1.5 異世界の学問
ここでの学問は私にとっては相性が良いようだ。理由は明白だ。魔法は全て言葉を介して行使され、私たちの世界のように人体に魔力が宿る方式ではない。呪文を通じて、聖霊や物体に宿る「魔素」を使い、魔法を発動させるのだ。大学院で言語学を学んでいた私にとって、このシステムはそれほど難解ではない。正直、辞書なしで挑んだモホーク語の解読に比べれば、はるかに理解しやすい。ただし、呪文の構造には独特の特徴がある。自然言語では動詞が文の中央に位置することが多いが、この世界の呪文では、動詞が並列に繋がっているようなイメージだ。物体の変化を繰り返すことで魔法が成立するという点を考慮すれば、ある意味で非常に合理的だと言えるだろう。
さらに、どんな言語でも呪文に使えるわけではない。呪文は聖霊の言語と一致させる必要がある。これには、プログラミングに似た要素があるのかもしれない。機械と意思疎通を図るプログラミング言語と、聖霊と意思疎通を図る呪文の違いは、根本的には同じ原理に基づいている。呪文の種類によって構文が異なるが、使い魔と共に使う呪文は、私の感覚ではPythonに近いと感じた。モノによってはJavaScriptに近いものもある。「女子なのにプログラミングができるのか」という質問をされるのは、今の時代では非常に野暮だろう。一昔前なら「女子なのにパソコンを使えるんだ」と驚かれるのと同じようなものだろうか。ともあれ、この世界では言語が中心に据えられているようで、何とかやっていけそうだという感覚がある。
さて、次に気になるのは、この世界での試験の詳細だ。魔法や言語学に関する知識が求められるのは確実だろうが、どのような形式で出題されるのか、どの程度の実力が必要とされるのか…。エリオットにもう少し具体的な情報を聞いてみるべきかもしれない。