決断
〈注意〉後書きまでお読みください
帰り道、私はユキに何を言われてもあいまいな返事しか返さなかった。
ユキには占いのことは話さなかった。
話していいものかどうかの判断がつけられなかったからだ。はじめは
「どうしたの、綾香?元気ないよ」
なんて言ってたユキも、途中からは諦めて話しかけなくなった。
あさっての夕方。
つまりそれが本当なら、私は16年と5ヶ月ちょっとしかこの世に存在しないことになる。
それより問題はそのタイムリミットの短さだ。
いや、私は何を考えているんだろう。
占いなんて信じないのではなかったのか。
でも万が一ということもある。
あの占い師は私の心を読んだ。
話術などではなく、本当に。
そうすると私の命日も信じた方がいいのだろうか。
そうすると・・・。
私の脳みそはパンク寸前である。
いくら考えても同じところをぐるぐると回ってしまう。
私は奇声すら発しかねないほど追い詰められていた。
「あさっての夕方以降、あなたのイメージがすっぽりと消えるの」
占い師は確かにそう言った。
私に死を宣告した直後のことだ。彼女の言うイメージとは、いわゆる
「気」
のことらしい。
彼女いわく、彼女は未来を見るというより、相談に来た人のイメージ─ようするに気─を掴みとり、そこから時間軸を未来にずらすことで、その人の未来を感じとるやり方なのだそうだ。
私にはとうていやれそうにはなかったが。とにかく私の
「気」
はあさっての夕方に途切れてしまうらしい。
すなわちそれは私が生命活動を終えることを意味するらしいのだ。
私は家に帰っても悩み続けた。
夕ご飯も食べず、お風呂にも入らず、睡眠もとらず考えに考えた。
そして、空がうっすらと明るくなるころ、一つの結論に至った。
私は友達を多く持つタイプではない。
ユキを含め、仲の良い友達は数人いるが、その他とはあまり喋らないし喋りたいとも思わなかった。
しかし最近はその均衡さえも崩れかかっていた。
はじまりは私と雪村貴子とのケンカだった。
雪村貴子は私と違って、女子に人気があり、グループのリーダー格で、冷酷な感じの人間だ。
ケンカの原因は忘れてしまうようなささいなことだったが、私はついカッとなってしまった。
雪村は普段おとなしい私が猛烈な抵抗をみせたのが気にくわなかったのか、その次の日から私に対するいじめが始まった。
私の数少ない友達は巻き添えを恐れて私から離れていった。ユキだけは例外で、
「いつも一緒だよ」
と言ってくれるのだが。
そして今は私とユキだけが完全に孤立している。
さらに私は親とも仲がよくなかった。
両親が一人っ子の私によせる期待に私は反抗したのだ。
勉強は放棄したし、髪も染めた。
さすがに夜中出歩く気にはならなかったが、両親との溝は十分に深く広かった。
朝、吐き気と頭痛とめまいを私は訴え、学校を休むことにした。
もちろん仮病で、計画実行のためには時間が必要だったためだ。
昨夜考えぬいて思い付いた計画を実行する決心はついていた。
その計画とはずばり『自殺』である。
占いを信じて死ぬ予定の時間までびくびくしながら生きるのは嫌だ。
そして自分の信じなかった占いが当たるのも許せない。
さらに私には失うものがない─ユキを除けば。
以上のことを見事に満たすのが自殺だったというわけだ。
今日は自殺のやり方を考えるのに必要な1日なのだ。
軽い朝食をとって、インターネットを使い、どう自殺するかを考える。
まず、電車に飛込むのは無理だ。
相当痛いらしい。
同じくリストカットもだめだ。
次に考えたのが睡眠薬だが、これは入手が大変だ。
首吊りは失禁とか恥ずかしい。
さあ、どうするか。
が、ここで、倫理の先生が言っていたことを思い出した。
飛び降りは、落ちながら気絶するから痛みを感じない。
私は、これだ!と思った。
そうと決まれば、場所を決めなくてはならない。
どうせなら絶景がいい。
しかし、これは簡単に思い付いた。
去年の遠足で山登りをしたときに、山の頂上から見渡した景色の中に、立派なU字型の谷があったのを覚えていたのだ。
あとは遺書を書くだけである。
私はその文章の中でユキにひたすらあやまった。
ユキは人に好かれやすいから、私がいなくなっても変わりなく暮らせるのかな、と思いながら。準備は整った。
〈注意〉この小説に出てくる自殺についてのエピソードは事実と食い違うところがあるかもしれません。あくまで根拠のない噂です。決して真似をなさらないでください。




