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ノンフィクション短編集  作者: BIRD


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8/25

劇団通いで列車事故

 具体的な路線は伏せておく、劇団員だった頃の実話です。


 当時の僕は影絵人形劇団のメンバー、その日は舞台公演の合間の準備期間中で、電車に乗って劇団事務所に向かっていました。

 劇団事務所に通う日はいつも乗る路線、いつもの発車時刻の電車です。

 いつも通りに電車がきて、いつもと同じように乗り込もうとしました。


 その時、いつもと違う事が起きたんです。


 電車に乗ろうとした僕を、誰かが突き飛ばしました。

 僕は電車に乗り損ねて、ホームにしりもちをついて去ってゆく列車を見送りました。


 公演がある日なら慌てるところですが。

 その日はそんなに時間を気にしなくていい日だったのは幸いでした。

 僕はすぐ後の電車に乗り込み、劇団事務所へ向かおうとしました。


 そこでまた、いつもと違う事が起きたんです。


 駅を出て、1つ2つ先の駅まで来た辺りで、電車はホームに停車したまま動かなくなりました。

 乗客は大半がその駅で降りる人たちで、車両に残っていたのは数人だけです。

 しばらく車内で待っていると、放送が流れ、1本前の列車に事故が起きて、復旧作業に時間がかかると告知されました。

 遅れることを劇団に連絡したいところですが、地下では携帯が繋がりません。


 更にしばらく待つと、振り替え輸送利用案内の放送が流れ、車内にいた乗客数人の後に続くように、僕も車両から出て改札へ向かいました。

 改札で振り替え輸送利用切符をもらい、別の路線に乗り込み、線路が少し離れて並行している別路線の電車で事故現場を通った時、乗客がどよめきました。


 事故車両は無惨に大破、その床は本来の色が分からないくらいに鮮血で覆われていたんです。

 まるで赤いカーペットを敷いたかのような床を、僕は今でも覚えています。

 僕が乗る筈だった車両の破損が特に酷く、もしもそれに乗っていたら、僕は無事では済まなかったでしょう。

 死者5名、負傷者63名を出した列車事故でした。

 割り込み乗車の誰かに突き飛ばされて転んでいなければ、事故に巻き込まれるところでした。


 事故は発生後すぐに報道されていたらしく、いつもの時刻に来ない僕を、劇団メンバーはめちゃくちゃ心配して待っていたようです。

 地下で電話が繋がらないので地上に出てから連絡は入れたのですが、その頃には劇団員たちもニュースで事故を知っていました。


「おはよう」


 ニュースを知らない僕が事務所に着いて、普通に朝の挨拶をしたら、劇団員たちがドドドッと走ってきました。


「うわぁぁぁ! 生きてた!」

「大丈夫?!」

「怪我してない?!」


 劇団員全員、大騒ぎでした。

 女の子の中には泣いちゃった子もいたくらいです。


 あの日、僕を突き飛ばした人の顔は見てないし、名前も分かりません。

 まさか事故を予測して突き飛ばしたなんてことは、ないと思いますが。

 電車に乗りそこねた時は少しイラッとしたけど、今では感謝しています。

 その人の生死は分からないけれど、無事だったらいいなと思います。


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