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私の命日  作者: たろう
4/5

実行

携帯で時間を見た。


予定の12時は過ぎてしまっている。


どうしよう。

私は焦りがしだいに広がってゆくのを感じた。


今日は死を宣告された日から2日後、つまり私の死亡予定日である。


朝から山に入ればあの谷に着くのは昼頃だろう、と予想していたが、まだその気配すら感じられない。


今歩いている細い山道は林に囲まれており、長い間誰も通らなかったらしく、あたり一面の雑草で道を見失いそうだった。


私はもう一度時間を確認した。


さっきから10分しか経っていないが、確実に予定時刻は近づいていた。


夕方というのが何時何分なのかは分からない。


だが、私は占いが当たらないようにするためにも、なるべく早い時間に死ななければならなかった。


急に辺りの林が開けた。

そして、いつか遠くから見た谷が目の前に─距離にすると10メートルほど先に─あった。

私はその距離を保ったまま立ち尽くした。

絶景に見とれたのと足がすくんだとのが半々だった。

私は持ってきた遺書を地面に置いた。

しかし風に飛ばされないか不安になった。

辺りを見回してみても重りになりそうな石はない。

そこで、私は靴を脱いで遺書の上に並べた。

なるほど、飛び降り自殺をする人が靴を脱ぐのはこんな意味もあるのか。

私はこれから死のうという時なのに新たな発見を嬉しく思った。

それから、私は目を閉じて深呼吸をした。

すると意外と簡単に足の震えは止まり、いつもどおり前に進めそうだった。

そこで私は名案を思い付いた。

このまま目を閉じて10メートルの距離を歩き、いつ落ちるかが分からず、あっ、と思ったときには死んでた、なんていうものだ。

私はそれを実行することにした。

暗闇の中、足を一歩一歩前に出す。

これが最後の一歩になるかもしれない、と一歩ごとに覚悟するが、なかなか最後の一歩はやってこない。

この感覚は何かに似ている。

苦手な数学で、先生が問題を一人ずつランダムに生徒に答えさせ、私は次か次かとヒヤヒヤしてる時のような、先生に見つからないように誰かの噂やらが書かれた紙を授業中にみんなで回す時のような感覚だ。

ああ、私はもうあの学校には戻れないんだな・・・。


そのとき

私の右足が

空をきった。


「あっ」


体が右に傾いた。

考え事をしていたせいで心の準備ができていなかった。

私はあろうことか、落ちるのを知った瞬間、猛烈に後悔した。


幼稚園、ユキに初めて会った時のこと。

彼女はクラスにうまく溶け込めずいつも一人ぼっちだった。

私はそんなユキに声をかけ、彼女の本当の明るさを知った。

小学校の頃、男子にちょっかいを出されて泣いて帰った時のこと。

お母さんは私を笑わせて、なぐさめてくれた。

その男子が私を好きだったということはしばらくして知った。

中学校で友達とふざけてて大怪我をした時のこと。

お父さんは知らせを聞いてすぐさま駆けつけると、事情も聞かずその友達にすごい剣幕で怒鳴り始めた。

俺の一人娘になんてことをしてくれる、と。

事情を聞いたら真っ赤な顔をして平謝りしてた。

そんな形相の父も真っ赤な顔の父も見るのは初めてだった。

高校生になってからのこと。

少ないながらも私の周りには友達がいて、いつもたわいもない事で笑ってた。

一瞬のうちにいろいろな思い出が頭を巡った。


私が本当に謝らなければならなかったのは自分の両親だったのだ。

ユキにも手紙ではなく会って謝りたかった。


次の瞬間、闇が訪れた。

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