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セカイはハルを愛してる  作者: あめふる
別れ──真意──
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連れ出した理由


 今私の前に立つタチバナ君は、私の知るタチバナ君ではない。その笑顔は人の物ではなく、まるで悪魔だ。


「おとなしくしていれば、普通に死ねたのにな。バカなのはこの世界に来る前と変わっていないか」

「っ!」


 本性を顔に表したタチバナ君は、とても怖い。その表情は見ているだけで飲み込まれそうで、逃げ出したくなる。

 本性を出したその顔を見れば分る。彼は、本物の異常者だ。分かってはいたけど、今まで隠していた敵意やら殺意やら悪意やらをぶつけられる事により、身体が震える。


「……タチバナ君は、一体何がしたいの?」


 私は彼の放つ空気に屈せず、意を決して尋ねた。


「何がって……オレはただ、皆を支配してやろうとしているだけだ。オレに従えば、生きられる。実際クラスメイト達はオレに従ってこれまで生きて来た」

「幻影で家族を作って騙したのは何で?」

「お前も言っていたじゃないか。この世界に来て、ナルセやシバは精神がやられていてな。役にたたなくなりそうだった。だから家族を作って元気を出させてやったんだ。バカな奴らだよ。いくら精神がやられているからと言って、それが本物かどうかもわからないなんて。まぁ幻影を通じてオレの思う通りに動く駒となってくれたから、そこは助かった」

「一番心が弱ってたのは、ヤギ君だよね。どうしてヤギ君には救いの手を伸ばしてあげなかったの?」

「アイツはナルセに懐いてるみたいだから、ナルセを使って操ればそれなりに元気が出た。ま、その内ナルセに突っぱねるように仕向けて心を完全に壊しにかかるつもりだったんだけどな。アイツの力はあまり役にたたん。ナルセは力を持たないが、別の使い道があるからとっておいた」


 この人はクラスメイトの事を、役にたつかたたないかでしか見ていない。

 だからそんな事が平気でできる。こんな人に、皆騙されているんだ。私も、騙されていた。


「それよりどうしてトオルの居場所が分かった」

「セカイの匂いがしたから」

「よく分からないが……セカイさんはトオルに可愛がられていたはずだ。しかし案外平気そうだな。徹底的に破壊しろと言っておいたのに、アイツも案外役に立たんん」


 この姿のセカイを見て、案外平気そうだなんてよく言える。そしてやっぱり、セカイを拷問するように仕向けたのはタチバナ君だったという訳だ。彼はセカイを嫌っていたからね。殺そうとしたり、拷問がどうのと言って目の敵にしていた。


「お主の言う通り、随分とぬるい拷問じゃったぞ。あまりにもぬるすぎて、途中で眠ってしまう程じゃった」

「そのようだな。本当に気に入らないガキだ。シキシマもケイジもそうだが、お前もどうしてこうオレの神経を逆なでしてくるんだ」

「ワシも同じことを思うぞ。お主がワシの神経を逆なでするから、世界は滅びたのじゃ。いや、今思うとタチバナ シュースケという化け物を生んでしまったのはワシのせいかもしれん。世界を繰り返すうちに、お主はどんどん深みに嵌まり化け物と化していった。世界を繰り返しさせなければ、お主はまだ可愛い坊やじゃったと思う」

「何を訳の分からない事を言っている。やはりトオルに拷問されて頭がイカれたか?」


 私には、分かる。分かってしまった。セカイの話を聞いて、何かが頭の中を猛烈な勢いで駆け巡り、理解できてしまった。


 私が前の世界で見て来た夢の数々は、本当におきた出来事だった。悲惨な目にあい、死ぬたびに巻き戻って元の日常を過ごす。その繰り返し。

 本来なら消えるはずの記憶を私は夢という曖昧な形で受け継ぎ、巻き戻された世界でまた別の悲惨な目に合う。私の人生は、何度繰り返しても全てが悲惨な結末だった。あの世界にいたら私はそのループから抜け出す事が出来ず、同じことを繰り返すだけだったのだ。


 ……ああ、だからセカイは、あの世界を終わらせて私を別の世界に連れて来てくれたんだね。


 セカイ本人が言っていた通りだとすると、セカイは本当に世界そのもののような存在で、ずっと私を見守ってくれていたんだ。セカイがどうして私のためにそこまでしてくれるのかは知らないけど、でも凄く嬉しい。


「どうやら、二人そろって本当に頭がイカれてしまったようだな」

「ハル……?」


 タチバナ君に指摘されて、セカイが私の方を見て来た。

 そして、目から大粒の涙を流す私に気づいた。私をあのループから救ってくれた女の子が、心配そうにボロボロになった手を伸ばして来て私の頬に触れてくれる。


「大丈夫、なんでもない。ちょっと、分かっちゃっただけ」

「分かった?何がじゃ」

「タチバナ君を倒して落ち着いたら、教えてあげる」

「……そうじゃな。落ち着いたら、教えてもらうとしよう」


 セカイが笑って返し、タチバナ君を睨みつける。

 私も、涙を拭ってタチバナ君を睨みつけた。タチバナ君は、全ての悪意の根源である。ここで彼を倒し、前の世界から続く因縁にケリをつける時が今ここにやってきた。

 過去、どんな目に合わされようとも、彼に立ち向かって勝とうなどと思った事は一度もない。でも今の私は前の私とは違う。セカイと出会い、成長した。力も手にした。負ける気がしない。


「……やめよう、シキシマ」


 こっちはタチバナ君をぶちのめすテンションだというのに、タチバナ君が突然そう言いながら首を振った。


「どういう事?」

「オレとお前が争う理由はない。という事だ」

「ほう。散々ハルを一方的に敵視してきたお主が、そのような事を言うとは愉快じゃのう。イカれてしまったのではないか?」

「黙ってろ。オレはシキシマと話しているんだ。お前とではない」


 タチバナ君の言葉を借りて挑発したセカイを、タチバナ君が睨みつける。

 セカイはタチバナ君を怒らせるために言ったんだろうけど、その目的は達成された。今のタチバナ君はいつものタチバナ君ではなく、負の感情を隠そうともしない。その目には殺意が籠められており、凄い迫力だ。

 夢の中でだけ見て来たタチバナ君が、今目の前にいる。これが彼の本性で、倒すべき敵の姿だ。

 なのに彼は私と争う理由がないと言うんだから、矛盾している。


「オレがして来た事は、中には確かに赦されない物もあるだろう。だが全てが間違いだった訳ではない。オレのおかげで皆は生き残れてきた。オレに従えば、皆こんな世界でも生きていける。それどころか、勇者の力をもってすれば支配者にだってなる事ができる。お前は勇者ではないが、強い力を持っているから問題ない。オレと組め、シキシマ。オレと組めば、お前を一国の支配者にしてやる事も出来る。贅を尽くした生活が出来るんだぞ」

「……」


 私はタチバナ君のその提案に、開いた口がふさがらなくなってしまった。

 支配者とか、何を言っているのこの人は。テレビでアニメやドラマに出て来る敵役そのものだよ発言が。


「セカイはちょっとここで待っててね」


 そこで私はセカイを腕から降ろすと、地を蹴ってタチバナ君に向かって一直線に駆けだし、一瞬にして彼の間合いに入った。


「っ!?」


 驚くタチバナ君に構わず、私は彼の胴体に向かって杖を振りぬいた。杖は彼のお腹の辺りに当たるとまるでボールのように飛んでいき、落下。更に地面を擦った上でせりあがった岩とぶつかって土煙をたて、ようやく止まる事に成功。


「悪いけど、興味ないし言ってることが気持ち悪いよ」


 タチバナ君の姿は見えないけど、私はそう言い放って彼の提案を拒否した。

 そんな提案に私が乗ると思っていた彼にビックリだ。心外だ。怒りすら覚える。でも私が勝った事により、コレで全部めでたしだね。


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