第6話「執着?」
その後、オレが、クロムの告白を全然信じられなかったせいで―――クロムは、話しながら、何度も、「番になりたい」「好きだから」って言ってくれた。何回言ってもらったか、覚えてないくらい。
クロムが来てから、結構な時間が経って、さんざん告白されて――でもまだ夢みたいな気分ではあるけど、クロムが本気で言ってくれてるみたいなことは、ようやく実感できてきたような……。それで、聞いてみた。
「ほんとに……オレで、いいの?」
そしたら「もちろん」と頷いて、嬉しそうな顔で微笑んだ。
クロムが、こんなふうに嬉しそうに笑うなんて。どきっと、また胸が震える。
オレのその質問をプロポーズの答えだと認識したらしいクロムは、オレをぎゅ、と抱き締めた。
……いい匂い、が、する。
二年前。
抱き締められて――そのまま別れた。ぎゅうっと胸が切なくて、じわ、と涙が滲んだ。
「リンがいいんだよ」
そう言ってしばらくオレを抱き締めてくれていた。
少しして、オレの涙が引いてから、クロムは、オレの頬に触れた。
「リン、体調、大丈夫? 薬、効いてる?」
「あ、うん。大丈夫、かな。どうして?」
「挨拶しておきたくて」
そう言ったクロムに、挨拶ってなんだろと思いながらも連れられて、両親のいる部屋へ移動した。
なんだかすごく落ち着かない様子でオレ達を見た両親に、なんて言おうかと困っていると。
「リンと結婚させてください」
クロムのその言葉に、父さん母さんだけじゃなくて、オレもびっくり。
挨拶って、それか……! なんか、あっという間に進んでいく話に、なんだかぜんぜんついていけない。
でも、やっぱり。嬉しいのは、絶対で。
「クロム、本気で言ってるの?」
父さんが、クロムをじっと見つめながら、そう聞いた。
――クロムのすごさは、地元の誰もがよく知っている。
とくに家が近く、幼いころからクロムと仲の良かったオレの両親は、「本当にリンでいいの?」なんて、とってもオレに失礼なことを言ってる。むむむ……。
まあ、自分でも、オレでいいのかって、思ったけどさ。
でも、その言葉に対して、クロムはオレを見つめてから、二人に視線を移した。
「オレには、リンしかいないんです。ずっと、大事だったので」
笑顔で答えるクロム。
クロムが本気なことを悟ったらしい両親は、しみじみとした様子で。
「正直、今更Ωと診断されて、この先リンがどうなるのか心配だったの。クロムなら、安心して任せられる」
涙ながらにそんなことを言いだした。
さっき、オレには、何とかなるみたいに明るく言ってたのに。やっぱり心配してたんだ……。そう思うと、オレまで泣きそうになった。
「オレが一生守るので」
そんな宣言をして、うちの両親を改めて虜にしたクロムに連れられて、今度はそのままクロムの家に行くと、お父さんが迎えてくれた。
「父さん。結婚、OKもらった。お父さんとお母さんにもご挨拶、してきたよ」
そう言うと、クロムのお父さんは、苦笑して、オレを見た。
「リン、体調は?」
「あ、今は、薬が効いてるみたいで」
「リンの話をクロムにしてから、ここに帰ってくるまで、速すぎて驚いたよ」
確かにそれはオレもびっくりしたかも。
王都って、遠いと思ってたけど……意外と近かったんだなって思った。
「我が子ながら……リンへの執着がすごいよな」
「というか、祝ってよ。息子の想いがやっと叶うんだからさ」
苦笑のお父さんと、なんだか嬉しそうなクロム。親子でそんな会話をしてるけど。
「執着」なんて、クロムから一番遠い言葉な気がするんだけど。と首を傾げていると。
「これからは、おとうさん、て呼んでね。リン」
よろしく、と手を差し出されて、「よろしくおねがいします」と、そっと手を握り返した。
その後、急遽オレの両親も呼んでクロムのお父さんと、皆で夕飯を食べた。
結婚式とかそういうのは、クロムの仕事の様子を見て準備ができたら、ということに決まる。
いろんなことを、話しながら、
あっという間に話が進んでいくのが、信じられない。
病院で、Ωだったと言われたの、今日なんだけど……。
どうやって生きてこう、なんて思っていたのに。
隣で嬉しそうに笑う、二年ぶりのクロム。
ほんとに、こんなかんじで進んじゃっていいのかな?
なんかほんと、現実感、無いけど。
先が見えなくて、ぼんやりしてたのに。
今はもう……眩しいくらい、未来が明るく感じる。
……なんかもう、クロムには感謝しかない。
その日は、クロムの家に泊まることになった。