短く快適な空の旅
中学3年生、15歳、受験生、天音雫です。
色々な事が重なってますが頑張ります。
何かと至らない点があると思いますが読んでいただけると嬉しいです。
一方、下に立ち、楽しそうに葵と雅を見上げる子供も掌にエネルギーを宿す。床の黒い靄が増殖する。
「正解したおねーさんにいーこと教えたげるね!
僕の名前は輝留!
さっきの女の店主さんは僕の依頼人の、乙葉さん!」
黒い靄は実体のない生物のように、アメーバのように蠢く。
その様子に葵は既視感を覚えた。
何処かで、似たような光景を見たことがある気がする。
同じように、窮地に陥っている時に。
しかしそんな考え事をしている暇はない。
そんな隙を見せてしまえば、ーーーー
「僕と依頼人の、乙葉さんはどっちも妖魔だから気をつけたほうがいいよー!おねーさん?」
妖魔、その言葉を脳で理解する間もなく、耳元で舌打ちが聞こえたかと思いきや、葵はなんの支えもなしに宙へと放り投げられていた。
「いやぁぁぁぁっ!」
尋常ではない浮遊感に戦慄を覚え叫びつつ、落下する葵の目に映ったのは、雅が、着物の袖から扇子を取り出す姿だった。
「おねーさん、ニンゲンの世界で会ったことあるの気づいた?僕その時、髪黒く染めてたんだけどさーーーー!」
落下する葵の横に突如として出現し葵の服の袖をグイッと掴んで落下を止めた子供、輝留。
その手から葵の右の服の袖に黒い靄が鎖の形になって巻き付く。
「ーーーーッ!」
空いた片方の手で風を繰り出し輝留を突き放そうとするが、輝留は離れるどころか葵の爆風に1ミリも動かない。
ーー何故なら、
「無駄だよー?」
下から、蠢く黒い靄で支えられているのだから。その黒い靄は葵をも飲み込もうと、徐々に空中へと、葵の方へと、延びてくる。
恐怖に顔が引き攣るのを感じた。葵が、無我夢中でさらに風を繰り出そうとした刹那、
突如として黒い雪が葵の視界を掠めた。と思った瞬間、
耳の故障を疑うような音が響き、目の前には輝留も、黒い靄も、何もなかった。
時が止まったかのように、葵の体は支えもなしに宙に留まる。
葵は、破れた御札が天井から幾枚も幾枚も、ハラハラと落ちてくるのを視界の端で捉えた。
「おにーさん、妖魔じゃないよね?」
耳朶にその声が掠めた瞬間、再び時間は動くことを思い出した。
葵の体は重力に負け落下、勢いよく城の床に叩きつけられた。
「ゲホッ、ゔ……っ?!」
背中を強打した葵は空を、宙を見上げ、ゾッとした。
黒靄が、台風の目のように大きく大きく渦を巻いていた。
その渦を巻く黒靄の上に、雅と、輝留が、向かい合って立っていた。
雅の扇子からも、輝留の手のひらからも、全く同じ黒い靄が、蠢き溢れ出す。
「あ、」
思い出す。既視感の正体を。
あの靄は、姉が、邪神に乗っ取られ、渚冬の神代が破壊されかけたあの時に見たものだ。
そう、あの時邪神、雅は姉の体を媒介として聖域を黒い雪と靄で、埋め尽くした。




