ジェンダーレスな美容家が王女に転生しちまった
「はい!終わったわよぉ~。どお?綺麗でしょ~、私がメイクしたんだから当然よぉ~。だから自信もって歩いてきなさい。大丈夫よぉ~。」
私は初ランナウェイを控えて緊張した面持ちのモデルを安心させるように笑顔を向け、優しく肩を叩いて送り出した。
「さぁ、次いくわよぉ~。」
モデルを送り出し次のモデルのメイクに向かおうと振り返ったところで、私の視界は暗闇に包まれた。
「ヴィオレッタ!君はまたカトリーヌに嫌がらせをしたそうじゃないか!!カトリーヌに嫌がらせをしたところで、僕の気持ちは手に入らないと何度言えば分かるんだ!!君のような醜悪な人間がいずれこの国を治める立場になるとは・・・。考えられない!!」
・・・ここはいったいどこかしら・・・。
物語にでも出てきそうな金髪碧眼のいかにも、なイケメンが、焦げ茶色の髪の華奢で小柄な可愛らしいいかにも、な目に涙を浮かべている女の子の肩を抱いて、こっちを睨みつけている。
・・・この人たちは一体誰かしら・・・。
私が疑問に思ったのと同時に、頭の中に無数の情報が流れてきた。
私の名前は、ヴィオレッタ・フォレフィノ。
フォレスタ王国の王女であり、次期女王の座に就くこの国で最も高貴な女性。
そんな女性を罵倒するこのバカ男は、大公家の嫡男でありヴィオレッタの婚約者でもあるアレックス・サラバン。
ヴィオレッタの婚約者であるはずのアレックスの隣にさも当然のように居座っているこの女は、カトリーヌ・ロゼッタ男爵令嬢。
なんでも、この二人は身分差を乗り越えた真実の愛によって結ばれており、私ヴィオレッタはそんな二人の邪魔をする悪役令嬢として貴族だけではなく、平民からも白い目で見られ、嫌われていた。
なんてことー、冗談じゃないわよ!なんで浮気男じゃなくて、私が責められないといけないのぉ~!
そもそも嫌がらせってなんの話しかしら~。身に覚えがないのに、ありえないわよぉ~。
完全に情報をコンプリートした私は(私の高い順応力に惚れ惚れするわね)、目の前の二人に向き直った。
「心配しなくても、貴方の気持ちを私に向けてほしいとも思ってないし、結婚するつもりもないから。大丈夫よぉ~、今からお父様に貴方との婚約を解消するようにお願いしてくるわ~!!」
私はクルっと回って二人に背を向け、軽やかに右手を振りながらスキップでこの場を去った。
「ちょっ、ヴィオレッタ!どういう事だ!ちゃんと説明しろ!!」
アレックスは慌てたように私の後ろ姿に向かって声をかけた。
バカ男の焦った声が聞えた気がするけど、気のせいよね~。
私は振り返らずそのままルンルン気分でヴィオレッタの父の元に向かった。
私は父の執務室に入るや否や、単刀直入にお願いをした。
「お父様、お話があります。私、ヴィオレッタ・フォレフィノはアレックス・サラバンとの婚約を解消したいと思います。ぜひ、許可をお願い致します。」
明るい赤い短髪に無骨そうな顔。どっしりとした体格にどうどうとした太い眉は、王の貫録を更に引き立たせていた。
前世の私と同じくらいの年のはずなのに、その威厳は流石だわぁ~。
見とれる私を余所に、王は眼光鋭く私を射抜いた。
「うむ。だが、アレックスとの婚約を解消するとなると、お前はこれから大変な道を歩まなければならなくなる。覚悟はあるか。」
父である王の問いに私は一度目を閉じ、情報を整理する。
アレックスとの婚約は愛し合ってではなく、政略的に結ばれたものだった。
父の弟にあたるアレックスの父は、所謂王弟だ。
共に優秀だった二人は王座を巡ってそれは激しく争った。武力に秀でた父を推すものと知力に秀でた弟であるサラバン大公を推す勢力は二分しており、勝敗を付けるのは難しかった。
だが神のいたずらなのかは知らないが、ある時、フォレスタ王国と隣国の間で戦が勃発した。
原因はフォレスタ王国側の平民の少女を隣国側の人間が拉致し、残酷な姿で殺してしまったからだ。隣国の野蛮な行動に、フォレスタ王国民の感情は大きく揺さぶられ、ついに開戦にまでつながった。
当然武力に秀でている父の活躍は目覚ましく、戦の勝利と共にそのまま王の座まで上り詰めた。
だが、知力に長けていたサラバン大公も数々の戦略を立て、勝利に貢献したとして不服申し立てをしたが、その決定は覆ることはなく表舞台から姿を消した。
その後も虎視眈々と父の座を狙う大公とこれ以上の争いは避けるため、王である父は、私が生まれるのと同時にサラバン大公の息子である当時二歳だったアレックスと私の婚約を決め、和解を求めた。
私と結婚をする事で、自身が成し遂げられなかった夢を息子が叶えることが出来る。
サラバン大公はこの結婚に納得しているかの様に見えたが、実はそうでもなかった。
この婚約を利用し、私の評価を貶め王女は女王に相応しくないと世論に印象付けさせ、私を廃嫡とし、自身の息子を王へと擁立する事を企んでいる。
欲にまみれた父親同様に富と権力を我が物にしたいアレックスはそれに共鳴。私を陥れる為あの手この手を使って努力している。今回のカトリーヌとの真実の愛もその一環だ。
王女である私が、下位貴族である弱い立場の男爵令嬢をいじめている。傲慢で横暴な王女は女王になる器ではない、と印象付ける為だ。
実際に過去のヴィオレッタは男爵令嬢であるカトリーヌをいじめる事は一切していない。だが、アレックスと結婚をして王妃になりたいカトリーヌが何かとヴィオレッタに絡んできては、ヴィオレッタからいじめられていると騒いでいるのだ。
濡れ衣を着せられるからとなるべく関わらないようにすれば、無視をされた。身分の低い者なんて虫けらと同じなんだと難癖をつけられ、反対に相手をすれば権力を笠に圧力をかけて来たと喚かれる。
だからって、なんで私があんな腐れ外道達にいい様に扱われないといけないのよ!!
ヴィオレッタちゃんは優しすぎるの!アレックスの事を愛してはいなくても、それでも家族になるのだからとあんなバカ男に歩み寄り、理解しようと努力してきた。その結果、いい様に扱われ、傷つけられ、何度裏切られても信じてあげる!その慈愛に満ちた精神はまさしく女王・・・いえ、聖女そのものよ!
なんて健気で私みたいなの!そうよぉ~私があなたを助けてあげるわぁ~。
私は目を開けると、力強く王の目を見据えた。
「覚悟は、あります!私はアレックス・サラバンとの婚約を解消し、そして、この国の発展の為に、力を尽くしたいと思います。」
「あい、分かった。その言葉肝に銘じよ!」
まっすぐな娘の言葉を受け取った父は、慈愛に満ちた優しい笑顔を私に向けた。
王のイケメンパワーを甘受した私は、肌の潤いを感じながら王宮の廊下を歩き自室へと向かった。
あんなイケメンが父親だなんてヴィオレッタちゃん、あなた最高ね~!イケメンに酔いしれた私は、そのまま鏡でヴィオレッタちゃんの顔を覗き込む。
「キャー――――――!!何なのよ、この顔!!」
私は鏡で見た自分の顔の酷さに・・・正確にはメイクセンスのなさに思わず叫び声をあげた。
不自然なほどに釣り上げられたアイラインに、はっきりと書かれた鋭すぎるアイブロウ。そして悪役を印象付けるようなリップカラー。ヴィオレッタの為に選ばれたであろう色はどれも似合わないものばかりだ。
ひどすぎるわ・・・。それにこのシャドウの入れ方は何!?こんな風に入れてしまったらせっかくのヴィオレッタちゃんのお顔の骨格を亡きものにしてしまっているわ。
顔の骨格を際立たせるのは、メイクの基本中の基本なのよ・・・。
ああ、何てこと。私はだれ?ここはどこ?
意識を手放しそうになる私をかろうじて現実世界に引き戻してくれたのは、私の悲鳴を聞いて慌てて駆け寄ってくる侍女達の掛け声だった。
「ヴィオレッタ様!どうされましたか!?」
クラッとする頭の上に手の甲を当て、その隙間からチラッと侍女達をのぞく。
「あんたねー私の顔をこんな風にしたのはぁ~!?」
いつもヴィオレッタにメイクをしている専属の侍女を見つけた私は首を傾け、目を大きく見開いて侍女を凝視した。
ひぃ。
一瞬侍女の悲鳴のようなものを聞いた気がするが、さすが王宮の侍女。すぐに平静を取り戻し淡々と告げた。
「このメイクは王女様たっての希望でございます。アレックス様の好みのメイクだとお話しさせていただいたところ、王女である威厳も保たれて良いと仰っていたではありませんか、もうお忘れになったのですか?」
!?
そんな恐ろしい事があったの?ああ、ダメよヴィオレッタちゃん。威厳と威圧、品のある美しさと着飾った虚像を勘違いしていたのね。
これからは私が正してあげるわぁ~そうよぉ~。
それにしても、なんでこの侍女は王女である私相手にこんなに偉そうなのかしら~。忘れたの?って、貴方があのバカ男の回し者って事くらい知っているのよ。大公家の優秀な侍女だと言って私の侍女に無理やりしたものね、あのクソ男。
このメイク、ヴィオレッタちゃんが美しくならないように嵌めたんでしょ~。
純粋なヴィオレッタちゃんの目はだませても、プロの私の目はだませないのよぉ~そうよぉ~。こんないい加減で愛のないメイク、久しぶりに見たわ~。
「ええ、はっきりと覚えているわ。でもねー私とあのくs・・・アレックスの婚約は解消される事になったの。だからもうあなたにメイクをしてもらう必要もなくなったし、貴方が私の侍女である必要もなくなったわ。明日から来なくていいわ、早く大公家に戻りなさい?」
私はまっすぐに侍女の顔を見つめ、笑顔でお別れを告げた。
今まで見下していた王女から突然のクビ宣告をされた事に腹が立ったのか、侍女は顔を真っ赤にした。
「アレックス様の頼みじゃなければ、何のとりえもない王女の面倒なんて誰が見るもんですか!!こっちから願い下げよ!!」
「あら、これが俗にいう不敬罪ってやつなのかしらぁ~。大公家の優秀な侍女と聞いていたけど、己の立場も鑑みる事ができない人間を寄こすなんて大公家も案外大した事ないのね~。本当は不敬罪で貴方をひっとらえてあげる所だけど、今回はあのバk・・・アレックスとの婚約解消祝いとして、大公家への抗議だけで済ませてあげるわ。分かったならさっさと行きなさい。」
侍女は悔しさに唇を嚙みながら、走ってその場を立ち去った。
・・・ふぅ。これで私をバカにすると自分の身が危ないってここにいる子達にも伝わったかしらね。
先ほどの流れた情報を加味するに、ここの侍女達は浮気バカ男と頭ちんちくりんの男爵令嬢との恋を最近流行りの身分差を乗り越えて結ばれる頭ふわふわお花畑の恋愛小説に当て嵌め、仕える主人を蔑ろにし、あの二人を応援していたのだ。
その為、陰口を叩いたり、ぞんざいな扱いをしたりと経度な嫌がらせをしていた。
お頭が足りのね~可哀そうな人達~。
当のヴィオレッタは、あの二人の邪魔をしているのは重々承知だがこれは王命の政略結婚だからどうしようもできないと深く悩み、侍女たちの嫌がらせを甘んじて受け入れていた。
そぅ!厳つくて怖いのは見た目だけで(この変なメイクのせいってのは多文にあるのだけれど)、ヴィオレッタちゃんは本当はとても純粋で優しい穏やかな女の子なの。
甘いわぁ~。だからあんなクソ男にいい様に扱われて嵌められた挙句、侍女達から舐められてしまうのよぉ~そうよぉ~。
人間は優しさだけではダメ。時には厳しさもいるの、そうよぉ~。相手に隙を見せてはいけないの、女王になるヴィオレッタちゃんは特にね。ま、もう私がヴィオレッタちゃんの代わりになったから大丈夫だけど。
いつもと違うヴィオレッタに戸惑いを隠せない侍女達との間にはいい感じの緊張感が走っていた。
これでどっちが上か、はっきり分かったみたいね。
「明日からメイクは自分でするわ。貴方達はそれ以外をいつも通りよろしく。あ、でも。分かっていると思うけど、言葉通り受け取ってしまう愚か者がいたら・・・その時はどうなるか、分かるわよね。」
私は妖しく微笑んで見せた。
王命により、私とクソ男の婚約は晴れて解消された。
そして父の戦略のせいなのか、二人の真実の愛を邪魔する悪役だった嫌われ者の私は、浮気をされひどく傷ついた可哀そうな王女として人々の同情を集めはじめていた。
風向きが変わりつつあるそんな中、フォレスタ王国の建国記念パーティーが今夜開かれる。
私の腕の見せ所よぉ~。
そぅ!前世の私は国内外で活躍していた、超!一流のヘア&メイクアップアーティスト。数々のショーに出演し、手掛けた女優、モデル、アーティストは数知れず。最近は雑誌、本に加えSNSなどでも活躍の幅を広げていた。
私の目標、「美で人々の心を癒し、世の中を美しく平和にする」という実現へ向けての歩みを力強く踏んでいる途中だった。
それなのになぜぇ~?神様はどうして私を異世界に飛ばしてきたの~?
でもどこの世界にいても私が目指すところは変わらないわ。むしろヴィオレッタちゃんになった今、地位と権力は手に入っているようなもの。前の世界より実現しやすくなったわよね~。
だから、私にとって今日が一番の頑張り時。この舞踏会を成功させる事で、あのクソ男を負かし、私の地位を盤石の物にする。
さて、と。今日のメイクはどうしようかしら。念入りなケアを終わらした私は、鏡の前の自分と向き合う。
この世界のメイク道具は、前世とほぼ変わらない。文明は何十年と遅れているくせに、これだけはしっかりしているなんて、変な世界よね~。まっ逆に私にとってはありがたいのだけれど。
今日のドレスは、建国にちなんで王族の繁栄を表す黄金のドレスとなっている。
ヴィオレッタちゃんの赤茶色の髪に合うようにちょっとオレンジ色よりの金になっているのよね。
今日は絶対に負けられない戦い。王女として、のちの女王として威厳と品格を表す必要がある。前の侍女だったら分かりやすくゴールドなんかを持ってきてやってたんでしょうけど、ナンセンスよぉ~。
品は表現するものではないの、内側から滲み出てくるものなの。この内なる美しさをメイクによって具現化する。
あのクソ男をはじめとする周囲から、優れたところが何一つない普通の王女と言われ続けてきたヴィオレッタちゃん。だけど、貴方はそれらの誹謗中傷に耐え、その上、マナーや教養、乗馬や武術・・・等想像をはるかに超えた厳しい王家の英才教育を受け、それにも関わらず更なる自己研鑽を積んで己を磨いてきた。
貴方は素晴らしい女性よ。何も持たない普通の王女ではないの。今こそ貴方のその美しさ、私が引き出してあげるわ。
はい、そのために~
化粧下地をポンポンポン。ファンデーションをトントントン。パウダーファンデをスッスッスッ。
潤いと光を纏ったベースメイクを施し、素敵な立体感をだしてツヤ肌に仕上げていく。
美しいわぁ~さすがよぉ~。
アイシャドウは、控えめに輝き重視で明るめのオレンジを入れていく。
婚約を解消し、新しいヴィオレッタちゃんをこの国の貴族に披露する必要がある。だから今までのどキツイ派手なメイクは、今日はご法度よ~そうよぉ~。
そして一番大事なアイブロウ。私の性格、人生全てが表現されるパーツ。
私は一本一本丁寧に眉毛を描いていく。
リップはやはり高貴さを表すレッド。奇抜な赤ではなく、上品でありながら年相応の愛らしさを表現できる色味を選び、最後の仕上げとして塗っていく。
侍女に指示して髪型も整えて・・・ついに完成よぉ~。
決して派手ではないけれどもドレスのゴールドに負けない、凛とした美しさの中にある上品さや豪華さがふんだんに溢れかえっている。
後ろに控える侍女がうっとりとした目で私を見つめ、感嘆している。
そうよぉ~、凄いでしょ~。これがヴィオレッタちゃんの素晴らしさなのよ。そしてそれを引き出せる私、最強でしょぉ~。
私は、驚嘆して顎が外れそうなくらい大きく口を開けていた父のエスコートで会場内に入った。
以前と変わった私を驚きと羨望の眼差しで見つめる貴族の視線を一身に集めながら、堂々とレッドカーペットを歩き、王の隣に座った。
王の挨拶で始まった舞踏会は、中盤に差し掛かったところで事は起きた。
頭ちんちくりんの男爵令嬢、カトリーヌがあえて私にぶつかり自分で持っていた赤ワインが入ったワイングラスを自分で自分にひっくり返すという、ありがちな展開を作ってくれたの~。
そして「ヴィオレッタ様・・・いくら私が嫌いだからと言って、王が主催するパーティーでこんな事をするなんてひどいです。」と言って目に涙一杯ためてギュッとドレスを握りしめて、可憐な少女を演出し始めたわぁ~。
「カトリーヌ!どうしたんだ!?」
そんな可愛い彼女を守らなくちゃいけないクソ男は、まるで自分が物語のヒーローかのように登場してきた。
騒ぎを聞きつけた会場にいる全ての貴族の目が私達に向いている。お父様も、そしてサラバン大公も遠くでこちらの事の次第を見守っている。
これで全て役者はそろったという事ね。
何ていう好機なの~。これで今までとは違う私を皆様に実感してもらえるわ~。
そぅ!変わったのは見た目だけじゃないのよ~。中身も変わっているのぉ~、当然だけどね~うふふふ。
「ヴィオレッタ様が・・・私にわざとぶつかってきて・・・アレックス様から買ってもらったドレスに赤ワインが・・・。」
頭ちんちくりん男爵令嬢は、ためていた涙をポロポロとこぼしながらか弱く話し始めた。
「なんてことだカトリーヌ!ドレスなんてどうでもいいんだ、また買えばいい!何よりも君が無事だった事が大事なんだ!」
ギュッと抱きしめ悲壮感たっぷりに話すクソ男。
この二人の劇に周りの貴族令嬢の皆さんはうっとりと見つめている。
とんだ茶番ねぇ~。
「ヴィオレッタ!もう君との婚約は解消している!カトリーヌは関係ないはずだ!今回の件は、婚約者という君がいながら、可憐で可愛らしいカトリーヌを愛してしまった私の未熟さから出てしまったもので、私の責任だ!弱い立場の人間を攻撃するのではなく、私にしたらどうなんだ!!君はそれでも時期女王としての自覚はあるのか!?」
あらぁ?考えたわね~。自分の有責を認める事で最近の自分達への世論への批判を緩和し、弱いものをいじめる私を非難し、自分の浮気を正当化しようとしている。そして私が次期女王としての器じゃないと示し、陥れようとしている。ふふふ、面白いわね~。
先ほどうっとりとしてこのおバカ二人を見つめていた貴族令嬢やサラバン側の人間は、今度は冷たい目で私を射抜き、それ以外の周りの貴族は私を品定めするかの如くじっと様子を覗い見つめている。窮地に落とされそうな私をニヤニヤと楽しんでいる者もいる。
ほんととんだ醜悪ばかりね、ここは。
私はパッと口元に扇を広げ、深くゆっくりと弧を描き心の中で笑い飛ばした。
ピシャ。勢いよく扇を畳むと私は反撃を開始した。
「ひどい言いがかりをするのね。今回の婚約解消は私たっての希望で成り立ったことをご存じでしょう?私は、貴方から解放された事でより自由に、そしてよりゴージャスになったの。見ればわかるでしょ?私は貴方に感謝しているわ。
貴方が私に「平凡で何もとりえのない君は女王にはふさわしくない。私のような素晴らしい人間が婚約者であるから、君の将来が約束されるんだ。だからせめて、私に恥ずかしくない婚約者でいるように努力してくれ」って言ってくれてたでしょ?
純粋で素直だった私はその言葉通り、自分自身を磨き、努力してきた。
今日、この、私の姿は、決して表面だけでは得られない、あのひどく辛い日々を耐えたからこそ得られた内面からの美しさが、私をより豪華に美しく引き立たせてくれているの。
貴方から解放される事で、今日より私は王女として、いえ、一人の人間としても開花する事が出来ました。これからは自由にどんな事にでも羽ばたいていけるでしょう。ですから、どうか、私に構うことなきようお願い致します。そして、カトリーヌ様と二人、静かに美しい愛を育んでいくことを願っていますわ。」
最後に私は王族として、周りから「はあぁぁ」っと感嘆の声が上がるほどの綺麗な礼をして見せ、その場を去った。
ふふふ、勝負あったわね。
その後、私の評価は一変し、貴族だけでなく国民からの支持もぐんぐん伸ばしていった。