望まぬ邂逅その2
中学生3年生、十五歳、天音雫です。
何かと至らない点があると思いますが読んでいただけると嬉しいです。
階段を登っている途中、不意に雅が止まり、葵はその背中に衝突しそうになった。
「わ……っ!ど、どうしたん、です………」
葵の問いかけは途中で途切れた。
雅の正面、行く手を塞ぐように誰かが立っているのが見えたからだ。葵は思わず背筋を伸ばした。
紅蓮の炎を連想させる赤い髪を1つに結わえ横に流している姿は一見すると美青年のように見える。
揃いの紅い着物をを纏い、穏やかな目尻をさらに下げ、ゆったりと腕を組んでその神はにこやかに笑った。
「久しぶりですねぇ、雅」
雅の舌打ちが聞こえる。
「わざわざお出迎だなんて、ご苦労さまだなぁ、クソ師匠」
「クソ師匠なんて、心外ですねぇ?」
クソ師匠、と呼ばれたその神は腕組みを解き雅へと一歩、距離を詰めた。
「貴方のことはとてもかわいがってあげたのに……おや?」
近づいたその神の目線が雅の後ろに隠れるようにして縮こまっていた葵に注がれる。
「その娘は誰でしょう……?初めて見るお顔ですね……」
神は笑っていないいないばあをした。
「いないいないーーばあ!!
ふふ、こんにちは。私の名前は彌珠端です!
………クソ師匠じゃありませんよ?」
「は、ははははははいっ、こっ、こんにちはッッ!!!」
上ずった声でかろうじてそう答える。雅に目線だけでヘルプを求めた。
雅がその目線に気づき葵を隠すように立ち塞がった。
「コイツは俺の従兄弟の子供の姪だ。訳あって連れてきた」
従姉妹の子供の姪?
葵は心のなかで思わず突っ込んでしまったがクソ師匠、もとい彌珠端は一寸も疑うことなく納得したようだった。
「なるほど。神嫌い妖魔嫌いの貴方が子供を連れてくるなんて、明日は氷柱が降ってくるのかと思いましたよ」
「そんなにかよ」
やや歯切れが悪そうに返す雅と雅の後ろで桜の安否が不安でもどかしさに足を踏み変える葵。
「もう良いだろ、俺らは用があってここに来てんだよ。くだらねえお喋りしにきたんじゃねぇ」
「冷たいですねぇ……」
顎に手をやり嘆息する彌珠端。
しかしそんな憂い顔も一瞬のうちに消え去り、
「まぁ、でも、理由が何であれ貴方がようやく”此処“に興味を持ってくれたのですから………いつまでも意地悪をして引き止めるわけにはいきませんね?」
笑顔でとうとうと語られる台詞には間違いなく、雅と彌珠端にしか分からない裏の意味があった。
その証拠とばかりに、雅のこめかみには青筋が浮き上がり握り拳が震えている。
「”今回は“時間切れみたいですね。ですが、次はそうもいきませんよ。覚悟してくださいね、雅。
………と、雅の従姉妹の子供の姪の葵さん」
教えた覚えのない葵の名前を呼ばれ、一瞬の理解の遅れの後、葵の背筋に悪寒が走った。
雅は従姉妹の子供の姪としか言ってない。
もしかしたら、人間であることも見抜かれているのだろうかーー?
葵の心配を余所に彌珠端はフワッと微風が吹いたかと思うとその場から姿を消していた。
「っ……、消え、た……」
「神とか妖魔とかはフワッと消えんのが好きなんだよ。所謂日常茶飯事ってやつだ。お前も桜とかと一緒にいんなら慣れろよ」
安堵とも恐怖とも言えない声音で葵が呟くと、雅は、そう気怠そうに答えた。
「クソ師匠も消えたことだしさっさと行くぞ」
再び歩き出した雅の後を葵は追いかける。今度は雅から1センチさえも離れたくないなんて思いながら。




