今更自由といわれても
婚約破棄モノ
「君には王国法通りに清算金が支払われる。良かったなこれからは自由だ」
冷たい声だと思っていた婚約者の声が初めて暖かい感情を持っていた。
私の婚約者であったアーカム王国第二王子フェルディナント様にとって今日は素晴らしき門出の日なのだろう。
私には見せたこともない笑顔で着席すると、喜々としながら婚約解消書類の最終確認を終え、サインをしたためた。
そして互いのサインを確認して宰相が席を立ったタイミングで出てきた言葉が最初の言葉である。
私とフェルディナント様の婚約が結ばれたのは様々な思惑によるものだった。
まだ幼かった頃の話ではあるが、王太子の指名で国内の貴族が2つに割れた事があったのだ。
正室の子ではあるが病弱な兄と身体能力が高い一つ年下の側室腹の弟。
どちらを後継者とするかは水面下の駆け引きの枠を超えて、実際に派閥の要人が暗殺されるなど無視できない対立にまで発展していくのだった。
事態を重く見た王家と宰相は議論を重ねた。
結果、体調が安定しはじめた兄アレクサンドロスを王太子候補に、弟フェルディナントを二番手と明確に決めたのである。
しかし、立太子は18歳の洗礼後という王国法がある為に王太子と指名が出来ない。
そこで、王子たちの『婚約者』に大きく差を付ける事で内外に後継者を示す事になったのだ。
兄アレクサンドロスには大国イースタルの第二王女マリアンヌ様との縁談がまとまり、弟フェルディナントには建国からの伝統あるマーク伯爵家の次女である私が選ばれた。
マーク伯爵家は伝統こそあるが中央の発言力を持たない貴族であり、王太子争いにも中立の立場であった。正確には味方に引き入れる価値がないと熱心に誘われ無かったというのが正解なのだが。
大国の王女と家柄だけは王家に嫁いでも問題が無い無害で無益な娘。どちらが後継者の妻であるかは誰の目から見ても明らかだった。
そこからは地獄の日々だった。
第一王子派からは馬鹿にされ、第二王子派からは邪魔な娘と扱われた。
嫌味を言われるのは日常茶飯事で、毒を盛られた回数は両の手でも足りない。
父と母は「王国の為になるなら喜ばしいこと」と毒に苦しむ私の枕元で笑っていたし、兄は「王家の安寧には我慢が必要だ」としか言わなかった。
10にもなっていなかった私にとって、家族に守られないという事はとても辛かった。
だからこそ、せめて家族となる夫と恋は出来ずとも、共に家族愛を持てればと願った日もあった。
しかし、彼は私を「つまらない女」と言ってはばからず、「兄の立太子が済めば君との関係は不要だ」とさえ直接言ってくる。
兄弟仲は良く兄の立場を守るために私の存在が必要なことは理解している様で公の場ではぞんざいに扱われなかった。
まあ腰に添えられた手もにこやかな顔も普段との差に吐き気がして、宮廷医のお爺さんに頼る機会は増える一方だったが。
王家の作戦は成功したのか、フェルディナントの姿勢に派閥の貴族も王に推すことを諦め、貴族たちの対立は次第に解消されていき、ここ数年は王国内も落ち着いた。
だが、私を軽んじる流れは変わらなかった。
「第二王子の足枷」や「王家にしがみつく者」など夜会参加の貴族には面白おかしく言葉にされた。
体裁上受ける妃教育では日々罵倒され、「マリアンヌ様とは雲泥の差」や「フェルディナント様が可哀想」など指導担当から言われ続けた。
唯一、心の支えとなったのが同い年のマリアンヌ様だった。毎年夏と年明けにお会いしては年相応の友人関係を築いていった。自然と文通も始まり、互いに他愛のない話をする事となった。
いつの日だったか、彼女は『辛いことがあったのでは』と手紙で尋ねてきた。どうやら私の筆跡がいつもより荒れていたらしい。
優しい彼女の気遣いに涙を流しながら、「いつか笑い話として二人で話せたら」と返した。
共にこの国で生きるなら依存してはダメなのだ。私が彼女を守れる存在にならなくてはと決意したのだ。
荒んでいく心を手紙で癒やし、辛い日々をなんとか騙して、心を奮い立たせた私をより地獄に落としたのはフェルディナント様だった。
もはや義務感のみで向かった月一回の夕食会で、王子は私に女性を紹介した。
ミカル公爵家の長女ラファーナ様だ。
彼女はフェルディナント様の幼馴染であり、幼少期より互いに意識し合う関係だったらしい。
しかし、第二王子派最大の権力者であったことから、婚約は出来なかったらしい。
今更フェルディナント様に情など残してはいないが、まさかここまで蔑ろにされるとは思っていなかった。
王宮内に彼女がいて、誰も咎めていないということは、王家がこの場に彼女が居ることを認めたということなのである。
つまりは、陛下も私を切り捨てる準備が出来ているということなのだ。
家族も家族になる可能性があった人からも顧みられない。
心が完全に壊れたのはこの時だった。
それからは楽だった。
心が動かなければ疲れもしない。ただ淡々と日々を過ごした。マリアンヌ様との文通も途絶えがちになってしまった。
そんな状態で、第一王子アレクサンドロス様が王太子に指名されたのは半年前のこと。
後継者争いを収めるためだけの『お飾り婚約者』としての役割は本当に無くなってしまったのだ。
そして今日、婚約破棄が成立した。
王子の言葉が耳に残る。『自由』だと。
そうか私は自由になったのだ。
染み付いた儀礼通りの挨拶を交わし、離れにある自室に向かう。
部屋に入ると涙が溢れた。
なにが自由だ。
10年間の婚約期間で私が得たものは、貴族社会ですら使い物にならない極めて古典的で儀礼的な宮廷マナーや役職がなければ使えぬ外交の知識だ。
学院での成績はトップだったが、『お飾り婚約者』という立場を知らない貴族はおらず、就職先も嫁ぎ先も無い。
今更『自由』と言われても、何ができるというのか!
令嬢としての価値も実務家としての価値も無い私だ。
「もう嫌だ…」
『お飾り婚約者』という役名ではなく、私の名前を呼んでくれるのはマリアンヌ様と老医師だけであった。
そんな役名を失った私は無価値なのだ。
そして私は信頼のおけた老医師がくれた薬を思い出す。
宮廷医師である彼はこの宮廷で私を一人の人間として接してくれた。
泣けない私の代わりに泣きながら、優しく撫でてくれたその手のひらに私は感じることが出来なかった家族の情を感じていたのだ。
そんな彼が「もうすべてを諦め、どうしょうもなくなったらこれを飲みなさい」とくれた小瓶だ。
栓を開け匂いを嗅ぐと甘い香りがする。
以前盛られた毒と同じ匂いだ。
痛みのない毒ですっと意識を失うタイプだったと記憶している。
彼は優しいと改めて思った私は、3通の手紙をしたため、冷めた紅茶に小瓶の液体を混ぜ飲んだ。
私はそのまま意識を手放すのだった。
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息子の元婚約者が自死を選んだ。
その知らせは青天の霹靂だった。
王国の秩序を維持するために彼女の自由を奪い、命すら狙われる厳しい立場を強いてしまった自責の念はあった。
故に彼女が婚約解消を望んでいると息子から聞いた時には、遅滞なく婚約解消の許可と莫大な慰謝料を伯爵家と彼女個人に用意していた。
彼女が結婚を望めばそのままフェルディナントを支えてもらうつもりであったが、辛い立場に置かれた彼女がフェルディナントから離れてしまうのは仕方がないとも思っていた。
フェルディナントと彼女は仲睦まじく見えたが、愛を育むには至らなかったのだとそう思っていた。
しかし、彼女は婚約解消となった日に離れで自死を選んだ。
最初は戸惑いだった。
「別れたかったのではないのか?」
そう口にしてしまうくらいには困惑していた。
すると執務室に近衛が手紙を持って現れるのだった。
筆跡はおそらくは彼女であろう。
教育の一環で挨拶文を書かせていたのだ。
王家宛の手紙を私は開くのだった。
『アーカム王家の皆様。
私の気持ちを最後に書き残したく筆を取りました。
少しばかりお時間をください。
私は5歳の頃にフェルディナント様と婚約を結びました。フェルディナント様を推す派閥に力を与えない為に最適な無害無益な令嬢だったかと自負しております。
実際に王国はまとまったのですから私は役割を完遂したと思っております。
ですが、私は疲れてしまいました。
毒を盛られたうちの3回は警備と毒見が居る宮廷内でした。また私の離れには侍女はおろか専属のハウスメイドすらいません。
これは王家に私の味方が居ない事を理解するには十分な出来事でした。
日々毒の恐怖に怯えながら、様々な貴族の方からご指摘やお叱りを頂き、教育担当の御婦人からは鞭で何度も打たれました。
あの方々に言わせると、私は「王家に寄生」しているらしいのです。
おかしな話です。
私は婚約など望んではいませんでしたし、一度も資金を要求した事もございません。
ですが、私が無理やりフェルディナント様にしがみついているとの噂が消えることはありませんでした。
何故ならフェルディナント様がそのように側近に噂を流すようご指示をなさっていましたから。
フェルディナント様はどうしても私が嫌いだった様で、私との月一回の夕食会以外では顔を会わせる事はありませんでしたし、騎士科に通うフェルディナント様と普通科の私が学院で私的に会うこともありませんでした。
そうそう。一度もドレスや宝石も頂いたことはありません。
夜会のエスコートは常にしてくださいましたし、夜会前には離れに侍女がやってきてドレスを私に着せてくれました。
ですが、ファーストダンス以降は常に放置でしたし、すべて貸衣装でした。
私の手元には思い出もドレスも残らないのです。
私の支度金が流用されている可能性を宰相様にお伝えしましたが特に変化はありませんでした。
挙げ句にはミカル公爵家のラフィーナ様と恋仲であると夕食会で宣言されました。
夕食会は宮廷で行われるものでフェルディナント様の許可だけではラフィーナ様が足を踏み入れる事は出来ないはずなのにです。
私は王家にここまで疎まれているとは思いませんでした。
『足枷』としての役割は全うし、アレクサンドロス殿下の立太子まで重石となるという成果も出したと思っているのです。
王家は何が不満だったのでしょう?
私の働きの何が足りず、出ていけと言われるのでしょう?
フェルディナント様に情などございませんが、ここまで蔑ろにされる謂れは無いはずです。
今更自由?
何を言っているのかわかりません。
奪い、虐げ、放り出す事が自由ならば私はこの国では生きてはいけません。
手紙を3通用意しました。
一通はこの手紙。
もう一通は伯爵家へ。
そしてもう一通は私の親友へ。
不出来なお飾りで申し訳ございませんでした。
さようなら』
私は手紙を読み震えが止まらなかった。
自分たちの都合で縛り付けた令嬢がどんな扱いを受けてきたのか初めて知った。
いや。正確には見てみぬふりをしてきたのだ。
彼女の私室が離れになった時点でおかしいのだ。
彼女に挨拶文を書かせた際に見た彼女の指はあかぎれがあった。
何かしらの仕事をしている証ではないか。
側室が彼女を疎んでいる事も知っていたし、毒を盛られた回数も知っているが一度でも諌めた事や見舞いをしたことがあっただろうか?
フェルディナントが彼女から別れたいと言ったと言葉にした時、ストンと腹落ちしたのは息子が蔑ろにしていたことに内心気が付いていたからではないか?
私は知りながら流れが止まることを恐れたのだ。
都合のいい令嬢を都合のいい駒として扱い捨てたのだ
深いため息と共に私は特務に裏取りの指示を飛ばし、フェルディナントを呼びつけた。
自死したことに恐れをなしたのか、フェルディナントはペラペラと支度金の横領や側近と共に学院でいじめを行ったことを話しだした。
横領した支度金は仲間との遊びや公爵令嬢への贈り物となったらしい。
深いため息をついた。
ここまで愚かな息子とそれを見て無ぬふりをした父親だ。
そしてこの期に及んで国が揺れるのを恐れ、彼女の死を隠蔽しようと算段を立てている自分に嫌気がさす。
息子には追って沙汰を出すとだけ告げ、部屋を後にするのだった。
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娘が帰ってくる。
いずれはそうなるだろうなとわかっていた。
娘とフェルディナント様に親愛の情は感じられなかったからだ。
娘は5歳の頃、王家からの要請で婚約者となった。
はじめは私も妻も反対したが、王家の都合で縛るのだから体制が落ち着けば自由にするし、金も伯爵家と娘個人に別々に用意すると言われ首を縦に振ったのだった。
娘は学院でも優秀だったと聞く。
これからは金も時間もある。自由に生きて欲しい。
妻と頑張った娘の帰りを待つ事にした。
帰ってきたら好きだったラズベリーパイを焼こうと言う妻に私は笑いかけた。
その翌日。
娘は自死したという報告と一枚の手紙が届いた。
『伯爵家の皆様
私の気持ちを書いておきたくて筆をとりました。
私はこの婚約を望んでいませんでした。
しかし、王国の為に必要であるということは理解しておりました。
毒を盛られた回数は両の手を超えますが、皆様は寝込む私の枕元で叱咤の言葉と笑っておいででした。
私は一言でもいいから心配する言葉が欲しかったのです。
しかし、それは与えられませんでした。
帰省しても皆様は私に聞くのは成績ばかりでしたし、私が辛いとこぼせば『そんな事では王家に迷惑だ』と叱りましたね。
ただ一言、応援してほしかっただけなのです。
ですが、それも与えられませんでした。
私がラズベリーパイに混入された毒で生死をさまってからラズベリーが食べられなくなったとお手紙で書いた翌月に帰省した際、皆様はラズベリーパイを私の好物だと出してくださいました。
地獄かと思いました。
私の手紙など読まないのだと理解してしまいました。
ですから皆様はこの手紙も読まないかもしれませんがどうしても筆を取りたくなってしまい書いております。
今更優しさも自由もこの国で得ようとは思えないのです。家族に裏切られたのですから。
最後に、名前すら呼ばれないこんな私はこの伯爵家の役に立ちましたか?』
頭を殴られた様だった。
愛していた娘からの手紙には私達の名前どころか父や母という言葉さえ無かった。
娘が毒を盛られたのは複数回あったと聞いていたが、まさかここまでひどい状況だったとは思わなかった。
いや、心のどこかでは知っていたのだ。
何度か急に帰省が取りやめになったことがあった。
体調不良という事であったが、見舞いに行ったことは一度もない。
それどころか、領内で毒を盛られ倒れた娘の枕元では叱咤ばかりをしていた。
王家の騎士が中心とはいえ、我が領内で毒を盛られた責任を取らされるのではないかとばかり考えていたのだ。
毒に苦しむ娘を気遣う事など無く。
娘が第二王子と婚約し、宮廷に移ったあたりからは王家からの伯爵家への支援金も増えた。
その資金で我が領はしっかりと開発が進み領民は豊かになった。
しかし、それは娘の犠牲によるものだ。
やっていることは人身売買と一緒ではないか。
更に、娘からの手紙は殆ど内容を見ずにしまっていた。
毒を混ぜられた物を身体が拒絶してしまう事さえ無視したのだ。
私達は娘を一切見ていなかったのだ。
最後にあの子の名前を呼んだのはいつだろう。
震える手で握りしめた手紙をグシャグシャにしながら立ち尽くした。妻の焼くラズベリーパイの匂いに包まれながら。
====================================
私は手紙を見て嘆息した。
もっと早く頼って欲しかった。
貴方がどのような立場にいるかは理解していたけれど、貴方からの要請が必要だった。
身分とは厄介なものだと改めて思う。
「まあ、これも言い訳ね」
私は手紙を手に父の部屋を目指す。ニ通の手紙を持って。
============半年後============
アーカム王国は現在厳しい立場に置かれていた。
理由は一人の女性の死にある。
第二王子の婚約者であった貴族の令嬢が婚約解消のその日に自死を選んだのだ。
彼女はアーカム王国の外交書簡に付帯している挨拶文を書いていた事もあり、国際的な知名度がそれなりにあった。
そんな彼女が婚約解消と同時に自死を選ぶという衝撃的なニュースは一気に世界中に拡がった。
好奇心はこのスキャンダルの内側を暴くように、宮廷内で虐げられていた事が暴露され第二王子の不貞行為まで明らかになる事態となっていった。
国王が「穢れ」として調査せずに即座の火葬を命じた事も隠蔽を疑われる展開に拍車をかけた。
また第二王子の予算横領や伯爵家への過剰な金銭支援など様々な問題が表面化したのだ。
そして、最大の混乱を呼んだのは王太子である第一王子の婚約が破棄された事である。
大国側が婚約した令嬢を無碍に扱う王室に嫁ぐ事への懸念を表明すると、国際的な非難が更に加速し、次から次へと非道な言動や貴族の闘争で何度も毒を盛られていた事などが暴露されていく。
最終的にマリアンヌ様から婚約破棄を宣告されたアーカム王国は国際的に孤立を極める事となるのだった。
アーカム王国と敵対するニーズ王国からの国境侵犯に対する支援要請にどの国も応じず、大国イースタルと軍事的な同盟の調印は嫁ぐタイミングに合わせて発行であったことからイースタルからの援助もなくなったのである。
「どう?私の働きは?」
マリアンヌ様は報告書を片手に胸を張って私に尋ねる。
「やりすぎ…と思ったのですが私もどこか『ざまあみろ』と思ってしまっています」
性格が悪く、はしたないかもしれないが思わず言葉にしてしまった。
「それでいいのよ。親友なら本当はもっと頼って欲しかったわ」
「それは言わない約束です…。私だってもう分からなくなってしまっていたのですから…」
「それはそうだけど、少し言いたくなるわ。毒を飲むなんて」
「あはは…」
乾いた笑いの私に、マリアンヌ様は呆れた顔をする。
「でも無事で良かったわ。エリー」
「はい。マリア」
そう私は生き返ったのだ。
正確には薬による一時的な仮死状態だったから生き返るとは言わないのかもしれないが。
実は老医師はマリアンヌ様の国であるイースタルから派遣されていた諜報員だったらしく、マリアンヌ様への危険がないかと長期間潜入して探っていたらしい。
その過程で私の境遇がマリアンヌ様に向く可能性や私をマリアンヌ様が助けたいと願ってくださった事等を総合的に勘案し『誘拐計画』が秘密裏に立てられていた様だ。
予定外の私の自死に焦ったみたいだが、もし私が早まった時に他の毒を飲まないようにと渡していた保険が活きることになった。
急遽私の死亡診断書を書き、薬の入手経路をぼかし、私と宮廷内で病死した身寄りのないメイドの遺体をすり替え火葬場に回した。
王は私の遺書の効果か工作を疑う事もなく、保身のためにすぐさま火葬する許可と箝口令を出したという。
何も知らず死んだつもりだった私は、目が覚めた事と知らない部屋に困惑したが、マリアンヌ様の抱きつきタックルで現実に引き戻された。
私の状態はマリアンヌ様に逐一報告されていたらしく、マリアンヌ様は私が頼ってこない事にやきもきしながらこの再会まで気が気でない日々を過ごしたと怒られた。
そして、二人で涙を流した。
一応、薬を私が飲まなかった場合でもいずれ連れ出す作戦で決行を待っていた矢先の事件で後手となってしまったとイースタルで再会した老医師ぼやいていた。
結果として私の手紙が様々な混乱や証拠となりアーカム王国を追い詰める結果になったのだから後手となったことも良かったのかもしれないが。
「あなたは自由なのよ?本当に侍女をやるの?」
「今更自由と言われてもわからないの。だからマリアの力になりたいのよ。私が」
そう笑う私にマリアも笑う。
「困った親友だわ。ならあなたの自由にしなさい」
今更自由と言われても、正直わからない。
だから、心が命じたままに思ったことをやってみるのだ。
テンプレって難しい