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淡く光る君へ  作者: 若城
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4話 還し屋の仕事

 深夜。

 カイトとミリ、セレカティアは横並ぶ住居の一角に足を運んでいた。時刻は十二時少し回っており、灯りがともっている家も疎らとなっていた。その中で、一切の灯りが無く、人の気配もない。それが不気味さを醸し出し、淡く光るミリの表情を曇らせた。


『……不気味です』

「そりゃあ誰も住んでねぇし、先月に人が死んだばっかだしな」


 目前の家の持ち主は三〇代後半の男性。先月半ば、持病が悪化。知り合いも居らず、身内も遠方に住んでおり、連絡も頻繁に行っておらず希薄だったという。勤勉で真面目である彼が突然、勤務先に姿を見せなくなり、自宅を訪れたところ、自室で亡くなっていた。

 そして最近、この家で異常な速度で物品が錆びついたり腐食したりといった現象が頻発しており、どうにかしてほしいという依頼が舞い込んできたらしい。クリスの評判を聞き、頼んできたのだから彼女自身で行えばいいのに、部下である自分達が任せるなんてひどい話だ。

 当の本人は別件で隣の街まで出かけるときた。帰ってきたら、文句ひとつくらい聞いてもらおうではないか。


「多分、彼は亡くなった自室ね」

「俺はリビングな気がするな」

「はぁ? 現象は自室だって言ってたじゃない」

「他にもあったろ。そいつ、片付けもそこまでするタイプじゃないって話だ。基本の生活ベースもリビング。可能性はあるだろ」

「……先輩に口答え」

「意見の交換は大事だろ。同僚同士なら」


 もっともな意見を述べたつもりだったが、それが気に食わなかったのか。セレカティアが無言でカイトの脛をつま先蹴りを放つ。

 鋭い痛みに片足跳びで彼女から距離を取り、蹲る形で呻く。


「――ってぇ! んだよ、本当の事だろうが」

「うるさい。つべこべ言わずに入るわよ」

「……はいよ」


 カイトは脛を数回擦ると、依頼主から拝借した鍵を鍵穴に差し込み、開錠する。中に入ると、一ヶ月放置されていた事もあり、埃っぽく鼻腔を刺激してきた。華がむずむずするもののくしゃみする程でもなかったが、後から入ってきたセレカティアが堪らずといった様子で『くちゅんっ』と独特なくしゃみをした。


「ふぇー……酷いわね」


 一ヶ月程度の放置でここまでなるとは思えず、聞いていた通りのそこまでまめに掃除をする人物ではなかったようだ。

 腰に付けていた革製のウエストポーチから小ぶりの懐中電灯を取り出し、灯りを点ける。光に照らされた事により、舞う埃が際立ち、一層鼻腔を刺激されてしまう。

 亡くなってからそのままにされているリビング。洗濯されたものがそのまま放置されたのか、皺だらけの衣服が床に散乱しており、染みの付いた毛布が三人掛けのソファに無造作に敷かれていた。


「……やっぱりここじゃねぇか」


 ソファに敷かれている毛布の上に、青色の発行体。


『あれが……』


 ミリはミストと自分の体を見比べ、小さく息を吐く。

 自分と男性のミストの違いを実感したのか、複雑な表情を浮かべさせ、カイトに目を向ける。


『この光っているものが、亡くなられた男性のものなんですね』

「そうだな。それがミストで、本来の形だ」

『そう、ですか……』


 いや、本来の姿はミリのような人の形と言うべきだったか。自分の姿を思い描く自我もなく、何処に行く事もなくその場に半永久的に留まり続ける存在。元が人間であると分かれば、気分は良い物ではない。もし、自分がミストとなり、人知れず留まり続ける状況を考えると、ゾッとしてしまった。

 その感情すら抱く事も出来ないのも、悲しいものだ。


「セレカ、俺の勝ちだな」


 セレカティアを振り返り、笑みを浮かべさせるが、彼女はくだらないとばかりに鼻を鳴らす。


「別に勝負したつもりなんてないわよ……くちゅんっ。早く還しなさい」

「ま、確かに。それじゃ失礼して――」


カイトは右腕を横に振るう。そして、空へと振り上げる。十字を切る動作により、ミストと化したそれは一瞬の輝きを発した後、緩やかに光を失っていき、消滅した。


「……さて、帰るか」

「待って。念のため、全部見ていきましょう」

「ん、何でだよ」

「異常があった場所はここだけじゃないわ。掃除好きじゃない人だったにしろ、他の要因の可能性があるのなら、見ておくべきよ」

「神経質だな」

「姐さんならそうする。還すだけ還して戻ってこのこと知ったら、きっと突っついてくるわよ」

「……分かったよ」


 セレカティアの言う通り、ここで最小限の仕事だけして帰った後に別の異常が分かってからでは遅い。単なる廃屋ならともかく、ここは亡くなった人の所有物。今では親戚、親族の所有物になる。別の物が発覚し、対処しようにも勝手に入る事も出来ず、放置してしまう事になる。

 失敗にクリスが激怒するというのはないのだが、悪戯っ子のようにいちいちことある事に面倒臭い絡み方をされるのは勘弁してほしい。そんな事態に陥らない為にも、根を摘み取った方が得策だ。


「ミリは俺と一緒に来い」

『わかりました』


 カイトとミリは一階の風呂場、台所と散策してみるが、案の定ミストを発見する事もなかった。念のため、リビング隅のクローゼットの中も確認してみるも、やはり見つからない。


「やっぱりいねぇな」

『ですね。セレカさんは、二階ですけどどうなんでしょう』


 ミリが二階へと続く階段に目を向けた時、丁度降りて来る彼女の姿が見えた。彼女はこちらに気付くと、付いてくるように手招きしては、再び二階へと上がっていった。

 二人は互いに顔を見合わせた後、セレカティアを追った。

 セレカティアは寝室と思われる部屋に立ち止まり、入るように顎をしゃくりあげる。それに倣い、二人も寝室へと入ると、埃っぽくなった寝室のベッド横に淡い光を放つミストが漂っていた。


「居たわよ」

「まじかよ……」

「帰らなくて良かったわね」

「……あぁ、先輩の言う通りだったよ」


 もし、一人で行っていたら、確実に見逃していただろう。相性が悪い彼女ではあるが、還し屋としての仕事ぶりは立派なものだ。


『ですが、この方は一体どなたなのでしょうか?』


 確かに、今回亡くなった人物は一人暮らしの男性だ。二階に部屋が二つあるも、おそらくここがその男性の部屋だろう。その証拠に男性ものの衣服が無造作にベッドに散乱していた。件の男性以外の情報を聞いていない以上、このミストが何者かは分からないが、放置する訳にもいかない。


「ここでどうこう言っても仕方ないわ」


 セレカティアはここに居るのも飽きた様子で、ミストの前に立つ。

両手を大きく広げ、目の前で突き出すようにして手を合わせる。

 そして、右腕を上に。左上を下に素早くスライドさせた。


『セレカさんの還し方、カイトさんと随分違いますね』

「ん、あぁ。カイトのは基本的な還し方なの。あたしのは両親のやり方を継いだ感じね」

『還し方は人それぞれってことですか』


 要するに当たり障りのない還し方で、普遍的なものだ。

 いつものセレカティアなら、無個性な還し方だと馬鹿にしてくるだろう。


「悪かったな、どうせ素人だよ」

「別にそれが悪いなんて言ってないわよ」

「あん?」

「基本的な還し方って事は、それが還し屋としての最初の一歩って事よ。それを完璧にしてないのに、自分だけの還し方を探すなんて愚の骨頂。下手したら、その基本さえ満足に出来なくなるわ。基本があっての応用よ。そんな風に卑下する必要なんてないわ」

「お、おう」

「その還し方を完璧にしてから、自分なりの還し方を見つけたらいいわ。あたしの場合は身近に立派な手本があったからそうしてるだけ」

「……なら、俺がお前の還し方を習うってのはいいのか?」

「別に。けど、あたしの還し方をするってことはアテライト家を背負う事になるわよ。それでもいいなら、勝手にすればいいわ」

「……荷が重いな」

「つまりそういう事よ。独自の還し方は、相応の意味があるのを覚えておきなさい」

「了解」

「あんたなら、姐さんのをやるのも一つの手よ」

「クリスのか……」


 セレカティアの言うように、師となる人から手法を得るのもいいだろう。だが、彼女の手法は他の人より独特で異質だ。今の自分にあのやり方が出来るとは思えない。

 そんな事を考えている最中、両手を組み、目を輝かせたミリが賛成とばかりに何度も頷いた。


「とても素敵な話ですっ。カイトさん、そうしましょうっ!」

「気が向いたらな。やる事はやったし、帰るぞ」


 カイトは無理矢理話を切り上げさせると、部屋から出た。その後ろで『私、いけない事言いました……?』、『気にしないで。いつものことよ』と聞こえてきたが、聞こえなかったことにして足を止めなかった。

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