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上原 夜空⑥

夜空視点です。

予想通り長くなったので区切ります。

 入院してから数ヶ月は過ぎた……。

私の体は退院を許されるレベルにまで回復した。

ただ……私が真っ先に向かわなければならないのは裁判所。

あっくんを強姦した罪で私が起訴されているらしい。

はっきり言って逆恨みもいいところよ……。

私は私を裏切ったあっくんに制裁を与えただけ……それがどうして犯罪になるのかさっぱり理解できない。

あっくんが私を裏切ってヒカリと浮気なんかしなければ……こんなことは起きなかった。

証言台に立って私は自分の無実を必死に主張したけど……誰1人として私の言葉を聞き入れてくれる人はいなかった。

どいつもこいつも……私のことを軽蔑しきった目で見てくる。

天樹君も流君も……押し黙ったまま反論すらしてくれない。

何よりも癪に障るのは……ヒカリが私に向けてくる哀れむような視線。

私からあっくんを奪った悪魔の分際で……私にそんな視線を向けて来るなんて……きっと心の中では私を嘲笑っているに決まっる……。

本当に救いようのない女……私から言わせれば、こんなのがあっくんの奥さんでいること自体が犯罪だわ。


--------------------------------------


 結局私には有罪判決が下り、退院後すぐ刑務所へ入ることになった。

なぜそんなことになったのか……私にはさっぱりわからない。

刑務所へ送られるべきはヒカリの方でしょう?

あの女がいなければ……あっくんは私の元へ帰ってきてくれた。

私もあっくんに制裁を下すこともなかった……あっくんが浮気に走ることともなかった……。

たった1人で新天地に赴き……寂しい思いをしていたあっくんの心の隙間に入り込んで、自分の足の代わりに利用するクズ女……それがヒカリよ。

みんなみんな……あの女のせいじゃない……。

私は被害者であって加害者じゃない!

妻は浮気した夫に制裁を与えてはいけないの?……夫を奪った泥棒猫を恨んではいけないの?

じゃあ何?……浮気された妻が夫に慰謝料を請求するのは罪なの?

意味わかんない!!

浮気された人間の心がどれだけ傷ついているか……なんで誰も想像できないの?

いつから日本は浮気を肯定するようになったの?……いつから日本は浮気の惨たらしさもわからない馬鹿に落ちぶれたの?

……わからない。

今思えば……私を娘として大切に育ててくれていた実の両親も3人の妻になりたいという私の気持ちを理解してくれなかった……。

もう私達の気持ちを理解してくれる人は……この世にいないと考えるべきね。

そうでなければ……何の罪もない私達に有罪判決が下る訳がないんだから……。


--------------------------------------


 それから月日は流れ……刑期を終えた私はようやく自由を取り戻した。

だけど……私の心は複雑だった。

自由になれたのは嬉しいけど……なんだかゾンビだらけの世界に1人放り込まれた気分……。

だって……私と天樹君と流君以外の人間はみんな情が欠けた頭のおかしい奴ばかりなんだから……。


「おかえりなさい……夜空さん」


「流君……」


 自由を得た私を最初に出迎えてくれたのは流君だった。

彼は私よりも先に出所し、私の帰りを待っていてくれたんだ。

夫と妻なんだから当然と言えば当然だ。

だけど……。


「天樹君は……どうしたの? なんで迎えに来てくれないの?」


 流君より少し前に出所したはずの天樹君が……この場にいなかった。

どういうことなのか流君に尋ねると……天樹君が私との縁を切って1人行方をくらませたという話を聞いた。

もちろん信じられなかった……私のことをあれほど情熱的に愛してくれていた彼が……私に何も言わずに去るなんて……信じられるわけがない!!


--------------------------------------


 だがアパートにあるはずの天樹君の私物がなくなっており……彼が働いて貯めていた貯金も全てなくなっていた。

私は何がなんだかわからず……天樹君に直接電話して問いただすことにした。


「あっ! 天樹君!? 今どこにいるの!? 今帰ってきたら、天樹君の私物が全部なくなっているし、貯金も下ろしているみたいじゃない!!」


『なんかさ……冷めたわ。 お前と今後も一生いる自信ねぇし……お前を愛し続ける自信もなくなった』


「ふっふざけないでよ!! 私のこと……愛しているって言ってたじゃない!! 俺には夜空しかいないって……何度もささやいてくれたじゃない!!」


『まあそうなんだけどさ……冷めちまったもんはしょうがないだろ?

今の夜空に魅力なんて全く感じないし……それに実はさ、最近新しい彼女ができたんだよね』


「ふっふざけないでよ!! 私と言うものがありながら女を作るとか、ただの浮気じゃない!!」


『はぁ? いやいや……そもそも俺ら浮気なんて呼べるような関係性してねぇだろ?

言ってみればほとんどセフレ関係じゃね?』


 天樹君は悪びれもせず、私への裏切りを告げてきたどころか……私達のこれまでの関係をセフレ呼ばわりしてきた。


「なっ何がセフレよ!? 私は本気であなたを愛していたのに……」


『愛していたって……3股女が何純情ぶってんだよ。 だいたい流がいるんだろ?だったらあいつと一緒になれば良い話じゃねぇか』


 あれだけ私に愛をささやいていたくせに……私がいない間に女を作った浮気男が……愛を裏切ったクズ男が……どの口で私を批判しているんだ!!

人妻であった私にあんな情熱的な愛の告白をしてきたくせに……こんな簡単に手のひらを返しやがって……ふざけんな!!


「この……裏切者!! あんたなんか地獄に堕ちろ!!」


 私がそう吐き捨てると……天樹君は”俺に関わるな”と冷たく突き放して通話を切った。

再度電話を掛けたが、ブロックされていた……ラインやメールも……あらゆる連絡手段を断ち切られた。


「……」


 私はショックのあまりその場で立ち尽くした。

天樹君はいい加減な感じはあるけれど……愛を尊重する男だと信じていた。

それなのに……顔すら合わせず電話1本だけで私達と紡いできたこれまでの関係を……あっさりと切ってしまった。

心の底から怒りがこみあげてくる……。

できるものならあの男を見つけ出して殺してやりたい!!

だけど……出所したばかりで預金も多くない私にあの男を見つける力はない。

あっくんの時だって……3人で依頼料を出し合ったくらいなんだから……。


「ちくしょう!!」



 やり場のない怒りに耐えきれず、せめてのもの憂さ晴らしのと……私は手に持ってた自分のスマホを壁にたたきつけた。

そんなことしたって気なんて晴れないのはわかっているけど……どうしようもない。

もう流君と2人っきりで生きていくしかないと……半ば覚悟していた私に……さらなる追い打ちが掛かる。


「入ってきて……」


 流君は唐突に、若い女を部屋に招き入れた。


「夜空さん……実は僕、この子を……園田ゆずさんを2人目の妻として迎え入れたいと思っているんだ」


「……は?」


 状況が理解できないまま……流君は話を続けてきた。

要約すると……私の目の前にいるゆずという若い女に好意を抱き、私のことも捨てきれないから2人のことを妻として愛したいということらしい。


「はぁ? 何言ってんの? 2人目の妻とか、何をハーレム気取ってんのよ!?

あんた……頭が腐ってんじゃないの!?」


 天樹君に裏切られたばかりの私は怒りを抑えることができなかった私は、口汚く流君を罵った。

でも普通そうでしょ?

女を2人捕まえて両方妻に迎えたいなんて頭のおかしなことを言われたら……誰だって怒り狂う。

そもそもそれ以前に、私以外の女と浮気してんじゃない!!

それを謝るどころか開き直って……一体何様のつもり?


「でっでも僕は……夜空さんのことを夫として今でも愛しているんだよ?」


「何が愛してるよ、気持ち悪い。 妻以外の女に気持ちがうつむいた時点でそれは完璧浮気なのよ! 浮気しておいて……裏切っておいて……意味不明な言い訳を押し付けないでくれる?」


「だけど……夜空さんだって兄さんと僕を愛してくれていたじゃないか。

だから僕も……2人を愛そうと……」


「一緒にしないでよ……気持ち悪い。

私のはひたむきな純愛……あんたのはただの醜い浮気よ!

そんな簡単な違いもわからないとか……どれだけ頭が悪いの!?」


 信じられないことに……流君はゆずとの関係と私との関係と同列に考えていた。

どうしてそんな考えに至ったのか……私にはまるで理解できない。

どれだけ私を愛していようが……ほかの女を愛した時点で浮気者以外の何者でもない。

天樹君といい流君といい……ただでさえあっくんに浮気されて大きく傷ついている私に……どうしてこんな惨たらしい裏切りができるの?

兄弟そろって良識とか心とか……人としてあるべきものがないの?

いやある訳がない……ないからこんな簡単に人を裏切れるんだ……。


「つーか、あんた……その女とシタの?」


「そっそれは……うん」


 しかもあろうことか……流君はゆずとかいう女と体まで重ねていた。

ここまで……ここまで性根が腐っていたなんて……。


「夜空さんに言いそびれてしまっていたのは申し訳ないけれど……僕は夜空さんのことを忘れたりはしなかったよ? 僕にとっては2人共大切な女性だから……」


 キモいキモいキモい……気持ち悪すぎる。

もう目の前にいるのが自分と同じ人間なのかと疑いたくなるレベルだ……。

卒業こそしていないものの……これが大学にまで行った人間とは到底思えない。

一体どんな教育をしたらこんな訳の分からない脳みそになる訳?

よくよく考えたら……私の愛を全く理解できなかったバカ親共だ……。

そんな奴らが教育を施したと考えたら……子供が常識知らずの馬鹿に堕ちるのも納得はいく。

親になってはいけない人間って……ああいう奴らのことなんだわ。

あんな毒親の元に生まれたせいで私の愛する2人は裏切者になった……そう言ってしまえば、天樹君と流君もある意味、被害者と言えなくもない。

でもだからと言って……私を裏切ったことに変わりはない。

裏切ったのは2人の意思なんだから……私こそが真の被害者だ!


 バチンッ!!


「うっ!!」


 なれなれしく私に触ろうとしてくる裏切者に……私は平手打ちをした。

痛そうに頬を抑えている彼のしぐさがすごくイライラした……私はその何百倍の痛みを心に受けているのよ?

ホント……どこまで女々しいの?


「触らないでよケダモノ!! あんたなんかもう……夫でもなんでもない!! 出ていけ!!」


 私は怒りのままに、手に取った物を裏切者共に投げつけた。

目の前にいるのはもう……夫なんかじゃない!!

人間として欠如しているただの裏切者だ!!


「やっやめて! 夜空さん!」


「出てけ! 出ていけっ! 裏切者!! クズ野郎!!」


 私は無我夢中で物を投げつけ……出ていくように言い続けた。


※※※


「……」


 そうして気が付くと……私は1人、行く当てもなく町をさまよっていた。

流君とゆずとかいう女は……いつの間にか姿を消していた。

私自身は……あの騒動でアパートを追い出されることになってしまった……。

私は愛する夫達も……家も……何もかも失ってしまった。

多少の預金はあるからバイトでもすれば1人でも生きてはいけるだろう……。

だけど私の心には……何も残っていない。

愛も……信じていた人も……何もない。

ただただ傷ついて……ボロボロになっただけ……。

もう裏切者達への怒りすら湧いてこない……。

今の私にあるのは……途方もない空しさだけ……。


「どうして……どうしてこんなことになったの? 私……何もしていないのに……」


 献身的に夫に尽くし、夫を愛し続けていただけの健全な妻であった私が……どうしてこんな理不尽な目に合わないといけないの?

長い間ずっと愛し合っていたあっくん……私に深い愛をぶつけてくれた天樹君……私が初めての女性であった流君……みんな私を心から愛してくれた。

それなのにどうして……みんな私を裏切ったの?

どうして私との幸せな未来を描こうと思わなかったの?

どうして男という生き物は……簡単に女を裏切れるの?

もう嫌だ……。

善良な女にこんな仕打ちをするゴミみたいな世界なんか捨てて……どこか遠くに行きたいな……。

でも……どこへ行っても1人なのは……嫌だな。


「ケン待って! 話を聞いて!!」


「うるさい! お前が俺以外の男とデートしてたのを見たんだぞ!!」


 ふと足を止めると……公園で言い争いをしているカップルが目に入った。

すぐそばには大きなカメラが設置されて2人を映しているし、野次馬のように人が周囲にあふれているので……ドラマの撮影であることはなんとなく察することができた。

そのシーンを要約すると……主人公の女が恋人に浮気を疑われて責められていたが、実際は主人公が弟と町へ遊びに行ったのを恋人が勘違いしただけという幼稚なオチだ。


「ごめん! 俺、勘違いしていた! お前に別の男ができたと思って……嫉妬してしまった……」


「わかってくれたらいいの!!」


 誤解が解けて仲直りするシーンはなんともお粗末なものだったけど……ここで私はあることに気づいてしまった。


「そうか……そうだったんだ……あっくん」


 私はあっくんがどうして私を裏切ってヒカリと結婚したのか全くわからなかった。

高校時代からずっと相思相愛だったはずなのに……どうして私を裏切ってしまったのか……わからなかった。

でも……今わかった。

あっくんは……”嫉妬”していたんだ。

天樹君と流君に……。

私が天樹君と流君を夫に迎えて4人で生活していたら……少なからずあっくんと2人で過ごす時間は減ってしまう。

あっくんはそれが耐えられなかったんだ……。

だからヤケを起こして私と離婚し、ヒカリなんかと結婚したんだ……。

ヒカリとの仲を見せつけて……自分と同じように私にも嫉妬してほしかったんだ。

そうか……そうだったんだ……。

あっくんごめんなさい……私、少し勘違いをしていた。

あなたは嫉妬していただけで、今でも私を想い続けている。

私があなたの本心に気づかないあまりに……あんな裁判まで起こしてしまったんだわ。

可哀そうな人……。

私は……なんて馬鹿だったんだ。

私を真に愛していたあっくんの嫉妬に気づかず、あんなクズ兄弟なんかにうつつを抜かしてしまった。

でももう大丈夫……目が覚めたわ。

あんな裏切者の兄弟なんてどうでもいい!!

私が心から愛しているのはあっくんただ1人!!


 ……。


 だけどきっと……あなたは私を受け入れてはくれない。

嫉妬に狂ったからとはいえ、あなたはヒカリと結婚してしまった。

今更私を愛しているなんて……きっと言えないわ。

それに……あの忌々しいヒカリがあっくんの本心を知って大人しく引き下がるとも思えない。

欠陥品とはいえ……逆上して何をするかわかったものじゃないわ。

それに私自身も……あんなクズ共に体を許してしまった身……。

こんなんじゃきっと……彼は素直になれない。

だからといって……私は引き下がったりはしない。

じゃあどうするか……そんなの簡単よ。


 ”リセットすればいいんだ……全てを”


「待っててね? あっくん」


 私は1度アパートに戻り……包丁を手に取ってあっくんの元へ向かった。

今度こそ……幸せな未来を2人で築くんだ。


 ”新しい世界”でね……。

次話も夜空視点です。

次で夜空の末路を書き終え、最後に暁とヒカリのその後をさくっと書いて終わりにしたいと思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] 難といいますか、良い汚離しだなぁと。(;∀;)(特に刃傷危れるハードフルな結末が。)
[一言] 誤実怨名にクズ呼ばわりされてもねぇと。(•▽•;)(売ン酷最な奴庭産ン黒刺差は自覚できん訳で。)
[気になる点] あまりにも無茶苦茶過ぎて共感しないのは当たり前なんだけど、狂気のキャラクターにも糸一本ぐらいの自分の常識から何か伸ばして毛ほどの理解というか、何かボタンを掛け違ってこうなってしまう可能…
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