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セカイはハルを愛してる  作者: あめふる
別れ──真意──
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裏切り者


 タチバナ君達による一斉攻撃は、苛烈を極めた。絶え間なく続く攻撃。幻影による、幻影ではない攻撃は明らかに私を殺すための物だった。

 でも私にその攻撃が通る事はない。全ての攻撃を杖で防ぎつつ、防げない物は未来視の力で見通す事によって回避。ただの一度も私に直撃する事もなく、逆にタチバナ君に攻撃を仕掛ける事の繰り返し。そうしていくうちにタチバナ君の幻影は段々と減っていき、現在残りは数人となっている。


「あり得ない……なんなんだよ、お前は!勇者でもなんでもないお前に、強くなったオレの攻撃が何故通用しないんだよ!おかしいだろ、こんなの!」


 文句を言ってくるタチバナ君の顔面に、私の杖が減り込んだ。アケガタ君に繰り出したものとは違い、本気のスイングによって彼の顔面が吹き飛んでしまったけど、大丈夫。幻影だから、顔面がなくなり残った彼の身体が続いて霧のように消え去った。

 ショッキングなシーンではあるけど、私はもう見慣れている。こうやってタチバナ君の数を減らして来た訳だからね。


「いい加減、諦めたらどう?貴方は私に勝てない。もうこんなくだらない事はやめて、自分の罪を認めて皆にちゃんと謝って」

「謝る、だと?何故オレが謝らなければいけない!オレのおかげで奴らはこの世界でも生き延びて来れたんだぞ!つまり奴らの命はオレが自由にする権利がある!」

「そんな訳、ある訳ないでしょう!」


 くだらない事を言うタチバナ君の顔面にも、私の杖が減り込んだ。タチバナ君の幻影も消え去り、また1人タチバナ君の数が減った。


「お、落ち着けシキシマ。オレと来れば、お前にもメリットはある。例えば……そうだ。セカイさんをお前の奴隷にしてやる!オレなら、セカイさんを意のままに操る人形にする事だって出来るんだよ!そうなったら嬉しいだろう!?」

「は?」

「ひっ──」


 私は額に血管が浮かんでしまうような勢いで、そんな事を言い出したタチバナ君を睨みつけた。

 そして彼が短く悲鳴を上げるとともに、ここまでで一番強烈な攻撃が彼を襲った。私は彼が反応できな速度で彼の背後に回り込むと、彼の足を杖で振り払って地面に転ばせてから、彼に向かって杖を振り下ろす。と、彼の身体は地面ごとかち割られてその姿が消え去る。

 セカイを奴隷とか、あり得ないから。いやそりゃあちょっとは興味あるよ。セカイを好き勝手できるとか、夢みたいな話である。でも夢と現実は違うんだよ。


「ひっ、やあああぁぁぁぁぁ!」


 ついに、タチバナ君の幻影が逃げ出した。背を向けて情けなく叫び声をあげる姿は、情けなさすぎる。

 1人が逃げ出すと全員後に続いた訳だけど、その姿が突然消えてしまった。倒してもいないのに、姿を消したのには違和感を覚える。


「──まさか、オレの幻影が情けのない姿を晒すとは、想定外だ」


 闇夜から現れたのは、先ほどまでのパニックに陥っていたタチバナ君ではない。何て言うか、見に纏っている異質さが違う。先ほどまでのタチバナ君達もけっこう迫力がある異質さだったんだけどね。彼はそれとは格が違う。


「貴方が、本物のタチバナ君?」

「ああ、そうだ。いやまさかここまでとは思わなかったぞ、シキシマ」

「認めちゃうんだ。それじゃあ、貴方を倒せば私の勝ちって事でいいよね」

「そう言う事になるが、お前はオレに手を出す事はできない」

「……?どうして、そう思うの?」


 私はチラリとセカイの方を見た。彼の事だから、セカイを人質にする可能性もある。そう考えたんだけど、セカイは少し離れたところで私を見守っており、タチバナ君がセカイをなんとか出来る様子はない。


「どこを見ているんだシキシマ。セカイさんは、ここにいるぞ」

「むぐっ……」


 セカイは確かに私の視線の先にいる。でも、タチバナ君の背後にもセカイが現れた。

 こちらのセカイは、口を手でふさがれた上で短剣を喉元に突き付けられている。そうしているのは、私のよく知る人物で、小さな身体が特徴的な女の子だった。


「クルミ……!」

「ごめんねー、ハルっち。この子の命が惜しかったら、おとなしくててね?じゃないと、ブスっといっちゃうから」


 その女の子の名を呼ぶと、クルミは屈託のない笑顔を見せて私にそう警告をして来る。

 一方で、私がそこにいると思っていたセカイがその姿を消していた。別に私の目がおかしくなった訳ではない。そちらのセカイは、タチバナ君が作り出した幻影だったのだ。


「そう言う訳だ。シキシマ。セカイさんを殺されたくなければ、武器を置け」

「クルミ、どうしてタチバナ君の言う事なんかを──」

「なはは。だってしょうがないじゃん。こうしないと、くらちんが殺されちゃうんだよ」

「おい、バラすな」

「別にいいじゃん。どうせ、ハルっちもセカイさんも殺すつもりなんでしょ?問題ないよ」

「……仕方のないペットだよ、お前は」


 そう言って、タチバナ君がクルミの頭を撫でる。まるで、本当にペットの頭でも撫でるかのように。


「レイコを人質に取られてるから、タチバナ君に従って私とセカイを殺すの?」

「うん。うちにとって、くらちんが全てだから。だからごめんね」

「こいつは元々、オレの事を気に入っていなかったんだよ。だけどクラサワを丸め込む事によって、もれなくついてきた。クラサワは扱いやすくて助かるぞ。なにせ、アイツはオレに惚れているからな。オレの言う事をなんでも聞いて、なんでも信じてくれる。おかげでトウドウ クルミというペットも手に入った」

「この……!」


 友達が彼の言いなりと聞いて、黙っていられる訳がない。クルミの頭に気安く触るその手をどけようと踏み出したけど、我に返って踏みとどまった。


「良い子だね、ハルっち。もう一歩踏み出したら、刺してたよ」

「そんな男の言う事を聞く必要はない!セカイを解放して、クルミ!」

「だから、無理なんだよ。うちがタチバナ君に逆らったら、くらちんが死んじゃうんだって」

「私が……タチバナ君を倒して、そんな事は絶対にさせないって約束する」

「無理だよ。ハルっちは優しすぎるから。タチバナ君に勝つには、非情にならないといけないんだよ。だからこんな事になってる」

「それは違うよ、クルミ。非情になって、全てを見捨てて勝ったって何にもならない。そんな事して勝ったって、それは勝利は言えない」

「……──ぷっ、あはははは!」


 突然クルミが笑い出した。笑うのは良いんだけど、笑い出したクルミがタチバナ君の手を払いのけるのと同時にセカイから手を離したんだから、驚いた。おかげでセカイは自由の身となってしまったんだけど、逃げ出したりはせずにその場で呆れかえったような目でクルミを見ている。


「ハルっち、ケイちゃんと同じような事言うんだね。やっぱり君たち二人の方が、よっぽど信頼できるし面白いよ」

「何をしている、トウドウ。もういい。そいつを殺せ」

「嫌だよ。タチバナ君さ、気づいてないの?どうしてセカっちゃんがタチバナ君の考えに気づいて、先読みして準備して来れたのか」

「……」

「戯れが過ぎるぞ、クルミ。ハルが驚いておるではないか」

「ごめんごめん。ちょーっとハルっちの覚悟を聞いてみたくてね」

「どういう事だ」

「こう言う事だよ。うちがセカっちゃんに情報を流してたって訳」

「裏切ったか。では、クラサワが死んでも良いと言う事だな。お前はクラサワを見捨てたという訳だ」

「くらっちには、手紙でタチバナ君の悪事に関して伝えてある。それだけじゃ信じてくれはしないだろうけど、タチバナ君を倒してからじっくりと説明すれば信じてくれると思う」

「この、裏切り者め……!」


 タチバナ君が剣を抜き、クルミに斬りかかった。その前から私は動き出している。

 タチバナ君の剣は私に止められて、隙だらけとなった彼の顔面にめがけて私は拳を放った。タチバナ君はそれに対して怯む事なく更に私に斬りかかろうとする。なので、同じように剣を杖で受け止めて今度は蹴りを放った。

 それでも彼は同じことを繰り返す。タチバナ君はどんどんボロボロになっていき、最終的には鼻血が飛び出ているわ顔はたんこぶだらけになるわで酷い姿になり、そこまで至ってようやく膝をついてくれた。

 そんな姿だと言うのに、顔を伏せた彼の唇は吊り上がっている。

 何か嫌な予感がする。何の策もなく同じ事を繰り返したタチバナ君にも、違和感を覚える。でもその違和感の正体は分からない。


「もう、やめてくれぇ!オレが悪かった!だから、殺さないでくれ!この通りだ!」


 すると唐突に、タチバナ君が凄い勢いで土下座して私に向かって謝って来た。

 突然の謝罪に私は呆然としてしまう。でも未来視で見ても彼が私に対して何かをするつもりはないようだし、この場をやり過ごすための策だとしても一旦は負けを認めた事になる。

 今度こそ、私の勝ちという事でいいのだろうか。いいんだよね。


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