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循環螺旋の上の冒険  作者: 餡子鈴
裏切りの魔女と痩せていく魔剣
8/30

一本道の迷宮

計算した番号に飛ぶイベントのあるゲームブックへのオマージュです。

 岩山の扉には鍵がかかっていませんでした。斥候(スカウト)様が罠が無いか慎重に調べてから、重厚な扉をそっと一部開け、鏡を使って慎重に内部を観察してから、扉をあけて中に入られます。弓兵様が敵襲に備えて、弓を番えてそれを見守ります。


 部屋は貴族の邸宅のホールのような広さと天井の高さがあり、壁面に照明がこうこうと輝いています。蝋燭や松明よりもずっと明るく、魔法ですね。斧槍使い様も、斥候(スカウト)様も、弓兵様も驚いています。あらかじめ話を聞いていた私もいささか感動を禁じえません。


 部屋の中央には、口をあけたカエルそっくりの像があります。カエルは首から札を下げていて、札には古の帝国の文字で「我の食物と汝の願いを口に入れよ。」と書かれています。カエルの前には大きな皿がおかれていて、中に長方形の金属片が100枚は積まれています。それぞれの金属片には(5 9) (4 7)と言うような2つの数字の組み合わせが書かれています。


 部屋の奥には大きな扉があり、扉には古の帝国の文字で「一本道の迷宮。賢きものは入れ替える。」と言う文が書かれ、縦3横3の9マスの正方形の図が描かれています。左上段のマスに6、中央上段のマスに11、右上段のマスに8、左中段のマスに7、中央中段のマスに8と牛の頭の絵、右中段のマスに10、左下段のマスに10、中央下段のマスに6、右下段のマスに9が、また、左下段のマスの下にホール、左上段のマスの上に謁見の間と書き込まれています。


「これにはどんな意味があるの?」


 斥候(スカウト)様がこちらを向いて聞きました。


「魔王は、自分に教えを請う来訪者の機転を試しているのです。」


 魔法の才がある人がいれば、秘密の言葉を唱えることで門番の土人形(ゴーレム)を無力化できたことは、黙っておきましょう。


「謎かけってことね。答えは聞いていないの?」


「聞いて」を強調する斥候(スカウト)様。私はそれを無視して、答えます。


「古文書には残っていません。魔王は新たな来訪者が来るたびに、仕掛けを変えているそうです。私たち自らが答えを見出さないといけません。」


「人の頭と獅子の身体を持つ魔物は、謎かけの答えを間違えた人を食べたって聞いたんだけれども…」


 南の海を越えた国の伝承ですね。斥候(スカウト)様の心配はもっともですが、命をとるための謎かけではありません。


「幸い、やり直しは何回でもできるそうです。」


 じっと図を見ていた斧槍使い様が指摘しました。


「マスに切れ目がありますね。数字の6のマスは上と右に、11は右と左に、8は下と左に、7は右と下に、10は上と下に、6は上と右に、9は上と左に切れ目があります。」


 確かにあります。斧槍使い様の観察力に感嘆します。


「番号が部屋の形状に対応している?」


 斥候(スカウト)様の意見に同意です。


「この牛、通してくれそうに無いな…」


 迷宮の主でしょうね。ここにいるぞと示しています。


「ゃればぃぃ。」


 戦士のための試練ではないのです。力技で押し通れるでしょうか。しかし、正解にたどり着くための情報が不足しているのに、話あっていてもよくありません。


「一度、迷宮に入ってみませんか?」


 弓兵様の御主張に同意しましょう。


 ロビーに逃げ帰って扉を占めると、甲冑を着込んだ牛頭人身の魔物(ミノタウロス)は私たちを追いかけるのをやめて去っていきました。


「この世のものとは思えない強さだったな…」


 斧槍使い様がへなへなと座り込みます。


「あの体躯で全身を覆いつくす甲冑は反則だろ…」


 隙が全くなかったですね。まさに魔王の衛兵、この世のものとは思えません。


「殺しに来なかったので助かったね…」


 先端が分かれた棒(さすまた)で、私たちは追い払われました。


「収穫もあります。数字は確かに部屋の通行口の位置を表しています。」


 ルールを把握するのが、第一です。


「しかし、今のままでは、牛頭人身の魔物(ミノタウロス)に通してもらえません。やはり魔剣で倒すべきでしょうか。」


 と、斧槍使い様。


「魔剣を使う前に、他の努力をしてしまいましょう。カエルの像が鍵になると思います。」


 皿の金属片の数を数えると、120枚ありました。1から16までの2つの数字の組み合わせと言うことです。大小逆の順番の数字もありません。


 私はまず(7 10)の金属片を探し、カエルの像の口の中に入れました。


「何も起きないね。」


 斥候(スカウト)様が残念そうにつぶやきます。


「発掘される魔道具の多くとは違うようですね。これが使えるはずです。」


 私は銀色のカケラを取り出します。


「さっき泥人形から掘り出していた魔力(マナ)の結晶だよね?」


 そうです。

 カエルの口に魔力(マナ)の結晶を入れると、カエルは口を閉じました。


「動きました。もう一度、迷宮に入ってみましょう。」


 最初の部屋は、正面と右手に通行口の枠はあるのですが、壁でした。どうしようもないので扉を閉めると、カエルが口を開けて、魔力の結晶と金属片を吐き出しました。


 ルールはだいぶ分かって来ました。(7 10)の金属片で、数字10の部屋の通行口の位置が、数字7の位置になったと推測できます。(7 10)の金属片は、7と10の部屋の通行口の位置を入れ替える可能性が高いです。しかし、扉の図にある数字以外の数字の部屋の通行口の位置は不明です。試してみなければなりません。


 私は次に(1 10)の金属片を探し、カエルの像の口の中に入れました。入口の扉を開けると、壁になっていました。

 いちいち気にせず、どんどん試していきます。


 こうやって網羅的に試した結果、数字の4は下、12は上・右・下、13は右・下・左、14は上・下・左、16は4面に通行口があることがわかりました。1、2、3、5、15は下が空いていないこと以外は不明ですが、もうどうすればいいかは分かります。


 私は(10 14)、(10 7)、(6 16)、(8 12)の金属片と魔力の結晶をカエルの像の口に入れました。簡単な置換(パーミュテイション)の問題ですね。


「これで牛頭人身の魔物(ミノタウロス)に会わずに、謁見の間にいけます。」


 最後の一片で念を入れて閉じ込めるので、帰りに遭遇(エンカウント)することもないでしょう。


 一本道にさ迷うことになりましたが、いよいよ魔王と対面です。私は首から下げた聖なる象徴を握りました。嗚呼、神よ。斧盾使い様が魔剣を振り下ろす前に、魔王の愛に気づきませんように!

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