子供達と感じた老いと
中学2年生の14歳が書いています。
何かと至らない点があると思いますが読んでもらえると嬉しいです。
「そういえばあおちゃん、机の上においてあったプリント知らないかしら?」
「えぇぇぇ……今度はプリント?私、プリントは知らないよ……?」
帰路を歩みながら唐突に切り出してきた姉に思わず脱力する。この前、レポートをなくしたと言っていたばかりではないか。
「じゃあ、今度こそ逃げてしまったのかしら……それとも小人さんたちが持っていってしまったり…」
「メルヘンチックな思考やめないとたぶん見つからないよ……?」
「でも、どこにしまったのかわからなくて……」
「だとしても、小人探すよりは簡単…………」
脳裏に、神のことがよぎる。
神と同じように小人ももしかしたらいるのだろうか。
だとしたら、探すのは無駄ではないかもしれない。
………いや、違う、そうではない。渚冬達と会ってから、葵もあり得ないことに期待しすぎている。
「………簡単、なはずだよ。」
「今、あおちゃん凄く迷ってなかったかしら?」
珍しい姉からの突っ込みを受けつつ、葵は稲荷ぐるみに、チラと視線を向けた。
稲荷ぐるみーー桜は、ここが人間界ということもあり、飛んだり跳ねたりできるにも関わらず静かにぬいぐるみを装っている。
そんな純真無垢な稲荷ぐるみ(桜)と、天然すぎる姉に挟まれ何気ない平和を感じたとき、前方から声が響いた。
「何あれ、かわいい!」
「狐?ぬいぐるみかな?」
「すごいふわふわしてるー!」
見れば、3人の幼い子どもたちがテトテト歩いてこちらの方面に向かってきていた。
ちょうどその時に葵の腕の中の稲荷ぐるみが目に入ったらしく、子どもたちは目をキラキラさせていた。
可愛いものには、大人も子供も関係ない。老若男女惹かれるものなのだと葵は改めて感じる。
「こんにちは!」
「こんにちは〜皆でどこかに遊びに行くのかしら?」
幼い子供たちの側へと近寄り、声をかける。
子供たちは元気に口それぞれに答える。
「うんっ!近くの楓公園に行くんだ!!」
「そのぬいぐるみ、なぁに?」
「狐さん、可愛いーー!」
葵は頬を緩めて稲荷ぐるみを子供たちの前に差し出す。
すると、子どもたちは目を輝かせ、「噛んだりしない?」とたずねながら小さな手を伸ばす。
「犬じゃないから、噛んだりしないよ?」
思わず笑ってしまう。子供たちは安心して稲荷ぐるみをそれぞれに撫でくりまわした。
桜には少し申し訳ないが、子どもたちの好奇心は大切にしたい。高校生のささやかな思いだった。
瑠依もその様子をのんびりとした様子で見守っている。
ふいに、男の子が稲荷ぐるみの手に触れたとき、小さく火花が散ったような、そんな気がした。
「……ぇ?」
葵は思わず声を漏らすが、その火花は誰にも見えていなかったらしい。子供達はもちろん、姉の瑠依も柔和な表情一つ崩さず、ニコニコしている。
いや、姉の洞察力に期待はできないのだが。稲荷ぐるみの手に触れた男の子も、特に何も気にした様子なく、次はモフモフとした尻尾に触っている。
気のせいか、と葵は思い直した。
ひとしきり稲荷ぐるみを触り満足した子供達に手を振って別れを告げる。瑠依がその姿を見送りながらポツリと呟く。
「若いって羨ましいわ……」
「いやお姉ちゃんも十分若いからね?自覚ないの?」
「だって最近何だか老眼な気がして……」
「いや、それきっと勘違いだよ?!お姉ちゃん老眼の意味分かってる?」
何故か老化を感じる姉に葵は嘆息する。
姉で老化しているならこの世界は少子高齢化が加速するどころの話では済まない。腕の中で桜が僅かに身じろぎする。
「あぁ、ごめんね、桜。帰ろっか」
ぬいぐるみ状態では喋れない桜の心中を察して、葵と瑠依は早足に一ノ瀬家の拠点(自宅)へと向かうのであった。
その時はまだ、平和な日々が続くのだと、葵も瑠依も、桜も、思っていた。ーー思っていた。