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セカイはハルを愛してる  作者: あめふる
別れ──真意──
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幻影の包囲


 さすがにそんなあっさりと言う事はなかった。

 タチバナ君はゲームで例えるならばラスボスだ。ラスボスがこんなに簡単に倒れる訳がなく、土煙がはれて姿が見えるようになると、彼は何事もなかったかのようにそこに立っていた。


「さすがだな、シキシマ。前にオレの攻撃を受け止めた事もあるが、お前はどうしてそんなに強い。勇者でもなんでもないお前が、何故勇者と対等に戦える」

「何度も言われて来た事だけど、そんなの私に聞かれたってよく分からない」

「何故隠す。それを知られてオレが強くなるのを恐れているのか?大丈夫。オレ達は、仲間だ。仲間が強くなるのは良い事だ。そうだろう?」

「はぁ……。この際だから、ハッキリさせようよ。私はもう、タチバナ君の言葉には騙されない。貴方は敵であり、仲間じゃないの」


 セカイを捕えて酷い目に合わせようとした時点で、もう全てが終わっている。いくら甘い言葉で囁かれようと、私が唆される事はない。

 それでも仲間だのと言ってくるんだから、思わずため息が出ちゃったよ。


「……仲間ではない、か」


 タチバナ君が、残念そうに呟いた。それから剣を抜き、口の端を吊り上げて笑った。

 その口から、血が出て来る。それは先ほど私に吹き飛ばされた時のダメージによるものだ。


「全くその通りだ。オレも、お前を仲間だなんて思っていない」


 そう言うと、私の背後からタチバナ君が剣で斬りかかって来た。

 私は振り返る事もなく襲い来る剣を杖で受け止めると、タチバナ君を蹴飛ばして彼は飛んで行った。


「バレてたか」

「……」


 私は視線を外さずに先ほど杖で吹っ飛ばしたタチバナ君を見ているけど、いつ入れ替わったのかが分からない。今吹き飛ばした方が本物のタチバナ君で、先ほど杖で吹っ飛ばした方が幻影の偽物?だとしたら、何故殴った感触があったんだろう。今攻撃してきた方にも感触があるのはおかしい。

 更に、別のタチバナ君が姿を現した。そのタチバナ君だけではない。背後からもタチバナ君が迫っていて、同時に攻撃を仕掛けて挟み撃ちにしてきた。

 私は正面のタチバナ君に向かって突撃、リリアさんから盗んだ技──獅子舞花を繰り出し、ほぼ同時に4つの突きを繰り出す。と、彼は一発だけ受け止めて杖が直撃。顔と、胸とお腹に杖が命中し、色々な物が砕けた音がした。


「──イマジンブレード!」


 その背後から迫っていたタチバナ君が、技名を叫びながら剣を振りぬいて来る。すると大きな白い光の斬撃が出現し、今倒した幻影のタチバナ君ごと飲み込もうとしている。

 私はそれを、地を蹴ってジャンプして回避。空中で回転しながら見下ろすと、その斬撃はタチバナ君に命中して幻影のタチバナ君の身体が幻影のように消え去った。

 実際幻影だったとは思うんだけど、その消え方はまるで実体のある人間だ。タチバナ君がタチバナ君を攻撃し、殺す姿は気持ちが悪い。空中でそんな事を思っていると、どこにいたのか別のタチバナ君が地を蹴ってジャンプ。私に向かって剣を突き出して来た。


「っ!?」


 そんな彼に対処しようとしたけど、彼の目的は別にある。

 未来視で、私に迫り来る複数の光の斬撃を見た。地上で私に向かって先ほどのタチバナくんが放って来た物と同じ攻撃を仕掛けようとするタチバナ君がいる。それも、3人。


「イマジンブレード!」


 3人同時に放たれた斬撃が、私を飲み込もうとする。

 私は空中にいて、重力に引っ張られて落ちるのみである。回避行動は不可能。

 だから、杖で斬撃を叩き割ってやった。空中で回転しながら、3つともね。幸い斬撃はもろくて、杖で叩いたら一瞬で消えてくれたよ。

 でも私に向かってきていた囮役のタチバナ君が、その斬撃にのまれて消え去った。また1人タチバナ君が死に、それから私は何事もなかったかのように着地。周囲のタチバナ君を睨みつけた。


「どれが本物だと思う?」

「分からないよな?」

「だってどれも本物だからな。分からなくて当然だ」


 いや、本当に分からない。幻影なのに実体があれば、それはもう本物と同じだ。


「オレが作り出した幻影の攻撃が当たるのが不思議か?」

「確かにオレの力は幻影だが、実体の姿を幻影で覆い隠して本物のように変える事が出来る」

「だがオレ達には元となる実体がある訳じゃない。全くのゼロから生み出された幻影だ。幻影が進化したんだよ」

「それはお前のおかげだ、シキシマ。お前に勝つためにたてた作戦を決行する過程で、偶然にも強くなる方法を見つける事が出来た。作戦自体は上手くいかなかったようだが、力を手に入れられた事の方が遥かに大きい」

「どうやったと思う?」

「お前は教えてくれなかったが、オレは特別に教えてやろう」


 タチバナ君の幻影が、1人ではなくそれぞれで話を繋ぎ合わせるように喋るのが鬱陶しい。ストレスだ。話の内容に関しては別に興味ないけど、勝手にペラペラと喋るから聞いてあげる事にするよ。鬱陶しいのに聞いてあげるんだから、感謝してほしいくらい。


「──勇者は、同じ勇者を殺す事によって与えられた力を強化する事が出来る」


 私はタチバナ君のその言葉に、ピクリと身体が動いて反応した。

 考えたくはないけど、この人ならあり得る。タチバナ君はクラスメイトを、道具としか見ていないから。


「まさか、誰かを殺したの……?」

「ふっ。その通りだ!シバは殺すつもりはなかったんだが、死んでしまってな。その時力が強くなったことに気づいた。そして説を立証するため、ケイジを取り逃した役立たずのアソウも殺した。カワイはショックで泣き叫ぶばかりで役立たずになったが、女なら使い道はある」

「……貴方って本当に、クズだね」


 クラスメイトを、堂々と殺したと宣言するタチバナ君には嫌悪感を抱かずにはいられない。嫌悪感があまりにも強すぎて、悲しみはその後にやってきた。ショックで頭がクラクラとして、倒れてしまいそう。だけど彼に対する怒りが踏みとどまらせ、前を向かせる。

 力の代償に、クラスメイトを……友達を殺した?彼が皆を友達だなんて考えていなかった事は分かっている。でも、それでも表面上は友達のように振舞って来たじゃない。それなのに、平気で殺して笑うの?分からないよ。この人の思考回路が分からない。


「クズ?だとしたら、どうする。今のオレに、お前は勝てると言うのか?」

「オレは無限に幻影を作り出せるんだぞ?そんなオレに、たった一人で勝てるとでも思っているのか?」

「……いくら数が増えたって、雑魚が集まっただけじゃ意味ないよ」

「言うじゃないか、シキシマ!じゃあ勝ってみせろよ!オレにはトオルのような趣味はないが、お前は別だ!じっくりといたぶり殺してやるから覚悟しろ!」


 話の最中に、タチバナ君達は密かに移動して私を包囲していた。そんな彼らが、一斉に飛び掛かって来る。

 でも先ほども言った通り、雑魚が集まっても意味がない。

 私は息を静かに吐き、杖を握りしめて攻撃に備える。幻影なら、力を抑える必要はない。本気でやってもいいはずだ。


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