表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/10

第9話「一途」



「シャワー先にありがと。クロムも浴びてきて?」


 そう言ってクロムの側に寄ると、クロムはオレをじっと見つめた。ドキ、と胸が震えて固まっていると、そっと頬に触れられた。


「クロム……?」


 首を傾げた瞬間、はっとした顔をして、クロムがオレから手を離した。


「オレも浴びてくる。待ってて」

「あ、うん」

「何か飲んでるといいよ」

「うん。ありがと」


 優しい声に、自然と顔が綻ぶ。すると、クロムはふっとオレを見つめて、それから、行ってくる、とバスルームに消えていった。

 なんか変だけど……緊張してるのかな、クロムも。――オレと一緒かな。


 お水を飲んで、窓から外を眺めた後、ソファに腰かけた。

 昨日から起きたこと、ぼーっと思い返していると、しばらくしてクロムが出てきた。


 同じローブなんだけど……なんだか壮絶に色っぽく見える。かっこよすぎるかも。

 オレ、こんな人と、ほんとに結婚するの……?? 謎すぎる。

 そう思いながら、「おかえり」とだけ何とか口に出した。「ん」と微笑んだクロムは、自分の荷物から何かを取り出すと、オレの隣に腰かけた。


「リン」

「……なに?」


 目の前で開かれる、小さな箱に入っていたのは。


「指輪?」

「うん――オレの母さんの国ではね。結婚する二人が、お揃いで指輪を付けるんだって」

「そうなの?」

「左手の薬指が、愛情が宿る心臓と繋がってるって考えられてたんだって。オレ、その話を母さんに聞いてから、ずっと……」

「うん」

「……ずっと、リンとお揃いにしたいって思ってて」


 ためらいがちに言われた言葉に、そうなんだ、と答えかけて、ふと止まる。

 クロムのお母さんが亡くなったのって、すごく子供の頃で……??


「え、いつから?」

「五歳くらいかな。オレ、その頃からリンが好きだったから……」


 思わず、目を大きくして、クロムを見上げてしまう。

 なんだかちょっときまりが悪そうなこの感じって……え、本気??


「というか、会った時に可愛いって思ったの、すごく覚えてるんだよ」


 えっと? 会ったときって。

 ……三歳くらいじゃなかったっけ? オレ、全然覚えてないけど。


「ひかれるかと思って、言ってなかったんだけど……」

「ひかないけど……記憶力すごいなって思ってる」


 ついクスクス笑ってしまいながら言うと、クロムはホッとしたように微笑んだ。


 目の前に差し出されている銀色の指輪は、とても綺麗な細工が施されていた。

 サイズが大きめの方には琥珀色の石、ちいさめの方には濃い青の石が埋め込まれている。

 これって、オレたちの瞳と同じ色かな。


「えと……左手……?」


 左手を少しあげて、薬指を見たオレの手を取って、クロムが「つけてもいい?」と聞いてきた。


「……クロム?」

「うん?」

「――ほんとに……オレでいいの?」


「違う――オレは、リンが、いいんだよ」


 即答してくれた言葉に、オレは少し唇を噛んだ。泣きそうで。

 そんなオレを見つめてから、クロムは、オレの指に、指輪をはめた。青の石がキラキラして見える。


「ぴったりなの、どうして?」

「これくらいかなぁって……あってたね」

「うん。すごい…………クロム、これって、いつ買ったの?」


 どう見ても、特注な気がする。こんな石と飾りの入ったサイズぴったりの指輪、なんて。


「だから……告白しにこようって思ってたって言ったよね?」

「……プロポーズ、するつもりだったの?」

「そう。ずっと考えてて――ちょうど指輪ができた時だったんだよ」

「――」


 オレ、クロムの気持ちがここまでなんて、本当に知らなかったんだなと思い知るような……。

 まだ夢みたいだけど。


「こっちは、クロムのだよね?」

「そう。つけてくれる?」

「うん」


 頷いて手を伸ばすけど。なんだか手が震えそうで、いちど手をこすり合わせた。


「……緊張する」

「はは……可愛いな、リン」

「……っ」


 ……なんだか、もう、可愛いって何回言うんだろ。


「クロム、ほんとに王都で可愛いって言いなれてきたんじゃ……?」

 思わず聞くと、クロムは、心外だなと言った顔でオレを見つめる。


「だからないってば」

「誰かとつきあったことはある、でしょ?」

「無いよ? ――オレ、ほんとにリンに一途だったからね」


 あるわけないでしょ、みたいな言い方に、ただただクロムを見つめてしまう。


「――なんか、クロムに婚約者がいる、とかいう噂もあったんだけど……」

「噂だけなら、いろいろあったみたいだよ。でも、いっこも真実じゃなかったし、興味ないから詳しくは知らないけど」

「――――」


 オレ、結構その噂に、実はかなり落ち込んでいたのだけれど。


「ほんとに、噂だけなの……?」

「なんというか……噂立てて、周りを牽制しようとしたり、オレの周りって、そういうのが多くてさ。なんでだろうね」

「んー。それは、どうあっても、クロムとそうなりたかったんじゃないかとしか、思えないんだけど」

「オレは、そういう練った作戦で近づいてくる人とか、ほんと無理だから――そういうとこでも、オレはリンが大好きでさ……」

「――オレの、何が?」

「素直でしょ。分かりやすくてさ、うそつけなくて。優しくて、涙もろくて。人の痛みに敏感で――ずっと好きでしょうがなかった」


 そんな風に言ってくれるクロムにちょっと感動……。もう、オレ。

 ……本当に、クロムのこと、好きでいていいのかも、って、思った。



「……オレね、クロム」

「うん……?」

「クロムのこと、好きになっちゃいけないと思ってた。ただの友達で……ただ、家が近くて、それだけって、自分に言い聞かせてたというか」


 ちょっと困った顔で、クロムがオレを見つめる。


「王都に誘ってくれた時も、ほんとは、βでもついていきたいって思ってた。でも、絶対無いって思っちゃって」

「うん……」

「――二年間……婚約者がいるみたいって聞いた時も、おめでとうって思おうとしてたけど、すごい、落ち込んだし」

「うん」


「……ずっと、会いたかった」


 そう言えた瞬間、じわ、と涙が滲んだ。困ったように少しだけ笑って、クロムがオレの頭を撫でた。


「――リン、これ。オレにはめて」


 クロムは、ふ、と微笑みながら、ケースから指輪を引き抜いて、オレの手の上にそっと指輪を置いてくれた。オレは、そっと指輪を手に取った。……本当に、緊張する。


 クロムの左手をとって、左手の薬指に、そっと指輪を通した。


 その瞬間。

 ぎゅ、と抱き締められた。



「リン……」


 頬に触れる手が熱い。それにつられるみたいに、顔が熱を持つ。

 至近距離で見つめ合って――ゆっくり、近づいてきた、クロムの唇が、オレの唇に触れた。


 心臓が、壊れる。

 そう思ったけど。



 優しいキスが、何度も何度も、繰り返されて。

 ただ、クロムに任せている内に、急に息が荒くなって、体が熱くなっていく。



 ヒート、かも……。どうしよう。

 焦ってクロムを見つめると――クロムはまっすぐにオレを見つめてて。



「大丈夫。任せて」

「……ん」


 クロムの息も、熱い。

 唇が触れて――嬉しくて滲む涙に、オレは、目を伏せた。




 そのまま、クロムに身を任せた。


 







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ