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第8話「不思議なことばかり」

 結局、店の皆と、全然知らないお客さん達にまで、祝福されてしまって、もうなんだか不思議すぎる。昨日から、不思議なことばかり。

 その後、店長とクロムと、奥の部屋で三人で話す時間を貰った。


 クロムは王都に家はあるけど、仕事柄、あちこち飛び回っていて、出先の宿泊所で泊ることも多いらしい。クロムが言うには、交易士の仕事も、オレがしようとしてた仕入れの仕事も、同じようなものらしくて。もちろん交易士の方が、仕事の幅は大きいとは思うけど、そう言われてみれば、偶然だけど似通った仕事なのかもと、ちょっと嬉しくなった。


 一緒にいろいろ見て回ることもできるって。一緒に居れば、ヒートの心配もないからって。クロムはそんな風に言ってくれて、店長にも話してくれた。


 クロムと一緒に色んな街を回って、いろいろな雑貨を見て、そこで良い物があったら購入して、この店に送る。もともと、王都で仕入れをしてみたらということだったから、王都だけでなく色んな街で仕入れが出来るならもってこいだってことに決まった。

 オレも仕事を続けられるし、クロムとも一緒に居られる。なんだかすごく、ほっとした。


 ――実は昨日から、今日ここに来るまでも、ちょっと思ってたんだ、色んなところに行って、仕事をするクロムとは、オレは一緒には居られないんじゃないかって。もし、一緒に居るとするなら、オレは当然、仕事は無理なんじゃないかなって。

 離れるか、依存するかしかないのは、少し嫌かも、と思っていたから、店長にいろいろ提案してるクロムの話を聞いているうちに、名案すぎてびっくり。しかも提案のしかたが上手すぎて、店長、あれよあれよという間に、どんどんクロムの言うように話を受け入れてる。しかもなんか、乗せられてる感は全然なくて、とっても嬉しそうだし。


 仕事も続けられそうだし、クロムともいられる。

 やっぱり、クロムって、頭いいな。





 その日の夕食は、クロムが連れてきてくれた、隣街のレストラン。

 オレは初めての店だった。外装からおしゃれで、入るのに少しドキドキする。

 奥の個室に案内されて、雰囲気がとても良くて、きょろきょろ見回してしまう。正面にクロムが座って、なんたがドキドキしながら食べる。

 嬉しいのも相まって、もう、めちゃくちゃ美味しく感じる。デザートまで、もう完璧。すごくおいしかった。


「すっごい……全部おいしかったなぁ……」

 うっとり、笑顔で言うと、クロムは、ふっとその瞳を優しく緩めた。


「リンの笑った顔、好きだな。ほんと、可愛いが過ぎるよね」

「――っ……ごほ……っ」


 えほえほ、えづいていると、クロムが「大丈夫?」と心配そうに聞いてくる。


「あの……慣れないから……やめて?」

「はは。可愛い」


 そんなセリフをスムーズに言うクロムに、むむ、とオレはちょっとむくれた。


「……クロム、絶対王都で、遊んでたでしょ……」

「遊んでないよ。仕事ばっかりしてた」

「だって、クロム、そんなこと言う奴じゃなかったし……」

「リンにしか言いたくないし。実際、言ってないよ。今度王都に行ったら、オレの同僚に聞くと良いよ。堅物でつまらんっていつも言われてるから」

「――ほんとに聞いちゃうよ?」

「どうぞ? というかね、リン。言えないまま二年間、過ごしてきたから……言いたいことは、言える内に言わないとって思ってるだけだよ?」


 クス、と笑うクロム。この感じは……ほんとにそうだったのかもしれないけど。

 なんか……そんな甘い言葉みたいなのまで、全部スムーズにされちゃうと、なんか太刀打ちできない気がしてしまうんだけど。


「ね、リン」

「うん?」

「今日は、ホテルに泊まろう? 二人きりになりたいんだ」

「え。……あ。うん……」


 二人きり。

 ……それって。そういう意味……?


 ちら、と見あげると、クロムは、ん? とにっこり微笑む。綺麗な、尊いくらい美しい微笑み。


 ……ち、ちがうか! クロムに限って、そんな意味ないよね。


 オレってば、何、気が早いっていうか。わー、むりむり恥ずかしい……!!

 一人心のなかで暴れまくっていると、クロムが「そろそろ出ようか」と言った。

 

 会計は、クロムがしてくれた。


「ごちそうさま」

 そう言うと、クロムはクスクス笑った。


「初めて、こういう店で、リンにごちそうできたね」


 そんな風に言って、嬉しいな、と言ってニコニコしてる。


 なんかクロム、たまに可愛い。こんなとこもあったんだ。

 これから、いろんなとこ、知れるんだなぁと思うと、すごくすごく、幸せな気持ちだった。



 歩いてさほど遠くないホテルに、クロムと入った。

 おしゃれな外観にたがわず、中も良い雰囲気。こんなところに、クロムと二人で、泊まるのか……。何もないとしても、ドキドキしちゃうな。


「リン、先にシャワー浴びておいで」

「あ、うん」


 二人きりの部屋で、シャワー!!

 ……ってすごくドキドキするけど、べ、別に普通のシャワーだよね。もうオレってば、ほんと……。

 何考えてんだもう。こんな、好きって言い合った翌日に、そんなこと、するわけないじゃんね。


 バスルームに入り、体を洗いながら、ふと首を傾げる。


 そういえば、クロムって……そういうこと、興味あるのかな。

 なんか、綺麗すぎるせいか、無さそうなイメージがある。


 昔から、女の子の話とか、全然しなかったし。

 そういう大人な話題の時は、会話には全然入ってなかったような。まあオレも恥ずかしいから嫌だったし、下世話な会話に関しては、聞くことはできるけど、率先して混ざるのは無理だった。


 ずっと昔から、クロムは、もうほんとに綺麗だった。

 いつでも冷静だし、「やらしいこと大好きな同学年の皆」とは、完全に一線を画していたような気がする。


 まあ別にオレは、クロムがそういうのに淡白でも、全然大丈夫。もともとオレも、そんなにしたいって思わず、そこそこは、女の子に告白されたりもしたけど、結局付き合うことも無かったし。まあ、淡白同士でちょうどいいのかもしれない。


 あっ、でも発情期ってどうなるんだろう。うーん……まあ、いいお薬もあるらしいし。これから考えていこ。


 一緒に居られるだけで、もう幸せだし。ふふ。

 色々考えながら、バスルームから上がった。着心地のいい柔らかい繊維の服は、長めのローブだった。









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