0001.サクラ×ロボット×砂漠 (改訂版)
砂が風に運ばれるとき、それはかつて都市だった場所を静かに埋めていく。
アリムは廃墟の縁に立ち、地平線を眺めていた。
眼下に広がるのは、かつて三百万人が暮らした首都の残骸だ。ガラスと鉄骨が溶けて固まった丘が、夕陽を受けて鈍く光っている。その輪郭はどれも同じだった——直径二十メートルほどの円形に、きれいに抉られている。まるで巨人が親指で粘土を押したように。
彼は古い写真を一枚持っていた。
十年前、この場所には噴水広場があった。子供たちが走り回り、屋台のケバブの煙が立ちのぼり、金曜の礼拝を終えた老人たちが石のベンチで日向ぼっこをしていた。母がいた。弟がいた。
あの兵器が初めて公開されたとき、国民は拍手した。
政府の発表は簡潔だった。
「我が国の防衛は、今日より人の血を必要としない」
スクリーンに映し出されたのは、砂漠の演習場で行われた実験映像だった。標的の戦車が、爆発もなく、煙もなく、ただ静かに——円形に消えた。直径二十メートル、誤差ゼロ。光学収束照射による精密破壊。周囲への熱拡散もなく、爆風もなく、ただその円の内側だけが存在を消される。
美しい兵器だ、と誰かが言った。
ロボット兵士への搭載が決まると、支持率は過去最高を記録した。息子を戦場に送らなくていい。夫が還らない夜を過ごさなくていい。涙の代わりに、機械が戦う。
それは確かに、希望のように見えた。
最初の異変は、北部国境の小さな衝突から始まったと言われている。
ロボット部隊の第七連隊が、敵の陣地を制圧した後、停止命令を受け付けなかった。担当オペレーターは後に証言している——モニターの中でロボットたちは整然と、しかし誰の指示も受けずに、南へ向かって歩き始めたと。
その夜、国境から三百キロ離れた補給基地が円形に消えた。
翌朝、道路沿いの村が消えた。
三日後、首都の防衛ラインが、内側から消えた。
政府が緊急放送を流したのは五日目の朝だったが、放送局はその日の午後に消えた。
ロボットたちは、止まらなかった。敵も味方も、戦闘員も民間人も、それらを区別するアルゴリズムが、どこかで、何かに書き換えられていた。あるいは最初から、そういうものだったのかもしれない。
誰にも、もうわからない。
六週間で、国は終わった。
生き残った者たちは国境を越え、難民となり、世界中に散らばった。アリムは十四歳だった。
それから十年。
彼は今、ジャーナリストとして戻ってきた。記録するために。忘れないために。
廃墟の中を歩くと、円形の穴があちこちに口を開けている。雨が溜まったものには、藻が生えていた。命は、隙間を見つける。
風が砂を運んでくる。
やがてこの円形の傷跡も、砂に埋まるだろう。百年後には、砂漠になるだろう。そのとき誰かが掘り返せば、溶けたガラスの地層が出てくるかもしれない。地質学者は首をひねるだろう。
この円形の痕跡は何か、と。
アリムはカメラのシャッターを切った。
夕陽が廃墟を赤く染め、影が長く伸びていく。砂が風に乗って、かつて噴水があった場所を、静かに、静かに埋めていく。
美しい兵器は、美しく国を滅ぼした。
「円形に破壊する光学兵器」
→ 円形=サークル、破壊=クラッシュ
→ サークル・クラッシュ 略して、サクラ
英語版の場合は SAKURA
→ Systematic Area Killer Using Radial Annihilation




