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精霊界の崩落は亡国の魔術式を発動する  作者: きりま
三章 荒城の海

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百十六話 世界転話会議

「それで……」


 次の言葉を言いあぐねる。

 まだ、気持ちは抵抗する。

 ここで怯んだところで先はないんだと、自らに言い聞かせる。


 爺を、真っ直ぐに見据えた。


主王しゅおうの力とやらで、何が出来るんだ」


 言葉にすると、より一層、気分が悪い。


 そんな俺の気も知らず、元老側は歓声をあげた。

 爺が手を振って、場を黙らせる。


「お力を、貸して頂けるのですか」


 問いの馬鹿馬鹿しさに、込み上げた笑いを抑える。

 周りから徐々に追い詰めたのは、お前達だろう。


「貸すも貸さないも、あるか」


 こっちは命が懸かってるんだ。

 時間を無駄に出来るか。



 爺が、人攫い野郎を手招く。

 そいつは、紙切れを携えて俺の元へ来た。

 見覚えのあるそれは、旅人組合からの依頼書だった。

 受け取ると、内容に目を走らせる。


「指定依頼……」


 前回、臨時の契約でいいならと言いはしたが、覚えてたのかよ。

 吐き捨てた嫌味を真に受けるとは。

 しかもなんだ、この内容は。


『急募、王様求む! 迷える民を、共王国へ導くだけの簡単なお仕事です。目的地は回廊すぐ側!』


 死ぬだろうが。


「ああっ待たれい!」


 破り捨てようとした手を、元老一味が止めた。


「ふざけるのも大概にしろよ」

「それには理由が。人目に触れるもの故、なるべく穏便な内容をこしらえたの、だあああ!」


 最後まで聞く必要はないと判断し、直ちに破り捨てた。


「よ、良いのか? 組合の許可無く破損せしめたものへは、評価を下げる取り決めがあるはずだ」

「有効な依頼に限る」

「ゆ、有効ですぞ!」


 千切った依頼書を、人攫い野郎の顔に散らす。


「俺が、俺自身の意思で、行動すると言っている。依頼書は、もう必要ない」




 精霊力の違いを知った。精霊溜りの芯という存在を。

 回廊自体が芯そのものという、恐ろしい事実。

 各国が手を携えて対処しなければならない現状。


 化け物から船を借りて、数日内にコルディリーへ戻れるとして、それからどうする。

 戻れば一旅人として、方面軍に混ざり回廊へと向かうことになる。


 しかし、影響は全方位に渡っているだろう。

 あっちは今のところ、人手も物資も足りている。

 同時に符を使用した方が効果が増すから、帝国も一箇所に集めてるんだろう。

 ただしその分、人手の維持にも負担はかかる。町周辺も、大変なことになってるだろうことは想像に難くない。


 ならば、こちら側から行動するのも手だ。

 動かしていない人手もあるし、符や道具類の準備も十分されてるだろう。


 それに……認めたくはないが、この力をうまく使いこなせば、効率は良いはずだ。

 通常の符の何千枚分といった効果を、俺一人で担えるなら、その分を他にまわせる。


 問題は、使いこなせるのかってことだ。


 多分、爺は何か知っている。

 俺が認めるなら、聞きだせる。

 そう思ったが。


 こうやって焦らせて、頷かざるを得ない状況に持ち込んだのも、策ではないか。

 そんな疑心を持ったとしても、時既に遅い。


「真に、王としてのお立場を受け入れなさると、おっしゃるのですな」


 もったいぶるなと思うも、爺の言わんとすることも理解してはいた。

 誰よりも、俺が知ってるじゃないか。

 この主王の力とやらは、徐々に体を変えていった。

 すぐさま他の誰かに任せるといって、渡せるものではない。


 そして、渡せる相手も、残ってはいない。


「力を行使するために必要というなら、そうだ」


 国の再興だのなんだのは、女騎士と小僧がやるだろ。

 それも、回廊をどうにかできた後の話だ。



 俺は――回廊を食い止める。

 引き受けるからには、成し遂げてみせる。



 気合を入れなおさなければ、口にするのも嫌な言葉を絞り出した。


「やってやろうじゃないか。王様ってやつを」



 場は静寂に包まれる。

 そして、爺が頷いた。


「ぃやっ、ほぅい! 王様獲得祝い、じゃな!」


 飛び上がる爺、大広間に響く歓声。


「ありがとうございます!」

「こ、今度こそ貴方の力に応えてみせますッ!」


 まとわりつく女騎士と小僧を押しのけ、爺の側までいくと手を差し出す。


「感謝の言葉もあり、ゃあああっ!」


 差し出された爺の手を払い、その口髭を思いっきり引っこ抜いた。


 人の意気込みを、茶化すな。


「ふごおお……短気だのう、へぶしっ」


 爺は毟った髭を吸い込んだのか、幾度かくしゃみをし、袖で鼻をかんだ。

 それから顔を上げ、一味に命令を下した。


「全ての国へ、宣託を!」


 元老一味は大慌てで、部屋の外へと飛び出していった。


「宣託って、なにを」


 爺を振り向いた。


「王の帰還を、宣言しませんとのう」


 もう一度、毟ってやろうか。


 慌てて爺は鼻を隠した。


「その為だけではありませんぞい。最も回廊消滅の可能性を高めるには、各国同時に対処せねばなりますまい。その作戦会議が必要なのですよ」


 なんで今なんだ。どう俺と関係する。


「即位式と称せば、欠席も難しかろうて。しかも、滅びたと噂の国のこと。未だ危機意識の薄い、遠い国もあるゆえ。好奇心で釣る作戦です!」


 本当に、腹が立ってきた。





 各国へ一斉に、元老院からの『宣託』がもたらされた。

 緊急時に利用される、連絡網みたいなもんだ。

 通常は、一方的に伝えられるか、各国間同士のみ。

 同時に繋いで、一堂に会したことはないという。


 俺は今、歴史に残るだろう、元老院での世界転話会議の場にいる。

 とは言っても、また同じ部屋。大広間だ。


 壁、床、天井にある、全ての魔術式が光り輝いている。

 並んだ各転話具の側には、目印に各国の旗が立てられていた。


 まるで見世物だ。

 声だけで互いの姿は見えないから、厳密には違うが。

 ともかく、印の力を意識しだしてから、何度そう思ったか。


 俺は、壇上に用意された椅子に座り、各国が集まるのをぼけっと眺めていた。

 隣には、女騎士と小僧も並ぶ。

 こいつらは元々望んでいたから、神妙な面持ちだ。

 端に、髭面が佇んでいた。

 帝国の代理なら座っていてもいいと思うが、あくまでも使者だからと立っている。




 爺が壇上に立ち、小さな台に乗った水晶へ、会議の開催を宣言した。


「議題は二点。まずは、トルコロル共王国の正式な継承者を、ここに認めたい」


 前置きもなく俺達の名が出され、次に証人の宣誓。


『アィビッド帝国にて身柄を預かっていた。確かに継承者であると保証しよう』

『古都――ハトゥルグラン王国にて、その証を認めた。正当な継承者であること相違ない』


 事務的に、その場で三王が認定された。

 俺にとっては、仰々しくないのはありがたいことだ。


 大広間はざわついたが、それは別の理由だった。


『古都王が動いた……だと』

『なんと、これが帝国の真意であったか』


 よく分からないが、何か噂が飛び交っていたようだ。

 爺が、本命の議題に移ると言ったが、まだざわついている。 


『静まれ』


 低く深みのある声が、強く響くと、場は治まった。

 静かに淡い光が揺らめく転話具の側には、アィビッド帝国の旗が立っている。


『久しいな。古き盟友よ』


 固唾を呑んで見守っている。

 目には見えずとも、そんな空気が各水晶から漂っていた。

 それに答えるのは、古都の王。


永久とわに久しくあらんと願っていたが、世の中ままならぬものよ』


 二大陸、それぞれを牽引する国の王同士。

 その確執は、噂として流れていたようだ。

 上流社会に限ってのようだが。


『此度は世界の危急。手を取るも吝かでない』


 不本意であることを強調したものの、決裂とはならなかった。

 前もって髭面が話をつけていたから当たり前だが。


「では、同時に回廊へ向かう計画へ、賛同いただけますな」


 爺の宣言に、その二カ国が同意した。


 歓声や、安堵の声が上がる。

 主となる二カ国が賛同したため、様子見していた小国も反対する理由はないだろう。それどころか、ここで存在を訴えようと躍起になる始末。

 余力なく、不満げだった国々も、追随するほかないようだ。




 続いて、段取りについての説明がなされた。

 兼ねてよりの連合軍への参加依頼。

 前もって、伝えてはあるだろうから、確認といったところだ。


 一つだけ、俺の参加によって、開示されたことがあった。

 今回の計画の要だという。

 かの原因を解消する可能性の高い、魔術式具を継いだ者達である。

 これらは特殊な認証式を用いており、共王国の継承者にしか使えない切り札である。


 そんな尤もらしい説明が、爺からされた。

 あながち嘘ではない。

 が……そうかよ。

 やっぱ、拘っていた理由は、この力にあったわけだ。




 前線は、帝国が受け持つ。各国に求められる役割は、先行部隊が無事に目的地点へ到達し、道具を使用するまでの道のりを確保するなどの支援である。


 そんな説明を聞いていた。


「恐らく、巨大な力がぶつかり合う初めてのことだ。その余波がいかなるものか、予想もできない。彼らは覚悟した。我らも、それに応える義務がある」


『指示をとりまとめるべく、帝国より使者を出す。受けいれ準備を頼みたし』

『全ての魔術式推進船を出す。海上のやりとりは、古都が受け持とう』


「一丸となり、この異変を乗り越えたい。二度と、争乱を起こさないために」


 爺が話を閉めると、一つ一つ、水晶の光が消えていった。

 静かさの裏で、各国は怒涛の如く動き出したはずだ。


 広間の元老一味も、転話具を持って別室へと慌しく去っていった。




 各国が準備に奔走しているだろう最中さなか

 帝国と古都、二大陸の代表は残っていた。


 二ヶ国の転話具が壇上に集められる。

 爺が、何か話したいのだろう。


 ちょうどいい機会だ。

 俺は、不満を伝えたくて仕方がなかった。


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