奏石 流②
流視点です。
何度も同じ話を書くのもなんなので、後半はめちゃくちゃ省きました。
暁さんの実家に呼び出された僕達……夜空さんは離婚と惨たらしい現実を突き付けられ、深く悲しんでいた。
暁さんだけじゃない……僕達の両親にも夜空さんとの清い愛を伝えても、全く理解してくれなかった。
「もうあの女とは縁を切りなさい!」
母は僕に何度も夜空さんとの関係を絶つように言い聞かせてきた。
今まで母の言葉を素直に受け取り続け、逆らったことのない僕だけど……こればかりは譲れなかった。
「それはできない。 僕は夜空さんを愛しているんだ……彼女のそばを離れるなんてできないよ」
「何をバカなことを言っているの!? あなたは不倫した身なの!?
このままあの女と一緒にいても、あなたが不幸になるだけよ!」
「あの女なんて呼ばないでくれよ! 彼女は僕の運命の人なんだ!」
「お願いだから目を覚まして! 今のあなたはどうかしてるのよ!」
「どうかしてるのは母さんの方だよ! 僕にとって夜空さんと一緒にいることが何よりも幸せなことなんだ。親なら子供の幸せを願うべきじゃないの!?」
「!!!」
その瞬間……母さんは暁さんを説得している夜空さんを殺意のこもった目でにらみつけた。
「この……アバズレ女ぁぁぁ!!」
発狂しながら夜空さんに襲い掛かろうとする母……。
「よせっ! 母さん」
そんな母を羽交い締めにして止めたのは……兄と別室に行っていた父だった。
「離してっ! 大切に育ててきた息子達が……あんな不倫女のせいでこんな訳の分からない頭になったのよ!?」
「だからと言って暴力に訴えても何も解決しないだろう?」
普段はとても穏やかな母がこんな般若のような顔で怒る姿を……僕は見たことがない。
「でも!!」
「とにかく落ち着け! なんのために弁護士さんに来てもらったと思っているんだ!?」
「……」
父の言葉に……母はひざから崩れ落ちた。
それ以降……母は嗚咽を漏らして泣くばかりだった。
その光景に胸と打つものがないと言えば嘘になる。
でも……それでも僕は……夜空さんの夫として……彼女を守らないといけないんだ。
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夜空さんの説得も空しく、暁さんとの離婚が成立してしまった。
僕と兄は1人になってしまった夜空さんを守るべく、長年住んでいた家を出ることにした。
母は泣きじゃくり、父は無言を貫いた。
今まで育ててくれた両親には悪いけれど……僕には夜空さんを守る義務がある。
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それから僕達3人は小さなアパートに身を寄せ、新しい人生をスタートさせた
僕は大学を辞め、小さな会社に就職し……夜空さんを支えようと毎日奮闘していた。
兄も工場に勤務し、夜空さんもパートで働き……3人力を合わせて過ごしていた。
だけど夜空さんは……今もなお暁さんを愛していた。
離婚後も暁さんとよりを戻そうと説得を続けていたらしいけど、暁さんは受け入れてくれなかった。
そして離婚から3年後……僕達は暁さんの居場所を突き止めるべく、探偵を雇って調査してもらった。
その結果……暁さんは異動先で別の女性と再婚したという信じがたい事実を知った。
夜空さんは深く悲しみ、兄は憤怒した。
諦めずに会いに行った夜空さんを暁さんは冷たく突き放してしまい……その結果、夜空さんの中にあった暁さんへの愛情は憎しみに変貌してしまった。
そして夜空さんは……自分を裏切った暁さんに復讐することを決意した。
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復讐の内容を簡易的に説明すると……夜空さんが意識を失った暁さんとホテルで一夜を共にし……その一部始終を彼の今の奥さんにも写真で突き付けるというもの。
そうすれば、暁さんには強い罪悪感が芽生え……奥さんの心には深い傷が残る。
決行日は暁さんの高校の同窓会で……立花と言う協力者にホテルまで連れてきてもらう手はずになっている。
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結果だけ言うと……夜空さんの復讐は成功した。
寝ていたとはいえ、暁さんは奥さんを裏切って夜空さんと夜を共にしてしまった。
その事実に、彼は心の底から後悔していた。
奥さんにも夜空さんから写真を送り付けたらしい。
何をどう思うかは知らないけど……ショックなのは間違いないだろう。
暁さんに悪い気がしないこともないけど、夜空さんの愛を裏切ってしまったのは事実なんだから……それを深く反省し、知ってほしいと願う。
そして復讐を終えた僕達は……3人で幸せな人生を歩いていく……はずだった。
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「奏石 流さんですね?」
「はい……」
「あなたを逮捕します」
復讐を終えてから数週間が経ったある日……いつも通り会社で仕事をしていると、警察官が僕を訪ねてきた。
罪状は不同意性交罪……そして被害者は暁さん。
僕は夜空さんの共犯として逮捕されるらしい。
最初は信じられなかったけど……証拠や証人も揃っていて、兄も先ほど逮捕されたらしい。
だけど僕には……逮捕より信じがたい事実を耳にした。
「夜空さんが車にハネられた!?」
「えぇ……逮捕を恐れて逃亡を図ろうとしたのですが……道路に飛び出してそのまま……」
「彼女は無事なんですか!?」
「命に別状はありません。 今は病院で治療のため入院しています」
「そんな……夜空さんに合わせてください!」
「それはできません。 今はとにかく、我々に同行していただきます」
「……わかりました」
夜空さんの容態が気になるけど……今の僕には自由がない。
僕は大人しく警察に同行することにした。
次話は天樹視点です。
天樹から順に流と夜空の末路を書き終えたいと思います。