上原 夜空⑤
夜空視点です。
あっくんの裏切り……ヒカリから受けた屈辱……全てが私の神経を逆なでした。
もうあっくんを取り戻そうなんて思いはない!
ただただあの2人が憎くて仕方ない……。
この憎しみを晴らすには、あいつらに復讐するしかない。
だって……人を裏切って平然としているような人間は地獄に堕ちるべきでしょう?
だから私は……2人に復讐と言う名の制裁を与えることにした。
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復讐の内容は至って単純……。
睡眠薬等を使って意識を奪ったあっくんと私が体を重ね、その様子を収めた写真をヒカリのクズに送り付けると言うもの……。
バカでも思いつきそうな手段だけど……成功すればその分インパクトも大きい。
消極的にちまちまと小さな嫌がらせなんてやっていたら、いずれボロが出るのも目に見えている。
だからこそ、インパクトが強く……単調でリスクも少ないこの手段を選んだ。
上手くいけば、あっくんには強い罪悪感が……ヒカリには大きな疑心が生まれ……今後の結婚生活にも多大な支障をきたすはず。
そうなれば離婚だって時間の問題ね……。
かといって、もうあっくんを拾ってあげたりはしないわ。
「……という計画を考えているんだけど、2人はどう思う?」
私は川の字で左右に横たわる天樹君と流君に復讐の内容を打ち明けた。
私達が今いる場所は少し古めのアパート。
3人でお金を出し合って借りている……本当ならあっくんと4人の愛の巣にしようと思っていたのに……。
「俺は賛成だ……夜空を罵るだけで飽き足らず、裏切って別の女に乗り換えるようなクズはもう親友じゃねぇよ!」
「僕も許せません……夜空さんにこれだけ愛されているのに、その想いを踏みにじるなんて……人間の所業とは思えません!」
2人も復讐に賛成してくれた……さすが、私の愛する夫達ね。
「でもどうやって暁を連れてくるんだ? あいつ、俺達を警戒してるよな?」
「そうですね……僕達が直接家に乗り込むような真似は避けた方が良いと思うよ」
「私だってそこまで馬鹿じゃないわ」
「じゃあどうするんだ?」
「天樹君、少し前に高校の同窓会の招待状が届いていたでしょう?」
「ん? あぁ……届いていたな。 行くのか?」
「ううん、行かない。 行ったらあっくんが来ないでしょうから」
「えっ? 暁が?」
私はあっくんがこの同窓会に参加すると踏んでいる。
彼は高校時代……天樹君だけでなくたくさんの友人達を持っていた。
中学時代からの友人……高校で仲良くなった友人……男女問わず、あっくんはみんなに好かれていた。
そんな仲間達と久々に会えるチャンスを、あっくんが無情にスルーするとは考えにくい。
かつてあっくんと愛し合っていた私だからこそわかる。
あっくんは同窓会に参加する……必ず。
だけど私達まで参加すれば……あっくんのことだ、きっと裸足で逃げるでしょうね。
いえ、それ以前に……事情を察している同期達が私達の参加を拒否するでしょうね……。
「でも夜空さんと兄さんが行けないなら、暁さんが同窓会に参加したとしてもどうしようもないんじゃ……」
「そうだね……だから協力者を作るつもり」
「協力者?」
「天樹君、同じクラスに立花君って子がいたのを覚えている?」
立花君とはあっくんも含めてそこまで親しい関係性はない。
だからあっくんに味方する可能性も薄いはずよ。
「あぁ……なんかそんな奴いた気がするな……影が薄くてあんまし覚えてないけど……」
「彼にお金を渡して協力してもらうわ」
「お金を渡すって……俺達が出せる額なんてたかが知れてるだろ?」
「この間、風の噂で来たんだけど……立花君、課金癖がひどいらしくて……両親からもかなり叱責されているみたい。
要するに……人並み以上に金に飢えているって訳。
そんな人間なら、たとえ少額でも喜んで私達に協力してくれるはずよ。
その内容が簡易なものなら……なおさらね」
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「わっわかった! 協力するよ!」
それからすぐに私は立花君の家に向かい……協力を申し出た。
案の定……金を少し見せただけで彼は目の色を変えた。
前金として2割ほど渡し……確実に金がもらえることを示してやったので、途中で裏切るような真似はしないはずだ。
それに立花君の実家は他の同期達と比べてあっくんの実家にとても近い位置にある。
仮にほかの同期があっくんに付き添ったとしても……最後にはあっくんと立花君の2人きりになるのは明白よ。
「それじゃあお願いね?」
私が立花君に頼んだことは2つ……。
同窓会に来たあっくんのグラスに私が預けた薬を盛ること……そして、同窓会が終わった後に意識が薄れているであろうあっくんを私が指定したラブホテルの前まで連れてくること……。
薬とは言ったけど……睡眠薬の類じゃないわ。
睡眠薬だったら話は簡単なんだけど……残念ながら入手ルートなんてないので、断念せざる負えなかった。
そのため私が代用品として選んだのは愛用している市販の鼻炎薬。
これは強力な分、眠くなる副作用も強い……とは言っても、意識をしっかりと持てば多少眠くなるだけで済む。
だけどそこに酒が加われば話は別……。
知識と呼ぶのも恥ずかしい常識レベルなことだけど……薬を酒で服用すれば意識が朦朧とし、睡眠薬と同等……とまでは行かなかったとしても、それに近い効果は期待できると思う。
そもそもあっくんは勢いづくとハメを外して飲みすぎる傾向があるから……薬はあくまでも保険。
彼の妻だった私だからこそ察することができる……あっくんは同窓会で必ずハメを外す。
泥酔にしても薬の副作用にしても……あっくんが私達の元に運び込まれるまでの時間は稼げるはず。
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そして同窓会当日……私達は予定通りラブホテルで待機し、あっくんと立花君の到着を待った。
立花君の事前連絡によると、想った通りあっくんは同窓会に参加しているみたい。
私達が参加していないことをいいことに、警戒心も緩くなっているでしょうね。
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そして夜11時を回った頃……立花君とあっくんを乗せたタクシーがホテルの前に到着した。
案の定あっくんは完全に眠っていた。
天樹君が背負っても全く起きる様子もないので、彼にそのまま部屋まで運んでもらうことにした。
「じゃあこれ、約束の報酬ね?」
「ひひひ……ありがとよ」
立花君は残りの報酬を私から受け取った後、そのままタクシーで帰っていった。
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「なあ夜空……もうそろそろいいだろう?」
部屋に戻った私を、裸になった天樹君が背後から抱き着いてきた。
この日のために少しお預け気味にしていたせいか……すでにできあがっている下半身を私のお尻に押し付けてくる。
「夜空さん……僕ももう……我慢できません」
流君までその場で服を脱ぎ捨て……甘えるように私の体に抱き着いてきた。
「全く……お盛んなんだから……」
私を求めてくる可愛らしい2人を微笑ましく思いつつ、私はベッドの上で眠っているあっくんに近づき、彼の頬に手を添えた。
彼の寝顔を見るのは実に久しぶりだ……私を裏切った憎い相手とはいえ、かつて愛していた夫の愛らしい寝顔を目の当たりにすると、少し心が揺さぶられる。
「……」
私はあっくんの身に着けている物を全て取り除いた後、私自身も彼と同じ姿になり……彼の下半身を刺激した……。
眠っているとはいえ、本能に逆らえないのが人間……まして、あんな車いす女が妻では欲望が溜まるのが必然。
案の定刺激し続けると……彼の下半身はほかの2人に負けないくらいに活気づいた。
「じゃあ4人で楽しみましょうか……」
そして私達は4人で絡み合った……。
はっきり言って、私はこの時ほど幸せを感じたことはなかった。
愛する夫3人に囲まれ……愛され……愛と快楽に覚えていく……。
夢にまで見たシチュエーション……これが復讐であることが本当に悔しい……。
あっくんが私達を受け入れてくれていたら……あっくんが浮気なんかに走らなければ……手に入ったはずの幸せ……。
このまま時が止まればいいのに……。
※※※
だけど現実は非情なもの……幸せな時間はあっという間に過ぎ去り……気が付いたら朝を迎えていた。
全身を包み込む疲労感がとても心地よい……。
天樹君と流君も昨夜のシチュエーションが溜まらなかったのか……いつもよりスッキリとした顔をしているように見える。
「うっ!……」
「おはよう……あっくん」
ついにあっくんが目を覚ました……。
内心行為中に起きたりしないかと心配していたけど……杞憂だったみたいね。
「なっなんで……」
「あっくんが求めてきたんでしょう? 私を」
事実……下半身は私を求めていたんだし、嘘じゃないでしょう?
「やめろ!!」
私があっくんの頬をなでようとした瞬間、彼はベッドから飛び起きてしまった。
昨夜はあんなに愛らしかったのに……さすがの私もカチンと来た。
「なっ何が……何がどうなってるんだ!?」
「何を言っているの? あっくんはあのゴミ女を捨てて私の元に帰ってきたんだよ?」
「ふっふざけるな!! そんなことがあってたまるか!!」
私はあっくんの心に揺さぶりをかけた……。
彼に強烈な罪悪感を感じさせるために……。
「もう……昨日だって4人で楽しんだじゃない」
私はとどめとして、記念に撮った”4人の仲良し写真”を彼に突き付けた。
あっくんは眠っていたけど、静止画では寝ているのか安易に目をつぶっているのか判断が難しいでしょうから。
……と言っても、今のあっくんの心にはそんな余裕はないでしょうけどね。
「嘘だ……嘘だぁぁぁ!!」
現実を受け止めきれず、あっくんは声を荒げた。
フフフ……あっくん、わかる?
それが人を裏切った罪悪感なんだよ?
あのクズ女に対してって言うのが癪だけど……これであっくんの心には浮気がどれだけ罪深いことなのか……強烈に刻み込まれたはず……。
そのトラウマを一生引きづって生きるといいわ……。
私を裏切ってゴミ女と浮気した……その十字架を……死ぬまで背負い続けなさい。
「じゃあね、あっくん。 ここの支払いは私がしておくわ……元妻として最後の情けよ」
着替え終わった私は、あっくんを1人残して天樹君と流君を連れて部屋を出た。
あっ! そうそう……あっくんには言ってなかったけど、ヒカリにも私から昨夜のことは伝えたわ。
たくさんの”仲良し写真”付きでね……。
ちなみにラインIDはあっくんのスマホから入手したわ……ロックは掛かっていたけど、ナンバーは夫婦時代にこっそり暗記していたからすぐに解除できた。
ナンバーがかわっていなかったのはラッキーだったわ……。
あっくんの不貞をわざわざ教えてあげるなんて、……我ながら人が良いわね、私は。
あっくんがヒカリにどう言い訳するのかは知らないけど……何を言ったって彼が不貞を犯したことは変えようのない事実……。
夫の不貞を知れば、大抵の妻は離婚する……。
再構築するパターンもあるけれど……1度崩れた信頼は何年経とうと元通りにはならない。
たとえヒカリに不貞の慰謝料を請求されたとしても……私は別に動じない。
あいつらの心にこの上ない傷を付けることができたし……私には本当の愛で繋がっている天樹君と流君がいる……3人で協力し合えば慰謝料なんてどうということはないわ。
愛さえあれば……それさえあれば……私には何もいらない。
復讐を終えた私達はまた……いつもの夫婦生活へと戻った。
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あっくんへの復讐から数週間が過ぎた……。
この日、私はパートの仕事を終えて帰路についていた。
いつもと変わらない日常……これからも続くであろう幸せ……それが突然音を立てて崩れる出来事がこの時起きた。
「上原夜空さんですね?」
「えっ?」
私の前に立ちふさがってきたのは1人の中年男……。
強面な顔と怪しげな雰囲気に身を包んでいるその男に、私は警戒して思わず後ずさりする。
「我々は警察の者です」
そう言って、男は懐から警察手帳を私に見せてきた。
「なっ何か御用でしょうか?」
「上原夜空さん……あなたを逮捕します」
「……は?」
言葉の意味がわからなかった……。
逮捕って言った?
逮捕って……あの逮捕?
何の話?
「じょっ冗談はやめてください」
「冗談ではありません……あなたは元夫である星暁さんが泥酔状態であるにも関わらず、彼の合意も得ずに行為に及びましたね? それは不同意性交罪に当たります。 証拠もすでに十分な量が揃っています」
不同意性交罪って……要するに強姦ってことよね?
私があっくんを強姦したってことになってるの!?
「ちょっちょっと待ってください! 私は女なんですよ!? 女の私が強姦で逮捕されるとか……おかしいでしょう!?」
「我々からすれば、別段おかしな話でもありませんがね。 今の時代……男性だって性犯罪の被害者になりうることだってある訳ですから……それに誤解のないように言っておきますが、法は加害者の性別で罪の有無を決めたりはしません」
「そんな……」
私……逮捕されるの?
刑務所に入るの?
いや……そんなの嫌!!
意味わかんない!!
私は正当な理由で復讐しただけ……悪いのはあっくんとヒカリじゃない!!
私は被害者よ!!
なのにどうして……逮捕されないといけないの!?
「同行願います……」
「嫌!!」
「あっ! 待て!!」
怖くなった私は思わず男に背負向けて逃げた。
嫌だ嫌だ嫌だ!!
あっくんの逆恨みなんかで逮捕されるなんて冗談じゃない!!
私はこれから天樹君と流君の3人で幸せに暮らすんだ!!
私には幸せになる権利が……愛される権利がある!!
そうでしょう!?
キュキューン!!
頭の中でいろんな思考が巡る中……2つの大きな光が私に迫ってきた。
それが車であること……私が今いる場所が車道であること……そのことに気づいた時にはすでに遅かった。
耳に大きな音が刺さったと同時に、私は目の前が真っ暗になった。
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「……」
気が付くと……私は見知らぬのベッド上で横たわっていた。
周囲のインテリアから、ここが病室であることは何となくわかる。
ふと目が合った看護婦が慌てて医者を呼んでくれた。
そこで私はあの後のことを知った。
私はあのまま車に轢かれて大けがを負ったものの、すぐに近くの病院に搬送されたことで助かったらしい。
ヒカリみたいに後遺症が残らないのは幸いだけど、ある程度回復したら警察病院に運ばれるようだ。
まあ完治すれば裁判にかけられるらしいけど……
天樹君と流君も共犯の罪で警察に連れていかれたらしい……。
本当にふざけた話だ……。
でもよくよく考えてみれば……仮に逮捕された所で強姦のお咎めなんてたかが知れている。
あの時は逮捕の言葉が恐ろしく感じて逃げてしまったが……冷静になってみれば余計なことをしたのかもしれない……。
まあ極端な話……終身刑や死刑にはならないはず。
刑期を過ぎれば出ることもできる。
そうなったらまた3人で幸せに暮らせる。
しかし……そんな希望を胸に抱いていた私には想像もしなかった……。
これから待ち受ける悪夢を……。
次話は暁視点です。
もう十分アホな話はできたので、一気にハッピーエンドまで突っ走って行きます!!