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ノンフィクション短編集  作者: BIRD


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21/25

謎の声

 それは、季節が春から夏に変わり始める頃のことでした。

 夜になると聞こえてくる、謎の声がありました。


「わ~ら……、わ~ら……」


 中年男性ぽい声で、スピーカーから流れているような音の響きです。

 声は遠くから聞こえ始め、だんだん近付いてきたと思ったらまた遠くへ離れていくんです。


「あの声、なに?」


 寮生活開始から2ヶ月ほど経った頃、僕たちは謎の声に首を傾げました。

 日没後になると流れてくる音声は、学園前の道路を通過しているようです。

 道路から離れた寮内にいる僕たちには「わ~ら」しか聞こえません。


「『わ~ら』って言ってる?」

「ワラ、呼ばれてるよ」

「はーい、なぁに~?」

「って、それ向こうに聞こえないから」


 窓を開けて音を聞き取ろうとする僕の後ろで、冗談を言うジュン、ノリで返事するワラ、ツッコミを入れるエイ。


 謎の声が聞こえ始めた3日目の夜、僕とワラは思い切って部屋から出て、声の正体を確かめに行きました。

 時刻は夜20時、まだ門限ではないので、寮監に叱られたりはしません。

 正門まで近付いたところで、声がハッキリ聞こえてきました。


「わ~らびもち、わ~らびもち」


 それは、軽トラで街を回る【わらび餅売り】の音声でした。

 僕もワラも、石焼き芋の移動販売は見たことあるけれど、わらび餅の移動販売を見たのは初めてでした。


「おじさ~ん! わらび餅を売ってるの?」

「お財布取ってくるから待ってて!」


 ワラがわらび餅売りを引き止めている間に、僕はダッシュで部屋に戻り、お金を持って軽トラに駆け寄りました。


「わらび餅2パック下さい」

「まいど!」


 初めて買った移動販売わらび餅は、金属製の保冷タンクで冷やされていました。

 タンクの中は見えなかったけれど、氷と水が入っているようでした。

 わらび餅はザルで掬い上げられ水切り後、使い捨てのプラ容器に移されました。


「はいよ、オマケしといたよ」

「ありがとう」


 オジサンはわらび餅を入れたプラ容器を白いビニール袋に入れて、きな粉の小袋と一緒に渡してくれました。

 僕は財布から百円玉を2枚出してオジサンに手渡し、わらび餅が入った袋を受け取って、ワラと共に寮へ帰りました。


「わらび餅買ってきたよ!」

「みんなで食べよう!」

「「美味しそう~!」」


 わらび餅を買って帰ったら、部屋にいた2人も大喜びでした。

 移動販売のわらび餅は、スーパーで売られているものより量がかなり多くてお得な感じがします。

 食べる直前まで冷水に浸かっていたからか、スーパーのよりもツルツルプルプルで喉越しも良く、とても美味しいものでした。


 以来、「わ~ら」の声が聞こえると、ひんやり甘味を求めて買いに走る僕たちがいました。

 値段は当時で1パック100円。

 その頃はガソリン代が1リットル90円の時代でした。

 オジサン、それ採算取れてるの?

 わらび餅売りは、学園周辺でしか見たことがないけど、他の地域にもあるのでしょうか。

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