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金のランタン

20.金水晶の指輪

作者: 犬猫夜行
掲載日:2026/07/16


おや、いらっしゃい。お久しぶりですね。

あ、そうそう、こないだの、隣町の古物市へはいらっしゃいましたか?え?そんなどころじゃなかった?へえ、お忙しかったんですね。

私はちょいと行ってみたんですけどね。ウチで扱えるいいものがあるかもしれないと思って。

へへ、ウチもなにかと大変なんですよ、こう見えても。はたからは一日中、ただぼーっとこの古ぼけた店先にいる様に見えますけどね。日に何人も来ない様なお客さんを待ってね。

でもそこはそれ、ウチも生活かかってますからね。それで食ってかなきゃいけないんだから、よそ様よりももっと大変なんですよ。

で……そうそう、こないだの古物市で、おたくが以前から欲しいっておっしゃってた様な、小さな丸テーブルや、ちょっと年代ものの凝った額縁、なんてものお探ししたんですけどねえ、それがあいにくいいのが出てなくって。

いくらお客さんが欲しがってるからっていったて、わざわざ新品仕入れるのもへンな話しでしょ。だって、ウチ、古道具屋なんだもん。

あ、でも、そこそこにいい細工の襟止めやいい描きものの絵皿なんかはいくつか見つけましてね。いかがです?おたく、そういうのもお好きだったでしょう?おたくならお気に召しそうだと思って仕入れてきたの、いくつかあるんですよ。へへ、御覧になられます?

え、今日はそんなので来たんじゃない?

じゃ、いったい……え、おたくのご親戚が以前ウチでお買いになった?……ゆびわ?指輪?

え?でっかい黄水晶の……石の底に金の粉が沈んでるみたいに見える、黄水晶ってよりも、金水晶ってなカンジの……?

ええ、ちょっと待って下さいよ。ウチでそんなすんごいの扱った事、あったっけかなあ……?

ええとぉ……あ。ああ、あ、思い出した思い出した、思い出しましたよ。

はいはいはい、ああ、あれね、あれ。そうそうそうそう、あれはたいしたもんだったわ。あれは。

いやホント。ウチで扱ったものの中でも、一番いいもんだったわ、うん。凝った唐草模様細工の純金の台に、埋め込む様にはまってる、でっかい黄水晶のやつでしょ?でしょ?

あの純金の台だけでも、なかなかな値打ちもんだったけど……あの黄水晶、光の加減と見る角度で、キラキラキラキラ、いろんな色に見えたんだよな。ね、そうでしょ?それでしょ?

で、その黄水晶の指輪が、何か?

え?ええ、そうですよ。たしか……そうそう、先月だったかな?いやいや、先々月だったかなあ?

御夫婦でふらりとお見えになった方たちが買って下さったんだけど……で、その御夫婦が?おたくのご親戚?

へえ。そういえば、お顔が……え?伯父さん夫婦?へええ。そうなんですか。へえ。

え?ええ、そうそう、だから先月だったか先々月だったかに、ふらっとお二人でここへいらっしゃって……ありゃあ、お昼過ぎだったかなあ?ここの市であんまりいいものがなかったからって……ここにははじめていらして下すったんじゃなかったかなあ。

とにかく、おたくみたいに、ちょくちょくお顔を見せて下さる方たちじゃあ、なくってね。

ええ、で、別段これといったものがご入り用でいらして下さったんじゃなくて、ただホントにふらっとやって来て下さったみたいでね……

で、しばらくウチのものをぶらぶら御覧になられてて、それで、奥さんの方が、このケースの中の……ほれ、私が今肘ついてるこのガラスケースの中にあった、あの黄水晶の指輪にお気付きになってね。ええ、たしか。

それこそ、一目御覧になっただけで、これが欲しいっておっしゃって……で、奥さんが熟心におっしゃるもんだから、ご主人もどれどれって、御覧になって。で、ご主人も一目で気に入られたみたいで。

あの時、あれはウチの中じゃ一番値のはるもんだったけど、私が言った値で、よし買った、なんていせいのいい事をご主人は言って下さいましてね。

そりゃあ内心、ちょっと迷いはあったみたいだけど。なんせ値段が値段だったから。でも、値切ったりなんかはなさらなくって、私の言い値で、ぽんっ、とねえ。

あれは……あの指輪は、たしか、その前の日にウチに来て、ケースに入れたとこだったの。

で、その次の日にあの御夫婦が買ってって下すったから、ウチにはまる一日も置いてなかったってわけよね。

どの商品もそれくらい回転がよけりゃ、ウチも儲けがいいんだけどねえ。いやホント。

で?ええ、その指輪が元で?ケンカ?え、あの御夫婦が?

へえ、そりゃまた……御夫婦とも、えらくお気にいってたみたいだったからなあ、あれ。取り合いになっちゃったのかな。

ハハ、困ったねえ。まあいいものな事はたしかだったけど、うん。ケンカねえ。へええ。

え?で、そのケンカってのが?ただの夫婦喧嘩じゃすまなくて?

…え?何……?

ええっ、死んじゃったあ?

ええ、ちょ、ちょっと、今なんて……え?

殺……殺しちゃったの?ひえー、う、嘘でしょ、ちょっとアンタ。ええ、ホントに?

え、且那さんが?奥さんを?あの指輪を取られまいとして?大喧嘩のあげくに、ホント?

奥さんを突き飛ばして?それで家の柱でアタマ打っちゃって?打ちどこ悪くって?

その場で即死?

ひええ……そ、そりゃまた……。そりゃまた、ひどい事になっちまったもんですねえ。

へええ……。ど、どうも御愁傷様で……。

うわぁ、やだなあ、なんかこう、ウチもちょっと責任感じちゃうなあ。そんな事になるんなら……え?何?え?

で、ハナシはそれだけじゃない?ええ?それだけじゃないって……え?それから?

で、その時ケンカしてたのは?ご主人と奥さんの二人だけじゃなくって?

三人でケンカしてた?へえ、三人って……え?ご主人と?奥さんと?ご主人のおふくろさん?

つまりはおたくのおばあちゃん?へえ、その三人で?指輪を自分にゆずれって、ケンカしてたの?

へええ。で、それから、どうなったんですか?

だからその三人でケンカしてて、ご主人が奥さん突き飛ばして死なせちゃって……

え?はじめは?ご主人が突き飛ばしたって事は言わないで?事故だって、言ってたの?へえ。

で、あの指輪はご主人のものになって?ご主人がなんとしても手放さない様になっちゃって?ふーん……。

え、でも、それからすぐに?その翌々日に?ご主人のお茶に……ええ?ご主人のお茶に、ご主人のおふくろさんが?

……ええっ、ど……ど、毒ぅ?!

ええ、ちょ、ちょっとぉ、アンタ、それ、ホントにホントなのぉ?ねえ?それとも、私をかつごうとして、ワルイ冗談言ってるんじゃ……え、ホント?ホントにホント?

うわああ……う、うっそお。信じらんないなあ。にしても毒なんていったいどっから……え?鼠退治用の毒?へええ。まあ、そんなもんならどのお宅にもあるわなぁ。

でも、それを自分の実の息子に盛るだなんて、ちょっとまあ……なんておっそろしい事なんだろ。

やだやだやだ、怖いねえ。

で、毒を盛ったのは、おふくろさんもあの指輪が欲しかったから?

へええ……。なんてまあ……ゆ、指輪ひとつのためにまあ。へえ。

で?その騒ぎで?おふくろさん、お縄になっちゃって?そりゃそうだろうなあ。殺鼠剤なんかで殺しちゃったんじゃあ、誰が見ても、おかしなモノ盛られたって、わかっちゃうわなあ。

うんうん。どうせなら、もっと……いやいやいや、じゃなくってぇ。う、うん。

で?それで奥さんの事もおふくろさんが警衛官に言っちゃって?

へえ。まあそりゃそうだろな。お年寄りが警衛官にきついこと言われて取り調べられた日にゃあ、たいがいは白状しちまうよねえ。

え?で?それから?ええ、それからって……ちょっとぉ、まだなんかあるわけ?

わあ、なんですか、それ?なんかもぉ、聞きたく……え?

で、その次は?殺人じゃないけど?殺人の動機になったあの指輪を警衛官がいちおうあずかって?で?そのあずかった警衛官が?あの指輪を自分のものにしようとして捕まった?証拠品の保管部屋から持ち出そうとして?

へええ……。そ、そういうのって、魔がさしたってやつなんでしょうかねえ。へえ。

にしても、警衛官がねえ。ふーん。

で?そんな事が起こったから?あの指輪だけは亡くなった御夫婦の娘さんのとこにもどって?その娘さんってのが、つまりはおたくの従姉妹さんで?へえ。

で、その従姉妹さんも、あの指輪を手にするなり、えっらく気に入っちまって?やっぱり肌身離さずになっちまって?

へーえ。まあそりゃそうなっても仕方ないのかもしれないけど。何せあれだけの品物だったからねえ。にしても……なんともとんでもないお話じゃありませんか。

あの指輪一つのために、警衛官までも入れた四人の人間がそれぞれ、おかしくなっちゃったんでしょ?

へええ……。

え?で、それから?それからって……ええ、まだあるんですかっ?

じゃ、次ってのはそのおたくの従姉妹さんってのが……あら、やっぱり?

やだぁ。で、やっぱり、誰かに殺されちゃったんですか?わああ、またなんて……

え?でも今度は誰かに殺されちゃったとかいうんじゃなくて?死んじゃったにはかわりないけど?

原因不明の変死?変死?!

へえ、そりゃまたなんで?え?だからわからないから変死?ああ、そりゃそうだ、うんうん。

でも、いったいどんな?ええ、心臓病とかの持病なんてなかったのに?大病なんてのも今までまるでした事のない様な人だったのに?

それが自分の部屋で仰向けに倒れた格好のまんま?見つけられた時はすでに冷たくなってたの?

襲われた様な傷痕なんかはひとつもなくて?首を絞められた様な跡もなくて?毒を盛られた様子もなくて?部屋の物も取られた様子もなくて?

あの指輪をしたまんまで?警衛官も、(かね)やあの指輪めあての物取りの仕業じゃない事はたしかだけど?死因がさっぱりわからないって言ってるって?

目を開けたまんま……何かにびっくりした様な顔のまま、死んでたの?

へ、へええ……え?だからそれって、何かに驚いた拍子に、ショック死?したのかもしれないって?

でも……その驚いたものっていうのは、いったい……?

心臓の悪い人が、えらく驚いた時に発作を起こして死んじゃったのっては、時々聞くハナシだけど……でも、おたくの従姉妹さんってのは、心臓は悪くなかったって?

にしてもまあ……えっらいこってすねえ。お身内がたて続けに三人も亡くなっちゃったなんて。

で、おばあちゃんもお縄のまんまなんでしょ?うわあ……。

で……そ、その次はもう、ないんですか?

え、だから、おたくの従姉妹さんが亡くなってから、また、警衛官が指輪持ってっちゃったとか。

え?だから今その指輪は?おたくがあずかってるの?

へ、へええ……。そ、そりゃまた……

え?で……えっ、何?ちょ、ちょっと、な、何ですってっ、わあっ!ちょっとっ!こ、ここに持ってきてるって?!あの指輸をっ??!

ひゃあっ、やだやだやだやだっ!な、何だってまたそんな、アンタ……あ。

ああ。……うん、そうそう、これこれこれ。これだわ、これ。うん。このでっかい黄水晶。

いやぁ、私しゃ宝石専門じゃないけど、それでも商売柄、そこそこにいろんな石、見てきたけどねえ。こんなにすごいのはやっぱりないねえ。

石でもダイヤとかねえ、水晶よりももっと値打ちのあるのもいっぱいあるけど、でもこんなにでかくて、こんなに不思議に綺麗なのは、見た事ないねえ。すごいよねえ。

こうやって手にとって見てると、そりゃ大喧嘩の奪い合いになったって、不思議じゃない様に思えるよねえ。

で……それでまた何だって、これをここに持っていらっしゃったんですか?

あ、まさか……まさか、これをまたウチで引き取ってくれって……え?じゃなくて?

それも考なくもないけど、それはまたちょっとおいといて?聞きたい事がある?

聞きたい事って……いったい何を?

え?妙なもの?従姉妹さんが亡くなった時に?そのそばで?

何か妙なものを見た様な気がする?

はあ?え、何ですか、その妙なものって……?

へえ、おたく、従姉妹さんが亡くなった時、従姉妹さんの家にいたの?

指輸を手放す気にはなれないけど?でもやっぱり教会にでもあずかってもらおうかって、従姉妹さんに相談されてたの?

で、おたくがちょっと従姉妹さんの部屋から出た時に?従姉妹さんは亡くなってたの?

おたくが部屋に戻ってきた時はすでに、亡くなってた?

おたくが第一発見者なの?へええ。

で、今までのいきさつもあって?指輪欲しさに今度はおたくが従姉妹さんを殺しちゃったんじゃないかって?えらく疑いかけられちゃって?

へえ、そりゃまたお気の毒に。

え?でも?部屋を離れてた時は?ずっとお手伝いさんたちと一緒にいたから、疑いは晴れた?お茶入れる手伝いしてたの?お茶のたてかたにはうるさくて?

へえ。まあ何にしてもよかったじゃないですか。でなかったら、やっぱりおたくも警衛官にしょっぴかれて、今頃はおばあちゃんと一緒の牢に入ってたかもしれないじゃない?

で……?それでお手伝いさんと一緒にお茶持って従姉妹さんの部屋に戻ったら?

従姉妹さんがすでに亡くなってた?目をむいて、仰向けにひっくりかえってた?

で?その倒れてる従姉妹さんのそばに?

誰かが立ってた様な気がする?

黒い……人影?へえ、じゃ、そいつが犯人じゃ……

え?でもその人影は?一緒にいたお手伝いさんには見えてなかった??

ええ、見えてなかったって……何ですか、それ?

え?だから?おたくには見えた様な気がしたのに、お手伝いさんの方は、そんなの、いなかったって、言ってるの?

でも、おたくは見たんでしょ?え?はっきりと見たわけじゃない?

でも、黒い大きな人影がぼんやりと、従姉妹さんのそばにいた様に見えたのは、今でもはっきりと覚えてる?

へええ、ぼんやりとって……なんだかまるでオバケみたいじゃないですか。

え?もしかしれば、ホントにそれだったのかもしれない?なんだかそういう雰囲気のモノだった?

やだあ、よして下さいよぉ。そいつぁ、いくらなんでも……。

え?でも、確かに見た?黒い大きな人影?あれは何だって?

ええっ、そんなコト私に聞かれても……

え?この町の教会の?神父さんとこに持っていった?その指輪を?

で?神父さんが言うには?その指輪には?とんでもないモノが憑いてるって?

へえ、そ、そりゃまた……え?で?

その事は私も知ってるハズだって?気がついてるハズだって?

神父さんが言ってた?わ、私がぁ??

ええ、何でまた私が?え?そのとんでもないモノは……私と、この店に関係があるとかなんとかって?とにかく神父さんはそうおっしゃってた?

で、もうしばらくしたら、神父さんもここに来るって?

この指輪の……悪魔祓いに??

え、ええっ……って言われても、ちょっと……。

そう……あの神父さんがねえ。

あの神父さんはお年をお召しになっておられるぶん、いろんな事がお分かりになられるのねえ……。いやぁ、私もあの神父さんには子供の頃からとってもお世話になってるんだけどねえ。

まあ、このあたりの人達は、みんなそうだろうけど。

にしても……うーん弱っちゃったなあ。あの神父さんがそうおっしゃってるの?うーん……。

いやぁ、そうなんですよ、実はねえ……

知ってるんですよ。私。神父さんがおっしゃってるとおり、この指輪の事をね……。

おたくが見たっていう、その黒い影ってのも知ってますよ。

まあ、あの影がいったい何なのか、私にはわかりませんけども。

おたくは何だと思われますか?やっぱり指輪にとり憑いてるアクマか何かだと、思われます?それとも悪霊とか。

それってね……その指輪に棲み着いてるの、何でも“上級妖魔”とかいうらしいんですけどね。って言われても、私にはやっぱり何なのか、わかりませんけど。

自分で言ってたんですよねえ。あの影が。でも、悪魔だとか、悪霊だとか言ってる時もあるんですよ。

ホントはいったい何なんでしょうかねえ。

でね……その妖魔だか悪魔だかが自分で言うにはね、何でも、あれはその指輪の中にずっと昔から棲み着いてるとかでね。ええ、ウチに来るずっと前から。まあウチに来てからも、そこそこ経ってるんですけどね。

ウチのひいじいさんの頃には、すでにあったらしいから。

だからその指輪がいったいどういったいきさつでウチにあるのか、私は知らないんですよ。いやホント。どんな因果でこんなモノがウチに流れて来ちまったのかねえ。

店と一緒に、とんでもないモノまで引き継いじまったと思ってますよ、まったく。

子供の頃から指輪の事は知ってましたよ。で、店を引き継ぐ時、オヤジからハナシも聞かされてね。その時はそんな事、半分も信じちゃいませんでしたけど。いやホント。

でもそれからちょっとしてから、あの影が出てきましてね。私の前に。

私のジイさんやオヤジの前にもそうやって時々、姿を現してたらしいんだけど。

で、あの影からもちょとした事を聞いたわけ。

え?ああ、だから今までに何回か、私もあの影を見てるんですよ。というか、私の場合は、あのぼんやりとした姿だけじゃなくて、あいつの実体ってやつの方も見た事あるんですけどねえ。見てあんまり気味のいいもんじゃないですけど。

でもまあ、慣れちゃいましたよ。うん。そりゃまあ、最初はおったまげましたけどねえ。

とは言っても、私には別に害のある事をするわけじゃなし。

それどころか、あの指輸のおかげで、ウチはおおいに助かってるくらいなんですよねえ。

情けないハナシなんですけど。これだけの指輪が売れりゃあ、しばらくは食ってゆけますからね。

それだからこそ、ウチみたいな店が、いまだつぶれずになんとかやっていってるのよねえ。

いやホントにさあ。

え?ええ、だからね、その指輪は、その売れていった先で、おたくで起こった騒動と同じ様な事をいつも起こして、またウチに帰ってくるわけ。

……すごいでしょ?

あいつが言うにはね……あの影が言うにはね、あいつは、人間の度を超えた欲や執着心や憎悪を喰うために、ああいう騒動を起こすんだって。

で、そういうのを腹一杯喰ったら、またこうやってウチに戻ってくるのね。

今まで、ずーっとそうだったらしいのねえ。

ウチに来る前も、きっと人の手から手に転々と渡ってたんだろうけど。で、ウチみたいなさえない古道具屋がうってつけだと思われちゃったのか、ウチにいついちゃったみたいなのね。

にしても……へええ、あの神父さんがねえ。

その指輪を見ただけでわかっちゃったんですか?

へええ。聖職者って人たちは、そこらへんが私等みたいな普通の人間とはちがうんですねえ。

……いえね、その指輪がどっかで騒動起こした時にね、今までにも時々ね、そういった人たちが指輪を持っていらっしゃった事が何回かありましてね。

どっかのエライ、徳の高い司教様だとか、司祭様だとか。

で、その人たちは見事にその指輪の事を見破っていらしてね。

悪魔祓いや悪霊祓いしなきゃいけないって、おっしゃるのよねえ。

あと、ご自分のところで悪魔祓いしようとしたら、とんでもない目に遭っちゃったとかね。

うーん、仕方ないなあ。あの神父さんには、ウチもずいぶんと今までお世話になってるんですけどねえ。仕方ないなあ。

え?だから早く悪魔祓いしてもらえって?

うーん、そうですねえ。私もできたらあーいうのとはもうかかわりたくはないんですけどねえ。でもウチも食ってかなきゃいけないし。

やあ、でも、なんかこう、すっきりしちゃったなあ。おたくにハナシ聞いてもらって。

こんなハナシ、人様にするわけにもいかないでしょう?

ええ、そうなんですよ。今まで誰にも話した事、ないんですよ、もちろん。

ウチのカミさんだって知らないの。この指輪の事は。

まあウチの息子には、ゆくゆくは話さないといけないんだけどね。

誰かに買われていったまんま、もう帰ってきて欲しくない気もするんですけどねえ。

え?だからどうするつもりだって?うーん、困ったねえ。え?神父さんが許さないって?うん、そりゃそうだろうねえ。弱ったなあ。あの神父さん、とってもいい人なのに……。

私としちゃあ、あの神父さんを、今までウチにお見えになった、司教さんやら神父さんたちみたいな事には……。

ええ?神父さん、呼んでくる?

ああ、どうぞ。……と私は言いたいところなんですけど……

おたく、気付いてらっしゃいました?

ほら、おたくのその後ろ。あいつがさっきから来てますよ。ほら、そこの黒い影。

おたくが見たっていうの、それでしょう?

おたくのお迎えに来たみたい。

いや、ホントにお気の毒なんだけど。

あ。……ああ、神父さん。やあ、いらっしゃいまし。お久しぶりで。いつもお世話になりっぱなしで。


いやあ、ちょうどいいところに……




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