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私の命日  作者: たろう
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笑顔

今だからはっきりと言える。

あの日は私の命日である。ただし“それまでの”私の。



目を覚ますと太陽が真上にあった。

幽霊になったんだな。

私は寝転んだままガンガン痛む頭でそう確信した。

身体中が痛い。

幽霊でも痛みは感じるんだ。

私は想像していた幽霊との違いに少しがっかりした。

だってあまりにも人間的すぎる。

まるで人間のままであるかのように。

・・・まさか・・・。

私はガバッと上半身を起こした。

右を見る。地面がなかった。私の倒れてる位置から50センチぐらいのところで地面が切れている。私は恐る恐る下を覗き込んだ。谷底は遥か遥か下に見えた。


なんのことはない、私が最初に見たのはだいぶ遠くからだった。

だから、谷が見事なU字型に見えたのだ。

近くで見ると、その壁は、階段を縦に引き延ばしたようにいくつも段差があるのだった。

私が倒れているのはその一番上、飛び降りたところからわずか2メートルほど下にある足場だった。

私は落ちた衝撃で頭を打ったらしく、たんこぶができていた。


私はすぐさまその段差をよじ登り、靴を履いた。

遺書は握り潰して谷底に投げ捨ててやった。


家に帰るとお母さんとお父さんが玄関のところにいて、私を見るやいなや駆け寄ってきて抱きしめてくれた。

どうやら誘拐でもされたのだと思ったらしい。

どんなに仲が悪くてもちゃんと心配してくれるなんて、やっぱり親はいてくれなくちゃ困る。

途中からは涙で両親の顔はぼんやりとしか見ることができなかった。



その後の私はそれまでの私と明らかに変わった。

ユキいわく、目つきが凛々しくなった、だとか、性格にトゲがなくった、だとからしい。

離れていった友達も自然と私の周りにいるようになった。

親ともうまくいってる。

大学も無事卒業し、今年からは私立の高校の先生になることも決まっている。

それまでの私には考えられない職業だと思う。

『大きく飛ぶためには一度かがむ必要がある』なんて、誰が言ったのかは分からないが、私もそのとおりだと思う。

実際、あの体験をしなければ、両親とは不仲のまま、友達とは疎遠なまま暮らしていただろう。



あの次の日、私は全ての始まりだった占い師の店をもう一度訪ねた。彼女は私の話を聞くと、たった一言

「おめでとう」

と言った。彼女は全て知っていたのかもしれない。私が自殺しようとすることも、それが失敗に終わることも、新しい私が生まれることも。私がそれを言うと、彼女は

「これでも占いを信じない?」

と言って笑った。

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