英単語の小テスト・1
四コマにする予定だった話です。
SSペースで投稿します。
不意に、死にたいと思うことがある。バイトでポカした日だったり、テストの点が低かった日だったり、
………天気が酷く良い日だったり。
(死に際の記憶が曇り空とか、俺ぁイヤだな)
カチカチとカッターの刃を出して、そっと自分の手首に当てる。かたん。それは俺の皮膚を切ることなくフローリングに落ちた。
(……………怖い)
実際に切れた試しは一度もない。今日も俺はすこぶる元気だちくしょう。
(…………あーあ、どうせこのままうだうだ生きて、普通に老衰とかで死ぬんだろうな……って、明日英語小テストあんじゃん! 死にてえ!)
寝よう、と今日も死ぬのを諦めてベッドに潜る。こんな日々が、ジジイになるまで続くのだと、そう思っていた。
この日までは。
ピピピ、ピピピ、とスマホのアラームが鳴っている。ベッドサイドの大窓からは朝日が差し込む。いつもの朝だ。
目の前の、布で目を隠した何かさえいなければ。
「………何? 誰?」
『お前こそ、なんだその寝相は』
首を痛めるぞ、なんて親のようなことを言う“それ”は、ヒトの形をしていた。
真ん中で分けられた前髪は耳上あたりでぱっつんと切り揃えられていて、神主のような装束を着て、布で目元を隠している。髪の黒と布の白は、やけにコントラストが効いていて少し目眩がした。
「よっ」と腹筋を駆使して、上半身がベッドから落ちた体を起こす。その勢いでアラームを止める。
『って、お前、私が見えているのか?』
「そうだけど。それが何?」
『私の姿は、普通の人間には見えないはずだが』
寝起きで、ただでさえ回っていない頭が数秒だけ思考を止めた。
「………ん??? つまり、そういうやつ?」
失礼ながら指をさしてそう言えば、それは赤い紐が通った袖をぷらんと体の前に下げた。心なしか、それの周りに青い人魂が数個浮く。
『そういうやつだ』
「………まじか」
俺はその日、朝メシを食いそびれたし、なんなら小テストの勉強もしそびれた。
完読ありがとうございます。お疲れ様でした。