時雨夜と神と氷
中学3年生に、なりました。
勉強も頑張ります。
何かと至らない点があると思いますが読んでもらえると嬉しいです。
「こっ、ここが、時雨夜……?」
瑠依は辺りをキョロキョロと見渡しながら渚冬と葵の後ろに着いてきていた。葵はここに入るのは2回目だが、瑠依は、乗っ取られている時をノーカウントとすれば初めてここに入る。
そういえば葵も、初めて入ったときはその異世界感の強さに圧倒された。しかし葵も2回目。
この世界の地理情報はほとんど知らないので、ただひたすら渚冬の後についていく。
そうしているとき、不意に感じる。通り過ぎていく人ーというか、神の視線を。
「まぁ、あれは渚冬さんじゃないかしら。一体どうしたのかしら?」
「氷の神がここに何の用なんだ?」
「まぁ、縁起が悪いわ……」
「やーい、氷結の鬼!聞こえてるのか?」
葵の耳に、決して聞き流せない言葉が次々と聞こえてくる。渚冬は、その言葉が聞こえているのか聞こえていないのか。いや、恐らく聞こえているだろう。
神の五感は人間よりも優れていると、以前桜から聞いた。
葵で聞こえているのなら当然、渚冬にも聞こえている。
それでもその声を無視して早足で先へ進むのは、単純に桜の呪いを、早く解きたいからだろうか。
何となく、そうじゃない気がして葵は周りをキッと睨んでしまう。しかしそんな人間の睨みなど誰にも届かない。
「のこのこ現れる稲荷家の落ちぶれが何しに来たんだぁ?」
「あぁ、あの鬼を見てはダメよ。凍らされてしまうわ。」
「早く時雨夜から出てけよ!」
通りすがる神々の心無い言葉は止まない。葵は奥歯と犬歯が欠けるほど強く歯を食いしばる。
「なんでっ……そんな、こと……」
押し殺した声が僅かに漏れる。
「渚冬さんに、そんな、こと、言う、な………っ」
握りしめた拳が怒りで震える。
言葉は凶器だ。何気ない一言で人も、神も、心に深い傷を負う。今渚冬にそんな言の葉を放つ神々はそれを理解しているのか。
葵の前を行く渚冬の表情は決して読み取ることが出来ない。しかし、その後ろ姿がどことなく孤独と痛苦を背負っているように見えて葵はやりきれない感情が爆発しかけるのを感じた。
「侮辱の言葉は許さないわ」
不意に後ろから声が聞こえ歩きながら首だけ後ろに向ける。そして葵は息を飲んだ。
辺りを見渡していた姉の目が鋭く、そしてまっすぐに通りすがる神々を睨み据えていた。
姉の怒りに触れた。それを直感する。葵が戦慄した瞬間、
「大丈夫だよ」
前方から落ち着いた声が響いた。
「僕は大丈夫だよ。……庇ってくれて、ありがとう。でも、これはしょうがないことなんだ。」
渚冬は少し沈んだ声でそう言う。
振り返らないまま、渚冬は続けた。少し、諦めたような含み笑いで。
「……もう、慣れたしね?」
「っ……!」
声に滲む失望、絶望、諦め、怒り、悲しみ、暗い感情が葵に、瑠依に伝わり二人は言葉どころか、声を失った。
神の発する言葉は人間の発する言葉とは少し違う。神の感じている感情が言葉に、乗って相手に届く。
原理はよく分からないが、葵と瑠依はそのことをかなり前から気付いていた。
だから、分かってしまう。
渚冬が今、どんな感情を抱いているのか。発した言葉から、透けて伝わってしまう。
二人がまた声を取り戻す前に、渚冬は声を明るくさせて振り返った。
その顔にはいつもの柔和な表情が浮かんでいる。
「さぁ、ついたよ。ここが、魔呪祓い屋だ。ここにある魔法陣を借りれば桜の呪いは解ける。」




