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01 赤点と神様と精霊と

「呼び出しをします。3年2組 小野寺(おのでら)春季(はるき)、至急職員室まで来なさい」



いつもと変わらない休み時間。同級生は各々、仲の良い友達同士で雑談を楽しんでいる。活気溢れる男子生徒は教室内でチャンバラを始めていた。女子はそれを遠い目で見ている。そんな中一人、教室の隅でPSPに向かっている俺。見つかれば没収されることは分かっているが、見つかるか見つからないかのこのスリルがたまらなく好きだ。夢中でゲーム画面にかじりついていると周りの音が次第に遠のいていった・・・。



気がつくと休み時間は終っていた。いつの間に予鈴が、そんなことを考えながらPSPをしまった。


そして俺の運命の歯車はここから狂い始めた・・・。



「呼び出しをします」



予鈴のすぐ後に入った放送によって休み時間のあの騒音が嘘かのようにクラスがシンと静まり返った。

呼び出されたのは俺。

他の誰でもない俺。

学校でPSPをしていた俺。


ゲームのことがばれたのだろうか。


・・・こんな時こそポーカーフェイスだ。黙って教室を出ていかなければ緊張で職員室まで足が進まなくなる。正直言って呼び出しなんてされたこともない俺のチキンハートは今にも砕け散りそうだった。



廊下を歩きながらふと窓の外をみるとじりじりと太陽が照りつけていた。夏真っ盛り、といった感じの午後。真っ青な空に己の存在を主張しているかのように立ちはだかる入道雲。学校から見える海の向こうには蜃気楼(しんきろう)のようなものも見受けられた。そして俺はいつの間にかそんな自然の雄大な景色に見入ってしまっていた。


カクン、と視界が揺れた。ふわりと肩に人肌を感じた。

「春季?こんなところでどうした?放送で呼ばれてたよな」


横に視線を流すと話しかけてきたのは1組の学級委員長の春人(はると)だった。容姿も勉学にも欠点がなく、おまけに運動神経も抜群のいわばみんなのアイドル。性格も言わずもがな、誰にでも優しくわけ隔てをしない素晴らしい人物である。そんな非の打ちどころがないこいつは俺の実の双子の弟。そんな弟と正反対の俺は何も良い点がない。何故神様は弟にすべての才を渡したのか・・・。まぁ神様なんているわけないけど。



「いま行くよ。外、きれいだったから」


もう一度窓の外をみるとさっきまでの太陽はどこへ行ったのか、今にも雨が降ってきそうな曇天が空いっぱいに広がっていた。


軽く二度ノックをした後に職員室に入った。

ひんやりとした風が顔にあたった。クーラーのよくきいた職員室は仕事をするのにも、休むのにも最適だろう。その証拠にもうすぐ授業が始まるというのに教員はまだ授業に向かわない。


「おぉ、小野寺。やっときたな」


部屋の奥の方でメガネをかけた中年小太りの一條先生がこっちこっちと手招きをした。来客用のソファに座らされて待っているとおもむろに大きなファイルから一枚の紙を取り出した。


「?」

「小野寺、言いにくいんだが・・・前回の中間テスト、赤点があるの学年でお前だけなんだ」


一條先生は胸ポケットに入っていた万年筆を取り出し、机に万年筆をコンコンと考え込みながらあてている。


いやいやいや!ないないない!おっさん冷静に何サラッと言ってくれてんのよ!まじか・・・赤点とかまじか・・・。


「問題なのは赤点じゃなくて他の教科全部95点以上なのになんで英語だけ0点だってことだ」


0点・・・0点とかまじか・・・。いや、何の教科だか覚えていないけどテスト中猛烈な睡魔に襲われたっけ・・・いや、でも0点とかないわ。まじでないわ。


「すいません、俺英語苦手で」

「そうか。でもまぁ来年で高校生になるんだ。がんばってもらわないとな!」

「はぁ・・・」


申し訳なさそうに頭をかいて笑うしか今はできなかった。その笑顔も確実に引きつっていたと思うが。人生の初の赤点は英語。生まれて初めての赤点は堂々の0点。神様、なんでこんな試練を俺に・・・。俺に才能さえあれば。時間を戻す力とかあれば・・・なんてな、どこのドラ○もんだよ。


「「時間を戻したいか」」

「そりゃ戻した・・・いって、ん?」

「「ならば契約を」」


神様のお告げktkr。俺は突如、真っ白な何もない空間に包まれた。どこの神様かわからないけどこれは確実にフラグだ。いける。でもこれは夢なんだろうか。だって俺は赤点将軍だぜ?勇者のようなかしこい奴に神様のお告げがくだるならまだしも。こんなちゃらんぽらんな俺でいいのだろうか。でも夢ならさめないでほしい。


「神様。契約ってなんですか」

「「精霊の刻印を胸につければよい」」


精霊の刻印?なんじゃそら。どこのRPGだよ\(^O^)/

いきなり専門用語言われてもこっちはちんぷんかんぷんなんですが。


「「これを」」


目の前で黒い炎がゆらめいていた。そこからゆらゆらと煙が立ち上っている。それを見つめていると不意に胸にひやりと冷たい熱を感じた。痛みも何もないが妙な違和感だけが残っている。


「「契約、完了」」


視線を上げるとそこには少年が立っていた。真っ白な空間の中に全身を黒で覆っている少年が一人。いつの間に・・・。本格的にRPGのような雰囲気だ。紺碧の瞳。確実に日本人には見えない。片手には剣が握られている。・・・ん?剣?


「オレは精霊。これからお前とオレは二人で一つだ。オレはお前を守る。だからお前は自分を守れ」

「はい?」


しゃべった。なんというイケメソボイス。いや外見も既に泣けるほど良いのですが。なんですかこの謎の展開。守る?はい?バトルものなんて設定は聞いていません。了承できません。確実に死亡フラグじゃないか・・・。




俺の名前は小野寺春季。春生まれだから春季。

妙なスリルとゲームが好きな中学3年生。来年受験を控えてる身なのだがどういうことか赤点を取ってしまった。現実とはむごいもので、同情なんかしちゃくれない。自分で壁を越えて行けというわけだ。そんなとき、無神論者をいつも装っている俺の前に突如現れた神様のお告げ。なにやら時間を戻してくれるらしい。できれば小学校あたりからやり直せるのがベスト。と、考えていたが契約を交わすと現れたのは未来のネコ型ロボットでも、はたまたタイムマシーンでもなく歳は15、6くらいの精霊と名乗る少年。鬼畜神様は俺に見せつけるかのようにイケメソを用意したようだ。少女のような幼い瞳がまだ成熟し切っていない様を醸し出している。


何がなんだかわからないけど確実に普通の生活は送れそうもない。

鬼畜神様、こんな試練を僕に与えてくれてありがとう。

どうせなら赤点をなかったことにしてほしかったです。



ここから精霊と赤点少年の微妙な物語が始まった。














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