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循環螺旋の上の冒険  作者: 餡子鈴
屍術師と燃える石
29/30

穴を掘っている間に

 戻ると巨大な二枚扉が開いていた。引き戸だった。中は暗いがかなり広い。天井は3階建ての邸宅が余裕で建つぐらいは高く、奥行きもかなりある。馬から降りて、扉から巨大な横穴に入る。


 入り口付近の扉の内側には、燃える石(せきたん)が三つの山に分けて積み上げられていた。


燃える石(せきたん)が選別されています。」


 と異国風の女(エキゾチック)


燃える石(せきたん)にも種類があるのですね。」


「燃料に使えるのは、褐炭、瀝青炭(れきせいたん)、無煙炭ですが、瀝青炭は着火性がよく熱量もあり、採掘量も多いです。褐炭の方がありふれていますが、水分が多く熱量が小さいです。無煙炭は煙が少なく熱量も多いのですが、着火性が悪く、希少です。」


 普段は寡黙なのだが、オレの言葉に饒舌に答える異国風の女(エキゾチック)


「詳しいですね。」


「はい。古の帝国時代の魔女に興味があって、ずっと探索を続けてきました。」


 学者なのであろうか。


「魔女が燃える石(せきたん)を使っていたということですか?」


「はい。魔力の源にしていたと伝えられています。」


「ここを神殿とおっしゃっていたと思いますが?」


「古の帝国時代、力の強い魔女は神として崇められ、魔法のための施設は神殿と呼ばれていました。」


 赤竜を使役する母親を思い出す。


「人骨がいくつもあるね。一部ではなくて、全部。服はないけど、燃える石(せきたん)周辺の骨の傍にはシャベルはある。」


 斥候(スカウト)が地面にあった骨を調べだす。


「古の帝国では、全裸で作業をする習慣があったのか。」


「漁民以外では聞いたことはないです。」


「ときめいておりましたのに。」


 異国風の女(エキゾチック)の言葉に、修道女がつぶやく。筋肉隆々な全裸のおっさんが働いているのを見ても、むさいと思うのだが。


「打撲と刀傷、あと矢傷が骨にある。骨は戦で死んだ遺体。」


 調べていた斥候(スカウト)が言う。


「戦場から死体を運んできて並べたみたい。」


「何のために?」


 オレは古の帝国に詳しそうな異国風の女(エキゾチック)の方を見るが、彼女は目を伏せた。分からないようだ。


「木材の上に四輪の馬車の荷台(カーゴ)がある!」


「トロッコです。敷いてある木材はレールと言います。」


 斥候(スカウト)の言葉には、薀蓄を披露した。レールは奥に続いており、トロッコには燃える石(せきたん)が積まれている。


「奥に続いているね。」


「明かりをつけるか。」


 しかし、オレが松明をバックパックから取り出すと、異国風の女(エキゾチック)は、


燃える石(せきたん)の粉塵が舞っていたりはしませんが、燃える石(せきたん)からは目に見えない燃える成分が流れ出ています。扉をあけてから間がなく、まだ十分な換気ができていないかも知れないので、念のためにこれを使いましょう。」


 と制止し、木箱に入った水晶玉を取り出した。鎖がついていて吊り下げられるようになっており、六面のうち一面に穴が開けられている。裏側は銀色の金属が貼られていた。


「魔道具です。」


 松明よりも明るい光が灯される。


「すごいね。あたしも欲しい。」


 これは便利だ。明るいだけではなく、火を起こさずに迅速に点けられる。しかし、


「魔道具を使って、御身体は大丈夫なのですか?」


「ええ。もう大丈夫です。」


 と言う修道女に対する異国風の女(エキゾチック)の返事にひっかかった。もう?


「それ、あたしにも仕える?」


 斥候(スカウト)は気にしなかったようだ。


「はい。どうぞ。」


 異国風の女(エキゾチック)斥候(スカウト)に魔道具を渡す。明かりが消えて、付いて、消えて、付いた。


「念じるだけでいいんだ!」


「はい。」


 斥候(スカウト)は御機嫌で周囲を照らす。明かりは調べる人が手に持っていた方が、調べたいところを照らせてよい。盗賊団を待ち構えるための準備をしなければならない。


「レールはいいね。これに沿って通りたくなる。しかも暗くて視界が悪い。」


「シャベルもあるし、従兄弟(アニキ)と弓兵は穴堀り。」


 斥候(スカウト)は、馬から筒と弓の弦と紐と杭を取り出しながら言った。オレはシャベルを拾って、弓兵に渡す。弓兵が穴を掘る真似をしたので親指を突き立てて「よし!」と言うと、弓兵も親指を突き立てた。


「木の(やじり)ですね。」


「金属の鏃は高いから、仕掛け弓のように至近距離から撃つのには使わない。」


 金属のU字型のピンを確認しながら、修道女を見下すように返事をする斥候(スカウト)


「木製でちょうどよかったです。これをお使いください。鏃に切れ目を入れると、よいと思います。」


 修道女が斥候(スカウト)に瓶を差し出す。


「これ、もしや…」


「触れないように気をつけてください。」


 薄れてきた修道女への心的外傷(トラウマ)が増強されないか不安になる。


「穴は視界が悪くなったぐらいのところ、仕掛け矢はもうちょっと奥、レールに沿って置くね。」


 斥候(スカウト)が指さすところに穴を掘っていく。


「胸ぐらいまででいい。終わったら、仕上げするから。」


 オレは大型の魔物を倒すときに落とし穴を掘ることもあるので慣れているが、弓兵はしんどそうであった。弓騎兵は魔物の足を止めずに戦えるから、罠を張ることは無いのだろう。


 半刻ばかりして穴をおおかた掘り終わってから気づく。


「修道女と異国風の女(エキゾチック)はどこに行った?」


「…いないね。馬も置いていっている。どうする?」


「罠の設置が先だ。奥に行ったんだろ。さっさと終わらせて、追いかけよう。」


 修道女ならばともかく、異国風の女(エキゾチック)まで消えてしまうとは。遺跡にはどんな罠があるか分からないと言うのに。


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