第1話「大好きな幼馴染」
幼馴染オメガバース
すれ違い後のハッピーエンドです♡
「リンが元気で幸せなこと、ずっと祈ってる」
そう言って、クロムが王都に行って、もう二年。
別れる時のあの言葉が、今でもずっと心に残ってる。
◇ ◇ ◇ ◇
自然の豊かな、平和な国ルシアン王国。
王都からは離れた、湖の近くの静かな街で、オレは育った。
オレには、色んな意味で特殊な同級生が居た。名前は、クロム。
小さい頃は、学校ではそんなに絡まなかった。クロムは静かで、オレや仲間たちとわーわー遊ぶようなタイプではなかったからかな。かといって、暗いとか嫌われてたとかじゃない。その頃から、すごく頭が良くて、落ち着いてたんだと思う。
でも、近所だったから、会えば一緒に登校したし、家の周りではよく遊んでいた。
クロムのお母さんが亡くなった時は、落ち込んでいるクロムの姿が切なくて、ずっとそばにいたりもした。
オレが怪我した時は、窓から小さな花を差し入れてくれたり。
風邪を引いたらお見舞いをしあったり。そんな可愛いやりとりは、けっこうあった気がする。
言葉は少ないけど、優しくて。
クロムが大好きだった。
その内、クロムは、学校で目立つようになっていった。
テストはいつもダントツ、運動も、静かに一位になるタイプ。
オレが誰より早く走って大喜びしてたとき、あっさり追い越して走り抜けてった時は、いつも駆け回ってるオレより速いって何で? って、ちょっと悔しかったけどさ。
でも、カッコいい幼馴染は、内心、自慢でもあった。
涼しい顔して、全てを軽々こなしていくクロムは、成長するにつれて、めちゃくちゃモテ始めた。
昔はオレの方が高かった背も、初等学校を卒業するころには完全に追い抜かれた。
綺麗な色のサラサラの銀髪。濃いブルーの瞳は、とても綺麗だと評判だった。
ルシアンの民は、黒髪が多い。瞳の色は、茶色や琥珀色がほとんど。ちなみにオレは、黒髪に琥珀色の瞳だ。クロムは何代か前に移住してきた異国の血が混ざっているらしい。
とても珍しくて敬遠されそうなところだけど、その美しさは群を抜いていて――皆が見惚れていたのだと思う。亡くなったクロムのお母さんも、とても綺麗な人だった。
言うなら、昔の物語に出てくる、身分の高い王子さま、みたいな存在だった。
気づくと皆が目を奪われている。
そしてクロムは――αだった。
――この王国では、男と女に分けられる第一次性とは別に、十五歳の時に、第二の性の検査をする。アルファ(α)、ベータ(β)、オメガ(Ω)とという三つの性。
αは、生まれながらにしてハイスペック。カリスマ性があって皆が憧れる。
βは、能力とかすべてが平均的。普通の人。オレみたいな。
Ωには発情期というのがあって、男女ともに妊娠できる。発情期に出すフェロモンは、意志に関係なく、αを性的に誘ってしまう。昔に比べれば、Ωに対する偏見は減ったけど、それでも……生きづらいのは事実らしい。
人のほとんどがβで、希少なα、それより更に少ないのが、Ωだった。
クロムがαだったのは当然。皆そう思ってた。
オレも、自他の予想通り、βだった。
βだったことを伝えた時、クロムは、そっか、と一言呟いて、しばらく黙っていた。
――多分オレと同じように、オレ達の距離が空いていく先を感じたからかも。
αはどんどん上に行き、Ωと番になることが多い。βとは住む世界が違ってくる。
分かっていたことだけれど、突きつけられた第二次性に、ちょっとへこんだ。
クロムも、βだったら、良かったなぁ……叶わないけどそんなことを思ったりもした。
年を重ねるごとに、どんどん遠い世界の人になっていった。
なんでも出来るのに、威張ったり見せびらかしたりしないクロム。
高等教育を終える十八歳の頃には、基本、静かなのは変わっていないのに、圧倒的な存在感のある奴になっていた。
クロムの周りには、容姿や家柄や能力など、自分に自信があるんだろうなぁって人達が、囲むようになっていった。特に、αやΩが多かったと思う。
それでも、相変わらず、朝は会ったら一緒に登校する。
クロムの家は、オレの家より学校寄りだから、クロムが家を出た所でこっちを見て、オレを見つけると、ふ、と微笑んで、その場で待っていてくれた。
駆け寄るそのときが、すごく、嬉しかった。オレだけを、待っててくれる、その僅かな時間。それが、とても大事だった。
一緒に歩いてても、別にすごいもりあがる訳じゃない。なんというか……穏やかに、話す感じ。
オレは、クロムと話してる時が、人生で一番穏やかな時間を過ごしていた気がする。
クロムが優しく話すから、オレも自然と、ゆっくり話すというか。他の友達と話す時は、騒いでるので、全然違うオレになる。
ただ、それが嫌だったとかは、全然ない。
クロムと話す時間は、特別で。せっかく近所なんだから、いっつも一緒に登校出来たらいいなぁとも思ったし、時間を合わせようと思えばできたんだけれど……。
――何日か会うのが続くと、むしろ少し時間をずらしたりした。
だって、やっかまれるんだもん。熱烈にモテるクロムのファンは、正直、ほんと怖かった。
幼馴染……とか言ったら、怒られそう。
そんな風に思って、取り巻く人たちを見ていた。
オレにとってクロムは、すごい同級生。ちょっと家が近いだけの。
それ以上でも、それ以下でも、ない……そう思おうとしていた、はずだった。
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