美奈子ちゃんの憂鬱 供養と因果とピンハネと
久々の美奈子ちゃんの憂鬱シリーズです。
●桜井美奈子の日記より
葉子にヘンなクセがあることに気付いたのは、つい最近のことだ。
夕ご飯の前に葉子を散歩に連れて行くのが習慣というか日課のようなもの。
学校から帰ってくるなり、散歩に連れて行ってもらおうと目を輝かせて待っている葉子が可愛くてしかたない私としては、散歩そのものに抵抗はない。
歩くことでダイエットにもなるし、葉子も喜ぶし、一石二鳥だ。
手を握って近くの公園まで行って戻ってくるだけの、ただの散歩。
それなのに、葉子はとても楽しみにしている。
「あのね?お姉ちゃん」
散歩の途中、それで始まる葉子の言葉。
その日、幼稚園で何が起きたか。
お友達とどう遊んだか。
お昼は何を食べたか。
そんなことを熱心に話す葉子の言葉に耳を傾けていると、何だかほっとするし、私と話をするのがそんなに嬉しいのかな?
そんな風に考えると、姉としてとても嬉しい。
私としてはそんな風に考えていた。
その日は幼稚園で覚えたという歌を歌ってくれた。
聞き覚えが無いから最近出来た歌なんだろう。
ちっちゃい胸でも生きている♪
貧しくってもおっぱいだ♪
……瀬戸さんあたりが聞いたら泣いて喜ぶだろうなぁ。
もしかしたらテーマソングになるかも。
場所は公園に近い交差点。
「―――あっ」
不意に葉子が歌うのをやめた。
「どうしたの?」
何か、珍しいものを見つけた時に見せる、ネコのような眼の輝きと、好奇心に満ちあふれた顔で、葉子はまっすぐ前を見ている。
パッ。
突然、葉子が私から手を離すと、前に駈け出していった。
「あっ!こらぁっ!葉子っ!」
交差点の歩行者用信号は赤。
ここの道はバイパス工事のせいで裏道として利用する車が増えたせいでやたら交通量が多い。
もし、葉子が信号に気付いていなかったら―――!
「止まりなさいっ!」
私がすぐに葉子を追いかけたのは当然のことだ。
幸い、葉子は交差点で止まってくれた。
交差点の歩行者用信号の押しボタンの前で葉子は立ち止まって、しゃがみ込んでいた。
「どうしたの?」
何があるんだろう?
私が葉子の背中越しに見たのは、電柱の下に置かれた古びた花束だった。
きっと、ここで事故死した人がいたんだろう。
葉子はその花束を見て、面白そうなものがあると考えて、駆け寄ったんだろう。
私はそう思った。
ただ―――
翌日、明光学園高等部
「ふぅん?」
お昼休み。
水瀬君とお昼を食べながら、昨日起きたことを話した。
「花束の前で……もぐもぐ……ねぇ」
「何食べてるの?って聞いたけど、オヤツって」
「道路に置いてあるお供え物食べる程、葉子ちゃんは非常識じゃないもんねぇ」
「当然でしょ?幼稚園じゃ品行方正、模範生の鑑みたいに言われている娘だもん」
「保母さんから“手に負えません”って言われた桜井さんとは違うよねぇ」
「ど、どこからそんな話聞いたの!?」
「桜井さんのお母さん。どうやったら美奈子が葉子を見習ってくれるか知りたいって嘆いてたよ?この前」
「な、何で高校生の私が三歳児に学ばなきゃいけないのよ……」
「―――で」
ふわぁぁっ。
水瀬君は欠伸をすると目を擦りながら言った。
「そんなことが散歩の途中で多いことに気付いた―――と」
「そうなの。何かもぐもぐしたり、何もない所に手を伸ばして掴んで口に運んで……」
「うん」
水瀬君は“それで当然”と言わんばかりに涼しい顔で頷いた。
「オヤツ―――だね。葉子ちゃんにとっては」
「意味分かんないわ?あんなヘンなことクセになったら葉子が困るのよ!?」
「大丈夫だって」
「何が」
「葉子ちゃんの出自は知ってるでしょう?」
そりゃ知っている。
葉子は私の妹だけど血は繋がっていない。
その正体は―――九尾の狐。
つまりは妖怪だ。
「だ、だけど」
「心配ないよ」
水瀬君は微笑みながら言った。
うっ。最近、この微笑みが心にキュンと来るんだよなぁ……。
「お母さんとだって散歩にも行くんでしょ?それに幼稚園で似たようなことしてるって言われたこともない」
「……聞いたこと、ない」
「つまりは、桜井さんといる時だけ。それだけ桜井さんが信じられているってことじゃないの?葉子ちゃんに」
「そういうもの?」
「そういうもの」
「―――でね?」
「何?」
「葉子、何食べてるの?」
「それは知らない方がいいよ。少なくとも、その辺に落ちてるもんじゃないから、お腹は壊さないだろうし」
「……答えになってない」
「いずれわかるよ」
ふわぁぁっ。
水瀬君、また欠伸した。
「何?眠いの?」
「ここんところ、いろいろ忙しくて寝不足なんだよ」
「へぇ?また悪いことしてるの?今度は何?クスリ?」
「そっちは別―――って変なこと言わせないで!」
「そのセリフだけで十分に怪しいんだって」
私は呆れるしか無い。
水瀬君は、本当に嘘をつくのが下手すぎる。
「それで?」
「うん……ほら」
水瀬君は窓の外を眺めながら言った。
大きな入道雲が窓一杯に広がっている。
「夏でしょ?そろそろ納涼イベントがあっちこっちであるから」
「ああ。もう少しで夏休みだもんね」
あーあ。
期末テスト、点数最悪だったからお小遣い減額決定してるし、今年の夏は遊べないなぁ。
お小遣いのない夏なんて―――大嫌いだ。
「イベント用にって、この辺のお寺さんの間で秘蔵の厄介モノをお寺ごとに展示して参観料とるって企画がもちあがってね」
「厄介モノ?」
「ほら、あるでしょ?“供養してくれ”って持ち込まれるって話」
「うん……怪談話なんかではよく聞くけど」
「そう。それ。でもね?全部が全部、供養出来るわけじゃない。いろんな事情で供養が出来なくて倉庫の肥やしになってるものも多いんだ」
「例えば?」
「呪いというか、モノの力が強すぎちゃって供養したくても出来ないとか」
「ああ……そういうのもあるんだ」
お寺に持って行けば、全部供養されていると思ったけど、違うんだ。
そういえば、水瀬君も神社の関係者だもんね。そう言う裏事情もやっぱり、知ってるんだなぁ。
「そういうのを解説付きで展示してカネふんだくろうって企画」
「どこでやんのよ。そんなおっかない企画。教えておいて。私、絶対に近付かないから」
「えっとね?」
水瀬君は指折り数えながら答えた。
「まず、人形供養の差毛寺さんでしょ?憑き物落としの伊保寺さん、水子供養の尾矢寺さんに、供養全般何でもござれの井真何寺さん」
「……それ、本当のお寺の名前?」
ってか、名前が怪しすぎる。
「ここら辺じゃ由緒正しいお寺なんだよ?」
「お尻のお医者さんや患者さんに人気出そうな名前がボロボロ出て気がするけど……とにかく、そのお寺で、そんなことするんだね?」
よし。
夏は絶対にお寺に近付くのやめよう。
「うん。この辺の住職さんの師匠筋にあたる吉礼寺さんの主催なんだけど。それぞれに供養については腕に覚えがあるのね?それで、“こんなモンも供養出来んのか!”って互いの展示物についてバカにしあったもんだから、口論が住職同士の殴り合いにまで発展して……」
はぁっ。
水瀬君、心底疲れたって顔でため息ついた。
「お互いに“俺が供養してやる”って言い張って、展示の前に供養合戦になってるの」
「供養合戦?」
「うん。毎日、順繰りで一つのお寺に展示物を全部持って行って、そのお寺の住職さんの法力だけでそれを因果から解放するってルールで供養するの」
「成功した人は?」
「いないの。もう一週間近く、毎日重い荷物担いでそれぞれのお寺に行って、夜遅くまで供養につきあわされてるんだ。もう眠くてイヤ」
「何で水瀬が?」
「何もしなければ、荷物の中から叫び声や悲鳴が聞こえるんだよ?そんなの業者さんに頼みたくないでしょ?それに、お金かかるし」
「―――ああ」
事情がわかった。
「住職さん達に押しつけられたんでしょ」
「……うん」
水瀬君は曖昧に頷いた。
「まぁ、そんなトコ」
その日の夕方。
私はまた、公園へ散歩に出かけた。
今日は珍しく、葉子は何か食べる仕草をしない。
よかった。
変なクセがなくなって。
私はそう安堵しながら葉子と公園に入った。
夏の公園は蝉やひぐらしの鳴き声が五月蝿いほどだ。
お母さんは虫が嫌いだからイヤだというけど、この鳴き声を聞いてこそ、私は夏が来たんだって実感出来る。
「さぁ、葉子?公園、ぐるっと一周しようか」
「うんっ♪」
葉子の嬉しそうな笑みに満足した私は公園の中の遊歩道へと足を踏み入れ、そこで思わず立ち止まった。
「―――うえっ!?」
はっきり、ビックリした。
私の背丈ほどもある唐草模様の風呂敷包みが目の前を左右に小さく揺れながら浮かんでいる。
別名泥棒風呂敷とも言われるこんな風呂敷、現物で見たのは久々だけど、それがなんでこんな所に?
唖然としていると、風呂敷包みがこっちに気付いたのか、不意に動きを止めた。
ひょこっ。
風呂敷包みが不意に右に動いた。
その後ろから現れたのは―――。
「あれ?桜井さん?」
そう。
風呂敷包みを担いだ水瀬君だった。
「……呆れた」
人形に服に万年筆に食器に……芝生の上に広げられた風呂敷の中身は一見するとガラクタの山。このままフリマが出来そうな程、雑多なモノばかりだ。
「これが全部?」
「そう」
水瀬君は頷いた。
「供養出来ない曰く付きの代物」
「ふぅん?」
怖くて手を伸ばす事も出来ない。
「こんなの担いでて、よく職務質問されないわね」
「されたよ?」
水瀬君はあっさり答えた。
「でも、この辺のおまわりさん、僕のこと知っているから」
「それで逮捕は免れた―――と」
「“頑張ってね”って励まされた」
「それともどうかと思うけどね……」
「ついでにさっき」
水瀬君は肩から提げていたバッグをとりだした。
「理沙さんから“これ”まで何とかしろって押しつけられたんだよね」
「これは?」
「殺害事件の被害者の所有物。倉庫の中で泣き叫ぶからうるさくて仕方ない。紛失って事で始末つけたから、適当に処分しておけって」
「しかもただ働き」
「よくわかるね」
「……あの人らしいなぁ」
冗談だったんだけど。
「しかもね?バッグの中みたら、心霊写真が山ほど入ってるの。これ何って聞いたらね?鑑識から処分依頼されてるから一緒に持って行けって」
見る?
水瀬君がそう言ってバッグを私の方につきだした。
「いいわよ!そんな怖いもの見たくないっ!」
「スゴいよ?心霊写真特集がどんだけウソかよくわかるものばかりで―――あれ?」
ブロロッ!
爆音と共に私達の前の道を突き抜けていったのは二人乗りのスクーター。
共にノーヘルだけどマスクで顔を隠したニッカボッカのイカにもガラの悪いお兄さん達。
後ろに乗ったお兄さんが手を伸ばすと、水瀬君の手からバッグをひったくって走り去った。
水瀬君は、ポカンとして何も持っていない手を眺めているだけ。
ってか!
「水瀬君っ!」
私は立ち上がってスクーターの走り去った方角を確かめた。
公園の出口の方だ。
「捕まえなきゃ!」
「え?別にいいよ。厄介払いできたし」
「あんなもの、下手に世の中に出たら厄介ごとが増えるでしょう!?」
「僕が関係するとはかぎらないもん」
「バレたら理沙さんに蜂の巣にされるわよ!?」
「それは」
水瀬君も渋々立ち上がった。
「―――困るからヤダ」
ドンッ!
公園の出口の方から、そんな鈍い音が聞こえたのはその直後のことだった。
正直、水瀬君の言うとおり、放っておいた方がよかったかもしれない。
出口の先には交差点がある。
そのど真ん中に大きなダンプが止まっていて、運転手らしいおじさんか呆然と立ち尽くしている。
通りかかった人達も何人もいたけど、皆、目の前で起きたことが信じられないのか、ただおじさんのように動きを止めているだけ。
問題は、ダンプの下。
何かが激しく燃えている。
黒い煙が派手にダンプの下から立ち上っている。
そこには、グチャグチャに潰れたスクーターの残骸が転がっている。
それだけじゃない。
後輪の下からは真っ赤な血があふれ出しているし、何より
「っ!」
この鼻を突くような異臭は―――
いろんな事件に顔を突っ込んできたからわかる。
この臭いはタンパク質が燃える臭いだ。
つまり、ここで燃えているって―――!
「桜井さん」
ぐいっ。
水瀬君が不意に私の腕を引っ張った。
「行こう?」
「えっ?」
「警察の方が僕が何とかしておく」
「で、でも」
「自業自得だよ」
水瀬君は、半ば私を引きずるように公園の中に戻っていく。
「ああいうことする人は、ああいう死に方しか出来ないんだ」
「……」
まぁ、そうだよね。
そう、言うのが精一杯だった。
重苦しい空気が二人の間に立ちこめている。
二人きりの時間なんて、もの凄い貴重なのに、なのにちっとも嬉しくない。
「何か」
それを振り払いたくて、私は無理に話題を変えようとした。
「あの厄介モノの因果が乗り移ったんじゃない?あの二人に」
「―――かもね」
「よかったわね。因果まで燃えちゃったら、供養になったんじゃない?」
「それなら―――賞金は僕のモノなんだけどさ」
「賞金?」
「うん。全部除霊出来たら賞金50万円」
「―――ちょっと待ちなさい」
ガシッ!
私は水瀬君の頭をわしづかみにした。
「痛い痛いっ!」
悲鳴をあげても知るもんか。
メシメシってヘンな音立てて骨がきしんでも知るもんか。
さぁ、水瀬君?
本当のこと言いましょうか?
それぞれのお寺にただ展示物を運ぶだけ。
ウソだった。
実は供養合戦には水瀬君も参加していたのだ。
ところが、元々面倒くさがりの水瀬君のことだ。
供養に必要な様々なプロセスを踏むのが面倒だからって、楽して供養する方法がないかを考えて、いざという時には手柄を他の寺から横取りするつもりだったというのだから話にならない。
しかも、除霊成功には報酬が出ている。
その額、実に50万円。
「50万円も出ていたら」
だからわからない。
「水瀬君なら目の色変えて供養するんじゃない?」
「そうもいかないよ」
私の目の前で正座する水瀬君は唇を尖らせて答えた。
「供養に必要なモノ、一々揃えていたらマイナスだもん」
「そうなの?」
「うん。僕が見積もっても数百万はかかる。経費の穴埋めにもならない」
「へぇ……?」
だから、お金がかかってるのに本気にならないのか。
「もう諦めてね?適当なところでトンズラするつもりだったんだけど」
あ、いけない。
水瀬君が不意に立ち上がった。
そう。
私も気付いた。
展示物、芝生の上に広げたまんまだ。
もし、盗まれでもしたら大変だ!
それに―――!!
「葉子っ!?」
そう。
いつものクセで、つい、葉子の存在を忘れていた!
もし、葉子が展示物で遊んでいて何かあったら―――!
考えるだけでも恐ろしい。
私は最悪の事態を考えて芝生まで水瀬君の首根っこを掴んだまま全力疾走した。
葉子はいた。
唐草模様の風呂敷の上に大の字になってグーグー寝ていた。
「よかったぁ」
「ち……ちっともよくない……」
何故か首がヘンな方向に向いている水瀬君がその場でうずくまりながら答えるが無視する。
「とにかく、無事……ん?」
ゲプッ
何故か葉子のお腹がパンパン。
葉子はゲップをして満足げに寝息を立てている。
「……水瀬君」
さらに翌日。
「結局、あのひったくり犯は助からなかったけどね?」
放課後、帰り道で水瀬君が言った。
「不思議な因果だね」
「というと?」
「バッグに残されていた犯人と思しき指紋があったんだけど」
「うん」
「あの二人のうちの一人の指紋だった」
「……まさか」
「理沙さんも驚いていた。不思議だって」
「だよね」
私も頷くしか無い。
「ひったくったのが心霊写真入りの厄介もので、それ掴んだまま事故死だなんて」
「何よりね?」
水瀬君は続けた。
「警察の質問に、あのダンプの運転手も、通行人もみんな同じ証言しているんだって」
「ん?」
「スクーターが交差点に進入した所、見てないって」
「見てない?」
「そう。ダンプは青信号確認して交差点に進入したんだけど、直後に何かを轢いた感覚があったから慌てて降りたらこの騒ぎだって」
「ドライブレコーダーとかは?」
「レコーダーもね?事故の直前、スクートターが突然、パッと現れたようにしか見えないんだって。鑑識の人もこんなの初めてだって首傾げてるそうだよ?」
「犯人ってか、スクーターの二人組、どうなったの?」
「運転した方はタイヤにプレスされてアスファルトと一体化しちゃって、引きはがすのが大変だったって。もう一人は脚が潰されただけで済むはずだったんだけど、スクーターがクラッシュした時に噴き出したガソリンを全身に浴びて火だるま。両脚が潰れていたから生きたまま焼き殺された」
「……で」
私は訊ねた。
「その殺人事件の犯人はどっち?」
「焼き殺された方」
水瀬君は答えた。
「ハンドバッグの持ち主の女性を暴行した挙げ句、ガソリンかけて焼き殺した犯人」
「同じ殺し方……を?」
「そうなるでしょ?理沙さんじゃなくても驚くよ」
「……夏の怪談話になるね」
「そう思う。殺人事件の被害者の怨念が犯人を殺したって所かな?」
新聞の話題になるかな?
水瀬君は小さく笑ったけど、こんなの新聞に載せてもらえるのかなぁ。
「あ、そうだ」
水瀬君は鞄から何かをとりだした。
「これ―――葉子ちゃんに渡しておいて」
水瀬君から預かったのは一通の封筒。
「何?」
「賞金」
「賞金って?」
「そう。あの展示品、残らず供養されていたから。供養に成功したのは葉子ちゃんなんだから、賞金は葉子ちゃんのモノでしょ?」
「供養を葉子が!?」
「そう」
「ど、どうやって!?」
「“食べ”ちゃったんだよ」
「食べた!?」
「葉子ちゃんが、散歩の途中で何かを食べる仕草するのが困るって話してたでしょ?」
「それと、何の関係が?」
「あれ、食べてたのってね?浮遊霊とか地縛霊って言われる存在なんだ」
「……はぁっ!?」
「葉子ちゃんにとってはオヤツ程度の存在なんだけどね?今回のもそんな感じ」
「……だから」
あれから、眠っちゃった葉子をおんぶしてウチまで戻ったけど、葉子はそのまま一晩眠り続け、今朝になってやっと目を覚ました。
いつも通りの元気はつらつな様子に安堵してから学校に来たんだけど……。
「あの満足そうなゲップは、そういう意味?」
「そういうこと」
水瀬君は楽しげに笑った。
「住職さん達、愕然としていたよ。もう楽しくて楽しくて♪」
「―――そう」
私は封筒を鞄に収めた。
「これから、何かあったら葉子も役立つのかしら?」
「うん♪これからもお願いしようかと思うんだ。葉子ちゃんにとってはご飯になるし、僕は仕事が楽になるし」
「……ふぅん?」
「どうしたの?」
「ううん?」
私は首を横に振った。
「これから、時間ある?」
「あるよ?」
「ラーメン、食べたいなあって」
「……いいけど」
「……」
「……どうしたの?」
「……これ、いくらピンハネしたの?」
「え゛っ!?」
「賞金50万―――本当は、いくらだったの?」
「し、知らない」
「葉子が聞いたら怒るだろうなぁ。あの子、お金にはシビアだから」
「……ううっ」
「やっぱりピンハネしたんだ」
「してないっ!」
「150万だったのに」
「100だもんっ!……って」
水瀬君、真っ青。
「……やっぱり」
「狡いよ!騙したね!?」
「―――本当のこと言いなさい」
「……いいじゃん。口利き料って言葉もあるんだし」
開き直れと言ってるんじゃないんだけどなぁ。
「……卒業まで、毎日ラーメンおごってもらっても、文句もないか」
「そんなぁっ!」
「水瀬君?」
滝のような涙を流す水瀬君に、私はニッコリと微笑んで言った。
「ごちそうさま♪」