです! しかもなんと、複数枚の符を使用して展開しなければならない範囲術式も、これ一本で楽々こなせる仕事ぶり! もう符を持ち歩く必要はありません。邪魔な道具袋とも、おさらばです!』


 そうかよ……お得感あふれるな。


『おや、喜びが足りませんな』

「種類を入れ替えできる付属品とかないのか」 


 爺はでかい溜息をついた。


『原料を特殊な配合で固めた金属ですからのう。直に刻みこむために、種類が固定されるのだけが難点です。先に申しおきますが、初めから数種を刻むと反発しましての。動作しないならともかく、誤動作もありますゆえご了承くだされ』


 融通は聞かない分、耐久的には便利そうではある。


「符の何枚分になる」

『耐久度検証は、それだけの精霊力持ちと時間が必要での……』


 分からねえのか。

 それとも体のいい実験かよ。


「確かに、長距離の移動だ。持ち運ぶ物資は少ない方がいい。助かるよ」


 まともに生涯に渡って働いたところで、払いきれないような一点物だ。

 贅沢言える身じゃない。



『そうそう、精霊力を増幅する仕組みも取り入れてありますので、取扱いにはくれぐれもご注意をば』


 小僧に有無を言わせぬ圧力をかける。


「お前は、使用禁止な」

「なッ何故ですか!」


 船ごと丸焼きになっちまうだろ。


「降りたら、まずは盾で試してみよう。防御なら、おかしなことにはならんだろ。頼む」

「お任せください」


 女騎士は誇るでもなく、柔和な笑みを浮かべて頷いた。


「拗ねるな。攻撃する機会など、無い方がいいに決まってる」

「すッ拗ねてはおりません」


 杖を抱きかかえてふて腐れている姿は、玩具を親に奪われそうな子供にしか見えない。

 煩いから言うのはやめておこう。


「用件は分かった。元老院に古都からの、至れり尽くせりの支援に感謝する」


 俺達に最も過酷な任を押し付けている。その自覚は、こいつら自身が持っている。

 その表れだと思えば、非難はできない。

 一応の礼は述べておく。


『……お頼み申します』


 話を閉めようと思ったが、どうすりゃいいんだ。

 そうだ、爺の首を絞めればいいのか。

 転話具の、口髭から漏れ出る光は途絶えた。


 繋げる場所は限定されるといっていたから、大広間の壇上に据え置きのやつだろう。

 こっちから繋げるのかは分からないが、連絡を取らねばならない事態は起こらないようにしたい。




 柄をしっかり握り直し、刃を見る。

 構えてみようと思ったが、そんな風に使う物ではないよな。


 セラが手を貸せたと喜んでいたが、この増幅する仕組みってやつだろう。

 もう一つ、じっと刃を見て気が付いた。

 基本の青磁のような色に、薄い赤みのある筋が、墨を流し入れたような模様を描いている。


 確かセラの顔料が、こんな色だったよな。この配合にも手を貸したのか。それとも、独学で元老院の技術にまで到達したのか。


「大した男だ……」


 あ、いや、詳しくない俺に判別できるとも限らない。似て非なるものだったら恥ずかしい。忘れよう。


 元老院の用意した箱には、丈夫そうな革紐も同梱されていた。

 戦闘用に使えるものではないだろうから、しばし悩んだが、結局は装備を入れ替えた。


 どうせ、人どころか、生物が住めない場所に行くんだ。

 盗賊の心配をしたって仕方がない。

 いざとなれば、鞘で殴ればいいよな。


 俺が装備を入れ替えるのを見て、女騎士らも換えた。

 いや、小僧は追加か。

 剣のように、飾りが上にくるようにして佩いている。

 馬鹿みたいに火の符ばかり詰めていた道具袋を、外していた。


 身軽になった分、食料に回せるのはありがたかった。


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