第4話「本当は」
「……クロ、ム……」
なんだかすごく幸せな夢を見ていた。
クロムと、毎日会っていた頃の夢。
学校ではあまり居なくても、帰ってから一緒だった頃。
ずっと無邪気に、楽しかったな。
αとかΩとかも関係なくて。
楽しかったな……。
その時。
リン、と呼ばれた気がした。
リン、と。
懐かしい、声で。
じわ、と涙が滲む。
――クロム……?
目を開けたらクロムが居て。
……ああ、夢の続きかと思った。
「クロム……」
オレは、クロムに手を伸ばして、ぎゅ、とその首に抱きついた。
「……会いたい、よ……クロム……」
ぎゅう、としがみついたオレを、夢の中のクロムは、すぐに、抱き締めてくれた。
「――――?」
……なんか。生々しい……。あったかいし。
え、これ、誰かに、ほんとに抱きついてる? え、父さんとか?? うわ、はず、クロムって言った? オレ。
突然目が覚めて、でもその時、懐かしい、匂いがして。
混乱しながら、抱きついた人から、ぱっと離れたその時。
目の前にあった、顔は。
「……クロム……?」
ちゃんと目を開けても、目の前にいるのは、超絶いい顔。
クロムだった。
「リン……」
「え……クロム? え、どう、したの?」
「リン」
オレの背に手を添えたままの、クロムの真剣なまなざしに、オレはただ見つめ返すしかできない。
……ていうかオレ、今、クロムに会いたい、とか……あれ、口に出してた……? ていうか、何でクロム。ここに……??
あ、実家に帰ってきてるとか……? それで遊びに来てくれたとか……。
「リン。オレと、結婚して」
――え?
耳を疑うけど、どう聞いても、そうとしか聞こえなかった。
でも、やっぱり聞き違いだと思って、首を傾げる。
「今なんて……? ていうか、何でここに居るの?」
「――リンがΩだったって、父さんに聞いて、帰ってきた」
クロムの手が、オレの両手を包んで、握る。
「オレ……ずっと、リンが好きだったんだ」
真剣な瞳のクロムが、そんな風に言ってくる。
ああ。分かった。
……夢だな、これ。オレがΩだって分かったの、さっき寝る前だし。
王都まで結構遠いのに。オレが寝てる間にクロムに話が行って帰ってくるとか、ありえないし。
……なんか妙に生々しくて、本当に都合の良い夢だな。
これ、早く起きないとダメージ大きそうだから、やだな。
――早く、さめたらいいのに。
そう思いながらも。
夢でも、クロムに会えて良かった、なんて思う自分に、じわ、と涙が浮かぶ。
大好きだった幼馴染。
誘われて、一緒に行きたかったけど、無理だと分かってた。
やっぱりαと番うのは、Ωだと思うから。学校に居た頃もそうだった。クロムの周りには、綺麗なΩがよく居た気がする。
ひかれあうようにできてる、そういう運命だと思うから。
だから断った。
二年間、平気だと思おうとしてきた。
断ったんだから、もう、オレには好きだと思う権利も無いって。
クロムの幸せを祈ってるって、そういう気持ちで、ずっと居ようとしてきた。
今Ωになったけど。
……Ωになったからって、クロムと釣り合うなんて、思えない。
オレは、ただ家が近くて、たまたま居やすかっただけの幼馴染だと思うし。
なんでもできて、カッコよくて、皆の憧れのクロムと、
ただΩだというだけで、釣り合うようになったなんて、これっぽっちも思えない。
だけど。
でも、本当は。
本当は、ずっと。
「……好きって…………言いたかった」
夢の中のクロムにそう言った途端。
喉の奥が熱くなって、胸が締め付けられるように痛くて。
ボロボロ、涙が、零れ落ちていった。
αだとかΩだとか関係なくて。
皆の目がどうとか、釣り合うとか、ほんとうは、そんなのどうでもよくて。
ただ、クロムのことが。
大好きで、愛しくて。側にただ居たくて。
「――――好き……」
声に出したら、ますます泣けてきちゃって。
……なんか。泣いてる感じも、ますます生々しいな。苦しくなってきた。