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身代わり令嬢は役目を終えたはずですが? ~あなたが選ぶのは私ではありません~  作者: Rohdea


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20/31

20. 二人で過ごす時間

 


 そうして無事(?)にどうにか夕食を終え、美味しいお茶とデザートも堪能して少し休んだ後はリクエストのピアノを弾くことになった。

 私たちは手を繋ぎながら殿下の部屋へと向かう。


「今日の夕食は今までで一番美味しかった……!」

「……大袈裟ですよ」

「いいや、大袈裟なんかじゃない! 本当のことだから!」


 殿下はギュッと強く手を握る。

 誰が見ても聞いても殿下はすごいご機嫌だと分かる。

 好きな人が嬉しいと私も嬉しい。

 そんな浮かれた気分で部屋に向かったのだけど───……


「ようこそ、リネット」

「はい、お邪魔しま…………ん?」


(ふ、二人きり!)


 食事の時と違ってここでは殿下と二人きりなのだと部屋の入口に着いた時に意識した。

 使用人はおろか護衛すら姿が見えない。


「どうした? リネット」

「いえ……ところで、部屋の前に護衛などは?」

「ん? あぁ、ここは本宮の王宮と違って人の少ない離宮だから特に部屋の前にも配置していないんだ」


 殿下はあっけらかんとした顔で答える。


「特に……配置していない」

「離宮の入口には配置してるしね」

「そう、ですか」


(二人っきりなのが確定ーー!!)


 ドクンッと心臓が大きく高鳴った。

 …………いえ、落ち着くのよ、リネット。

 今の私のお役目は久しぶりに殿下の為にピアノを弾くこと、よ!

 それ以上もそれ以下もないわ。

 心を落ち着かせるためにそうしてスーハースーハー深呼吸をする。

 その時、廊下の向こうから慌てた様子の使用人がやって来て殿下に声をかけた。


「───殿下、申し訳ございません。少しだけお時間をよろしいでしょうか?」

「ん? なんだ?」

「いえ、ちょっと……気になることがありまして」


 殿下の眉がピクリと反応し険しい表情になる。

 これは急用かしら? 私が聞かない方がいい話かもしれない。

 そう思って少し二人から距離をとった。


(もしかすると……ピアノはお預けかも。仕方がないわね)


 でも、きっとまた機会はある。

 そう思いながら殿下と使用人が会話している様子を離れた所から見ていた。



「──リネット、ごめん。お待たせ」

「いえ、大丈夫です」

「それじゃ、僕の部屋に行こうか」


(あれ?)


 話を終えた殿下が私の元に戻って来た。

 訪ねて来た使用人はそのまま一礼して去って行く。

 おや? と思った私は慌てて訊ねた。


「よ、用事は? 用事は大丈夫なのですか!?」

「用事? ──あぁ、もしかして今の? あれは用事と言うよりも……」

「?」


 殿下はそこまで言いかけて止めると優しく微笑んでそっと私の頭を撫でた。


「ちょっとした報告を受けただけだよ。だから大丈夫」

「報告? 用事が出来たわけではなかったんですね?」

「うん、だから早くリネットのピアノが聞きたいよ」


 殿下はそう言いながら私の肩に腕を回す。

 恥ずかしい気持ちになりながら私たちは殿下の部屋へと入った。



「お、お邪魔します……」


 久しぶりに入る殿下の部屋には少しだけ緊張した。

 当たり前だけど何も変わっていない。

 それでもこの部屋に通ってピアノを弾いていた日々が何だかすごく昔のことにも思える。

 ──そして向こうが寝室。

 殿下はいつもあの部屋のベッドに横になっていて……


「……」


 そんな懐かしい気持ちで寝室の方に視線を向けていると、殿下も同じように黙って寝室を見ていた。


(殿下も思い出しているのかしら?)


 そして、私はピアノの前に向かうと座らずに立ったままポツリと呟く。


「何だか変な感じです」

「リネット?」

「まさか、またレジナルド様の前でピアノを弾く機会があるなんて思いませんでした」


 あの頃の思い出もこれからも全てジュリエッタのもの──……

 そう思っていたのに。


「……リネット」

「ひゃっ!」


 殿下がそっと私の腰に腕を回して自分の方に引き寄せた。

 そしてもう片方の手で私の手を取ると、手の甲にチュッと口付けを落とす。


「僕は君の……リネットの奏でるピアノが大好きなんだ」

「レジナルド様……」

「優しくて温かい音色。まるでリネットそのもの」

「そ、それは……」


(買い被りすぎ!)


 その言葉に恥ずかしさを覚え、キスをされている手が震えてしまう。


「あれ? リネット。もしかして顔が赤くなっている?」

「な、なっていません!」

「ふっ……」


 とっさにプイッと顔を逸らして反論すると殿下がクツクツと笑う。

 反論したところで、殿下の希望であの分厚い眼鏡は外して素顔を晒しているから全部バレバレのようだけど。


「は~……、本当に可愛い……」

「か、可愛くなんてないです!」


 私はムキになって反論する。

 すると殿下も殿下で何を思ったのかニヤリと笑った。


「うーん、そうだな。そんな素直じゃないリネットの唇は塞いでしまおうか?」

「……え? 塞ぐ?」


 そう言った殿下は顔を寄せて素早くチュッと私の唇を塞ぐ。


(ん……)


 その甘さに一瞬で頭の中が蕩けそうになった。


「リネット……」


 チュッ……

 唇以外にも殿下の優しくて甘いキスが降ってくる。


「……レジナルド……さま」

「うん、好きだ───リネット」


 ……チュッ


(お、おかしい……私はピアノを弾きに来たはずなのに……!)


 我に返るもそれからも殿下のキスは、なかなか止まってくれなかった。




 そうして、しばらくの間キスに酔いしれていた私たちだったけど、ようやく互いの気持ちも落ち着いてピアノの前に座る。

 私はじっと鍵盤を見つめた。


「……」

「どうしたの? リネット」


 私が黙ってしまったので殿下が心配そうに声をかけてくれる。

 そっと顔を上げて私は微笑む。


「いえ……ほんの少し前まで三ヶ月間、毎日のように弾いていたので……」

「うん、そうだね」

「弾けなくなったことが少し寂しかったんです」


 私がそう言うと殿下は静かに微笑んで優しく頭を撫でてくれる。


「僕も三ヶ月間、ずっと癒してくれたリネットのピアノが恋しかった」

「レジナルド様……」

「だから今はすごく楽しみだ」


 チュッ……

 殿下が私の額にそっとキスを落としたあと、私たちは顔を見合せて微笑み合う。

 そうして、久しぶりに私は殿下のためにピアノを弾いた。


 ~~♪

 ~♪


「不思議だ」

「え? 不思議?」


 1曲弾き終えた後、殿下がじっと食い入るように私の手を見ていた。


「いや。こんなに小さな手でよくそんなに弾けるなと思ってさ」

「ふふ……」


 初めて外に連れ出した時も、そう言っていたわね、と懐かしく思う。


「目が見えなかったあの時は触って小さな手だなと思ったけど、こうして自分の目で見てみても小さな手だと思う」


 そう言いながら手を伸ばした殿下が私の手を取ってギュッと握る。

 前に握られた時とは違って指を絡めて来たのでドキッとした。


(こ、恋人っぽい……!)


「これからも……こうしてピアノを弾いてくれる?」

「もちろんです!」


 私は笑顔で答えると、ギュッと手を握り返した。



 リクエストのピアノを弾き終えた後、移動してソファに腰を下ろすと隣に座った殿下はそっと肩に腕を回して私を抱き寄せた。


(近っ……! ド、ドキドキする!)


 その密着ぷりが恥ずかしくて耐えられず私は気を紛らわすために話を切り出すことにした。

 少し前から気になっていたこと。


「そ、そそそ───そういえば! 殿下は私のお母様のことをご存知だったのですね!?」

「うん」

「えっと、私が弾いた曲を懐かしい気がすると言ったのは、お母様が弾いていたところを聞いたからですか?」

「そうだよ」


 そうして殿下は私にお母様の話をしてくれた。


「───お母様のピアノが王妃様のお気に入りだったなんて知りませんでした」

「そういえば、リネットは当時夫人に付き添って王宮に来ることはなかったよね?」

「そうですね。お父様やお母様が出かけている時の私は、使用人たちといつも留守番していましたから」


 当時、お母様にくっついて王宮に私も行っていたなら、レジナルド様とは違う出会いが待っていたのかしら?

 幼い頃の殿下を見ることが出来たかもしれないのに少し残念──


「……小さい頃のリネットにも会ってみたかったな」

「!」

「ん? どうしたの? そのびっくり顔」

「い……え……」


 同じことを考えていたと分かって嬉しくなって思わず口元が緩んでしまう。


「───リネットはその頃から可愛かったんだろうなぁ」

「っ!」


 殿下はそういう恥ずかしいことを平気でサラッと口にする。

 そんな照れくささを誤魔化すために私の口からは可愛くない言葉が出てしまう。


「み、見た目だけならジュリエッタともよく似ていますよ」

「……」


 私がそう口にしたら殿下は一瞬ポカンという顔をした。

 そしてすぐに笑い出す。


「ははは、まさか! リネットと? 全然似ていないよ」

「え?」


 その反応に驚いた。

 そんなはずはない。

 母親同士が双子の従姉妹同士なのに?

 昔からそっくりと言われて来たのに?


「こうして素顔のリネットと過ごしていればその差は一目瞭然だ」

「レジナルド様……」


 そう言った殿下の顔が近づいて来てチュッと軽いキスをする。


「性格っていうのは顔や行動、言動にとてもよく現れるからね」

「……」

「──だから、どんなにパーツが似ていても僕が彼女……ジュリエッタに心惹かれることは絶対にないよ」


(レジナルド様……)


 その言葉はとても嬉しかった。

 ───でも、気のせいかしら?

 殿下は最後のその言葉を私に……ではなく、その奥の寝室の方に向けて言ったような気がした。


 

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