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セカイはハルを愛してる  作者: あめふる
別れ──真意──
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聞きたい事


 神様により、セカイがしたかった事については分かって来た。

 でも何故セカイは私にそこまでしてくれるのか。また、神様もどうして私を手助けしてくれたのかという疑問が残る。


「どうして、セカイは私にそこまでしてくれるんですか?神様もそうです。私に、力をくれましたよね?」


 私は勇者でもなんでもない。それなのに最初から、肉体的に凄く強くなっていた。それはきっと、神様がくれた力のおかげだ。それだけじゃない。未来を視る事が出来るこの目についても、神様が導いてくれたおかげで手に入れた力である。


「確かに私は、力を授けました。ですが私が授けた力はその目だけです。貴女の肉体的な強さに関しては、この世界の神が貴女に与えてくれた物なので彼女にお礼を言うと良いでしょう」

「この世界の、神様……」

「どうしてあの子が貴女にそこまでするのかについては、貴女が自分で思い出す事です。と言っても、それを思い出すのは至難の業でしょうけど」


 神様は答えてはくれなかった。でも思い出せと言う事は、私の過去に関係している事だというヒントは得た。


「……神様。よければ何故タチバナさんがこんな風になってしまったのか、教えてもらえませんか?彼はどう考えても普通ではありません。何か理由があるんですよね?」


 話が途切れたタイミングを見計らい、カゲヨが神様にそう尋ねた。そして全員の視線が神様に向く。


「私が答えてもいいですが、彼が知っているのでは?」

「……」


 神様がそう言って視線を向けたのは、ケイジだ。今度は全員の視線がケイジに向く事になる。


「ケイちゃんが知ってるの?」

「……ああ。オレが奴と幼馴染だったってのは知ってるな?」

「私は知らん」


 そう答えたのはレイコだ。レイコは今まで別の場所にいたからね。知る由もなかったのだろうと思う。

 でもケイジはスルーして話し出す。


「奴がああなったキッカケは、オレの従妹のねーちゃんだ。奴はねーちゃんに惚れてたんだよ」

「ケイジさんのお姉さんに?それと何か関係が?」

「ねーちゃんが結婚するってなった時、奴は怒り狂った。自分が惚れた女が手に入らず、子供みたいに駄々をこねたんだ。実際その時は子供だったし、仕方がない。子供の駄々に周りの大人は笑ってやり過ごしたが、オレはその時の奴の異常さに気づいていた。それからだ。オレ達の関係が変わったのは」

「タチバナ シュースケは、その事をキッカケに自身の闇に飲み込まれた。手に入らない物もある。普通は誰でも受け入れられる事を、彼は受け入れなかった。でも現実問題として結婚しようとする大人の女性を手に入れるのは難しいので諦めた。代わりに、自分の幼馴染を自分の初恋の人と同じ素敵な女性にすれば良いと考えたのです」

「幼馴染……それってもしかして……!」


 カゲヨやケイジから聞いた話で、タチバナ君とケイジが幼馴染だったという話は既に聞いている。更に幼馴染だったという子がもう1人いて、だから自然と残る1人が頭に思い浮かんだ。


「ええ。宮内 芽衣子を、タチバナ シュースケは自分の理想の女性に育て上げたんです。それはもう、大切に育てました。口調から性格まで、全てが理想の女性に近づくよう、本当に大切に……」

「元々メイコは、快活な女だった。それがシュースケと付き合ううちにどんどん今みたいな感じになっていき、見る影もない。今のメイコは本当に、ねーちゃんみたいだ」


 ケイジは頭を抱え、歯を食いしばる。

 それが良い事なのか悪い事なのかと問われると、悪い事だ。他人の性格を理想の人格になるように育てるなんて、あり得ないくらい気持ちが悪い。

 でも例え作られた性格だとしても、メイの事は好きだ。そこだけは変わらない。変わってはいけない。

 でもそんな事できるものなだろうか。性格なんて人それぞれだし、他人がどうこうした所で操る事なんてできなそうだけど……。


「彼にとっては完璧で、順風満帆な人生だった。あの時手に入らなかった女が、順調に成長してまさに自分の理想になろうとしている。もう少しで手に入る。理想の女が、自分の手に収まる。そうなろうとしていた時、現れたのがハルカさんでした」

「私?」

「ハルカさんが現れた事により、宮内 芽衣子の心は揺らいだ。自由奔放で、何者にも縛られずに呑気に生きる女。そんな生き方をする存在を、少女は知らなかった。そして恋をした。それは少女にとって初めての気持ちで、でも相手は自分と同じ女性……悩みつつ、胸の内に気持ちをしまい込むことで平静を装っていた」

「ま、待って!待って、待って!」

「どうかしましたか?」

「メイが、恋していた?私に?そして悩んでいた?」

「はい」


 同じだ。私と全く同じだ。私もメイの事が好きで、でも相手は同じ女の子だしその気持ちを押さえて生きて来た。


「貴女に恋した事により、タチバナ シュースケの十年の歳月をかけた作戦がぶち壊しになった。そのことでタチバナ シュースケは貴女に深い深い恨みの念を抱き、そして最終的には貴女に死をもたらす。それが貴女の死の運命によって引き起こされる、定石の未来です。他にも、別のクラスメイトに殺される事がありました。彼らもまた、タチバナ シュースケによって操られた悲しき人形……。更には、別の駒によって殺される未来もありました」

「っ……!」


 そう言って、神様がレイコの方を見た。

 今回私は、レイコに致命傷をおわされている。それはセカイが自らの命を犠牲にする事で助かり、レイコの誤解を解く事ができた。

 今回と同じような事が元の世界の、別の未来であったとしても私は不思議ではないと思う。あの、異常な関係性が蔓延る世界でならなんでもあり得てしまう。


「くらちんはそんな事しない!」


 しかし間に入ってクルミがレイコを庇った。


「ふふ。貴女も、ハルカさんの死に関わる事がありました。コミネ カゲヨも。不可抗力とはいえハルカさんに死をもたらした未来があります。オオイソ ケイジも。私がこの世界に連れて来た者は、皆ハルカさんの死に関わった未来のある人物です」

「……」


 その場が静まり返った。

 この世界に来てから、カゲヨやケイジとはそれなりに仲良くなれたと思う。そんな2人に自分が殺される姿を私は想像が出来ない。でも神様はそんな未来があったという。


「──でもそんな悲劇的な未来が訪れる事は、もうない。セカイが私の未来を変えてくれたから。だからもう訪れない未来の話なんかどうでもいい。私が聞きたいのは、二つ。まず一つ。メイはこの世界にいるんですか?」

「いませんよ。ミヤウチ メイコが貴女に死をもたらした事は一度もありません。だからこの世界には連れて来ませんでした。彼女と貴女の死の運命とは、関係ありませんから。でも、貴女を守ろうとした事なら何度もあります」


『大好きだよ、ハルちゃん。ハルちゃんが世界で一番好き。でもダメなの。私と一緒にいるとハルちゃんに迷惑がかかっちゃうから。だからゴメンね』

『……なんで……どうして……』

『さようなら』


 急に、昔見た夢を思い出した。とある未来で、メイと対峙した私はメイにそんな事を言われてしまい……胸が痛くて、苦しくて……本当に死んでしまうような、張り裂けそうな気持になってしまう。


「そうなんだ……」


 私は安心した。こんな過酷な世界に、メイは来ていない。酷い目に合っている事もない事が確定し、本当に良かった。

 ただ、同時に寂しさもある。この世界に来ていないと言う事は、彼女とはもう会う事が出来ないと言う事だろうか。一抹の不安がよぎり、安心ばかりはしていられない。


「もう一つの聞きたい事とは、何でしょう」


 神様に尋ねられ、私は息が詰まって即答する事ができなかった。

 もしこの質問で、否定的な事を言われたら私はどうしよう。否定的な事を言われたらそれこそ本当に、死の宣告に近い物になってしまう。

 だから、口に出すのに少し勇気がいる。息を整えてから、意を決して口を開いた。


「せ……セカイとは……もう会う事ができないんですか?」


 相手は神様だ。神様ならどんな事だって出来てしまうはず。だから、期待を込めて尋ねた。

 そんな私の問いに対する神様の答えは、笑顔だった。


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