表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

クペレの宝珠

  古代神殿


 凍った雪の上を、滑らないように歩いていく。

やがて、雪や氷が消える。

「なんだか、整えられているな」

ルストが言った。

「太古の街道の跡? 山頂の神殿への道?」

「女神神殿。棄てられた街道。山越えの街道から山頂へ向かうと、その神殿があると。そこは、大地を創った神々の一柱である女神を祀っていると。古の冒険者の間では、参拝すれば祝福を受けれて、願いに近づけると云われていたが……」

ハイドが言う。

「だから、そこへ行けば、クペレの宝珠への道が解ると」

「言い伝えを集め、各地を巡っていた冒険者。その冒険者が書き記した場所。イディオム様の話していた場所が、イス。でも、女神様って、気配じゃあないんだけど」

レシスは、前方に見えてきた神殿を見て言った。

「て、いうか。魔族っぽい気配がするのだけど」

プラティは、高く飛び上がり辺りを見回した。

「うーん。確かに妙だけど。嫌な気配では無い。それでもいいから、廃神殿でもいいから、休みたい。少し休んで、魔力を回復させたい」

レシスは、息を吐き言った。


 レシス達は、神殿の入口まで来た。

「こんな山の上に、よく……。古代の人は凄い」

と、ナリス。

「まあ。今では無理だよなぁ。失われた技術ってやつ?」

ルストは、神殿を見上げた。


風化している白い石。なにをモチーフにしているのかは、もう解らないが荘厳な造り。

「この辺りだけ、雪や氷がないのは魔法かなにか?」

ルストが問う。

「そう、結界」

プラティが言った。

「古代の結界。それが生きている。女神を祀っていない……? でも、結界は機能している」

ハイドは、警戒しながら内部を覗く。

「古代神殿の中でも、かなり古い。イディオム様の話や伝承とも違う」

レシスは考え込む。

ふと、プラティが飛び上がる。

「……私、思い出した。聞いたことがある。クペレの宝珠を手にした者がどうなってしまったかを。恐い物語を」

プラティは、異様な空気の漂う神殿の奥を見つめた。

「クペレの宝珠を手にした人間が、魔族と手を組んで世界を我物にしようとした。生命に、闇と破壊を見せつけた。各国の王たちは王軍を、その者に向けたけれど誰も戻らなかった。世界は生命は混乱し、均衡を崩してしまいそうになった。そんな時、一人の少女が現れて

『闇の中でも、苦しみの中にあっても、希望さえ忘れなければ寂しさは消せる。私が、その希望へと導きましょう。と、絶望している生命に語りかけた。

そして、クペレの宝珠を手にし闇王となった者に、戦いを挑んだ。そして、少女は闇王を封印し、クペレの宝珠を取り戻した。クペレの宝珠を手にした少女は、世界を修復すると、クペレの宝珠を手の届かない何処かに安置した……』その手掛かりは、雲の上にある神殿」

と、プラティは語った。

「似たような話は幾つかあるが。この場所が、一番ソレに近い。だから来たんだ」

ハイドが言う。レシスとナリスは頷いた。

「なあ、中を調べてみないか?」

ルストは言って、石畳の通路へと足を踏み入れた。


「ここは、禁足地。気安く足を踏み入れてはならない」

何処からか、低く冷たい声がした。

「なにもの」

ルストは、反射的に剣を抜いた。レシス達も、戦闘態勢になる。

「俺は、クペレの宝珠を探しているんだ」

ハイドは、剣を抜いて虚空に向って叫んだ。

「――はあ。これだから、人間というものは」

溜息混じりの声が、別の場所から聞こえた。

「欲望の匂いがするな、デルよ」

「そうだな、ギル」


神殿の中というよりも、虚空から二人が姿を現した。

「双子の……エルフ?」

プラティは、不思議そうに、その二人を見た。

「我々は、エルフであり人間であり魔族でもある。そして、そのどれにも属さない存在。古来より、クペレの宝珠を手にし、その力に溺れ闇王をなりし者に仕えてきた……」

「人間や魔族に限らず、欲深で愚かな者は、そうして身を滅ぼしてきた。それは、古来より幾度も繰り返された。お前達も、滅びへと向かうのか?」

どちらがどっちなのか、判らない。

「私は、ただ、クペレの宝珠が存在するなら見てみたいだけよ」

レシスは、喧嘩口調で言う。

「なにも、闇に堕ちることはないわ。叶うなら、知識が欲しいだけ」

ナリスが言った。

「そうだ。ただ、護りたいものを護る力が欲しい。それを求めて悪いのか?」

と、ハイド。

すると、双子はレシス達を見つめて、お互いを見る。

「――同じ道を辿ると思うか? ギル」

「そうだな……。少し違う感じがあるが。どうだろう? デル」

すると、デルの方は溜息を吐くと

「でも、ね。ここには、”クペレの宝珠”は無いのだよ。遠路遥々来たのにね」


 強く突き刺さる突風が吹き抜ける。

それ以上に、冷たい視線と口調。


「なんだって、ここにあるはずじゃあ?」

ルストが、喰って掛かりそうになる。

レシスは、何か言いたげに、二人を見た。

「それは、古来より言い伝えられてきたモノが、あるというだけ。神話の書物や宗教観の文書。伝承を集めて語る吟遊詩人などから、色々入り混じり派生したモノだから。人界で語られる話が真実とは、限らない」

双子が言った。

「でも、ここは古の女神神殿では?」

と、ナリス、

「まあ、表向きは、ね。確かに、女神は祀られている。でも、それは、お前達のイメージする女神ではないが……」

「それじゃあ、ここは?」

レシスが、問う。


『ここは、区ペでの宝珠を手にし、心の闇が暴走し闇王となり、封じられて者の墓所』

声を重ね、双子は静かに言った。

「闇王? 魔王のこと? そのモノ――闇王を封じて?」

レシスは問う。

「そう、墓所。我等は、その者達の眠りを護る者」

ギルが答えた。

「女神を祀っているのは、旅人や巡礼者に祝福を与える為だけでなく、教訓を示すため。そして、女神自身が封印の役目。故に、現世には姿は無い。我等は、墓守であると同時に封印を護る女神に仕えている。お前達が、思っている以上に古より遥か遠い時代よりな」

と、デル。

墓守の二人は、レシス達を、じっと見つめる。

そして、小さく頷きあう。

「それじゃあ、クペレの宝珠はどこにあるんだ? そもそも、実在しているのか?」

ルストが問う。


 沈黙が続く。

風が吹き抜ける音のみ聞こえる。


「北の最果ての孤島・エレド」

溜息を吐くと、皮肉混じりに、ギルが答えた。

「……なるほど、絶対に辿り着けない場所だな」

諦め口調で、ハイドは言った。

「船では無理だ。岩礁と激しい荒波、岸壁に囲まれた島だからな」

デルが言う。

「そんな場所、どうやって行けばいいの?」

ナシスは、二人に問う。

「さあね。行きたければ、そこにいる聖霊にでも聞くといい」

その言葉で、プラティに視線が集まる。

「ええ? なんで、私に? 私も、そんなこと知らない……」

プラティは困惑する。そして、難しい顔をして考え込む。

「なにか知っているなら、他にあるな教えて」

レシスは、二人を問い詰める。

「知っていても、教えない。これ以上の、オモリは嫌だからな」

ギルは言って、神殿の奥を見た。

「クペレの宝珠は、創生にも破壊にもなる。光にも闇にもなる。だけど、いつも闇と破壊になる。ソレは、やがて滅びにもなる」

ギルは静かに、諭すように言う。

「そんなこと言って、本当はここにあるんじゃないのか?」

と、ルスト。

「それはない。我等は、封印されし者達を護りながら、眠りを妨げる者を排除する使命があるのでな。ここに眠る者達は、何者にも手出しさせない。――古の盟約において」

デルは、静かに言った。

「我等は、古き古き種族の生き残り」

ギルは言った。

「古の盟約……古き種族?」

レシスが問うが、二人が答える事は無かった。


「行くがよい。クペレの宝珠を求める者達よ。我等は、ただの墓守」

「クペレの宝珠が、お前達を呼んだのであれば、辿り着くことが出来よう。――そのことに、敬意を評して地上へと送り届けよう」

二人が手をかざすと、レシス達は光に包まれて、その場から消えた。

残った墓守は、

「あの者達は、大きな運命に関わっているな」

「ああ。強い運命。たが、ひとつ気になることが……」

「直接は関係ないようだが?」

「他にも、クペレの宝珠を求めている存在がいる。おそらく、その者は闇王となる末路……」

「面倒だな。その前に、あの者達が、気付いてくれるとよいが」

「さあ、どうなることか」

双子の墓守は、じっと空を見つめた。




 光が収まり、レシス達は恐る恐る目を開く。

「……ここは、え、ウエトの町?」

ナリスが、辺りを見回した。

「空間転移魔法」

プラティは、呟いた。

「それって、失われた古代魔法?」

レシスが問う。

「うん。ずっと昔には存在していた。でも今では、エルフや私達聖霊でも、使える者は殆どいない」

「はあ。振り出しに戻った……。場所は示されたが。それが本当なのか。それに、エレドだとしても、どうやって行けばいいんだ」

ハイドは、木々の間から見えるイスを見つめた。


 レシス達は、ウエトの村に戻り、少し休むことにした。

レシス達が戻ると、宿の主人や村人は驚き、安堵の息を吐いた。


 クペレの宝珠があると、示されたエレド。

最果ての島とも呼ばれる。無数の岩礁と激しい荒波に囲まれ、岸壁の島。

誰も、立ち入ったことがないので、どのような島なのか、そこで暮らしている者がいるのか、謎に包まれている。

「プラティは、エレドが、どんな場所なのか知っている?」

ナリスが問う。

「知らないよ。私も始めて聞いた。でも、リカリニアへ行けば何か解るかもしれない」

と、答えた。

「リカリニア国かぁ。大地母神と生命の宝珠を祀っている神殿がある。昔、母様が色々とあったって話していたけれど、なにがあったのだろう?」

レシスは、言って考え込んだ。

「だったら、リカリニアに行ってみようぜ」

ルストは、明るく言った。



  リカリニア国。大地母神


 大陸と大陸を船で渡ること、数日。レシス達は、リカリニア国に来た。

リカリニア城下街は、賑わっていた。大通りの両側には、色々な店が並んでいる。

「宿屋とかは、何処にあるんだ?」

ルストが言う。

「確か、大通りを外れ神殿との間あたりだったような」

と、ハイド。

港から大通りを歩き、噴水のある十字路で立ち止まった時だった

人混みから声がした。

「シェイラ様?」

レシス達に、向けられた声。

「シェイラ様ではありませんか?」

レシス達に声をかける、老齢の男。

レシスは立ち止まり振り返る。

「えーーと、シェイラは、母の名前ですが……」

「申し訳ありません。人違いで――母?」

老齢の男は、レシスを見つめた。

「シェイラは、私の母ですが」

レシスは困惑気味に答えた。

「――すると、噂の御息女」

老齢の男は驚いた顔で、レシスを見た。

「また、間違えられたな。似ているもんな、見た目だけでなく雰囲気まで」

と、ルスト。

「そうそう、私達も間違えたもん」

プラティが言った。


 戸惑っている老齢の男に

「なにか、御用があるのですか?」

ナリスは、不思議そうに問う。

すると、老齢の男は

「いえ……。以前、シェイラ様には、大変お世話になりまして。まさか、再び――御息女に、おいでくださるとは。これも、大地母神のお導き」

と、恭しく言った。

「その服装、大神官だろ。さっきからの様子にして、なにか神殿で問題でもあったのか? レシスから、母親が生命の宝珠に関係していると、聞いたけど」

やりとりを見ていた、ハイドが言った。

「そうですね。察していただけるなら。皆様、ご一緒に神殿へ……。申し訳ありません、名乗り遅れました。私は、アラカ。大地母神に仕える者です」


 レシス達は、大神官アラカと共に、生命の神殿へ向った。

大地母神を祀る神殿。ひっそりとしていて、人の気配は無い。

「アラカ、遅かったな。そちらの者達は? ――シェイラ殿? そんなまさか」

「いえ、シェイラ様の御息女と仲間の方々です」

アラカは、レシス達を紹介する。

「レシスと申します」

「よく似ていらっしゃる。申し遅れた、私は、この神殿の長。ルサール。シェイラ殿には、色々と力になって貰った」


 レシス達は、これまでのことを話した。

「――なるほど、そなた達は、クペレの宝珠を探しているのだな」

食事をしながら、話をする。

「はい。母様も探していたと、聞いていますが。詳しい話は……」

レシスが、問う。

「ああ。少し長くなるが……」

ルサールは、語り始めた。

「シェイラ殿は、神殿の……いや、リカリニア国の恩人だ。そして、世界の均衡を守ってくれた。シェイラ殿は、クペレの宝珠を求めていたけれど、魔族が奪っていたモノは、生命の宝珠だった。それを、取り戻してくださった。結局、シェイラ殿は、クペレの宝珠を探求するのを諦めて、マウートの神官と一緒になった」

と、ルサールは語った。

「レシスさんの、お父上は神官だったの?」

ナリスが問う。

「うん。その流れで、私も一応神職の資格はあるんだ」

「レシス殿は、クペレの宝珠を、どうするつもりだ?」

ルサールが問う。

「この目で、見てみたいだけです」

「しかし、その話からすると、やはり本当かどうかも解らないのに?」

レシス達は、顔を見合わせる。

「最果ての島エレドに、あると聞きました」

レシスの答えに、ルサールは驚く。

「ある情報がありまして」

と、ナリス。

「言っておくが、そこは秘密だからな」

ハイドは、キツめに言った。

レシスは、万年雪を抱く山脈イスへ言ったことは話したが、墓守の話はしなかった。

「――で、この国へ来たのは?」

「プラティが、この国にエレドへ行く手掛かりがあると……」

レシスは、テーブルの端に座っているプラティを見た。

「聖霊が?」

ルサールは、プラティを見る。

「聖霊のあいだに、伝わっている物語があってね、それと関係しているんじゃあないかと思って」

プラティは言って、目を閉じると

「――空に浮かんでいる舟 雲のように空を越えて 生命と夢と希望を与えてくれる。空と大地との絆の舟――。それは、生命の大地に伝わるんだって」

と、言った。

「まさか、久遠の舟」

ルサールは、手を止めて呟いた。

「知っていらっしゃるのですか?」

ナリスは問う。

視線は、ルサールに集まる。

ルサールは、少し戸惑った素振りをみせたが

「ああ、伝説として。久遠の舟は、生命神が生命の種を撒くのに使った舟。その舟は、大地母神が抱き眠っていると」

と、答える。

「どこにあるの?」

プラティが問う。

「――シェイラ殿の御息女、信じてみるか……」

ルサールは、内心呟いて

「あくまでも、伝承として。その舟は、生命の森に眠るとされる」

と、言った。

「生命の森、それはどこに?」

ルストは、問う。

「街の、南にある河を越えた先の土地。人を寄せ付けない深い森の奥に、エルフの住む場所がある。もし、そなた達が選ばれた者なだ、導かれるだろうな」

ルサールは、地図に印を付けた。

「では、ここへ行けば手掛かりがあるんだな」

と、ハイド。

「おそらく。私は、確かめたことがないので、本当なのかは解らないが……。伝え聞く話として」

ルサールは答え

「しかし、クペレの宝珠は、心の中にある闇を暴走させるというのであれば、好奇心なのか、知識技量や力を求めるのは、それぞれだが、暴走させて世界を壊すことなどせんでくれよ」

ルサールは、レシス達をじっと見つめて言った。



   久遠の舟


 翌朝。レシス達は、生命の森へと向かい、街を出た。

街道は奇麗に整備されているが、往来する冒険者は武装していたり、行商人の中には護衛を付けている者もいた。

「やはり、ここでも魔物は増えているようだな」

そんな人達を見て、ハイドは言った。

「街でも、護衛を求めたり、受けていたりしていましたね」

と、ナリス。

「人里を離れれば、魔物と出くわしそうだ」

ルストは、溜息を吐いた。

「なんだか最近、魔物が増えて凶暴化しているよね。アイツだって、そうだったし……」

「精霊達は、大丈夫なの?」

レシスが問う。

「大丈夫だと、思いたいよ」

「まあ。レシスが、強い魔法で」

「ルスト。高位魔法は、魔力体力の消耗が激しいの。魔力切れすれば、私の力では無理だよ」

レシスは言って、ルストの耳を引っ張った。

「いってて。ごめん。解っているって。俺も、剣の腕を磨かないとな」

と、言った。


 生命の森は、街道を外れて南へと向かう。

道はあるが、地元の人間が使うような簡易的なもの。

「大陸が違えば、植物も少し違いますね。生命の森というだけで、カラトに勝らず豊かですね」

ナリスは、森を見た。

「この辺りには、私達の様な聖霊はいないみたい。もっと、近くに行けば気配とかで解るかな」

プラティは言って、空を見上げる。

「あ、雨」

ポツポツと、雨粒が落ちてくる。

「やだな。確か近くに、小さな集落があるはず」

レシスは、地図を見た。

「本降りになる前に、着きたいな」


 森の辺ににある、小さな集落。その小さな宿屋。

「へー。宝探しの旅ですか。珍しいですね」

宿の女将は言った。

「はい。探しているものが、生命の森にあるという話を聞いて」

レシスは言う。

「生命の森……ですか? あそこは、人間は入れませんよ。立ち入ったところで、どういうわけだか、元の場所に戻ってきてしまう。それでも、無理矢理進めば、戻ってこれなくなる。それで、この辺りでは、迷いの森として畏れられてします」

女将は言う。

「――そうですか」

「数年前にも、トレジャーハンターが、私達が止めるのを聞き入れず、森へ入り込んで、それっきり。それからしばらくして、森の外で……」

女将は言葉を濁した。

「それに、魔物も増えた。王都には言っているものの、討伐隊をよこしてくれない。腕が立つ冒険者やハンターなんか、こんな小さな集落までは来てくれない。どうせ、行くのなら、魔物を狩ってくれよ」


 宿の部屋で。

「集落の人は、森を畏れているようだな」

ハイドが、切り出した。

「そうだな。やんわり釘を刺されたな」

と、ルスト。

「迷いの森。もし、そういう力のある森だとしたら、やっかいですね。レシスさん、なにか考えでも?」

ナリスが問う。

「エルフが暮らしているのなら、結界だと思う。特に、人間とか外的に。プラティ、どう思う?」

「その結界が、レシスの言うようなものなら、私には効かない。結界魔法の仕組みが解れば、解呪出来るかも」

少し得意気に、プラティは答えた。

    

 翌日。レシス達は、生命の森と呼ばれる森へと来た。

「カトラの樹海とは、また違った感じだな。ここまで、来るのに、魔物は姿を見せなかったけど」

ルストが言った。

「デルと言われて、警戒していたのに。良かったです」

ナリスは、一息吐いた。

「さて。少々懐かしい気配がする。人間避けの結界が森全体に張られているぞ。どうするつもりだ?」

ハイドが問う。

「無理矢理破るのは、無理そうだね。プラティ?」

レシスは、プラティを見た。

「無理。でも、聖霊の仲間としてなら、入れると思う」

言って、プラティは、レシス達の額にキスをした。

「よし。それから、私の後ろを離れずについて歩いてね」

プラティは、聞き取れない言葉で、呪文を呟く。

そして、草木生い茂る場所へ入った。

「え、道が」

ナリスが驚く。

「エルフや聖霊の道……」

ハイドが言った。

「このまま、ついてきてね」

プラティは、その道を進んで行く。

「凄い。なんで、道が見えるようになったんだ」

と、ルスト。

「ひみつ」

レシスは、笑って言った。


 森の中、細い道が続いている。木々の葉で、空は見えなかった。

プラティに、続いて暫く歩くと、開けた場所があった。

そこには、数人のエルフがいた。そして、プラティとレシス達に気付くと悲鳴をあげた。

「わー。ちょっと待って」

プラティが慌てて、エルフの顔に飛びついた。

「ええ。なに? 人間……。え、聖霊?」

「聖霊の、お呪いだけど。外の人間よ」

拒否感が強く漂う。

「私達、お願いがあって来たの」

プラティが言った。


「――シェイラさん? いえ、似てはいるけれど違う。誰?」

エルフの一人。他のエルフより年上に見える。

「シェイラ様の娘、レシスよ」

プラティが言った。

すると、エルフ達の警戒が少し緩んで

「嘘……。ああ、人の世は流れが早いのだった」

しげしげとレシスを見る。

「今、シェイラの娘と、聞こえたのだが」

森の奥から、初老のエルフが姿を現した。

「長。この人間達、聖霊と一緒に」

「よい。解っていたこと……。それに、シェイラには恩があることだ」

初老のエルフ長は、レシス達の前に来て

「ここへ来た理由。あちらで聞こう」


 エルフの長に連れられ、レシス達は森の中を歩く。

「ただの森ではなく、集落がある」

ナリスは、辺りを見回す。

「俺の故郷と、似ている」

ハイドは、呟き下を向いた。

「迷いの森の呪は、一時的に無効にしたから。お主達に敵意は無い事は、解っている」

一軒の木造りの家へと、案内される。

「さて。お主達の口から、直接聞こう」

長は、机につくと言った。

「久遠の舟が必要なの。最果ての島エレドに行くために」

レシスが、これまでの話をした。

「ほお。色々と巡っているのだな」

と、長。

「クペレの宝珠が、本当に存在しているのか、確かめたいだけです」

「ただ、見るだけか?」

エルフの長は、レシス達をキツイ目で見つめて言った。

「そうね。確かに、思うような知識を手に出来たとしても、自分の中にある闇が暴走したら怖いと思える」

ナリスは、自分の肩を抱く。

「――そうだな。あんなものを見たら、迂闊に手にするモノではないと。俺の中には、力だけでなく、復讐がある。手にすれば、暴走させそうだ」

と、ハイド。

「闇王か」

エルフの長は、虚空を見つめ呟いた。

「……これも、また」

と、小さく呟き。

「信じさせてもらおう」

言って、控えていたエルフに指示を出す。

「久遠の舟へ、案内しよう」

言って、立ち上がった。


 レシス達は、エルフの長に導かれて、天へ向かう塔の様な神殿に。

「これも、森の外からでは見えぬ。そこにあって、そこにない」

長は言った。

神殿の内部、長い階段を登って最上階へ。

そこには、空へ伸びる桟橋があり、透明に輝くガラス細工のような舟が安置されていた。

「これが、久遠の舟。生命神が創り出し、大地母神が種を撒くのに使ったとされるものだ」

エルフの長は言う。

「選ばれ、呼ばれた者しか乗れない。私が、知る限りでは、一人だけ。それもまた、伝説」

と、舟に触れる。

「――今は失われし、星のクリスタルで創られたと、聞かされている。万物が生まれし時には、多くあったとされるが」

エルフの長は言った。

「乗っても、大丈夫なのかしら」

ナリスが問う。

「ああ。舟が見えているのなら」

と、エルフの長は笑う。

「母様は、どうだったの?」

「シェイラは見えたけど、乗らなかった」

と、答え

「彼女は、他のモノを見つけたから」

レシスを見て、エルフの長は言った。

「それは?」

レシスの問いに、エルフの長は微笑むだけだった。

「さあ、乗りなされ」


 レシス達が、久遠の舟に乗るのを見て、周りにいたエルフ達は、驚いていた。

「久遠の舟よ。この者達を、最果てのエレドへ」

エルフの長が言うと、舟は光のベールに包まれて、浮かび上がった。

「シェイラ。……時が動き出した。受け継がれた思いは。確かに、お前の娘達は、選ばれ呼ばれた」

久遠の舟を見送り、エルフの長は呟いた。


 レシス達を乗せた久遠の舟は、厚い雲を突き抜けて、雲の上へと出た。

「凄い、雲の上に浮いている。空が、何処までも青い」

レシスは、はしゃいだ。

「信じられない」

ナリスは、舟の下を覗き込み

「雲の海みたい」

と、言った。

「信じられないけれど、現実なんだよな」

ルストは、頬をつねった。

「クペレの宝珠。単なる伝説では、なさそうだ」

ハイドは言って、天空を見上げた。



  クペレの宝珠


 久遠の舟は、最果ての島エレドへと、降り立った。

降り立つと、舟を包みこんでいた光のベールが消える。

「うわっ、なんなのよここ」

プラティは、驚き大きな声を出した。


 そこは、ただ広がる荒野と濁った空が続いていた。

「……最果てというだけか。まるで、イスの山頂みたいだな」

ハイドは、言って俯いた。

「夢物語ではないのですね。まるで、試されている。そんな感じです」

ナリスは、溜息混じりに言う。

「呼ばれた者にしか、辿り着けない。でも、こうして、ここまで来た。きっと、この先も試されるんだ

と、レシス。

「ねえ。向こうに、城だか神殿だかがあるよ」

飛んでいたプラティは、レシスのもとに戻り、丘の向こうを指さした。

レシス達は、顔を見合わせ頷くと、歩き始めた。


 荒野の丘を越えると、巨大な建物が見えた。その建物以外、なにもない。

そこを目指して、歩き続ける。

「生き物の気配がしない」

ナリスが言った。

「そうだな。鳥や虫もいない。もしかしたら、生者の世界ではないかもしれん」

と、ハイド。


 荒野を歩き、その建物の前へと来た。

「闇王の墓所と造りが似ている。これも、古代神殿?」

ハイドは、建物を見上げる。

「扉、閉まっているぞ」

ルストは、建物の扉を押したり引いたりしていた。

「鍵が、かかっているとか?」

と、ナリス。

「封印されているのかも?」

レシスが、扉に触れた。

 その時、ギギィと重い音をたてて扉が開いた。

「おお? な、なんだ、これ?」

ルストは、驚きを上げて後ずさった。

「うそ、空間が歪んでいるの?」

レシスは、中を見て言葉を失う。

同じく、ハイドやナリスも。

「幻覚ではないみたい。砂は、本物だよ」

と、プラティ。

レシス達は、戸惑いながら、扉の中へと入る。

「――扉が、消えた」

振り返り、ハイドは言った。

「これきっと、建物の中か、転移魔法で飛ばされたかだよ」

プラティは言って、空を旋回する。

「なにも見えない」

と、戻ってくる。

「とにかく、このまま進むしかないみたいだね」

レシスは言って、歩き出す。

「何処へ行けばいいのか、解るのか?」

ハイドが問う。

「いや。思いのまま。道標も目標も無いなら、思いのまま」

レシスは答えて、歩く。

仕方無いなと、皆、レシスに続いて歩く。


 その砂漠は、果てな続いている。

「なんだか、嫌な夢を見ているみたい」

レシスは、呟いた。

その時だった

「――そうとも、ここは、クペレの宝珠を求め旅に彷徨した者の記憶」

レシス達の前に、異形の者が姿を現した。

「何者、魔族か?」

ルストは、剣に手をかけ言った。

ハイドも、剣に手をかけた。

「我は、クペレの宝珠を封じ護りし番人」

鼻で笑い、番人は答えた。

「同胞より、聞いたのであろう。そして、ここへと来た。呼ばれた者、奪う者。そして、闇王となる者。ここは、クペレの宝珠を封じし空間」

と、言い。

「そなた達の心、その闇を曝け出し、試させてもらう。まことなる心があれば、砂漠を越えてすぐにでも、封印されしクペレの宝珠のもとへ、行けるだろう」

と、言い残し姿を消した。

「――すぐにでもか」

ハイドは、何も無い砂漠を見つめた。

「もし、自身の闇が、クペレの宝珠を害するものなら」

ナリスが、泣きそうな表情で言った。

「心の闇と、抱えている感情は違うよ」

レシスが言う。

「俺なんか、興味とかは物語くらいだもんな。ここまれくれば、本当だったんだなと」

と、ルスト。

「私も」

プラティが言った。


 レシス達は、砂漠を進む。

まるで本物の砂漠のように、太陽が照りつけ、渇いた風が吹く。

「――俺は、はじめ復讐するために力を求めていた。それは、認める。でも、それは……そうしたことで故郷は家族は戻らない。……解っているんだ」

ポツリと、ハイドは呟いた。

「そうね。私は、どんな病を治せる医法術師になりたかった。だから、あらゆる知識を、クペレの宝珠に求めていた。でも、それで得たモノが病に苦しむ人にとって、良いものではないのね。知識は大切だけど、それより大切な思い……」

と、ナリス。

「クペレの宝珠。探すのは子供の頃からの夢。ずっと探し求めていた。なぜ、旅に出るまで。今も解らない。呼ばれたと言われたけれど、どうして呼ばれたんだろう?」

レシスは、汗を拭って言う。

 砂漠に一陣の強い風が吹き抜けた。

砂粒が、レシス達に向って吹き付けてきたので、思わず目を閉じた。


 目を開くと

「え?」

レシス達は、驚いて見回す。

そこは、暗い神殿の回廊だった。

「また?」

と、ルスト。

「見て、光があるよ」

プラティは、回廊の先を指差した。

光に向って進むと

レシス達は、光に包まれ再び目を開くと、

そこには、宙に浮いている光の塊があった。

「まさか、これがクペレの宝珠?」

プラティが言った。

「――そうだ」

先程の番人が、現れ言った。

「この光の塊? が?」

ルストが、光の塊を指した。

すると、番人は頷いた。

「まさか、お宝で物質の宝珠とでも思ったか。まあ、玉に見えなくもないが。そういうカタチがあってカタチのないものが、神話や伝説の中で、宝珠となったのだろうな」

と、言う。

「私も、宝物の様な宝珠だと思っていました」

ナリスは恐る恐る、光の塊を見つめた。

「皆に、どう伝えれば良いんだよ。クペレの宝珠は、光の塊?」

プラティは、光の塊に触れようとしてみたが、すり抜けた。

「実体がないの?」

と、問う。

「そうだ。エネルギー。そのモノと言えばいいのか?」

答えて、番人も光の塊を握るが、握れない。

「なんか、人間が昔から、財力や権力の為に追い求める宝珠とは、どんな美しい宝珠かと思ってたから、なんだか、拍子抜け」

と、ルスト。

「存在していた。でも、なぜだろう。なんの感情もない。心の中では、解っていたんだよ、な」

ハイドは言って、大きな溜息を吐いた。

「そうか、そういう。これで、旅は終わり。風のような日々は終わり」

レシスは、光の塊を見つめ言った。

「――それでは、この空間を閉じさせてもらう。そなた達は、久遠の舟を戻し、帰るがよい」

番人は言う。

すると、光が溢れた。


 レシス達は気が付くと、久遠の舟の中にいた。

久遠の舟は、雲の上を進んでいた。

「夢でも幻でもない。あれが、クペレの宝珠だったんだ」

レシスは呟く。


 久遠の舟を、生命の森の神殿に返し、エレドであったことを、エルフの長に話した。

エルフの長は、静かに頷くだけだった。

レシス達は、リカリニアの港街まで戻ってきた。

「私達は、ガイアナの神殿に寄って、マウートへ戻るわ」

と、レシス。

「私は、しばらく旅を続けます」

ナリスは言い

「お世話になりました」

と、頭を下げた。

「また何処かで、会えるといいね」

レシスが言った。

「ああ、そうだな、なにかあれば、この港へ来ればあえそうだな。俺は、もう行く。それじゃあな」

言って、ハイドは人混みに消えて行った。

ナリスもまた、別の船へ。

それを見送って

「さあ、帰るとしますか」


 レシスとルストは、ガイアナ国・大地の神殿へ

「――そうか。クペレの宝珠は物質ではなく、エネルギーのようなモノとして、実在していたのか」

イディオムは、メモを取りながら、レシスの話しを聞いていた。

「はい。墓守と番人、古い種族の者だとか。それに、呼ばれた者と奪う者がいると話していました。たとえ、呼ばれて手にしたとしても、闇に咽まれてしまえば、それは奪ったのと代わりないと」

と、レシス。

「お前達は、なにか願ったのか?」

問われたレシスは、首を振った

「私は、存在を確かめること、この目で見たかっただけです」

「お前は、欲がないのだな」

ふふと、イディオムは笑った。

「そういえば、ヘルヴェオ殿は?」

レシスが問うと、イディオムは気まずそうに

「アイツは、姿をくらました。何処にいるのか、解らなぬ」

溜息混じりに、イディオムは答えた。

「神殿を出たのですか? 時期、神殿長になるのに?」

「そのことで、少々揉めてね。アイツの、考えとか野心が引っ掛かって。神殿とあり方と対立していまい。それで、その座を棄てて出ていき、それ以来……」

「そうですか、残念です」

「まあ。気を落とすな。もしかしたら、各地を旅しているのかもしれん。レシスは、己におごらず生きて欲しいな」

イディオムは言って、再び溜息を吐いた。

「大丈夫です」

レシスは、答えた。

「そうじゃな。そうであるから、クペレの宝珠に呼ばれたのだよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ